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第95話:凡才冒険者の就職活動・後篇


――ゼカナ都市



「ゼカナ都市か、初めて来た」


 集合馬車乗り場で降りた俺は、隣接の観光案内所で冊子を見ている。


 ゼカナ都市。


 ルザアット公国の地方都市の一つ、規模としては中の下ぐらい。


 特段、観光名所らしい観光名所は無いっぽい、あるのは歴史ある教会とか遺跡とか、名物は芋だそうだ、甘くておいしいらしい。


 俺は職員のおばちゃんに話しかける。


「ここはどんな都市なんですか?」


「そうですね~、観光にいらしたんでしたら正直言えば特に見どころという見どころは無いのかもしれないですけど、でもそこがいいんです! 一通り何でも揃っていて、首都への便もいいですし、住みやすい都市ランキングでも上位に入っているんですよ! 皆さんに自信をもって移住を勧められます!」


「へぇ~、有名人とかいるんですか?」


「首都で活躍する芸能人が何人かいますけど、有名という意味ではクォイラ子爵令嬢ですね。知ってますか? クラスS冒険者、カグツチ・ミナト率いるアマテラスのメンバー」


「……まあ、知ってます、俺も一応冒険者なので」


「あらあらそうだったんですか! ならそちらの方がお客さんにと価値があるかもですね! 彼女は貴族居住区じゃなくてゼカナ都市を拠点にしているんですけど、割と市井に顔を出したり、地元の有力者を招いて社交をしたり、馴染みある方なんですよ」


 とここで職員さんはニマニマ笑う。


「実はですね、物凄い美人さんなんですよ~、同じ女の私でも見とれるぐらい。それでそのカグツチ・ミナトの愛人なんて噂もあって~、全く男の人って本当にしょうがないですよね!」


「あはは、それで、あの、ギルドってあります?」


「ありますよ、二つありますね、まずゼカナ都市で一番勢力があるのが……」



――ギルド・ハダ。



 ゼカナ都市の地元VIP御用達のギルド、都市有力者の繋がりが強く、公国VIPが来る時は護衛の依頼が来たりするそうで、同都市の上位の冒険者はほぼここに所属している。


(ゼカナ都市トップ冒険者がクラスCピグ、その彼が率いるクラン名ネンゼが拠点としているギルドか)


 どんなギルドでどんなクランなんだろう。


 まあ、クランには採用されなくても、まずはアピール頑張るぞと思いながらギルドの扉を開けた時だった。



「お前とお前はクビだ」



 とギルドの待合室の一番最奥にいる男が、2人の男を立たせて解雇通告をしていた。


「まず戦闘職だから負傷するのはしょうがない。だがその後クランに対してなんのフォローも出来ないのは論外、結果回復魔法使いに負担をかけるだけの事態となった。この件については前々から指摘しても改善もしない、以上が解雇理由だ、何か文句があるか?」


「「…………」」


 言葉を返さないが屈辱に震える2人。


「文句があるのなら裁定所に訴えろ」


「「ぐっ!!」」


 と、2人は歯ぎしりをしながら振り返り、俺とすれ違う形でギルドを出ていった。


(うわぁ……)


 聞かなくても分かる、このクビを宣告した冒険者がピグなんだろうな。


 そして分かった、ここのギルドは、ピグとギルドマスターがタッグを組んで実績を上げているタイプのギルドなのか。


 クラスC、壁を超えし者。


 地方都市なら顔役、先ほどのヒュレンの女性戦闘職のとおり上位クランの側近クラス、だから凄腕の冒険者であることには間違いなさそう。


 うーん、上昇志向が強そうだけど、その分足の引っ張り合いもしそうな感じも。


「兄さん、どうした? ここのギルドに何か用か?」


 とギルドマスターっぽい人から話しかけられるが。


「いえ、なんでもないです」


 ああ、俺には合わないんだなって思った。



――ギルド・ドード



 ゼカナ都市の二つ目のギルド・ドード。


「最高位がクラスDの地元密着型のギルドか~」


 有力者御用達がハダなら、庶民御用達がドード。


 地元密着に力を入れており、そこで繋がりを得ているそうだ。


 ギルドに入った先に広がっていたのは、何人かの冒険者たちが待合室で談笑したりしていている和やかな雰囲気だった。


 凄いなと思ったのは、憩いの場として提供しているのか、ちょっとした軽食も出すそうだ、ただ酒は場が荒れるから絶対に出さないそう。


 所属している冒険者の数はギルド・ハダより沢山いて、アットホームな雰囲気で、それも売りにしているらしい。


(ここ、なんかいいかも)


