第97話:凡才冒険者の日常・後篇
――ギルド・ジョー・ギリアン
今日は天気も良く麗らかな昼下がり。
俺は本を読み、その横では。
「平和だねぇ~」
とはダラダラとしている、ギリアンさん。
今日起きたのは何と昼過ぎ、起きて正面玄関を開けて、俺が作った食事をしてからはずーっとまったりして本を読んだり、今は魔石映像を見たりしている。
ここギルドだよね、いや、ドードさんが言ってたな、伊達や酔狂で冒険者やってるって。
冒険者学校では当然にギルドの事についても教わる。
開設は簡単だ、資格はクラスD以上であることのみ。
世界ギルド支部に所定の申請書を出すが余程の事がない限り受理される。
そうすれば個別番号が与えられてギルドが開業できる。
んで義務は、全てのクエストをギルド支部に報告する事、定期的にギルドの更新手続きをすること、会費として冒険者新聞を1部以上購読する事、この三つ。
だから元冒険者が開設する事は非常に多いのだが、良いギルドを斡旋するのにはコネがいる。
例えばドードは地域密着だから地元の会合には必ず顔を出すし地元の有力者達への接待を欠かさずコネを作り維持しようとしている。
ハダは、有力者は有力者でも都市だけではなく都市外の上流と呼ばれる人たちへの接待をしており、その依頼にピグが応えて維持している。先日特にクォイラ嬢の主催する社交に末席とはいえ呼ばれている。
そういう経営努力が必要であるのだけど……。
「だーっはっはっは! このベッタベタなコテコテなコントっていいねぇ!」←魔石動画を見て爆笑しているギリアン
「…………」
まあ、その経営努力をしないと公共クエストしか斡旋できないし、そういうギルドは正直、やっても意味がないという結論に至り、結局冒険者に戻ったり、廃業して別の仕事を始めたりするんだけど。
でもギリアンさんは凄く満足している。
確かにこのギルドだったら、人を雇っている訳じゃないし住居も兼ねているから、会費代わりの冒険者新聞代だけで維持できるんだけど。
「…………あの」
「んー、なに?」
「ギリアンさんの事って聞いていいですか?」
「? 俺の事? 別に大した経歴じゃないけど」
と魔石動画を止めて、少し話してくれた。
ジョー・ギリアン。
ルザアット公国人で地方都市出身、冒険者に憧れて公立学校を卒業後、公共クエストで実績を積み上げてライセンスランクを上げた所謂王道の冒険者。
戦闘職でずっとソロでやっていて、得意武器は大体なんでもできるが、徒手格闘を主に修めている。
流れ者みたいな生活をしながら冒険者として活動を続けて、クラスDに昇格したものの、食うや食わずの生活で全く安定せず、たまたま流れ着いたゼカナ都市の、まさに今住んでいるここに無一文状態で潜り込んだ。
無断で数日間生息した時に、大家さんに見つかり憲兵に突き出されそうになるも、異国の究極の謝罪方法であると伝えられる土下座を敢行、拝み倒して、結果相場よりも格安で店子として入居、定住する事になった。
その後、ギルド・ドードと契約してゼカナ都市の冒険者となり一定期間活動後、冒険社会の把握に便利だからだという理由で、自分でギルドを開き独立、現在に至る。
今でも、公共クエスト以外でドードやハダの依頼をたまに受ける。
「まあ、全部行き当たりばったりだったが、なんだかんだで、色々な人と出会ったなぁ、ここで冒険者として続けていれば、今度は俺の友人と一緒にやる事があるかもね~」
「友人……」
「そう、同じ冒険者のホヴァンって奴と、憲兵やってるルード、3人でつるんでよく遊んでいるんだ」
「……いいですね、俺は冒険者学校で友達らしい友達はできなかったんで」
「そうなのか、今度はその冒険者学校とやらを聞かせてくれよ」
「ええ、ノバルティス冒険者学校は、入学試験に筆記と実技があるんですけど」
と思い出しながら語る。
まず筆記は冒険者に絡む諸法規、そして実務、これは各コースで共通、別れるのが実技だ。
俺は戦闘職コースを受験したから、試験官たちの前で剣技を披露して合否判定される。
まず散々述べているが魔法使い等を含めた希少技能を持っている受験者はほぼ無条件で合格。
それ以外の枠は10倍近い倍率だったんだけど何とか合格して入学した。
入学後、冒険者学校運営のギルドに所属、中間試験代わりの冒険者ライセンス試験を受けて取得する。稀に落ちる人もいるが、その分遅れるので待ってくれないから必然的に落ちこぼれるので皆必死でやるから毎年大体全員合格するけど。
入学後の実技はライセンスを取得後からだ。
まず生徒全員が担任教官が率いるクランに加入、クエストに出発して経験値を得る。クエスト内容も様々で、サバイバル術から採取、討伐まで必要な事は全てやる、実技はそのクエストの内容を見てから教官が採点する。
