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第2話 応用編 道具は厳選する。

「まあ、やめる人が多くて困っていたのよ。さすがにアグネスメイド派遣協会は手配が早いのね。助かるわ。」


3人揃って、奥様に挨拶する。話に聞いていたよりにこやかな方だ。30歳くらいかしら?落ち着いたたたずまい。


後ろに立っている強面の侍女が咳払いする。


「いい?2階の奥の部屋には近づかないこと。何があっても、よ?」

「はい。掃除もよろしいので?」

「いい。」

「かしこまりました。」


侍女のほうが奥様みたいだわ。



「どうも、奥様が生家から連れてきた侍女みたいなんだけど、間違いなくあの人が原因よね?」


使用人部屋でアリーナがベッドに寝転がりながらそう言う。

何日か仕事してみて…奥様には問題がなさそう。

「奥様の侍女が、難しい、というのが間違って伝わっているのかしらね?キッチンでも奥様の苦言は聞かなかったわ。あの侍女が威張ってるのが気に入らない話は聞いたけど。」

「でしょう?」

「それで、アーダ?2階の奥の部屋は何がありそう?」

「・・・人がいますね。」

「え?愛人?が住んでるの?ありがちだけど。」

「いえ。子供のようですね。あの侍女だけ出入りしているようです。食事もあの侍女が運んでいます。」

「ああ。トレーに子供用の食事、用意してあったわ。そう言えば。でも、ここの奥様に子どもはいないわよね?」

「旦那様も見かけないけどね。」

「・・・・・」


アメリーがキッチンで貰ってきたクッキーが中々美味しい。


「でも、誰も子供の話なんかしなかったけどね?」

アリーナの洗濯場は、いわゆる使用人たちの社交場だ。ありとあらゆる本当だったり嘘だったりの話が拾える。

「・・・誰も、よ?本当に子供が住んでるの?」

「ええ。あの侍女が物凄い剣幕で怒鳴った後に、ごめんなさい、という小さい声が聞こえたから…。」

「虐待?」

「・・・・・」



そんなある日、奥様が侍女を連れてお買い物に出かけた。

もちろん、2階の奥の部屋に近づくなと釘を刺された。


・・・廊下の掃除はしますけどね。


部屋をさくさく掃除していく。終わったら廊下の掃除。窓も拭く。

窓ガラスを全開で拭いていたら、奥の部屋から物の割れる音と、子供の泣き声。

思わずマスターキーでドアを開ける。


「どうされましたか?」


5歳ぐらいの子供が転んで、トレーごと食器を落として割ってしまったらしい。


「・・・ご、ごめんなさい…ご…。」

「怪我はございませんか?」


泣いている子どもを立たせて、膝や手を確認する。

「大丈夫みたいですね。割れた食器は危険ですので、離れていてくださいね。ささっと片づけてしまいますからね。」


割れた食器を片づけて、念のために雑巾で拭いておく。かけらが残っていたりしたら危険だし。

片づけ終わって部屋を見回すと、不自由はない生活を送っているようだ。ベッドも綺麗だし、子供用の勉強机、ソファー、本棚、食事用のテーブル。ぬいぐるみもたくさんある。


しかし…5歳ほどの子供をこの部屋に監禁??

しかも一人で?


「お姉さん、ぼ、僕が割っちゃったの、あの人に黙っていてくれる?」

しかも…あの侍女におびえている??


「大丈夫ですよ。これは片づけておきますから。あの…いつも一人なの?」

「ううん。いつもなら、エルナが来てくれるんだけど…お休みなのかな?」


エルナ?そんなメイドいたかしら?

私たちと入れ替わりのメイドかしら?


トレーに割れた食器をのせて、台所に戻す。アメリーがさりげなく受け取ってくれて、目配せをする。

「あの部屋に入ったのか?」

トレーを見たコックが、何とも言えない顔をする。

「坊ちゃまに会ったのか?」

「・・・ええ。転んで食器を割ってしまったようで…。」




*****


「思ったより、めんどくさそうね。この家。」

「・・・・・」

使用人部屋で頭がくっつくぐらい近寄って3人で話す。

「つまり、2階の奥の部屋に監禁されているのは、この屋敷の旦那様の愛人の子供?」

「・・・というか、奥様が、自分の髪色に似たメイドに頼んで産んでもらった子供、と言ったほうが良いかしらね。」

「ぐふっ。なに?それ?」


アリーナが飲みかけたお茶を吹きそうになって、何とか飲み込む。


「奥様は長いことお子に恵まれなかったようで、旦那様とエルナというメイドに頼み込んで子を作ってもらった。その子を自分の子として育てようと思っていたみたいね。思いつめたわね。旦那様も嫌がっていたらしいけど。」