 と思ってギルド嬢に冒険者になりたいという旨を告げると、ギルドマスターの面接に通された。


 ギルドマスター・ドード。


 元クラスC冒険者。


 ゼカナ都市生まれゼカナ都市育ちの生粋の地元の人で、元ゼカナ都市トップ冒険者のだった人、今はゼカナ商会の一員でもあるそうだ。


 冒険者を引退してギルドを立ち上げて見事に軌道に乗せているそうで、人望もあり経営者としてもヤリ手らしく、ハダとはライバルでありながら友好関係を維持し、協力関係にあるそうだ。


 雰囲気は自分好みだったけど……。


「うーーん、剣士か」


 やはり色よい返事は得られない。


「……やっぱり駄目ですか」


「やっぱりってのは、断られるのは初めてじゃないのか?」


「……正直、色々なところで断られてて」


「断られる理由について納得はしているのか?」


「はい、そこは、自分でもわかっています」


「なら何故剣士に拘る? 散々言われていると思うが冒険者ってのは色々な形があるし、自分に合う形を探すのも大事だぞ」


「それは、その……」


 口ごもる俺に頭をかくドード。


「まあ、どうしても剣士でやりたいのなら、王道で行くしかない。


「王道、ですか」


 ここでドードが言う王道とはコネも何もない状態で冒険者が身を立てる手段を指す。


 まずギルドと契約し、公共クエストをこなし、クエスト活動記録を積み上げて、信用と信頼を積み上げる。


 その過程で自分のスタンスを見つけて、公共クエストだけではなくギルドが斡旋するクエストをこなしたり、臨時クランのメンバーに参加して道を広げるもの。


 だがそれは。


 結局、冒険者学校なんて意味が無かったことになる。


「…………」


「ノバルティス冒険者学校のやり方は俺も知っている、だから怒らないで欲しいんだが、兄さんの場合、どうしても「箸にも棒にも」という印象を与えてしまうんだよ」


「…………」


「その上で近接戦闘職でやりたいってのなら、今言った道しかない。だがそれも難しい、何故なら一見さんの兄さんの面倒を見てくれるクラスDの冒険者がいないからだ」


「っ」


 そう、そうなのだ、だから諦めきれない冒険者志望を「カモ」にするロクデナシがいるのだ。


「…………なら、やっぱり」


「と、まだ結論を出すには早い」


「え?」



「一つ紹介したいギルドがある」





「な、なんだここ」


 ここはゼカナ都市の裏通りの倉庫街、俺は一つの倉庫の前に立っていた。


「地図じゃ間違いなくここなんだけど……」


 何度見ても住所はここで間違いない。


 目の前にあるのは、何回見てもただの倉庫にしか見えない……まさか一杯食わされたかなぁと不安になったが。


「あ、看板出てる「ギルド:ジョー・ギリアン」間違いないみたい、ってよく見ないと分からない看板って……」


 しかし人通りも倉庫を利用する人以外無い、それに少し物騒な感じもするけど。


「正直、商売する気あるのかな」


 観光案内所ではギルドは二つしかないと言われたのだが、実は三つ目があるそうだ。


 そもそも冒険者ギルドは立ち上げること自体は凄く簡単なため、引退した冒険者が立ち上げることが多い。だが大体が有益なクエストを斡旋できず公共クエストのみで、となると契約しようとする冒険者も現れない為、すぐに潰れてしまう。


