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凡才冒険者の就職活動・前篇


――ノバルティス冒険者学校



「以上で全ての過程は修了した。卒業おめでとう」


 というのは、教壇に立つ俺のクラスの担任教官。


 今日はノバルティス冒険者学校での最後の日、生徒達を前にして教官が続いて発言する。


「ここにいる諸君らは、残念ながらトライアウト不合格組だが、気を落とす事はない」


 トライアウト、ノバルティス冒険者学校最大の売り、世界的冒険者から直接トライアウトを受けることができる。


 そしてトライアウト合格組は、既にここにはいない。


 所属先が決まったクラン幹部達と詳細を詰めて法律家が作成した契約書にサインしており、今は見習いとして活動を開始している。


 結局トライアウトで採用されたのは卒業生の中で1割、これでも多い方だったみたいで、少ない年は4人とかという年もあったそうだ。


 更に教官は続ける。


「もう噂等で知っていると思うが、この冒険者学校での君たちの冒険者としての資料は、開示要請があった他のクランに開示している。そして既にいくつものクランから獲得調査が入っている。今日を起点として7日以内に採用意向のあるクランから我が校を介して連絡がいく、そこで大成した卒業生も多いぞ」


「それでも採用が無い場合はフリーエージェントとなるが、ノバルティス冒険者学校で学んだことは、そのまま即戦力の冒険者となるし、それでバリバリ活躍している先輩たちも多い、頑張って成功してくれ、それと……」



「トライアウトの件で冒険者新聞の奴らが色々と嗅ぎまわるかもしれないが、それには一切答えないように」



 という言葉で解散となった。


「…………」


 俺は教官の言葉をぼんやりと聞いていた。


 トライアウトに落ちても獲得調査とか色々言っていたけど。



(多分駄目だっただろうなぁ)



 と陰鬱な気持ちが支配していた。





 ノバルティス冒険者学校。


 世界的財閥であるノバルティス財閥が運営するルザアット公国最高峰の冒険者学校。


 俺はそこの卒業生、名前はテック、専攻は戦闘職で得意武器は剣。


 公国の地方都市の出身で、これでも都市一番の剣術の腕を持っていた。


 幼い頃から戦闘職の冒険者に憧れていて、公国最高峰のノバルティス冒険者学校に合格した時は栄光の道が開けたと思った。


 卒業後は上位クランへで活躍する自分の姿を夢見たものだ。



 だけど、入学して待っていたのは過酷な現実だった。



 ルザアット公国中の優秀な冒険者候補が集まる学校のレベルは高く、特に剣士なんて近接戦闘職は需要なしの一番不利、あっという間に埋もれてしまった。


 確かに教官が言ったとおり、不合格になっても準トップ層だったり一芸に長けていれば、セシルの息がかかっていない3割のクランが「不合格待ち」していてそこからスカウトされたりする。


 けど成績が下の上で卒業した俺には無縁の話だ。



 結局何処からも声がかからなかった冒険者候補達は、自分で就職活動をするしかない。



 だから、俺らは自嘲を込めて「卒業じゃなくてクビ」って言っている。





 冒険者学校に卒業すれば成績関係なくライセンスはクラスFになる。クラスFは半人前と呼ばれるEの下で、一定のクエストをこなせば取れるレベルだが、クラスD以上の同行者が必要だ。


 先述したとおりクビになった俺が冒険者を続けるには、ギルドをまわって契約してもらうしかないが。


「あー、剣士か、悪いが間に合っているよ」


 とギルドマスターに断られた。


 こんなことを言われたのは、これで何か所目だろうか。


 だけど、はいそうですかと引き下がってばかりもいられない。


「あ、あの、いいですか?」


「ん? なんだい?」


「俺、こう見えても剣士としての実力には自信があって、それは見てもらえれば」


「あーー、そうじゃないんだよ、兄さんの腕を疑っているんじゃない、ノバルティス冒険者学校に入学してちゃんと卒業しているってのことはそれなりだってことは分かってるんだよ」


