第98話:大きな冒険?小さな冒険? 前篇
「ふむ、野菜の採取依頼ですか」
大家さんの相談内容とは、高級野菜の採取クエスト依頼だった。
大家さんが依頼した高級野菜は、味は最高だが栽培が不可能でクリコの花と同様、野生でしか採ることができないもの。
相談内容を聞いた時、ギリアンは首をかしげる。
「……あれ? その採取クエストって確か」
そう、その高級野菜はVIP御用達であり、道中クラスDの魔物が出る為難易度はD、シプラーさんのところでも使っており、フルコースでも使うとか言っていたやつだ。
んでこれは地元VIP御用達のギルド・ハダが請け負うクエストだ。
「だから商売じゃなくて個人的なお願いなのさ。実は長い間世話になった人が体調が思わしくなくて、その人の大好物がその野菜でね。身体にもいいし、だから個人的に持って行ってあげたくてさ」
「大家さん……」
「ハダに頼んでいいんだけど、どうにもあそこはピリピリしていて好きじゃなくてね、それに……」
その言葉にギリアンさんが頷く。
「はい、俺のところにも情報が入っていますね。トカゲ型クラスCの魔物の出現情報が入っていて、現在封鎖中ですね」
「そうなんだよ、でね、その野菜ってのは」
「分かってます。野菜の目利きも必要だから大家さんも同行する必要がある。つまり護衛と採取、状況に応じて討伐ですか……」
とギリアンの言葉に大家さんは首を振る。
「いや、ごめん、今の話は忘れてよ。クラスCとなれば、この都市で討伐できるのはピグぐらいだけど、あの男は依頼者の身分で依頼を受けるのを決めるタイプだし、クォイラ嬢にはもっと頼めない。目撃情報があるのにノコノコ出向いて襲われれば「馬鹿だ」って言われてお終いなのはわかっているからさ」
「分かりました、受けましょう」
「え!?」
「これでもクラスDでは上位に入る戦闘能力と自負しておりますよ、実際にクラスCとの対戦経験も何度もあります。更に今回は道程も最適化されていて魔物の資料もたくさんある、つまり大家さんを「安全に逃がす事」が出来ますよ」
「逃がすって」
「今回のクエストの肝はそこにあります。故に大家さん側にも心構えが必要となってきます、どうしますか?」
大家さんはギリアンさんのいう事に少し考えた後。
「分かった、お願いするよ」
「わかりました、このまま打ち合わせに移りましょう、契約書も用意しますので」
●
今回のクエストは野菜採取クエスト、難易度はD、だが現在Cの魔物が出現しているため現在封鎖中、正確には難易度はCに跳ね上がっており、更に護衛も入っているので、更にCの中でも難易度が上がる。
そしてC以上が高難易度クエストに位置する。
「まず、高難易度クエストに挑戦する場合、優先順位をしっかりと頭に入れなければなりません、最初に決めるのが命の優先順位です」
という言葉を皮切りにギリアンさんは説明を始める。
まず最優先が大家さんの命、つまり無事にゼカナ都市に到着する事だ。大家さんさえ無事ならば、ギリアンさんと自分の生死は問わない。
次に状況の順位の確認だ、今回のクエストでいうのならば。
最良:全員生還、野菜の採取も達成。
次点:大家さん生還、この際俺とギリアンさんの生死は問わない、野菜の採取は達成。
三番:全員生還、野菜の採取は未達成
四番:大家さん生還、俺とギリアンさんの生死は問わない、野菜の採取は未達成。
「以上です、ここまではいいですか?」
「ちょ、ちょっと待った、次点と三番目は逆じゃないのかい?」
「逆ではありません。野菜の採取クエストである以上、大家さんの命の次に大事なのは野菜です、我々はその次ですね」
「そ、そうなのか……」
「そうなんです、次に道中の優先順位の確認ですね」
まず今回は討伐クエストではなく採取クエスト。
「よって本来であればクラスCに遭遇しないように進行しなければいけませんが、この魔物は、生態報告書によると腹が減ると攻撃性が増し積極的な捕食行動に出ます。今回の出現理由は発情期であるため人里に現れるようになったと、そしてそのエネルギーを消費するために腹が減っている時期だと解釈するべきで、採取地の近くに巣穴を作り活動していると思われます。よって遭遇する事も想定しないといけないですね」
ここでギリアンさんは一度言葉を切ると。
「よってクラスCとの遭遇の際は交戦は私が担当、大家さんはテックと逃げてください、遭遇した場合は、野菜の有無に問わず大家さんは何も持たないでくださいね」
「次に逃走経路なのですが、このクエストは経路が最適化されており安全地帯がちゃんと設けられています。よって大家さん、地図で記された道を覚えてください。ほぼ一本道ですが、3か所ほど枝分かれてしていて、逃走経路を間違えると死にますからね」
