第78話:ルザアット公国で冒険者で生きるって事はね……
麗らかな日々。
ここはギルド、ジョー・ギリアン。
「いいですかギルドマスターさん! 私は国を愛してる! なのに国力増強の名のもとに移民を受け入れるとですね! その移民たち全員レイプするんですよ!」
「…………」
ゴシゴシ←ぶっかけた水で床を掃除している。
だからさ、なんでさ、ここでやるんだよ、頼むから時と場所を場合を選んでくれよ、こういう奴ってさ、正しいこと言っているようで、とどのつまり自己承認欲求満たす事しか考えていないからなぁ。
え? あ、はい、あの後、クォイラ達に燃えるゴミの日で出される直前に復活しました、チートを持っていなかったら危なかったです、んでその後、更に一発芸と称して体を雑巾みたいに絞られて何とか許してもらった、あいつら凄い楽しそうに笑っていた。
「ふう、どっこらせっと」
そして今、トライアウトの「協力謝礼費」として十分な報酬を貰い、大家さんに家賃も全部納めて、生活費も潤った。
はあ、こののんびりとした時間よ、贅沢なものだ、俺は冒険者新聞を広げる。
――憧れるのを辞めましょう、もう一度この全てを見る
ぐっ! まだやってんのか!
「あのー」
――この言葉の真意とは? 一つ一つを徹底分析!
真意も分析もクソもねーよ! パクリだよパクリ!!
「あのーー」
――ルアは憧れを辞めたのか? 彼女の動向を追う!!
結局、1人で頑張るとか言ってたな、大丈夫かな。
――現在はいくつかの都市で動向が確認され
「もしもーし!!」
「ギャアア! びっくりした! また来たんかい! あのね、おたくね、別に主義思想は」
と見上げた先。
ルアが立っていた。
「ええええ!! なんで!?」
●
「どうぞ、粗茶ですが」
と応接スペースに座らせてお茶を差し出す。
「ギルドマスターさんも、私のことを知っているんですね」
「ぎょ! ええーっと、あ! ほれこれ!」
冒険者新聞を差し出す。
「ほれほれ、このあの、一面に! いやぁ有名人が来たからボクびっくりしちゃった!」
「あー、凄いですよね、冒険者新聞の威力って」
「…………」
「…………」
とお互いに見つめ合う、、、、。
「って、そもそも、何の用なの?」
と自分で言って、理由が思いつく。
ルアがここにいる理由って、まさか。
「はい、干されました」
とにっこりと屈託のない笑顔でこう言った。
●
この世界において冒険はビジネスである。
ビジネスとは利権が絡む。
利権は様々な人の動きを生む。
トライアウトの後、アマテラスに志願するも不合格になったルア。
当然他のセシル派閥のクランからの採用が無く、卒業と同時に規定により冒険者学校のギルドを除籍。
除籍になった冒険者はフリーエージェントになり、何処でも契約できるようになる。
本来公国トップ冒険者学校の首席であれば引く手あまたの筈だが、他の有力ギルドからのオファーは無く、有力冒険者ギルドに契約を願い出るも全て門前払い。
んで現在は就職活動を続けていく上で仲のいい友人がゼカナ都市に住んでおり、そこで半居候状態らしい。
正直、こうなるかもとは思っていた。
ルザアット公国の冒険者の7割がセシルの息がかかっているのは述べたとおり。
じゃあ3割の息がかかっていない冒険者達だから大丈夫、という単純な理屈は通らない。
ルザアット公国で冒険者稼業を続けていく以上は、セシルと表立って対立したくはない、セシルに睨まれてしまえばおしまいだ、これが冒険者大国ルザアット公国の一つの現実。
無論セシルが何か表立って表明したわけではない、そもそもセシルからすればルアはただの無名な新人冒険者、ひょっとしたらまったく気にしていないかもしれない。
というか俺はその本人と付き合いが少しあるから分かるが、気にしてないだろう。
そもそも「新人女冒険者1人ごとき」だ。取り巻きの女達も取り巻き希望の女達も数えきれない程いる、セシルからすれば女なんていくらでも替えがきく。
そもそも世界の頂点冒険者なんてのはもっと別に考えなければならない程が山ほどあるのだから。
まあ、それを俺が言うなと思うかもしれないが、繰り返すが俺は特殊なの。
だから俺以外のルザアット公国の冒険者はそうはいかない。
審査会でのセシルの前にしてのルアの台詞は、他意があっても無くても「セシルよりもカグツチを選んだ」という「空気」が発生してしまった。
そんな空気の中、ルアを雇ってしまえば「セシルは不快に思うかもしれない」「セシルに盾突く行為になるかもしれない」という考えが発生し、人の動きを生む。
それが忖度。
別に否定するつもりはない、ビジネスで忖度を含めた政治的動きは、当たり前のように存在するし、必要とすら思っている。
だが俺はそれが嫌いで一切しなかった、それで悪名が広がったが、無敵の戦闘能力と仲間達3人のおかげで上流から爪弾きにされても、問題にならなかったのだ。
だがルアの悪名は今ここにいる時点で割と深刻な問題だ。
うーーーん、責任感じるんだよなぁ、なんとかならないかな、って待てよ。
「そういえば、どうしてウチにきたの?」
そう、ルザアット公国にギルドが何個あるか知らんけど、数はそれなりにある筈。
と思って聞いたところ、ここの前にドードギルド行き、断られた時に、、、。
「ドードさんからセシルの影響を一切受けない冒険者ギルドってことで紹介されたんですよ」
「えーーーーーー、そんな理由ーーーー?」
「結構有名みたいですよ、伊達や酔狂でギルド開設した変人クラスD冒険者、ジョー・ギリアンさん、冒険者じゃない友人も知っていました」
「うれしくねーーー(´;ω;`)ウゥゥ」
「だから変な人も来るんじゃないですか?」
「否定できない(´;ω;`)ウゥゥ」
まあそうなんだけどさ、実際ロクなクエスト斡旋できないし。
「…………」
じーっとルアを見る。
先ほどの続きだが、このルアの今の置かれた状況は忖度云々抜きにして冒険社会としても損失なんだよ。
え? 急に何の話かって?