座学は、冒険社会史等や魔物の討伐報告書や生態報告書を勉強して覚えて、定期考査を実施する。
その総合点で順位が決定する。
「ふーん、上手に運用するもんだな、特別枠ってのはどうやって選ばれるんだ?」
「それには2種類あって、所謂推薦組、入学前に能力が認められた場合、青田刈りみたいに言われていますね。後は入学後に認められて選ばれた場合、ルアはこのパターンです。成績も大事ですけど教官が才能を見出す感じですね」
特別枠は、特別枠だけでクラスをはいる。クランも全て特別枠の生徒だけでクランを組む。担任教官もクラスBの冒険者で英才教育を施し、授業料、寮費が免除される。
だが一度特別枠に入れば安泰という訳ではない、教官が求める水準を満たさなければ容赦なく一般枠に落とされるし、入れ替えも激しい。
卒業までに半数以上が入れ替わり、トライアウトに臨む際に最後のふるいにかけられて残った者だけが、その期の特別枠としてトライアウトが受けられる。
これは本当に厳格で、年によっては2人とかもあったそうだ。
「凄いな、ひたすら競争か、確かに特別枠は毎年全員が合格するし、トライアウトでも見たが優秀な奴らばかりだったな、採用は納得だ」
「え?」
「って週刊●春に書いてあった(汗)」
「あ、あの、時々出てくる週刊文●ってなんです?」
「えっと、そのー、俺の祖国の不倫暴露に特化した雑誌で」
「ロクでもない!」
「でも大人気なんだよ、みんな好きだよね、本当に、ほら、冒険者新聞の三面記事みたいな感じで~」
「というかそんな雑誌の内容信じちゃダメじゃないですか!」
「ごもっとも、実際不倫は事実でもそれ以外は全部適当憶測で書いてあってなぁ、ってごほん! ということは今年の11人って優秀な期だったのか」
「あ、はい、特にルアを含めた上位4人は特に優秀で、一度も特別枠からおろされることなく卒業しました」
「へー、しかしクラスBの冒険者が教官とは豪華だな、他の教官のレベルも高いのか?」
「俺達みたいな一般枠でも、教官は全員クラスC冒険者、しかもただのクラスCじゃなくてジーズの現役幹部だったり、引退した元幹部達です」
「ほー、それは優秀だのう、セシルは男はガチで能力で採用するからな。少し絡んだこともあるが、全員素晴らしい能力を持った冒険者達だった」
「え? 知っているんですか?」
「って、週刊●春に書いてあったなぁ(汗)」
「…………」
「ま、まあ、細かいことは良いじゃないか! 話は戻るけどクランはどうやって組ませるんだ? 任意で組ませるのか?」
「その場合もありますけど、自分で組めれば組むって感じですね」
クランメンバー。
冒険者として活動するにあたり、複数で活動、つまりクラン活動を推奨しているわけだが、これが難しい。
メンバー探しは難儀するし、仮に結成したとしても維持するのも難しい。
報酬で揉めたり、気が合わなかったり、能力不足や相性、それこそ。
「男のクランメンバーの5人全員と付き合った女冒険者もいましたね、まあクラン崩壊しましたが」
「ぷはは! ヲタサーの姫やん!」
「でも、別のクランでは公認6股とかいたんですけど、うまくやってる感じでした」
「それも凄い話だねぇ、どんな女冒険者だったの?」
「一見して普通な可愛い感じの女の子だから怖かったですよ」
「ぷはは、しかしノバルティス冒険者学校だろう? 女冒険者たちはセシル派じゃないのか? そんな事してたらセシルには採用されないぞ」
「それは、なんか、女冒険者だけでカーストみたいなのがあるみたいで、そのカースト上位の人だけという空気があるとかなんとか、ルアが少しだけ話してくれて」
「女って凄いよね、本当に」
「本来ならその上位に位置するルアがセシルに興味がないって言っていたから余計にこじれていたみたいですよ」
「本当に凄いよね、なるほどなぁ、そういえばルアもあんまり語りがらなかったからなぁ」
「まあ、人間関係って意味じゃ、俺も例外じゃないですけど」
そう、ルアが結成したクランに誘われて、副リーダーだった奴に追い出されて、結局ルアも追い出されて、クランが崩壊した。
だから人間関係で疲弊してソロを選ぶ冒険者も割と多い。
「でもさっき言ったとおり授業内容はレベルが高く勉強になりました。間違いなく入学した時より、冒険者としてレベルアップしたと断言できます」
「そっか、なら通った甲斐もあったってものだな」
「ギリアンさんは、クランは組まないんですか?」
「……まあな、ソロの気楽さがいいのさ、まあ臨時クランなら何度かあるけど」
「へぇー、その話聞かせくてください」
と言いながら時間は過ぎていく。
