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第10話「準備は整ったけれど」(改)

地球側の会議では、日本が先頭に立つことこそ決まったものの、

「どの国の首脳を参加させるか」「全国家から代表を出すべきか」――議論は難航していた。


「全員参加にするなら、各国で代表を選ばなければならない」

「だが選抜したら、不満が出るだろう」

「そもそも現地のセキュリティに限界がある。相手は宇宙からの来訪者だぞ? 想定外だらけだ!」


内容だけ見れば深刻な話題。

だが会議室には、不思議な“緩さ”が漂っていた。

誰もが恐れているはずなのに、なぜかワクワクしている――そんな複雑な感情が空気を揺らしていた。


「そもそも、日本を先頭に押し出すのはどうなんだ?」

「相手、日本語ペラペラなんだよ」

「むしろ日本語しかできない説……?」

「いや、昨日ネイティブなロシア語で返事したぞ」

「フランス語も完璧だった。あれは本物のネイティブだ」

「……一週間でどうやって覚える?」

「我々より知能が先を行っていると……考えるしかないだろう」


場が静まり返る。

だが沈黙の裏には、“あの連日のゆるい通信”を送ってくる相手が超高知能だなんて、どうにも信じがたい――そんな戸惑いが隠れていた。


――地球を舐めているのか、ガチで天才なのか、判断できない。


ともかく「日本が先頭」という一点だけは、満場一致で決まった。

問題は――その次だった。


やっと真面目な空気が戻りつつあり、各国が

(うまく交渉できれば莫大な利益が……)

と現実的な計算を始めたそのとき。


最初に手を挙げたのは、やはり超大国だった。


「我が国は Japan の最重要同盟国だ!」


アメリカ代表は“沈痛そうな表情”から一転、ハリウッド級の笑顔へ。

「友を危険に一人で行かせるなど、我々の“フリーダム”が許さない!

 日本よ、我々がベストパートナーとして同行しようではないか!」


白々しい沈痛顔からの、完璧な満面スマイル。

日本代表は(最初からふざけず助けてくれ……)と心の中で嘆きながら、

「ぜひお願い――」と言いかけた、その瞬間。


「待った。」


重い声が割り込んだ。ロシアだ。


「ここは地理的にも近いロシアが最適任だ」

ロシア代表はゆったり立ち上がり、唇の端を微かに上げる。

「悲しい行き違いはあったが……我々はかつて“同志”だった。

 隣人としての責務、ここで果たそうではないか。ダー?」


やめてくれ、昔の話を持ち出すな……と日本代表は肩を落とした。


そこへ、中国が声を張る。


「待て!

 日本との関係がもっと古いのは我が国だ! 二千年の交流を忘れたか!

 文化も経済も、ウチが一番日本を理解している!」


アメリカ「お前が言うのかよ!」

ロシア「歴史の長さで決めたら、大半の国が黙るぞ!」

中国「だいたい今まで日本をほっといたお前らに言われたくない!」


三大国が日本を取り合うという、前代未聞の国連会議が爆誕した。


記者席では囁き声が漏れる。


「……これ“日本、米露中に囲われるハーレム状態”って速報にしたら怒られるかな?」

「やめろ。国際問題になるわ」


しかし状況はさらに悪化する。


「EUも日本のパートナーに立候補いたします!」


ヨーロッパが参戦。


「はぁ!? 今こっちで話してんだろうが!」

三大国が同時に振り返る。


だが次の一言が、火種になった。


「EUって……誰が代表するんだ?」


静寂。


すぐにドイツが胸を張る。

「EUの牽引役は我が国だ。よってドイツが行くのが筋である」


「おい、何勝手に決めてる!」

「常任理事国であるフランスが行くべきだ!」

「いやいや、英語が世界の共通語だ。イギリスが最適だ!」


「お前EU抜けただろうがッ!!」


怒号が飛び交い、会議はさらにカオスに。

日本代表は息をすることさえ忘れ、ただ成り行きを見守るだけだった。

“日本の意見”は、一切議論に反映されていない。


中東、アフリカ、アジア各国も次々と声を上げる。


「我が国こそ、真の友邦である!」

「日本とは百年前に我が港で会談した!」

「我々は過去に経済協定を――」

「いや文化交流を――」


気づけば議場は、全世界による**“日本争奪戦”**の様相。


日本代表は頭を抱えた。

(……ダメだ、誰も冷静じゃない。もう議長に止めてもらうしかない……!)


