第15話 奉仕種族の作戦会議(改)
地球人の首脳や政府関係者、報道関係者たちが続々と人工島の会議施設に集まっていく。
見下ろす専用の部屋で、奉仕種族だけが集まり、珍しくアーシグマはいない。
アリス・フェルナンデスはモニターに目をやりながら静かに口を開く。
「皆、無事に到着したようですね……」
セイラ・カーンが短く頷く。
「そうだな。無事で何よりだ。」
二人の間に漂う空気は、喜びというよりも、緊張と覚悟が混ざったものだった。
そこへ、第三の奉仕種族、マーヤが軽やかに腰を伸ばして入ってくる。
「地球の人口比とうちらの人口比考えたら、しゃあないわな~」
アリスは少し眉を寄せてため息をつく。
「全ての国が協力してくれるかどうかは、わかりませんしね……」
マーヤは肩をすくめ、関西弁で言った。
「そん時はそん時や。男性一人に奉仕種族一人って決まりは、うちらにはないんやから、地球人に無理合わせる必要なんてないやん?」
アリスは少し苦笑し、心配そうに言った。
「……地球の人たち、大パニックになりませんか?」
セイラは鋭く言い放つ。
「私たちの命と未来がかかっている。全てが行儀よく動くなんてできん。」
マーヤは楽しげに身を乗り出す。
「まあアリスが難航するなら、ある程度の脅しもええって、皆の結論出てるし~。セイラ、いっちょ一発かましたりせぇや~」
セイラは胸を張り、静かに答える。
「ふむ……任せとけ。」
アリスは苦笑を浮かべる。
「セイラさん、あまり酷いことを言って交渉が完全に決裂したら困りますよ……」
マーヤは肩をすくめ、軽く言った。
「そん時はそん時や。それに、最悪の時は強硬手段も並行して準備中やで?」
アリスは顔をしかめ、ため息をつく。
「それをやったら、ただの侵略者になってしまいますよ……」
マーヤはにやりと笑い、手を広げた。
「うちらの命が掛かっとるんやで? 地球人の言葉で言えば“緊急避難”や!! 行ける行ける!」
アリスは小さく息を吐き、冷静に答える。
「はぁ……なるべくそうならないよう、努力します。」
セイラは短く頷き、力強く言った。
「私も補佐で付く。しっかりやれよ。」
マーヤは元気よく拳を振り上げ、朗らかに叫ぶ。
「よっしゃー! 気合入れていくで~! 一世一代の大勝負やからな~!」
部屋に充満した緊張と覚悟の空気は、マーヤの能天気さに少しだけ和らげられた。
アリスは二人の様子を見つめ、心の中でつぶやく。
(……私たちは、ただの交渉役じゃない。これは――未来を懸けた最初の試み……)
窓の外、人工島の埠頭では、輸送艦隊が静かに並ぶ。銀色の艦体が朝日に反射し、まるで小さな都市のように整列している。
「……この光景を見ると、あらためて身が引き締まりますね・・・」
アリスの声に、セイラは低く頷く。
「失敗は許されん。だが、うまくいけば……大きな一歩になる。」
マーヤはさらに元気よく、両手を広げて言った。
「せやで! 地球人の連中、あっと言わせたるで~! 成功したら最高やんか~!」
アリスは小さく笑い、深呼吸をした。
「……まずは、冷静に、誠実に行きましょう。それが私たちにできる最大限の準備です。」
セイラは短く頷き、鋭い目で遠くの埠頭を見つめる。
「全てはここからだ。初めての地球人との交渉が、我々の未来を左右する。」
マーヤは肩をそびやかし、元気よく言葉を重ねる。
「失敗したときのことなんてその時考えればええんや!! 骨は拾ったるから楽しんでいこうや~!!」
部屋に一瞬、笑いがこぼれる。緊張がほぐれたわけではない。だが、この小さな笑いが、これから始まる戦いの前の、ささやかな勇気になった。
そして、人工島の上空では、銀色の輸送艦隊が静かに輝きを増し、いままさに新たな歴史の幕開けを告げようとしていた。
だが、誰もが知っていた――この“初対面の地球人との交渉”が、彼女たちの運命を大きく左右することを。
◆ マーヤと地下施設
アリスたちと別れたあと、マーヤは人工島ノア・プレートの地下へと足を運んでいた。
巨大なエレベーターが降下し、扉が開いた瞬間、彼女は思わず口笛を吹く。
そこは――兵器庫だった。
並ぶのは、光沢ある銀色の砲塔、長大なビーム砲、そしてどう見ても地球のアニメで見たような人型巨大ロボまで。
「……いやぁ、やりすぎやろコレ。絶対怒られるやつやん」
軽口を叩きながら見渡していると、背後から静かな足音が響く。
振り向けば、アーシグマ隊の一人――セレスが無表情に近い落ち着いた声で報告してきた。
「マーヤさん。準備は順調です」
マーヤはロボの脚部を指さす。
「順調っちゅうか……これ、人型兵器まで作ったんかいな?」
セレスは淡々と頷く。
「地球のアニメを調査した結果、とても好評だったため……急遽、建造することになりました」
「著作権的に完全アウトやで? 見た目そのまんまやん」
「ですが、これが出てくる状況では、著作権問題を議論する余裕はないと思いますが?」
「いや、絶対あるって。ネット民は戦争中でも炎上させる生き物なんやで?」
セレスは首を傾げる。
「……炎上させるのは、私たちなのでは?」
「やかましいわ!」
侵略兵器の準備中とは思えない、ふたりの緩い掛け合いが地下施設に響く。
マーヤはふと、厳重に隔離された円筒ケースを見つける。
中には――どす黒い緑色の液体。
「なんやコレ、生物兵器か?」
軽い気持ちで分析モードを起動した次の瞬間、マーヤの表情が凍りついた。
「……あかん……! これ、下手したらうちらまで被害出るレベルのやつやん!!」
彼女は叫ぶように振り返った。
「セレス! これ即廃棄! いますぐ!!」
「了解しました」
セレスは迷いなく操作を行い、貨物用エアロックへ流し込み、完全焼却処理を始めた。
マーヤは眉をひそめる。
「……他にこんなんないんやろな?」
「実験で作ったのは、その一本だけです。すでに処理完了しました」
「はぁ……何考えて作ったんや、ほんま……」
そうつぶやく頃、通信端末がピルル、と間の抜けた音を立てた。
『マーヤちゃんかぁ~? ちょーっと頼みたいことあるんよぉ~』
柔らかい京言葉。奉仕種族の誰かだ。
「なんやねんこの忙しい時に」
『あんなぁ? そこに緑色の液体あったやろぉ? それ、廃棄してほしいんやわぁ』
「したわ!! セレスに命令して即廃棄したわ!!」
『マーヤちゃん仕事早いなぁ~。助かるわぁ~』
のんきに感謝され、マーヤはつい怒鳴る。
「なんであんな危険なモン作ったんや!!」
『いやぁ深夜のテンションってあるやろぉ? 作り始めたら順調でそのまま完成してもうて……』
「ノリで作るもんちゃうわ!! 進化したら最悪うちらも死ぬやろ!!」
『せやから廃棄してって頼んどるんやないのぉ』
この返答に、マーヤは一瞬で精神力を削られた。
「……ホンマにあれ一本だけなんやな?」
『あれ一本だけや。大丈夫やでぇ~』
通信が切れたあと、マーヤは深いため息をついた。
「アリスも交渉で苦労しとるけど……うちも別の意味で疲れるわ……」
その呟きに応えるように、地下の蛍光灯が静かに明滅していた。