 まあ口が悪い人は底辺ギルドって呼んだりもする。


 んで、ここはまだ立ち上げてそこまで時間が経っていないので知られていないらしいがまさに、そんな感じのギルドだそうで、どんなギルドマスターか聞いたんだけど。



――「現役のクラスDのソロ冒険者で、ギルドマスターを兼業していてな。伊達や酔狂で冒険者やってる奴で、大家の厚意が無ければ家から追い出される変人ルンペン冒険者だよ」



「凄い、悪口にしか聞こえないけど」



――「だが腕は立つ、人柄も優しく面倒見がいいぞ」



とも言っていた。


 それにしても、流れ流れてここについたって感じだなぁ。


 でもここならひょっとしてと思って、扉に近づいた時だった。


「うわっ! ぺっぺ!!」


 バタンと突然扉が開くとずぶ濡れの男が勢いよく扉から出てきて、それに続いてもう1人男が出てきた。


「だからうるさいってんだよ!! それはマルチってんだよ!! 何回目だよ!!」


「だからマルチじゃありません!! クリアビジネスというんです!! 本当にものを知らないですね!! これは公国に認められた正当なものでルザアット大学の!!」


「だから国に認められたなんてのは典型的な詐欺の文言なんだよ!! これも何回目だよ!!」


「さ、詐欺って! いいですか! これはですね!! 冒険者社会でも有名なんですよ!!」


「聞いたこともねーよ!!」



「クラスSカグツチ・ミナトが推薦して話題になったことも知らないんですか!!」



「んなもん推薦してねーーよボケ!! それ信じてるってことはお前も騙されてんだバカ!! もう一回水かけるぞ!!」


「こ、こっちは善意で教えてやってんのに!!!」


 と走って逃げて行った。


「ったく!! 本当にロクな奴が……」


 と俺と目が合った。


「びくっ」


「……兄さん、どうしたの? 道にでも迷ったの? 表通りは向こうだよ」


「い、いえ、ちがくて、あ、あの冒険者になりたくて、ここがギルドだって聞いて」


「そんなこと言って、今度は訳の分からん香水かなんか売りつけるつもりだろ? この前に来た奴は冒険者に興味があるふりをした宗教勧誘だったからな」


「ち、違いますよ! えっと、これ、冒険者ライセンス!」


 と自分のライセンスを見せて手に取った瞬間だった。


「これこれは失礼! ようこそ! 私はここのギルドマスター、ジョー・ギリアンと申します! クエストサポートも万全! 今なら洗剤をお付けしますよ!!」


「何故、洗剤……」





「どうぞ、粗茶ですが」


 と待合スペース……待合スペース? に通されてお茶を出された。


 お茶を出したギリアンさんは持参した資料を読んでいる。


 その間、お茶を飲みながら周りを見てみるけど。


(す、すごいところだなぁ)


 広さは倉庫といっても、そこまで広く感じない。半分ぐらいが中2階スペースで、そこが居住スペースになっていて住居も兼ねているのか。


 それにしても凄い生活感、ここがギルドだと主張しているのが、待合スペースに申し訳程度に置いてある冒険者新聞と近づかないと分からない看板ぐらいなのがまた。


 正直ここ、冒険者ギルドと紹介されていなければ何している所なのかさっぱりわからない、だから変な人が来るんじゃ。


「? どうしたの?」


「い、いえ、な、なんか秘密基地っぽいなぁ、なんて」


「ほほう! その浪漫が分かるのかね! ここには無一文で偶然潜り込んだんだけどね、妙なロマンを感じる倉庫だなと思ったさ、大家さんの亡くなった親父さんの物で、まさに秘密基地として使っていたそうだぞ!」


(無一文で偶然潜り込んだって、秘密基地って)


 やっぱり変わった人なんだな。


 と思っているとギリアンさんが資料を読み終えて聞いてくる。


「ふむふむ、剣士の近接戦闘職か、他は何ができるの?」


「その、剣にこだわりがあって、正直それしか」


「ほうほう、ライセンスランクはクラスFか、ライセンスは何処で?」


「ノバルティス冒険者学校で、つい先日卒業したばかりです」


「ノバルティス冒険者学校! しかも先日卒業って、ルアの事は知ったりするの?」


「知ってるも何も、入学当初一時期だけクランを組んでいました」


「へー! これは縁がありますなぁ!」


(縁?)


