第94話:凡才冒険者の就職活動・中篇
―某都市・某ギルド
「……冒険者学校? なんでわざわざあんなところに?」
「それは自分を高められると思って」
「そんなところに通わなくても冒険者になれるのに、高い金出してご苦労なこったな」
と一方的に面接を打ち切られた。
こんな感じで冒険者学校に偏見を持つ人って多いんだよな。
実際の授業のレベルは高いんだけど、まあ、実際ここにいる時点で、冒険者学校から落ちこぼれって見られているんだろうけど。
(はぁ)
結局、また不採用だった。
――「実家に帰ってこい」
――「そうよ、家業を継ぎなさい」
不採用になった時、一応両親には報告して返ってきた言葉がこれ。
冒険者希望だった俺に対して「家業を継げ」なんてうるさく言われて、そんな言葉に反発して、世話になりたくないと奨学金まで借りて冒険者学校に通った。
そんな意地なのかプライドなのかよく分からないものを通した結果。
残ったのは借金だけになってしまった。
「はぁ」
ため息しか出ない、そりゃあさっきも述べたとおり色々と勉強になったから学校を通った事自体に後悔はないけど。
――「家業を継げば奨学金は払ってやる、冒険者学校の経験は役に立つだろうからな」
「…………」
そんな言葉にぐらつきそうになる自分が情けなくなるなと思った時だった。
「やあ」
と声をかけてきたのは一見して冒険者の男だった。
「ギルドマスターでのやりとりを聞いていたぜ、あのノバルティス冒険者学校卒業なんだって?」
「あ、ああ、そうだけど」
「やるじゃないか! 入るのだって難しい学校じゃないか! だったらさ、俺が入っているクランに入らないか?」
「え?」
「ここだけの話、俺の所属しているクラン長はクラスCの冒険者なんだが、新規入団者を募集していてね。有望株にはこうやって声をかけていてさ、既に何人も参加を表明していているんだが、俺は幹部でね。クラン長に口添えなら入団確実なんだよ、ノバルティス冒険者学校の近接戦闘職なら文句なしだぜ!」
「…………」
分かりやすいなぁ、と思った時だった。
「おい」
と声のしたほうを見ると別の冒険者風の男が立っていた。
「な、なんだよ」
「ギルドライセンスを見せろ、所属と名前を確認する」
「あぁ? なんでそんなこと」
「見せられないのか?」
という男の言葉に。
「ちっ!」
と舌打ちをすると、そのまま足早にその場から立ち去った。
「アイツはここら辺じゃ初心者をカモすることで有名な奴だ、危なかったな、大丈夫だったか?」
「ああ、特に何もされていないよ」
不良冒険者。
冒険者に限らずロクでもない奴というのはどの分野でも何処にでも必ずいる。
法律や規則を悪用するのは人の常だ。
例えば、さっきの話だと「口利きするから金を寄越せ」「見習いだから不利な契約を結べ」とか、クラスCの冒険者を騙るとか手法も色々ある。
だから。
「んで、アンタも仲間なんでしょ? 助けてあげて恩を売るふりして利用する、利用方法も様々だ」
「っ!!」
「茶番って馬鹿に出来ないからなぁ、本当にロクでもない話だよ」
「ちっ!! 落ちこぼれめ!!」
と捨て台詞を残して立ち去った。
「はぁ」
みじめだ。
何がみじめって、あんな奴らに騙せると思われた事がみじめだ。
●
陰鬱の気持ちでギルドを出て、街中をトボトボと歩いている時だった。
「お、おい!」
「あ、あれって」
「どうして!?」
と周りがざわめき始める、中央通りのその視線の先には注目を集める5人の集団がいて全員がその中心人物を見ている。
「やはりルーテだ! クラスA冒険者!」
クラン・ヒュレンを率いるクラスA冒険者ルーテ・カークルーソ、世界的冒険者であり公国の女性冒険者の頂点。
クラスAともなれば、自身でギルドを立ち上げてそこに所属する形で運営している。依頼も世界ギルドからの斡旋が多くなり、クラスSの補佐もする。
だが彼女は、クラスSの補佐にはつかない反主流派の筆頭だ。
このレベルともなれば、トップだけではなくて幹部達も有名だ。