意を決し、国連議長にそっと耳打ちする。


「議長、お願いです。ここはひとつ、まとめの一言を」


「うむ、任せなさい!」


議長が立ち上がる。

深呼吸し、威厳ある声を会場に響かせた。


「諸君!! 一度――落ち着いて話し合わんか!!!」


その瞬間。


会場中の代表たちが血走った目で一斉に振り返った。


「校長先生は黙っててください!!」

「議長、今はあなたの“しつけタイム”じゃないんだよ!!」

「空気読んで座ってて!!」


あまりの迫力に、議長はビクッと肩を震わせた。


「……う、うむ! げ、元気があって非常によろしい!!」


こめかみを引きつらせながら、そそくさと着席。


日本代表は天を仰ぐ。


(……議長でもダメか……どうすればいいんだこれ……)


もはや宇宙人との接触会議ではない。

「日本と一緒に行くのはどの国か」

世界中が泥仕合を繰り広げる場へと化していた。


――二日目。

地球側で「日本のパートナー争奪戦」が続く頃。


太平洋の青の上に浮かぶ人工島――ノア・プレートでは、もっと直接的で、もっと可愛らしい混乱が起きていた。


「地球の人たちに会えるよ!!」


昨日、国連通信に乱入していた張本人――ルルナとミントが、嬉々として島中へ噂をばらまいた結果。


「まだー? 今日会えるのー?」


「だからまだですよ……。すぐに連絡は来ると思いますから、仕事に戻りましょう?」

アリスは保育士のように優しく微笑む。


「仕事しろ。――走り回るな!」


セイラは眉間を押さえながら怒鳴るが、若い個体には全く効かない。


「だって、だって会いたいんだもーん!」


通信室を跳ね回る若い奉仕種族たち。

それをアリス・アーシグマ・セイラが追い回す光景は、まるでアヒルの親子の行列のようだった。


ついにセイラが爆発。


「ルルナの奴め……!! あいつのせいで島全体が浮ついて落ち着かん!」


アリスが苦笑しながら宥める。


「まあ、やっと出会えたんですし……はしゃぐのは仕方ないですよ」


「とはいえ、こう毎日毎日聞かれたら仕事にならないわよぉ~?」

アーシグマも肩をすくめる。


年長組も「その通りだ」とため息を漏らしていた。


アリスは静かに、海の先――地球の大陸の方へ目を向ける。


「なるべく早く、地球側から回答がくるといいんですが……」


――三日目。


もはや我慢できなくなった若い個体たちが、再び“いたずら通信”を始めた。


「早くあーしのご主人様に会いたいですー!」

「愛しの私のご主人様、早くお会いしたいですわー!」

「ご主人様に奉仕したいっす!!」


言語は英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、ロシア語――

でも特に多いのは日本語。


マイクの取り合いが始まり、あちこちで小さなケンカ。


「あー今日はあたしが話したかったのにー!」

「あーしがマイク取ったんだから、あーしの番でしょ!」

「私ももっと話したいですの……」

「ずるいっす! 昨日も話してたのに、今日は私が話すっす!」


そこへ関西弁の二人組が口を挟む。


「おまえらー、そないなことしてるとまたねーさん(アーシグマ)にどやされるでー?」

「せやせや、ねーさんの雷落ちる前にマイク渡すんや」


奉仕種族たちは不満顔で「えー」。


「お前らほんまは自分が話したいだけやろ?」

「ばれてもうたがな」


突如、アーシグマの“雷”。


「あんたたち!! ええかげんにしなさい!!」


若い個体たちは「ごめんなさーい!!」と叫びながら通信を切った。


地球側――特に日本人たちは、通信室から漏れる騒ぎを聞きながら思った。


「宇宙人って、漫才まで覚えたのか……」

「いや、あれは素でやってる感じだぞ」


不思議と恐怖よりも親しみが勝ち、

早く会いたい――そんな感情が芽生え始めていた。


その頃、各国では。

連日のニュースで宇宙来訪が伝えられ、政府に説明や会談情報を求めるデモが世界中で発生。


さらに――


「宇宙人に会わせろー!」

「待て! 立入禁止区域だ!」


人工島へ向かうチャーター船に無断乗船しようとする者まで現れ、

警備隊が大慌てで止める様子が報道された。


ようやく各国代表たちも正気に戻り、

日本争奪戦してる場合じゃない、と頭を抱える。


国内外の混乱を受け、最終結論は――


「各国代表を出す」


もちろん、日本が先頭に立つのは変わらない。

「日本語をよく使うから」という理由で、半ば押し付けられた形だった。


一方のノア・プレート。

奉仕種族たちは通信室でまだ余韻に浸っていた。


「あー、やっと会えるのかもね!」

「楽しみすぎて胸がキュンキュンするっす!」


だが、いまだ公式チャンネルから連絡はない。


アリスは苦笑しながら告げる。


「まだ公式チャンネルから連絡は来てませんよ。気持ちはわかりますけど……」


通信端末には

地球側からの連絡待ち

の表示が点滅している。


──準備は整った。

あとは公式チャンネルに「会談準備完了」を伝えるだけ。


その瞬間は、すぐ目の前まで迫っていた。

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