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第16話「ようこそ、人工島〈ノア・プレート〉へ」(改)

人工島ノア・プレート――その巨大な桟橋に、次々とヘリと輸送艇が着陸していく。

降り立つのは各国の首脳陣、政府代表、軍人、そして報道陣。海風を受けながら、一様に目を見張る光景がそこに広がっていた。


彼らの視線の先には、鏡のように輝く滑走路と整然と並ぶ塔群。すべてが無駄なく、美しい。

まるで未来都市の一部をそのまま切り取って海上に浮かべたようだった。


ロシア大統領ヴィクトルは、サングラス越しにその光景を見て呆然と呟く。


「……信じられんな。これが数日で建てられたと? 我が国のエンジニアが見たら気絶するぞ」


隣で中国主席・李建国が腕を組み、鋭い三白眼で塔群を睨む。


「重力制御か、空間操作か……どちらにせよ地球技術ではない。

 これは、我々の戦略を根底から見直す必要があるな」


二人の表情には、外交的微笑みではなく、生存戦略を再計算する政治家の顔があった。


だが、その厳しい空気をまるごと吹き飛ばす“声”が聞こえてくる。


「ヘイ!! GOHKI!! 見ろよこれ!!」


アメリカ大統領ドナルド・J・ブレイクリーが、日焼けした顔を輝かせて叫んだ。


「完全にスターウォーズじゃねぇか!! ライトセーバーはどこで売ってんるんだ!?」


日本の佐藤剛毅総理は、こめかみを押さえる。


「ドナちゃん……頼むから、はしゃぐな。俺まで恥ずかしいだろ」


「ハハッ! GOHKIは真面目すぎるんだよ! 楽しむときは楽しめって! 人生、Funだぞ!」


やたら肩を叩いてくるドナルドの力が強すぎて、剛毅は軽くよろめいた。


そこへ、フランス大統領エミリー・ラ・レーヌがふわりと近づく。

ショートの金髪が海風に揺れ、青い瞳が柔らかく笑った。


「まぁ……ドナルドとGOHKI、今日も仲がいいのね〜。微笑ましいわ」


「おう、エミリー! こいつとはベストフレンドなんだ!」


ドナルドはそう言って、剛毅を容赦なく抱きしめる。


「ドナちゃん!!! あばらが……あばらが折れるぅ!!」


「あっ、悪い悪い!」


エミリーはその様子にくすくすと笑いながら、のんきに言った。


「奉仕種族の子たち、フランス語も話せるらしいじゃない? ちょっと楽しみよ?」


「エミリーは相変わらず呑気だな……」


剛毅が呆れたように漏らす。


「だってぇ、あの悪戯通信、すごくかわいかったんだもの」


その瞬間、ドナルドが急に真顔になり咳払いした。


「いや、我々は交渉に来てるんだぞ! 気を引き締めろ!」


「さっきまでガキみたいにはしゃいでただろ、ドナちゃん……」


佐藤が呆れ返ると、エミリーは吹き出し、三人は笑い合った。


他の首脳たちは半ば呆然とし、記者たちは夢中でシャッターを切る。

その中に、艶やかな声が割って入った。


「みなさまぁ〜、ようこそお越しくださいましたぁ♡ 女の子たちが皆さんお待ちですからぁ、こちらへどうぞぉ〜!」


先導に立つのはアーシグマ・プライム。

長身で、どこか男にも女にも見える中性的な姿。

柔らかな笑顔とオーバーな手振りで、訪問団を優雅に誘導していく。


その背後に並ぶ複数のアーシグマ個体。

どの個体も似たような外見だが、声のトーンや仕草に微妙な個性があった。

ひとりは低く落ち着いた声で通信を確認し、もうひとりは来賓の安全距離を計測している。


「……あれが、彼らの案内役か?」とドナルド。

「人間のようだが、やはりどこか違うな」と佐藤総理。


地球側の首脳たちは息を呑み、その洗練された動作を見つめていた。


「皆さま、ご安心くださいませぇ〜。お荷物はすでに転送システムで搬入済みですの♡」


プライムがウインク。


「転送……だと?」

「ワープ技術!? まだ理論段階のはず……!」


報道陣のざわめきを背に、アーシグマ隊は笑顔のまま歩調を揃えて案内を続けた。


