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第2話「青い星、騒がしい地球」(改)

世界は、騒音で満たされた。

正体不明の信号。太平洋上空に広がる光の帯。誰がどう見ても“

UFOの群れ”だった。

最初に動いたのはアメリカだ。

太平洋艦隊は全艦出動、偵察ドローンを数百機展開。続いて中国、ロシア、

インド、EU、そして日本。

どこの国の司令室も、深夜だというのに照明が消えることはなかった。


「……で、結論としては?」

「わからん」

「また“わからん”かよ!」


日本の防衛会議室でも、同じやり取りが繰り返されていた。

映し出された映像には、青白く光る巨大な影の群れがあった。

海面に浮かぶ影はゆっくりと円を描き、まるで“巣”を作るように動いている。


「人工物の可能性は?」

「材質不明。少なくとも、我々の知る金属ではありません」

「じゃあ生物?」

「いや……生物にしては、デカすぎる。あれ一隻で島一つ分ありますよ」

「……誰があんなもん作ったんだ」


誰も答えられなかった。

ただ、世界中が同時に“見ている”。それだけは確かだった。


その頃、宇宙船内部では、奉仕種族たちが降下の最終確認をしていた。

彼女たちは巨大船団の一部だけを地球に降ろしたにすぎなかったが、それでも地球人の騒ぎぶりは想像以上だった。


アリスはモニターを見ながら小さく息をついた。

「なんとか降下できたようですね。アーシグマ、首尾はどう?」


おネエ系アンドロイド、アーシグマは、ゆったりした口調で答えた。

「全部無事よ〜。地球の文明って、思ったよりまだまだって感じねぇ」


セイラは腕を組み、不機嫌そうに唸った。

「無事なのは良いが……今頃、地球人はパニックだろうがな」


アリスは、ため息をつきながらも

「まあ……宇宙に待機させた主力艦隊まで降ろさなかっただけマシとしましょう」


その周囲では、若い奉仕種族たちがケラケラ笑っていた。


「ごめんなさーい♡」

「早く行きたかったんだもーん♪」


若い奉仕種族たちが、悪びれもなく笑顔で跳ねている。


セイラは額を押さえて舌打ちした。

「まったく……こいつらは相変わらずだ。アリス、お前が甘やかすからだぞ」


アリスは困ったように微笑んだ。

「まあまあ。あまり縛りつけるとかわいそうですし……」


若い個体たちは「そうだそうだー!」と騒ぎ、船内はさらにうるさくなる。


「だが、この星の人類との接触は禁止だ。いいな?」

セイラが鋭い声で言うと、船内の空気が一瞬強張る。


アーシグマも真面目な声に切り替えた。

「言語も文化も把握できてないしねぇ。今、出て行ったら絶対トラブルよ〜」


「変な行き違いがあったら困りますからね」

とアリス。

「しばらくは大人しくしていましょう」


若い奉仕種族たちは「えぇ〜〜〜!!」と不満を爆発させたが、


「騒ぐなら宇宙船団に戻すぞ!!」


セイラの一喝で、全員がピタリと黙った。


アリスたちが部屋を出たあと、船内ではまた小声が動き出した。

小さな声が響く。


「ねえねえ、もうちょっとだけ信号出してもいい? “ピッ”って可愛い音でさ」

「ダーメ。前も言ったでしょ。報告手順を無視しちゃだめよ〜。今はおとなしくしてなさい」

「え〜、だってぇ〜、地球の人たち、なんかいっぱい叫んでて面白いんだもん」

「面白いとか言わないの。混乱してるのよ」

「じゃあ、“おちついて♡”って送るのはどう?」

「送らないのっ!!」


 バチン!

 スピーカーの電源が切られる音。

 おネエ系アンドロイド──

 A-Σ(アーシグマ)は額を押さえ、深いため息をついた。


「まったく……若い個体はどうしてこう、反射的に“かわいく構ってもらいたい”方向へ走るのかしらねえ」


 後方では、別の若い奉仕種族が「もう一回だけー!」

 と通信端末に手を伸ばそう として、雷のような声に止められる。


「こらあああっ!!何度言わせるの!?」

「ひゃあっ!?」

「報告手順を無視すんなっつってんだろがぁっ!!」

「……あっ……はい……」

「……ふぅ。失礼、ちょっと取り乱しました。はい、いつものように優雅にね〜」


若い個体たちがびしっと直立する。船内に、なんとも言えない緊張と脱力の空気が流れた。

A-Σは肩をすくめながら、通信端末のモニターを見やった。そこには、

地球のニュース映像が流れていた。各国が混乱し、司会者たちが口々に“終末”を

叫んでいる。


「……ふふ。やっぱり地球って賑やかねえ。こりゃあ、こっちが落ち着くのにもう少しかかりそうだわ」


一方、地球。

各国のメディアは騒然としていた。


「未確認物体が太平洋上に! 専門家の話では、“自然現象の可能性も”」

「各国政府は緊急会議を開き……」

「SNSでは“女神襲来説”“新手の宇宙ステーション説”などが拡散しています!」


情報は洪水のようにあふれ、人々は恐怖よりも興味を優先した。

“誰が来たのか”“どんな姿をしているのか”。

それが誰にもわからないからこそ、好奇心はどこまでも膨らんでいく。


その夜、日本首相官邸の会議室では、

疲弊した面々が無言でモニターを見つめていた。


「……誰が行くんです?」

「“行く”って、どこに?」

「相手の代表が現れたら、だよ」

「え、現れるの?」

「現れるでしょ。あれだけ堂々とやってんだ。何か伝えたいんだよ、きっと」

「……正直、怖いが、ここまで来たら“会って話すしかない”な」


そう結論づけたものの、誰も席を立とうとはしなかった。

外では群衆が空を見上げ、子供がスマホをかざし、

SNSのトレンドには“みぃつけた♡”が並ぶ。

発信元も、意味もわからない言葉。

だが、どこか愛嬌があった。


宇宙船の中では、若い奉仕種族たちがモニターに映る地球のニュースを見て、ケラケラと笑い声を弾ませていた。


「ねぇねぇ、みんな“みぃつけた♡”ってハッシュタグ使ってるー!」

「すごい! 地球の人たち、ちゃんと反応してくれてる!」

「やったー! バズってるぅ♡」


楽しさが爆発したように跳ね回る若い個体たち。その瞬間、船内に雷鳴のような声が轟いた。


「だから勝手に発信すんなって言ったでしょーがーーッ!!」


A-Σの怒号が響き、通信端末の音声はピシッと音を立てて沈黙した。

しんと静まり返る船内。若い個体たちの背筋が一斉に伸びる。


A-Σは深々とため息をつくと、指先でこめかみを押さえながら、呟くように言った。


「はぁ……もう。船団の着陸場所に、この子たちの居住区も考えなきゃだし。まだまだ問題は山積みねぇ……」


愚痴をこぼしつつも、その眼差しはどこか優しい。

モニターに映る青い海が、ゆるやかに光を反射していた。


「ふふっ、でも……」


A-Σは唇の端を上げ、カメラ越しの地球へとウインクを送る。


「まだまだ地球人には迷惑かけちゃうかもしれないけどぉ……許してね♡」


背後の若い奉仕種族たちが「かわいい〜!」とざわつく。

しかし次の瞬間、A-Σの背中からゆらりと怒気が立つ。


「……アンタたち。褒められて調子に乗るとまたやらかすんだからね?」


「ひっ……はいっ!」


平和とは言い難い船内。

それでも、地球への降下作戦は、彼女たちの笑い声に満ちていた。

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