24話 会議二日目(改)
翌朝――。
世界各国の首脳代表たちが再び、巨大な会議場に集まっていた。
昨日と同じ顔ぶれ。しかし空気は昨日よりも幾分ピリついている。
“奉仕種族”という、あまりにも強大で謎に満ちた存在。その全貌を知るための会議、二日目が今、幕を開けようとしていた。
重厚なドアが静かに開き、アリスとセイラ、
そしてアーシグマ・ノワールが入室する。
艶やかな動作で歩く三人の姿に、場の空気が一瞬にして引き締まった。
アリスが会場を見渡し、静かに口を開く。
「今日はどうされますか?」
各国代表がざわめきながらも答える。「まだまだ聞きたいことがある」と。
その声を聞いて、アーシグマ・ノワールが両手を軽く叩き、楽しげに笑う。
「――あらぁ、それじゃあ今日も私が司会進行でいいかしらぁ?」
その艶っぽい声に、一同の空気が少しだけ和らぐ。誰も反対しない。
こうして、二日目も質疑応答中心の会議が始まった。
セイラが隣で小さく呟く。
「地球人は会議が好きだな……。まぁ、私は見てるだけだから楽でいいがな」
アリスはそんな彼女を見て、心の中で(やはりこの人は鉄でできている……)と確信する。
各国の質問開始
「この人工島――いえ、〈ノア・プレート〉ですが、国として立ち上げるお考えですか?」
アリスは落ち着いた声で答えた。
「交渉が成立し、移住が進められるのであれば、私たちの派遣、要介護者、老人といった移住者を受け入れる本拠地として“奉仕国家”として国を立ち上げるつもりです。もちろん、国連にも参加したいと考えています」
「国境問題、領海はどうなるのか?」
「国境は島だけで構いません。領海についても特に必要としていませんので、地球側で決めていただいてかまいませんよ?」
「海洋資源などはいらないと言うことか?」
「ええ、要りません。昨日も申し上げたように、食料やエネルギーはこちらで生成できますので」
会場の空気がざわつく。いらない? 資源を?
国家間で血を流して奪い合ってきた“それ”を、不要と言い切る存在――。
「地球の外、宇宙にいる飛行船団はこのままいるのか? エネルギー切れで墜落してくるということはないのか?」
アリスは微笑んで首を振った。
「船団はこのまま待機させていただきます。この島だけではさすがに狭いので……。エネルギー切れはあり得ないかと考えています」
「なぜだ!!」とロシア大統領ヴィクトルが身を乗り出す。
「私たちは長い旅の間に、太陽系以外に資源やエネルギーのある惑星を記録しています。定期的に資源惑星から補給しているので、エネルギー切れというものはまず起きないと考えていただいて結構です」
アメリカN※SAの長官が顎をさすりながら呟く。
「……数が定期的に減ったり増えたりしてたのは、そのためだったのか」
「つまり食料も別の星から調達しているということか?」
「食料というか、生成する材料になるものを調達していますが……そう考えていただいて構いません」
すると、一人の科学者が興奮気味に手を挙げた。
「これはこの会議の質問として合わないかもしれませんが……あなたたちの旅の間、あなた達以外の、地球以外の生命体はいたのでしょうか?」
会場中が静まり返る。
アリスは少し間を置き、ゆっくりと頷いた。
「はい。生命体は存在していますよ」
科学者たちが一斉に沸き立つ。「おお!」「すごい!」「歴史的発見だ!」
その反応に、アリスは小さく微笑んだ。
「そ……そ、それでは知的生命体の存在も!?」
「残念ながら、長い旅の中で発見した惑星に知的生命体の確認できる星はありませんでした……」
「そうか……」と落胆の声が上がる。
しかしすぐに別の質問が飛ぶ。
「どのような生命がいたのか?」
「原始的生命体や、爬虫類・昆虫が支配する星が多かったですね。巨大爬虫類や巨大昆虫のいる惑星に降りてしまったときは、もう大変でした」とアリスが苦笑いする。
セイラがため息混じりに付け足す。
「報告もせずに降下したせいで、巨大昆虫に囲まれたときは“きもいきもい”と騒いで大変だったぞ……」
場内から笑いが起きる。が、政治家の一人が「いい加減、関係ない質問はやめろ!」とヤジを飛ばす。
それでも科学者たちは食い下がる。
「巨大爬虫類とは恐竜のような生物がいたのか?」「巨大昆虫とはどのような……?」
アリスは少し困ったように笑って言った。
「交渉が成立したならば、私たちの旅の記録、宇宙の海図と生命体の記録映像も提供しますよ?」