例えば両脇を固める戦闘職の女性の戦闘職の2人は凄腕の鞭を使い、更にルーテの後ろを歩くのはGMを務める秘書にその補佐官2名は巨大クランの運営を担っている敏腕で有名で、この4人はルーテの腹心と言われる創設期のメンバーだ。
しかし世界的冒険者が幹部達を引き連れてこうやって路上を歩くのは珍しい、何かあったのだろうかとみんな、遠巻きに見ている。
「…………」
そんなルーテの集団だったが、歩みを止める。
その視線の先にいるのは5人の冒険者集団がいた。
その5人はニヤニヤと笑い、明らかにルーテに喧嘩を売っている。
功名心。
自分の実力を簡単に手っ取り早くアピールする事に良く使われる喧嘩を売るという行動。
喧嘩を売っても買わなければ「弱腰だ」という短絡的なアピールに使うのだろう。
聞いた話では世界的冒険者って本当に喧嘩を売られることが多いそうだ、何故かというと、世界的冒険者に対しての典型的な悪口があって。
――あいつらは冒険者じゃなくて政治家だ、貴族へのゴマスリが奴らの仕事
というもので実力を疑う者が本当に多いという事だそうだ。
ルーテは煩わしそうにため息をつくと発言する。
「一つだけ忠告しておくわ、今私達はとても機嫌が悪い。だから命の保証はしない、このまま逃げるのなら見逃してあげる」
それを逃げ口上だと受け取ったのだろう。
「俺はクラスCだ、おい、左にいるお前、お前もクラスCだったな」
どうやらターゲットを決めたようで、戦闘職の1人がルーテに話しかける。
「ルーテ様」
「自由にしなさい」
「はっ」
と一歩前に出て、それを受けて喧嘩を売った冒険者が構えたのは。
クロスボウだった。
「悪いが、一方的に攻撃させてもらうぜ」
と構えた瞬間だった。
顔面が「バチン!!」と凄まじい音を立てて弾かれて昏倒した。
「…………」
地面に昏倒した後、ピクリとも動かず、更にバチン!!バチン!!と音を立てながら跳ね上がるように踊っていて。
「やめろおおおぉぉぉ!!!」
と男が武器を取り出して庇おうとして、その男の顔面が「バチン!!」という音を立てて昏倒した。
他の3人の男達は生きているのかを疑うレベルで無惨に変形している顔面を見て何もできず立ち尽くしている。
ここに至ってやっと残りの3人は現実を見て。
「ま、まいった」
と言い終わった瞬間に鞭の餌食になった。
●
地面に横たわる5体の歪な人の形となったモノをひたすら殴打し続けて、戦闘職の1人は飽きたかのように手を止めた。
鞭をしまうとその戦闘職はルーテに声をかける。
「申し訳ありません、ルーテ様」
「いいのよ、気持ちはわかるから」
そのまま特に興味もないように歩き始めた。
「……全く気が晴れない、忌々しい」
たまたま近くを通った時、ルーテの独り言が聞こえた。
なんだろう、聞こえないふりをしたけど、忌々しいって、多分あの冒険者たちの事じゃないよな、誰に対して言っているんだろう。
視線を移すと、残された冒険者達5人達は、通報を受けた憲兵達が面倒くさそうな顔をしながら何やら手配をして回収作業をしていた、それにしても。
(凄い、周りに人だかりがいるのに、あの動く小さな的である顔面にピンポイントに打撃を与えていた、確かにあの速さと威力なら顔面ならひとたまりもないがクレバーにやってのける。まさに戦い慣れている歴戦の戦士、あれがクラスCの一流の戦闘職か)
あんな人たちとルアは、対等に渡り合おうとしているのか。
ルアはまだ最下位クランって書いてあったけど、頑張っているんだろうな。
「よし、クヨクヨはここまで! 決めた! このまま輸送馬車乗り場に行って! 一番最初に出発する輸送馬車に飛び乗ってそこの終着地点で頑張る!!」
そして俺は輸送馬車乗り場に向かって、丁度出発時刻になった馬車が1台あって、チケットを買って飛び乗った。
その馬車が向かう先は。
「ゼカナ都市か、名前ぐらいしか知らないけど、どんな場所なんだろう、良い出会いがあると良いな」
と気合を入れなおして向かうのであった。




