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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

自首した理由

掲載日:2025/08/03

 先日、ある男が逮捕された。

 容疑は死体遺棄。妻を風呂場で溺死させてから遺体をバラバラにしてトイレに流して遺棄したのだ。


 容疑者の名前は斎藤武夫。年齢は四十五歳。子供はおらず妻である斎藤瞳さんと二人暮らしだった。

 殺害の動機は瞳さんの金遣いの荒さ。彼女が豪遊するたびに武夫は都度注意をしてきたそうだが聞いてくれたなかった。そしてある時、武夫が老後のためにと貯蓄していた金を勝手に使って瞳さんは豪遊し。それを知った武夫は我慢の限界を迎え激怒。風呂に入っていた瞳さんを襲い、溺死させた。

 警察に捕まるのを恐れた武夫は証拠隠滅のためにのこぎりやハンマーをネットで購入し、瞳さんの遺体を切断。骨はハンマーで砕き、肉は包丁で細かく刻んだ。そして更にそれらをミキサーにかけてトイレに流した。


 そこまで行動したにもかかわらず、なぜ武夫は自首したのか。

 事情聴取を担当した私に彼は話してくれた。


「妻は昔は優しくて本当にすてきな女性でした。子供願望は妻も私もなかったので、ずっと二人暮らしをしていましたし、色んなところに旅行へ行きました。でも、私が会社で出世して稼ぎが良くなると徐々に妻は変わっていきました...」


 瞳さんへの憎しみはまだ消えていないのか、武夫は恨めしい顔をしていた。


「最初はまだかわいいもんでしたよ。たまにバッグや財布を買うくらいで。彼女の喜ぶ顔を見るのが好きでしたから、働き甲斐があるな~、なんて思ってたくらいですから」


「いつから瞳さんとの関係が悪くなったか教えてくれますか?」


「えぇ、ある時カード会社から不正利用の疑いがあると連絡があったんです。私のカードで高額な利用があったとかで。妻に聞くとバッグや服、ネックレスを買ってたのがわかりましてね」


「それはいつ頃の?」


「去年の四月でしたか。それはもう仕事から急いで帰ってすぐに彼女を叱りましたよ。金遣いに気をつけろって。その時は反省したのかしばらく買い物を控えてくれてたんですけど」


 しかし、しばらくするとまた派手な買い物をするようになっていったそうだ。金遣いが荒くなるにつれ、

 瞳さんの性格は変わっていった。優しくておっとりした彼女だが、最後の方になると人の話を聞かない短気で自分勝手な人間になってしまった。


 瞳さんとの関係が徐々に悪化していく中、冒頭でも話したように、武夫が老後のために貯めていたお金にまで手を出したことに彼は我慢できず殺害してしまった。


「瞳を殺してしばらくして怖くなりましたよ。自分がしたことや今後のこと。警察に捕まって一生牢屋暮らし。ここまで瞳に我慢してきたのに今度は牢屋で孤独に生きていかなければいけないのだと絶望しましたよ」


「だから瞳さんの遺体をバラバラにして遺棄したんですか?」


「そうですね。死体を解体するなんてドラマや映画でしか観たことなかったですが、いざやってみると気持ちが良いものですね。彼女を苦しめているようで」


「...」


 言葉が出なかった。瞳さんの性格が変わったように武夫もまた変わってしまったのだと。


「大体三週間くらいかかったかな?瞳を捨てるのに。平日は夜まで仕事をしていたものですから、処理をする時間は仕事終わりか休日くらいでしたので。それが終わってようやく落ち着いた生活に戻れると思ってたんですけどね...」


 先ほどまでの憎しみに支配されてた武夫とは打って変わって今の彼は怯えた様子だ。


「休日に家でゆっくり過ごしてた時です。トイレで用を足したんですよ。それで水を流した時、その場で固まっちゃいました。便器に髪の毛がたくさん出てきたんです」


「...え?」


 武夫からの予想だにしない言葉に驚いた。髪の毛?


「まさかトイレからそんなものが出てくると思わないじゃないですか。瞳の全部を捨ててから時間が経ってるんですから。あの時の努力を無駄にさせまいと躍起になりました」


 トイレの修理業者に依頼して瞳さん殺害がバレてしまうのを懸念した武夫はネットで得た知識を基に自身で解決したそうだ。


「でもね、何をやっても駄目だったんですよ。なぜかあいつの髪の毛だけがトイレから出てくるんです。ぼさぼさの髪の毛が...」


 想像するだけで吐き気を催す。

 しかし、それだけでは終わらなかったと武夫は語る。


「キッチンで蛇口を捻るとそこから水に混ざって髪の毛が流れてくるんです。お風呂にも。洗面所にも...!!!」


 そのたびに回収してはゴミ袋に入れて捨てたのだが、何度やっても状況は変わらなかった。


「私はあれをトイレに流したんだ。それがなぜ洗面所や風呂場、キッチンにも髪の毛が出てくるんだ!!!」


 当時の記憶が鮮明に思い出されたのか。武夫が激しく動揺する。

 彼を宥めることしばらく。ようやく落ち着きを取り戻した彼は再び語り始めた。


「これはもう瞳の呪いですよね。髪の毛だけが水と一緒に流れ出てくるなんて現実的じゃない。引っ越しすることを検討しましたが、次の入居者にあれが見つかってそれが原因で瞳を殺したことがバレるんじゃないかって怖くてできませんでした...。だから諦めて自首したんです...」


 憔悴した彼とこれ以上会話は難しいと判断した私は事情聴取を終わらせた。

 部屋から出る私に対し彼は最後にこう言った。


「私は水が怖いんです。水を見ると髪の毛が混じってるんじゃないかって。あいつからは逃れられないんじゃないかって...」



 翌朝、留置場で死んでいる斎藤武夫が発見された。

 便器に頭を突っ込んだ状態で亡くなっていたそうだ。


 彼は瞳さんによって殺されたのだろうか。

 本人が死んでしまった以上、謎のままだ。

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