第22話 第1日目・会談後 ― 想定外の情報に頭を抱える首脳たち
1日目の会談が終わった。
議場には、嵐の後の静けさのような――いや、嵐そのものが去った後の重苦しい空気が漂っていた。
各国の首脳たちは椅子に沈み込み、グッタリと身を任せている。
頭は混乱し、胃は重い。そして何より――重すぎるのは、彼女たちの存在そのものだった。
「……さて、どうするかのう?」
国連総会議長ジャン=ピエールの声は、かすかに震えていた。
まず、ロシアのヴィクトルが低い声で漏らす。
「……盗聴器、気をつけるんだ。何をされるかわからん」
中国国家主席・李も眉をひそめて頷く。
「同意だ。議場内、慎重に――」
それを聞いたイギリス首相オリヴァーが、眼鏡を上げて皮肉たっぷりに笑った。
「はは、彼女たちの科学力で盗聴器なんて、発見される前に消滅してるんじゃないか?」
議場は一瞬静まり、皆が納得せざるを得なかった。
(……確かに、そうだ……)
ドイツ首相マティアスが眉をひそめ、ゆっくり口を開く。
「彼女たちは――命の危機にある。いや、種の危機か。
人道的に見れば受け入れるのが当然だろうが……」
困惑しながらも、真面目に受け入れを提案するその声に、
ロシアのヴィクトルが机を叩きつけた。
「確かにそうだ。でも……人数が規格外だ! 五十億だぞ、五十億!」
その一撃で、空気が一瞬凍った。
隣のイタリア首相ルカは派手なネクタイを揺らし、軽薄な笑顔で皮肉る。
「それに、“ペアリング契約”とか……男限定って、ハーレム漫画かよ」
イギリス首相オリヴァーも、眼鏡を上げつつ苦笑する。
「日本のHENTAIコンテンツでも、もっとマシな設定考えるだろう……」
日本の佐藤総理は、乾いた笑いを返すしかなかった。
議場の空気は、皮肉と疲労でどろりと濁っていた。
「そんなことより!」
スウェーデンの女性大臣、イングリッド・ヨハンソンが机を叩き、鋭く声を上げる。
「彼女たちを受け入れたら、これまで築いてきた女性の権利や人権はどうなるの!?
一気に崩れるわよ!」
「一夫多妻制の国ならまだしも、そうでない国では家族制度が崩壊するな」
中国国家主席・李の冷静な指摘に、場内の女性陣は顔をしかめた。
その隣でアメリカのドナルドは豪快に言った。
「だが、彼女たちはraceなのか? それともalienなのか?
まあそんな小さなことはno problemだ!!
地球人の女性とは別に権利を認め、法整備すればいい。だってかわいそうだろ?
GOHKIもそう思うだろ?」
フランス大統領エミリーもにこやかに同調する。
「そうよぉ、男性限定だけどぉ、うちにも来るんでしょぉ?
一緒にお菓子作りしたら楽しそうだわぁ♡」
佐藤総理は思わず心の中でつぶやく。
(エミリー……本気なのか冗談なのか、さっぱりわからん……今は黙っててくれ……)
女性閣僚たちは「それでも女性の立場が!」と騒ぎ続け、議場は再び騒然となる。
沈黙の中、シンガポール首相タン・ウェイ・ロンが小さく呟いた。
「まあ……困ることの割にはメリットが大きすぎる――これが問題です」
「はぁ!? どういう意味?」
女性陣が一斉に反応する。
タンは冷静に続けた。
「まず一つ。彼女たちの科学力は我々の十歩、いや一万歩先。
技術は金さえ払えば提供可能だ」
議場の空気が少し変わる。誰も反論できない現実。
「二つ目。先進国や小国には、魅力的な人材を輸出してくれる」
女性陣が声を上げる。
「スケベ! 変態! 人身売買か!」
久しぶりに出番を得た日本の官房長官・高橋が意気込んで説明する。
「いやいや、下世話な話じゃないですよ。
例えば日本は少子高齢化が進んでいます。
仮に彼女たちの人口の1~2%が移住してきたとする。
生活費は全て彼女たち持ち。
生活するだけで、莫大な消費が生まれるのです」
議場の空気が、また少し変わった。誰も否定できない現実。
「そして三つ目……要介護者や老人も、男性に限り、全て受け入れてくれる。しかも無償で」
その言葉に、日本を始め大量の国民を抱える首脳たちは思わず頷く。
「なるほど、確かに――」
「提供するのは彼女たちの言う“ご主人様”――男性を差し出すだけでいい」
女性閣僚たちの声は怒りで震える。
「我が国の男性を生贄にするってわけ?!」
タンは肩をすくめる。
「生贄……まさに穏やかじゃない表現だ。
しかし、信じるなら、自分たちの命より大切な男性を無下に扱うことはない。
要介護者や老人たちが旅立つまで、誠心誠意面倒を見る――しかも対価なしで」
議場は一瞬、息を呑む静寂に包まれた。
「はっはっはっは!」
ルカが派手なネクタイを揺らしながら笑った。
「やっとわかったよ。なんで彼女たちが、こんな回りくどい交渉を選んだのか!」
女性陣は怒り混じりに問い返す。
「どういうこと?」
「簡単な話だ。歴史を見ろ。黒人もネイティブもアボリジニも――文明国に侵略され、虐げられてきた。
彼女たちの科学力で侵略すれば簡単に征服できる。でも、やらなかった」
「なぜよ!?!」
「理由は……彼女たちは人類の歴史も調べているだろう。
武力侵攻すれば戦うのは男だ。
彼女たちの“大事なご主人様たち”の命が奪われる。
そんなリスクを冒せない。
だから、話し合いという回りくどい手段を選んだ――至極簡単な答えだ」
議場は重苦しい納得の空気に包まれる。
「いわば……女神の慈悲ってところかね」
ルカは肩をすくめる。
全員が理解した。
彼女たちは――美しいだけではない。
戦いの歴史も背負い、必要なら大鉈を振るう覚悟もある。
この交渉の主導権は、完全に彼女たちの手の中にあるのだ。
ルカは女性たちを見つめ、低く警告した。
「……調子に乗った発言は、虎の尾を踏むことになるぞ」
女性陣は息を呑み、男性陣も唸るしかなかった。
内閣官房副長官補・藤原が小声で総理に尋ねる。
「そういえば……アリスさん、母船って言ってましたけど、宇宙にも待機してる船があるんですよね?」
「おおっ!」とドナルドがわきから豪快に割り込む。
「universeにも何隻ものspaceshipが確認されているぞ!!
どうやってfuelを補給してるのかも謎だ!!」
「そんなに……」
中国国家主席の李が続ける。
「この島はどうなる? 国家樹立するのか?」
マティアスは腕を組み、ドカリと椅子に腰を落とす。
「国境問題、領海、国連加盟――全部これからだな……」
夜は深まり、会議は終わる気配すらなかった。