「やっぱりルアは凄かったの?」


「あ、はい、戦闘職としてはもちろん、冒険者IQというか、凄く高くて」


「まあアイツは才能あるし、クラン組んでいたってことは友達だったんだね」


「いえ、そんな、ルアは、高嶺の花ですよ。でも不思議なんですよね、出来る女で男勝りってことで意外と敬遠されていました」


「ふーん(・∀・)ニヤニヤ」


「な、なんですか」


「いやぁ、なんでも~、高嶺の花か~、いいねぇ~」


「べべ、別にいいじゃないですか! さっき言ったとおり一時期だけですし、あっという間に特別枠に入ったから、向こうは覚えていないでしょうけど」


「んで、そのクランはどうしたんだ?」


「能力不足ってことで追い出されました」


「……え?」


「あ、違います! ルアじゃなくて、当時の副リーダーだった奴にです! そいつは能力を鼻にかけた嫌な奴でした、ルアはむしろ俺のことを買ってくれていました」


「ほほう、んでその嫌な奴はどうなったの?」


「さあ、結局そいつルアも追い出したんですよ、チームの環を乱すとかで。結局その後、クラン自体も無くなりました、そいつは卒業はしたものの俺と一緒で何処も採用されなくて、半分逆ギレみたいな形で冒険者辞めたそうです」


「だろうね」


「え?」


「他人の足を引っ張る奴ってのは、その分努力を怠っているってことだからな。というか何処かで自分の能力の限界を感じているからなんだろうが」


「あの、一つ質問いいですか?」


「どうした?」


「さっき、縁がありますなぁって」


「ふむ、あんまり大きな声で言わないで欲しいんだけど、一時期ここに所属していてね」


「ええ!!」


「まあ、同期なら知ってのとおり色々あってな。一時期干されていた時にここにいたんだよ。干されたと言っても、知ってのとおりヒュレンに見事引き抜かれていったよ。今でも公共クエストをやりに来るから、会う事もあるかもね」


「そうだったんですか」


 そっか、やっぱり頑張ってたんだな。


「さて、一つ確認なんだけど」


 とギリアンはここで言葉を切って。


「剣士の戦闘職で冒険者を続けたいんだな?」


「は、はい!」


「なら公共クエストを地道に積み上げて、信頼と信用を獲得するしかない」


「…………」


「まあ冒険者学校行ってまでと思うかもしれないが、信頼と信用を獲得すれば近接戦闘職でも食っていけるようになるぞ」


 とのこと。


 えっと、今のギリアンさんの感じだと……。


「……契約してくれるんですか? 俺、クラスFで1人ではクエストがこなせないんですけど」


「契約は問題ないぞ! それにさっき言っただろクエストサポート万全だとな! 俺はクラスDだから同行できるし、君の実力も見てみたいからな!」


「公共クエストじゃ、ギルドに利益も」


「そんなことは関係なし! 我がギルドに必要なのはやる気のみ! だけど見てのとおり弱小ギルドだから、公共クエスト以外斡旋できないけど」


「あ、あ、ありがとうございます!」


「その様子だと苦労したんだね、そんじゃ契約書作ってくるから待っててね~」


 とさらさらと書いて持ってきてくれて中身を確認してみると。



・報酬は、経費を差し引いた五分とする

・契約更新は任意のプレイヤーオプションとする



「ええ!?」


「どうしたの?」


「こ、この契約内容って、むしろこっちに有利になってませんか!?」


「まあな、まあ、冒険者なんて楽しんでナンボだ、契約社会であることは賛成の立場だけど、伸び伸びとやる、それが我がギルドのモットーです」


「…………」


 やっぱり変わった人なんだなぁと思ったけど、優しい人なんだなとも思った。


 もちろんこっちに文句なんてないし、むしろありがたい、契約書にサインをする。


「さて、これで君は我がギルド所属の冒険者となった、それでは早速行こうか」


「え? 何処へ?」


と手を引かれるようにギルドを後にする。



 こうして、俺は、こんな感じで冒険者としての一歩を踏み出したのであった。




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