だが、その華やかな進行の裏で――控室の方はまるで学園祭前の女子高状態だった。


「ねぇねぇっ、本当に来るんですよね!? 今日、地球の男の人と会えるんですよねっ!!」


一番に声をあげるのはルルナ。きらきらした目で跳ね回る。


「わぁ〜、緊張する〜っ! ちゃんと笑顔でいられるかなぁ〜っ!」


ミントはスカートの裾をぱたぱたさせながら右往左往。


「ミント、落ち着いて! ほら、スカートまだ直してないでしょ!」


ヴィオラが器用な手つきでミントの衣装を整えながら眉を寄せる。


「ヴィオラちゃんはいつも優しいね!!」


「仲間なんだから当たり前でしょ!」


そっぽを向くヴィオラに、ミントが勢いよく抱きつく。


「ヴィオラちゃん大好き〜!」


「ちょっ……くっつくな! 暑苦しい!!」


文句を言いながらも、ヴィオラはなぜかミントを引き剥がさない。


そこへルナまで加わり、三人でぎゅっと固まる。

若い奉仕種族たちの声が控室いっぱいに響いていた。


ミントを筆頭にした彼女たちは、まさに「はしゃぎたい盛り」。

姿は整っているのに、仕草や雰囲気はどこか人間的で、生き生きとしている。


その様子をセイラ・カーンは呆れ顔で見ていた。


「……まったく、これじゃ女子校の休み時間だな」


鋭い声で一喝する。


「まずは顔見せだけだ。こいつら、落ち着きがないし何を言い出すかわからん。会合が終わるまで報道陣の取材は無しだ。ミントたちは控室で待機させろ」


「え~~~っ!!」


ミントの頬がぷくっと膨れる。


「え〜、ちょっとぐらい覗いてもいいじゃないですか〜♡」


ルルナが甘えた声を重ねる。


「ダメだ。猫みたいにどこから抜け出すかわからん。アーシグマ、見張りを頼む。絶対に外へ出すな」


セイラの厳しい指示に、アーシグマの一体が優雅にお辞儀した。


「お任せあそばせぇ♡ 監視対象、ミントちゃんたち、ふわふわ監視モードにてロックオン〜♡」


「……その言い方やめろ」


セイラが眉をひそめるが、アーシグマは気にしていない。


そのやり取りを見ていたアリスが苦笑しながら言う。


「セイラさん、そんなに厳しくしなくても。あの子たちなら大丈夫ですよ」


セイラは溜息をつき、肩をすくめる。


「そう言って甘やかすから調子に乗るんだ」


そこへ控室の扉が開き、マーヤがふらりと現れた。


「今日はうちは暇やから、ミントたちの面倒見たるよ〜♡」


普段は管理室に籠りがちな彼女の登場に空気がざわつく。


「珍しいですね、マーヤさん」


アリスが振り向くと、マーヤは肩を回しながら言う。


「うちも引きこもってばっかやと健康に悪いしなぁ。若い子らの相手、ちょっとくらいしたってバチは当たらへんやろ?」


アリスはほんのり眉を寄せた。


「……それが一番心配なのですが」


「何言うてんのアリスちゃん。おねーさんに任せとき! 行儀よぉすんねんで〜?」


「はーい!」


ミントたちは元気よく返事をし、嬉しそうにマーヤに抱きついた。


外ではアーシグマ隊が「みなさま〜こちらで〜す♡」と呼びかけている。


「ほな、行こか〜」


マーヤが軽い足取りで出ていき、ミントたちも「やったー!」と続く。


ドアが閉まり、静けさが戻る。


アリスはため息。


「一気に不安になってきた……」


セイラは腕を組んだまま窓の外を見つめ、短く言った。


「昔からあいつはあんなもんだ。やることはやる。問題ない」


「でも、その“やること”が不安なんですよ……」


アリスは眼鏡を直し、肩を落とした。


下の広場では、地球の首脳たちがアーシグマの案内を受け、驚きと興奮を隠せずにいた。


それを見下ろすセイラとアリス。

そして、マーヤとミントたちは――

その裏側で、次に起きるであろう“波乱の種”をすでに抱えながら動き始めていた。

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