 と腕を組んで考えるギルドマスター。


「ただ悪く思わないでくれ、剣士なんて近接戦闘職は、冒険者としては捨て駒にしかならないんだよ」


「…………」


 創作物語では剣士ではカッコよく優秀な戦闘職として描かれる。


 だが実際は剣士はリスクしかない、当たり前ではあるが人や魔物は反撃するからだ。


 反撃を食らい負傷すればただの足手まとい、捨て駒にしかならないとはそういう意味だ。


 もちろんそんなことは分かっている……いや実は俺自身経験したことだ。


 冒険者学校時代にクランを組んで冒険に出かけて魔物の戦ったが、クラスEの魔物と戦い負傷して戦力にならず。


 その反省を活かして次の冒険では駆け引きを用いて戦ったが疲労が蓄積し、ずっと回復魔法使いに世話になりっぱなしだった。


 じゃあ別の道をと考えるも自分の気持ちの踏ん切りがつかず、俺は卒業するまで剣に拘り続けて、結局冒険者の剣士としても中途半端のまま卒業してしまったのだ。


 俺の想いを察したかのようにギルドマスターは続ける。


「剣以外に出来ることはあるか? 戦闘職でも例えば弓だったら何処でも需要があるぞ。魔法使いなら初級でも引っ張りだこだ、特に生活魔法使い何て垂涎の的だぞ」


「……それが、特に」


「なら体力に自信があるのなら荷物持ち(ポーター)ってのもある、特にダンジョン攻略じゃ必須の職業だ、更にタンクって役割もあるぞ」


「……剣にこだわりがあって」


「だったら、冒険者学校だったらクランを組んでいたんだろう? 個人で駄目ならクランでアピールするのも大事だぜ」


「…………」


 冒険者はクランを組むことが推奨される、だから俺も卒業まで組んでいたクランがあるんだけど。



――「実家の農家を継ぐよ」

――「別のところに就職する、やりたいことが出来たんだ」

――「ある意味、踏ん切りが付いたよ」



 といって、全員が冒険者以外に活路を見出した。


 もちろん、別分野で活躍して成功する人も多いから正しい判断なんだけど。


 無言の俺にギルドマスターは渋い顔をする。


「……なら、やっぱりうちじゃあ駄目だよ、なあ兄さん、こだわりがあるのは分かるが、柔軟性も必要だぜ」


 と言われて終わった。


(はぁ)


 断られる事に慣れることはない、その度に必要とされてていない現実を突きつけられる。


 俺は、途方に暮れて待合室に腰を下ろしてふと視線をやった先。


「!」


 来客用に用意してある冒険者新聞の見出しに見知った名前を見つけたので急いで取って読んでみる。



――ルア・リーム! クラスA冒険者ルーテが率いるヒュレンの傘下クランに採用決定!!



「……やっぱり凄いなぁ」


 ルア・リームは俺の同期だ。


 彼女は入学は一般枠、つまり俺と同じ枠で入学してクラスも一緒、更に同じ戦闘職という事もあって割と話す仲だった、そして複数いれば有利になるという理由で彼女がリーダーとなって立ち上げたクランに誘われて一時期組んでいた。


 あの時は剣の腕に自信があったし、戦闘職として身を立てられると思ったが、ルアと組んだ時に自分が井の中の蛙であることを思い知らされた。


 近接戦闘職としても飛び抜けていたのはもちろんだが彼女の場合は「冒険者IQ」が凄い、戦術戦略も凄いし、全部が飛び抜けていた、ああ、才能ってあるんだなって思ったっけ。


 そんな俺は能力不足という理由でルアのクランから追放されてしまった。


 あ、誤解しないで、俺を追い出したのは副リーダーの奴で最初から功名心高くて嫌な奴だった。


 ルアはむしろ俺を買ってくれて最後まで反対していた、だけど俺がいたたまれなくなって自分から辞めると言って出て行ったんだ。


 でも結局あのクランは今度はルアに皆が付いていけなくなって、あの副リーダーが今度はルアを追い出して、んでクラン自体が瓦解したんだ。


 だけどそんなの関係なしにルアは教官から能力を認められて、すぐに特別枠に選抜されて、そこでもレベルが違い過ぎて浮いていたって話だ。


 出来る女って感じだったのか男からは敬遠されていて、そもそもセシルにもあまり興味がないってことで、女からも嫌われていたらしい。


 一時期とはいえ、一緒に組んでいた身としては、可愛いし気配り上手で能力も高いのにもったいないなと思っていた。



 そして衝撃的だったトライアウトでのカグツチへの採用希望宣言。



 目標としている冒険者がいるなんて話はしたけど、それがカグツチであることと、よりにもよってトライアウトでそれをやるとは思わなかった。


 それと同時にやっとわかった。


 カグツチは公式の場に姿を見せない、唯一見せるのがあのトライアウトなのは有名だったが、その為に入ったのかと。


 そういえばトライアウト前に遠目で見たが、普段の快活な恰好ではなく、お嬢様っぽいというか、大人締めのワンピースとか露出が少ないのを着ていたから不思議に思ってはいた。


 ノバルティス財閥系列でのあの出来事は、同期の間では騒然となり、冒険者学校の教官方は大慌てて対応にあたっていた。


 でもあれだけ飛び抜けているのならばひょっとしてと思ったけど流石にアマテラスには不採用になったという話だ。


 そしてセシルの不興を買って干されたなんて噂で聞いたけど、この記事によれは不採用にしたアマテラスの1人、クォイラ嬢がルーテと交渉して採用に至ったという話だ。


 クォイラ・アルスフェルド、アマテラスの参謀で超一流の生活魔法使い、冒険者ライセンスこそクラスBだが、世界的冒険者として扱われるのが嫌で実力的にはクラスAで上位に入ると言われている冒険者。


 つまり、アマテラスが動いたという事だ、ただの新人冒険者1人の為に、不採用でも才能は見込まれていたんだ。


「…………」


 いや、比べてもしょうがない、俺みたいな凡才冒険者は、色々なギルドを転々とするしかないのだ。




あけましておめでとうございます。


今後もギャグやったりシリアスやったり、パロディではしゃいだり、メタネタをマイペースに投稿してカグツチ達は冒険を楽しんでいく予定です。

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