ギリアンさんは話好きで色々と話してくれたんだけど。
何となく肝心かなめな事ははぐらかされたような気もする。
まあ、ギリアンさんも色々とあるんだろうな。
●
契約してからは、家事と冒険が俺の日課となった。
割に合わない公共クエストは数をこなす、だからギリアンさんと一緒に都市役所に行き、公共クエストをひたすら受注し日々を過ごしている。
徐々に経験値を積んでいくうちに。
「ふむ、この近郊のゴブリン退治は1人でやってみ」
時々ギリアンさんの指示のもとソロでクエストもこなしたりしている。
クラスFライセンスは、同行者が必要なのだが、本当はいけないんだけどこういう融通は実は通している、もちろん都市役所には秘密だけど。
報酬は全部1人占めしていいとのことだから、必死で頑張ってなんとか金を稼ぐ。
その傍ら銀行に口座を作り、保険と年金に入り、奨学金を返す金をプールしている。
それにしても公共クエストしかやらない冒険者は底辺冒険者なんて言われているけど、討伐だったり採取だったり、色々とジャンルがあり経験になっている。
んで数多くこなすうえで都市役所の人とも顔馴染になってきて、こっそりと公共クエストの中で割がいいクエストを教えてくれたりしてくれた。
なるほど、建前を崩せない融通は利かないけど小回りが利くってこういうことか。
それにしてもゼカナ都市って住んでみると確かに便利だ、交通網も発達しているし、食べ物もおいしい、遊びに行くにも馬車もたくさん出てて便利だ。
そんな日々が続いたある日のことだった。
――「さて、今日は我がギルドにとって生命線を担う大切なお客様がいらっしゃる、万が一の粗相も許されぬ、心してお出迎えするように」
というから誰なのかと思ったが……。
「いやはや、3人のお子様を生み育て、家を切り盛り、私なんぞ足元にも及びませんな(もみ手)」
「家賃」
「お疲れでしょう、肩をお揉みいたします(もみもみ)」
「家賃」
「大分こってますね、それはそうでしょうなぁ、この肩が重責を担っているのですか、想像もできませんよ~(もみもみ)」
「家賃」
と壮年の女性にひたすらゴマをすりまくるギリアンさん。
ああ、この人が大家さんなのか。
大家さんはギリアンさんをジト目で見ながら話しかける。
「アンタ、ルアちゃんがいた時は滞納しなかったのに、ああいうしっかりした子がいた方がいいんだよ」
「へっへっへ、返す言葉もございません(ヘコヘコ)」
「というかさ、ちょっと話ズレるんだけど、そのルアちゃんって彼氏いるの?」
「え? そんな話は聞かないですけど、テックは何か知ってる?」
「え!? 正直クランから追い出された以降は、ほとんど話す機会も無くて。えーっと、俺が知る限りでは、優秀で男勝りだから敬遠されていたような、だから彼氏とかは聞いたことが無いですけど、でも本人に確認にとってないからなんとも……」
「はっ、出来る女は嫌だってか。うーんってことは今はいない可能性が高いのか。あれだけ度胸があってしっかりしているから息子の嫁に欲しいんだけど、うーん、息子はモテないんだよねぇ」
とブツブツ言っている、しかしここで生活して思ったんだけど、商店街で買い物に行ってギリアンさんに世話になっているというと割とこんなことを聞かれたりすることも多い、ルア人気あるよなぁ。
えっと、それは、ともかくとして、、、。
「あの、大家さん」
と今度は俺が大家さんに話しかける。
「ん? どうしたんだい?」
「少し話は戻るんですけど、家賃の徴収にいらしたんですか?」
「ああ、そうだけど」
「今月分は、ちゃんと取ってありますよ」
「「え!?」」←ギリアン、大家さん
と俺はタンスからプールしておいた家賃を取り出して大家さんに差し出す。
「ギリアンさんに指導して貰う時に公共クエスト受注していたんですが、その時に別個で貯めておきました、どうぞ」
「「…………」」
2人して唖然とした様子で俺が置いた家賃を眺めている。
「ギ、ギリアンさん、アンタ」
「す、すみません(ノД`)シクシク」
「まったく……」
とここで言葉を切って、神妙な面持ちで黙る大家さん。
「あの、どうしました? 別にこれは事務所のお金として貯めたもので、俺個人の金じゃないですけど」
「いや、そうじゃないんだ……あのさ、ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだけど」
との大家さんの言葉に。
「ほほう! 何かあるのですね! もちろんでございます! 前にも言ったとおり相談は無料! 大家さんの為ならドラゴンだって討伐しますよ!!」
とすかさずゴマスリモードになるギリアンさんなのであった。