その一言に、科学者たちは一気に色めき立ち、
「ぜひとも彼女たちの受け入れを!」と各国代表へ訴え出す始末。
セイラが小声で「なかなかいい反応じゃないか?」と囁き、
アリスも「ええ、いい感じですね……」と返す。
場が落ち着きを取り戻すと、今度は別の代表が口を開いた。
「これ以上あなた達の人数が増えるということはあるのか?」
「現在のクローン生成は、もうすでに命が宿ってしまった者たちで一旦停止する予定です。島と船団を維持する以上の人員を増やす予定はありません」
「繁殖はどうするつもりなのか?」
「契約していただいたご主人様、移住してきたご主人様の方の遺伝子を少々いただき、種の多様性を維持させていただければと考えています」
「あなた達は男性であればY遺伝子があればいいと言っていたが、肌の色で問題……つまり差別はないのか?」
アリスは首を傾げる。
「よく言っている意味は分かりませんが、奉仕種族は始祖様たちのクローンであり、三系統の始祖様がおります。
まず戦闘守護を得意とする始祖様は、肌が濃い――黒まではいきませんが、
マーヤのように褐色の女性が多いです。
生活や仕事の補助を得意とする始祖様は……そうですね、地球で言う白人の方々に近い肌の色。
そして医療や科学を得意とする始祖様は、アジア人のような肌の色が近いと思います。
ですが、特に私たち奉仕種族の間で肌の色で問題が起きたことはありません。
……若い子たちは元気なので毎日が騒がしいという問題はありますがね?
うふふ」
セイラが小さく笑う。「お前が甘やかすからだぞ。世話が焼ける者ばかりだ」
会場から再び笑いが起きた。
「政治体制はどうなっているのか?」
「基本は合議制で決めていますが、始祖様の影響なのか、戦闘や科学を得意とする始祖様の影響が強い子たちは“面倒だ”と言って、生活補助が得意な私たちに丸投げされることが多い現状ですね……」
「ほぉ、どこも同じですなぁ」と皮肉混じりの笑いが上がる。
セイラは肩をすくめて言う。「それで回るならいいじゃないか」
そして――今度は女性代表たちが立ち上がった。
空気がピリッと張り詰める。
「あなたたちが来たら、女性の権利が脅かされる!」
「男女平等はどうなるのですか!」
そこかしこから声が飛ぶ。
アーシグマ・ノワールが手を広げて「は~い、静粛に~♡
一人ずつお願いしま~す♡ 女の子が大きな口開けたらはしたないわよぉ♡」
と軽やかに宥める。
アリスは一歩前に出て、静かに言った。
「私たち奉仕種族は、男性がいなければ生きていくことができません。
地球の女性の方にもご理解をお願いしたいです」
すぐさま反発の声が上がる。
「女性が男に媚びて生きるなんて信じられない!」
アリスは首を傾げたまま答える。
「媚びる? というのはどういう意味か分かりませんが……私たちは、
地球の女性たちと共生し、ご主人様を共にお支えしていければと考えています」
「この……!」と叫びかけた女性代表の唇が震える。
――しかし、彼女はハッとしたように黙り込んだ。
脳裏によみがえる、昨日聞いた“あの声”。
『……あまり調子に乗った発言は、虎の尾を踏むことになるぞ』
イタリア首相ルカの警告。彼女はぐっと唇をかみ、椅子に沈む。
セイラが隣で「どうしたんだ?」と呟く。
アリスは首を傾げて「さぁ?」と返す。
「奉仕種族の女の子たちを派遣すると言いましたが、国によっては治安の悪い地域もあります。女性だけで移住派遣は危険なのではないでしょうか?」
「それは大丈夫でしょう」
「その根拠は?」
「簡単に言ってしまえば――
奉仕種族の女性のほうが、地球人の方々より“強い”からです」
アリスの笑顔に、会場がざわつく。
「冗談だろ? あんな細い腕で強いなんてありえない!」と男たちの笑い声。
だが、次の瞬間、セイラがゆっくりと立ち上がった。
「なら、デモンストレーションでもすればいいじゃないか?」
挑発的な笑みを浮かべ、腕を組む。
「デモンストレーション? 何をするんだ?」とざわめく会場。
セイラは指でSP席を指し示す。
「ここに来ているSPや軍人とうちの者で、軽く戦ってみればいい。……まぁ、勝つのは奉仕種族だろうがな」
挑発そのものの笑み。
「なんだと!」とSPや軍関係者が立ち上がる。
各国の首脳が慌てて止めに入るが、もはや流れは止まらない。
――こうして
急きょ「奉仕種族 vs 各国代表SP・軍合同デモンストレーション」が開催されることとなるのだった。




