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第96話:凡才冒険者の日常・前篇


――都市役所



「はい、そんな訳で、いずれは君も、この年金と健康保険に入ってもらうからね、身分の保証とは福利厚生、これが冒険者として2番目に大切な事なのだ!」


「は、はい」


「てなわけで、課長さんこんにちは」


「これはこれはギリアンさん、いつもありがとうございますって、こちらの方は?」


「この度、我がギルドに入った新しい冒険者です」


「ほほう、この頃繁盛していますな」


「いやいや、全然ですよ、という訳で」


「はい、えっと無茶な公共クエストは今のところありません、後はこちらですね」


 と冊子を広げてくれた。


 俺はギリアンさんと一緒に公共クエストが記された冊子を読んでいるが。


(報酬安いなぁ、割に合わないクエストしかない)


 と思う。


 冒険者学校では公共クエストの事も教わるけど、国家事業としての内容としか教わらないし、そもそも食っていけないクエストの代名詞と言われている。


 だけど……。


「嫌になったかい?」


 と何かを察したギリアンさんは聞いてきたけど。


「割に合わないとは思いますけど、こう、やっと始まるのかなって感じです」


「ぷはは、ルアも同じことを言っていたなぁ。てなわけで、まずは基本中の基本の近郊のゴブリン退治からだね。それでは問題です、実際に公共クエストは割に合わないですが、ならどうしますか?」


「数をたくさんこなす」


「グッド! ちなみにこれは君の育成も兼ねているから、ゴブリン退治はやってもらうよ~」





 近郊のゴブリン退治、数は20体、入門クエストが10体だから、クラスFの日当報酬だ。


 ゴブリンとは何度も戦ったから要領を得ている。こいつらは単純攻撃一つだけ、ただ群れを作る習性があるから、不用意に襲わない事だ。


 俺は近接戦闘しかできないから。


――「間違っても一気呵成で攻撃をしかけないこと、ゴブリンと言えど油断すると大けがをするし、近接戦闘職での怪我はクランへの負担が大きい」


 そんな事をルアが言っていた。


 だから、少しづつ削る、雑魚だと侮らないように少しづつ、時間がかかってもいいから。


「はあ、はあ、はあ、ふぅ」


 と20体を無事討伐した後、汗を拭う。


「……その狩り方、教官に教わったの?」


「い、いえ、なんかルアの言葉を思い出して」


「だと思った、ほほう、実戦でもちゃんと剣術が使えるか、トライアウトでも見たが剣士の腕は基本はちゃんと押さえているね!」


「え? トライアウト?」


「って、君の資料に書いてあった(汗)」


「え? そうでしたっけ?」


「ま、まあ、細かいことは置いておくとして! まあこんな感じでゴブリンは数が多い害獣なんだけど、皮肉なことに俺達みたいな冒険者にとっては大事な飯のタネなんだよね~」


 とそんな話をしながら支給された魔石を使ってゴブリンを燃やしてコアを回収する。


「やっぱり冒険者学校だとそこら辺はちゃんと教わるんだね」


「はい、討伐クエストの基本中の基本だからだと」



――ギルド・ジョーギリアン



「はい、これが今回の報酬ね、報酬自体は低いけど、ゴブリンとはいえコア20体を換金すれば小遣い程度にはなる。大事に使いな」


「…………」


 じっと机に置かれた報酬を見る。


 そっか、これで冒険者としてのスタートを切ったってことで、これが冒険で稼いだ初めての金になるのか。


「嬉しい?」


「はい、やっとって感じで」


「うんうん、初クエストは印象に残っているものさ」


「はい、ギリアンさんもそうなんですか?」


「まあな、俺はクラスCの魔物……げふげふ、俺もゴブリンだったなぁ」


「…………」


 目の前にある冒険で稼いだ金、嬉しいけど……。


「どうしたの?」


「……実は冒険者学校に通うにあたり奨学金を借りていて」


「そうか、返さないといけないのか、奨学金は何処から借りたんだ?」


「ノバルティス財団から、一応無利子で」


「ふむ、あそこなら信用おけるか、しかも無利子か、優秀だね。返済方法は?」


「定期定額返済です、繰り上げ返済ありですね」


「ふーむ、返済をしつつ冒険者として食べるか……一応聞いておくけど実家はあてにならないの?」


「……その、余り頼りたくないです」


「そうか、となるとひたすら働くしかない」


「働く……」


「言っただろ? 公共クエストも数をこなせばちゃんと返済をしつつ食べていけるぐらいのものになる。それに何といっても真面目にやっていれば、都市役所の信用が得られるのが非常に大きいのだ」


「あ、確か、対応してくれた人って、それなりの立場の人でしたよね?」


「うむ、役職的には都市役所のナンバー3なのだぜ。役所は建前も崩せないし融通も利かないが小回りを利かせてくれるのだ! それだけじゃない、公共クエストの経験を重ねていけばライセンスランクも上がるし信頼も得られる、ギルド・ドードとかギルド・ハダでもクエスト受注ができるようになるぞ!」


