ミミールの街
高貴なドラゴンというのは厚い皮膜の大きな羽を持ち、
強固で矛や矢もはじくような鱗で覆われていて、
岩を砕くほどの堅く鋭い爪を持っている上に、魂ごと焼くと言われる灼熱の火を吹くという。
だが私の種族は羽こそあれど皮膜は薄く小ぶりな羽で矛や矢に狙われれば逃げるより他にない。
そんなひ弱な種族のドラゴンがどうしてここまで生き残ってきたのか。
それは、私たちが”人の言葉を理解し話せる”唯一のドラゴンだからである。
◇◆◇◆◇◆◇
私たちのようなドラゴンを人間は他のドラゴンたちとは区別し”アテーナー”と呼んだ。
そんな私たちに跨り心を通わせ共に空を駆ける人間をライダーと私たちは呼んだ。
私のライダーはソウという男だ、歳は53、ベテランライダーだ。
私自身はまだ幼く1204歳。人間だと16ぐらいだろうか。
「アイテール、この森の先に街は見えてきたか?」
「あぁ、見えてきた、それもかなり大きい」
「そうか、やっとついたか」
「あれがミミールという街なのか?」
「そうだ、今度こそあそこでお前にぴったりのライダーを見つけてやるからな」
ソウは私の背中をやさしく撫でてくれた
私は特別なサラマンダーだった。ドラゴンの中でも最も高貴とされる”アーレウス”との混血。
父は偉大なアーレウスで母は壮大なアテーナーだった。
母は人の言葉をドラゴンの言葉に訳し父に伝え、人の村を襲うオーガがいると聞けば飛んで行き、
鋭い爪で八つ裂きにし、作物を奪うゴブリンがいると聞けば飛んで行き灼熱の炎で焼いたそうだ。
そんな血を継いでいるもののサラマンダーの血と混ざったせいか私の羽はそこそこ厚い程度、
爪も丸太を折る程度で岩などは言うまでもない。
だが”人の言葉を理解し話せる”ドラゴンとしては私が最も強いだろう。
「私がずっとお前のライダーでいられればいいんだがな・・・」
「わかってる、人の一生はあまりにも短い」
私の背中についた手はなんだか寂しそうな感じがした。
一変して今日は日差しが強い、雲はかけらも見当たらない。
ミーミルの街からはドドドン、ドドドン、ドンドンと太鼓の音色が聞こえた。
「今日は何かの祭りなのか?」
話しを変えようと思い音の意味を聞いた
「お前はやさしいな、まだ若いのに人に気を遣うことまで覚えていたのか」
あまり気を遣う必要もなかったようだ。
ソウは背中でガハハと笑っている。
「今日はミミールの街の誕生6009回目の祝祭だよ」
「そんなに祭りをしてきたのか!?人の一生は短いというのに・・・」
「短いからこそ長生きの連中に負けないくらい食べて歌って飲んで騒ぐのさ」
行けっ!!と背中を叩いたソウの合図でスピードを上げミミールへ飛んだ。
力強い太鼓の音色が近づく、だが風はやさしい音色も運んだ。
なんだ、笛の音も聞こえるじゃないか。