「・・・まあ、全然知らないところから養子に貰うよりはいいのか、な?」

「どうかしら。でもまあ、間違いなく旦那様の子ではあるからね。」

「いざ生まれて見たら男の子。跡継ぎよね。奥様の連れてきたあの侍女がなんだかんだと難癖をつけて、奥様とあまりお会いできないようにしていたらしい。で、ついに、エルナ、母親をたたき出してしまったらしい。もともと好き勝手言っているあの侍女が気に入らなかった他のメイドたちも、それに怒って辞めた。そんな感じ?」

「・・・・・」

「どうもね、使用人たちは奥様も可愛そうだし、エルナの肩も持てないし、お坊ちゃまも可愛そうだし…騒ぐとあの侍女が何を言いだすか分からなくて黙っていたらしいわね。」

「・・・・・」


奥様の今日のお買い物は、お坊ちゃまのお洋服だったようだ。

あの部屋が何不自由なく物が揃っていたのは…奥様が買い求めていたのね。


さて。どうしようかな?



*****


「ねえ、アーダはもう息子に会った?」

「・・・ええ。」

「旦那様に似て、いい男でしょう?うふふっ。将来が楽しみだわ。」


奥様の部屋に掃除に入ると、奥様がぬいぐるみを作っていらした。お手製だったのか。


「カミラがね、ああ、私の侍女がね、今、お勉強が忙しいからなかなか会えないっていうのよ。早く会いたいわ。小さい頃は実のお母様のほうが育てやすいって言うしね。」

「・・・失礼を承知で申し上げます。奥様は自分の侍女とお坊ちゃまと、どちらが大切でございますか?」

「え?」

「今、そのカミラさんがお坊ちゃまの所に行っていらっしゃいますよね?奥様、行ってみませんか?」

「え?」

「きちんと現実を見るべきです。あなたが望んで生まれた、あなたの御子ですよ?」

「・・・・・」


奥様を2階にお連れして、そっとマスターキーでドアを開ける。

奥様に目配せして、そっと部屋をうかがう。


「どうしてお前はそんなことも出来ない?生まれが卑しいからだ!!この家はお嬢さまの物で、お前の物じゃないんだ!」

「ご、ごめんなさい…。」

「エルナはもう帰ってこない!旦那様から金を貰って、もう違う男でもくわえ込んでるさ!お前は捨てられたんだ!お前なんか!生まれてこなければよかったんだ!!!」


カミラの手がおびえるおぼっちゃまに振り下ろされ…。


「待ちなさい。」

「え?ああ、お嬢様、いま、この子に躾を。生まれが卑しいので何もわからないので。」

「この子?あなた、この子、って言った?この子は伯爵家の跡取りよ。あなたが蔑んでいい子供ではないわ。下がりなさい。」

「・・・お嬢様?私はお嬢さまのことを思って…。」

「私のことを思って?あなたがしたことは許せないことだわ。この子の母親は、私よ。あなたは私と旦那様の子供に手を上げていたのね。」


奥様はお坊ちゃまを抱きしめて、自分の侍女と対峙する。


「ごめんなさいね。こんなことになっているなんて。母親失格ね。でもこれからはあなたを離さないで大事に育てるからね?許してくださる?ローベルト?」


騒ぎを聞きつけて、執事さんや護衛騎士が駆けつける。

「この女を連れて行ってちょうだい。私の息子に手を上げて、暴言を吐きました。」


髪を乱して、騎士に押さえ込まれたカミラは、

「・・・私はお嬢さまのことが大事だったんです!」

「・・・・・」

「お嬢様を守るために、なんだってしてきたんです!!!」

「カミラ?私はもう、お嬢様じゃないのよ?この伯爵家の女主人で、ローベルトの母親なの。この伯爵家を守るために、この選択をしたの。あなたは…見誤ったわ。」



カミラが連れて行かれた後、奥様はお坊ちゃまを大事そうに抱っこしたまま、陽の当たる中庭に出ていかれた。

ガゼボにアメリーがお茶のセットを運んでいるのが見える。その後をコックさん自らお菓子を運んでいる。



知らせを受けたのか、仕事を切り上げて帰っていらした伯爵殿がガゼボに向かっている。


窓という窓から、使用人の皆さんがそれを眺めている。




この屋敷は、もう大丈夫そうですね。





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