「え? いいんですか? 他のギルドでクエスト受けても」


「もちろんだとも! さっきも言ったけど、俺だと稼げるクエストは斡旋できないからね、でもその際は、契約内容関係なく現所属のギルドに報告義務があるから、それはお願いね~」


「…………」


 やっぱり変わった人だけど面倒見が良くて優しい人なんだな。


「って、そういえば、ここを拠点とするのなら住むところはどうするの?」


「あ……」


 そうだ、考えていなかった、着の身着のままでここに来たんだった。


「うーん、お金もないし宿代も惜しいので、そこら辺の公園で寝袋でも使って」


「それじゃあ疲れが取れない、ならウチに住む?」


「え!? それは流石に」


「もちろんずっとじゃない、君の生活の目途が立つまでだよ。それと同時並行でウチに契約している冒険者の中に不動産屋さんがいるから、声をかけて安い部屋を探してあげるよ」


「あ、ありがとうございます、えっと、ここの家賃はいくら払えば?」


「家賃は要らない、借金を返すのに専念しな。その代わり、掃除とかはやってもらうよ、後は何か家事出来る?」


「一通りできますよ」


「マジか! 料理とかも!?」


「はい、冒険者学校で習ったので」


「はー、なんでもするなぁ、よっしゃ! ならば早速今から商店街に行くぞ~」


「あ、その前にちょっと待ってください、そのごみ箱に捨ててあるやつ」


 と言ってゴミ箱を漁ると。


「やっぱり、ギリアンさん駄目ですよ、チラシってクーポン券も一緒になったりしますから、ふむふむ、今日は肉が安い日か、あ! 見てくださいギリアンさん!」


「な、なんでしょう?」


「今日は4割引きのタイムセールですよ! 1人1パック限定! さあ行きましょう!」


「え? あ、はい、しっかりしているね、えっと、今日は君の初給料祝い兼歓迎会をやるぞ! 俺が出そうぞ!」


「ありがとうございます! それなら尚更無駄遣いをしないようにしないとですね!」


「う、うん、お気遣いどうも、こう、ノバルティス冒険者学校ってのはしっかりしている人が多いのかね」


 と、2人と一緒に商店街に向かった。



――ゼカナ商店街



 ゼカナ商会が取り仕切るゼカナ商店街。


 ゼカナ都市で一番栄えていている表通りを拠点としている経済中心地。


 表通りに店を構えることは商人ではステータスとなっているそうで、ここの商会長さん達が結成したクランが所属しているのだそう。


「凄い事じゃないですか、そんな有力者の人達ならギルド・ハダとかじゃないんですか」


「あそこは「良く言えば向上心が高い冒険者」が行くところだ、テドンさん達は「道楽とビジネスの両立」を目指しているから根本が違う」


「ああ……」


 確かに、あそこの雰囲気は……。


「その様子だと顔は出したみたいだな、あそこはピグと神輿として担ぎギルドがタッグを組んで利益を上げているタイプだ。ギルドも本当に色々なカラーがあって皆工夫して運用しているよ」


「…………」


「自分に合う合わないは大事だ、俺もピグからスカウトされたが、断ったからな」


「ええ! クラスCからの誘いをですか!」


「ああ、理由は多分お前と一緒だよ」


「…………」


 本当に色々なスタンスがあるんだな。それにしてもクラスCからスカウトって、腕が立つって本当なんだ。


 そんな俺とギリアンさんは表通りの肉屋でクーポンを使って無事購入、歩きながら景色を眺めているけど。


 表通りは栄えているけど首都ほどゴチャゴチャしていなくて、すっきりした感じ、そうか、ここがゼカナ都市だなんだ。


「故郷に似ているなぁ」


 と帰り道に思わずそんな言葉が出た。


「実家には帰っていないのか?」


「……冒険者学校に通ってからは一度も」


「そっか、ま、気が向いたら手紙ぐらいは書いてやんな」


 とギリアンさんは深くは聞かないでくれる。


「…………」




 実家か……。





 そんなこんなで、ギルドに戻り、帰宅後パパッと料理を振舞ったのだが。


「すげーー!! なにこれ美味いんだけど!! 肉焼いただけなのに美味いんだけど!! 俺とは全然違うんですけど!!」


 とギリアンさんは夢中でかき込んでいる。


「肉の焼き方ひとつで味ってガラッと変わってきますよ」


「そうなん!! そうだっけ!! そうなんだ!! 凄いや!!」


 食事をしながら普段の食生活について聞いてみると、どうやらギリアンさんは「異世界ベルムス巻」なるものしか作れないらしい。


 掃除も苦手らしく翌日チェックすると、応接スペースだけでかろうじて見れる程度で、後は酷かったので全部やって、結局一日かかった。


 本当に男一匹やもめの生活なんだなと思ったけど。



(でもこういう生活もあるんだよなぁ)



 何よりギリアンさんは幸せそうにしている。



 その幸せな感じが、こう、言葉に表せないけど、付き物が落ちたように見えるのは、どうしてだろう。



 そんな事を考えたのであった。



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