「わ、わかった」
「どうして大家さんに道を覚えてもらうかというと、逃走時にテックが殿を務めるからです。私が敗北して魔物が追いかけてきた場合テックが交戦します。その際もまたテックを囮にして1人で逃げるからです。それとお手数ですが、1人で生還した場合は、世界ギルドの支部に概要の報告をお願いします」
「……わかった、逃げるんだね、そして世界ギルドの支部に報告と、、」
「本当に出来ますか?」
「え?」
「逃げることは覚悟を決めないと駄目ですなんです。私とテックがクラスCに目の前で食い殺されても、自分の「保身」を優先して逃げるんですよ?」
「っ!」
味方を見捨てて逃げる。
創作物語の世界じゃ、逃げた奴はそのままもっと悲惨な目にあったり、生き残っても散々な目にあったりする。
だが、ルアのクラスB遭遇事件のとおり、仲間を見捨てて逃げるのは最善の手だ。
前にルアに「命を落とさないことはどんなバッシングを受けてでも」と諭したことがあるが、まさに理由がこれだ。
容赦のない現実を示す言葉に顔をこわばらせる大家さんだったが、口を開く。
「……ギリアンさん」
「なんでしょう?」
「アンタってちゃんと冒険者だったんだね、ただのグータラじゃなかったのか、ちょっと疑ってたよ」
(ノД`)シクシク、ヒドイ
――翌日・ゼカナ都市・正門前
善は急げという事で、俺達は朝、ゼカナ都市の正門前に集合した。
「よっしゃ、それでは出発しましょう!!」
ギリアンさんは護衛兼荷物持ち、背負うのは採取クエスト時に持っていく、いつもの2メートル四方のリュックだ。ここに野菜を入れて持って帰る。
そして行軍は、ギリアンさん、大家さん、俺の順番、俺とギリアンさんは、道中は主に索敵と遭遇時の敵の排除だ。
今回のクエストの道程は先ほど言ったとおり最適化されているため、道は複雑でもないし険しくもないが、それでも割と体力が必要な道。
そこは流石大家さん、難なくついてくる。
その間、俺はずっと気を張りっぱなしだった。
生態報告書は頭に入れてきた、だけど、それでも異常行動等に代表されるように、次の瞬間何があるか分からない。
クラスCの魔物の存在のおかげで他の魔物は鳴りを潜めているとあったが、それを全面的に信用しては油断を生み、下手をすると大家さんに怪我を負わせてしまう。
だが、そんな心配をよそに幸運と言っていいのか、魔物と交戦を挟まず目的に到着した。
「へぇ! 群生している姿は初めて見たよ!」
と興奮して群生地に入ろうとする大家さんをギリアンさんが止める。
「ちょっと待ってください……よし、敵影無し。大家さん、俺とテックで周囲を警戒します、リュックをここに置いておきますから、中に入れてくださいね」
とギリアンさんは俺と一緒に周囲の警戒を始めた。
「ほほう、これと、これは駄目か、お、これはいいね、後、これも悪くないか」
と後ろでブツブツ言っている大家さんが野菜を摘んで中に入れている。
「…………」
クラスCの魔物。
世界で出現する魔物の最上位。
冒険者学校の座学は、諸法規と実務。
その実務科目の中に魔物学の科目があるのだけど、その中でクラスCはテストでも頻出分野だった。
無論魔族の事も勉強するけど、あくまで事例検討程度で如何に逃走をするかが主な内容、遭遇することが事故と称されるため、そこまで大きく試験で出題されることは無かった。
無論クラスCでも遭遇する事はほとんどないが、価値は非常に高い。コアも希少で高級な宝石と同等になり研究対象にもなる程。
そして遭遇することを事故とは称せない程に可能性と対応が必要があり、人に多大な被害をもたらすのはクラスCの魔物であるため、出現した場合、国から討伐依頼が絶対にかかる。
故に相手を知らなければならず、更に討伐するしないに関わらず交戦する機会はあるため、生き残る手段としての座学だった。
とはいえ基本は討伐クエスト以外はクラスCとは遭遇しないことを第一に考えて行動する、遭遇しても戦うという選択肢を原則外さなければならないという事は、教官たちから口を酸っぱくして教えられた。
――死
それと目が合ったのは偶然だったのだろうか。
ふと気配を感じた先にいた、目の前にいる巨大なトカゲ型の魔物。
その目は、自分を見ていなかったんだけど、これは幸運だったんだなとテックは理解する。
これは死をもたらすものだ。
視線を大家さんに移したところ、一目散に逃げだしていた。
(度胸あるなぁ)
声すら上げていない、しかも自分より早く見つけて行動を移したのか、そんなことを考えている自分に驚きながら、作戦どおり、大家さんの後に走ってついていく。
横目で見た時、ギリアンさんと魔物が正面切って対峙して、注意を引き付けている姿が最後だった。