ぶっちゃけ、彼女、凄い才能ある、現在既にクラスDレベル、いずれはクラスCはもちろんクラスBも狙えるレベル。
いや、本当ですよ、セクハラしたのは認めますけど、ちゃんと審査してたんです、あの言葉にウソは無いんですよ。
だからこんな下らない理由でこんな場末のギルドに来ている時点で損失だ。
どうする、、、、。
(セシルに忖度するのなら、俺が一声かければ何とかなるか?)
審査会のとおりセシルとは険悪じゃない、俺の軽いワガママぐらいだったら「しょうがないか」というぐらいの仲だ。
いや、駄目だ、ルアはタダの新人冒険者、それにクラスS同士だとマジに影響が大きすぎる。既にこれだけ立場が悪くなっていて、俺の言葉で何かが変わればそれこそ「セシルは同じクラスSのカグツチには弱気」と捉えられかねない。
ただでさえ色々言われ誹謗中傷が日常がクラスSだ。
あーーーもーーー面倒くさい! どうすれば!
「ギリアンさん」
「なに?」
「どうしたんです? さっきからずっと黙って」
「いや、セシルに声をかければなんとかならないかと考えていたが……」
「え?」
「という力が俺にあればルアちゃんを何とか出来るのになぁと思う今日この頃なのであった(滝汗)」
「はあ」
「と、というかさ、そもそも論としてノバルティス系列の冒険者希望じゃないのならどうしてその学校に入ったの?」
「? 理由ですか? 公国内の冒険者学校で一番だからです」
「それだけ? セシル目当てではなかったの?」
「んー、正直男としては嫌いなタイプなんですよね」
「え!? そうなの!?」
「そうなのって、ひょっとして顔だけで全部許すとか思っています?」
「い、いや、そんなことはないけどさ、そういうものなのか、んでさ実際どうだった?」
「実際とは?」
「ノバルティス冒険者学校の授業内容」
「ああ、はい、それはレベルが高かったです。何より特別枠は講師が特別講義としてクラスBからも教わることが出来たので有意義でした」
「ふむ、その学校仲間とはクランは組まないのか?」
「学校仲間からも干されたんです「冒険者として躓きたくない」って言われました」
「……そっか」
「まあ、ビジネスですし、特別枠の同期は真剣に冒険者として成り上がりたいと思っていますから」
「それも寂しい話だ」
それにしてもルアは向上心もあって努力家だなぁ、となると。
「なら俺から提案だ、海外での活動は考えないか?」
「え?」
「君には才能がある、特に槍の三連撃は見事だった。だがいくら才能があってもルザアット公国内でのセシルの影響を排除するのは不可能に近い、それは身をもって知ったはずだ」
「…………」
「だが君の「公国内最高峰の冒険者学校を首席で卒業した戦闘職」という経歴が無くなるとはない。これは世界中にある冒険者学校の中で「海外で通用するネームバリュー」ということになるんだ」
簡単に俺達の世界で例えるのなら「ハーバード大学卒業」って聞くと、凄いと思うでしょ、そんな感じ。
「その経歴をひっさげて外国で活動してもいい。それにルザアット語を公用語としている国はいくつかある、言葉の壁がないところで活動するのもよい」
「…………」
「君の才能なら俺が直筆で推薦状を書いてもいいと思っている。なに方便はどうとでもなるさ、プレッシャーはあるかもしれないが、君は乗り越えられると思う」
「ギリアンさんが書いてくれるんですか?」
「っていけね☆、そうだよね、俺の名前に何の力も無いよね、君の履歴書で十分だったよねテヘペロ、メンゴメンゴ、つーか、こうなることぐらい分かってんだろうから、推薦状の一つぐらいカグツチが書けってんだよね! ホントさ! クラスSの癖に気がきかないよね!!」
「はあ」
ふう、危ない危ない。
いや、海外活動か、実際自分で言っていて良いんじゃないか。
そうだ、そうしよう、決めた。
まずは今日、とりあえず彼女と契約する。
んで今日中にクォイラのところに行って、事情を話して声明を出す。
シナリオ的には不合格を知った俺は心配して彼女の世話をクォイラに頼んだという形にする。繰り返すけど才能があるのは本当だし、んで。
――「彼女の才能を埋もれさせるのはもったいない。それと色々と忖度をしている人間がいると聞いたのは残念に思っている。言っておくがセシルとは同じクラスSとして付き合いがあるが、彼は1人の冒険者如きを気にする器の小ささは持っていないよ」
こんな感じ、自分で言っていていいんじゃないか、セシルを持ちあげつつ我を通す。
「確か君はカグツチに憧れてるとか言っていたよね? それこそカグツチがコヴィスト王国に活動拠点を移しただろ? でもルザアット公国人には変わりないし、同国人であることも誇りに思っているし、クロルソン公爵ともちゃんと友好関係にあるのだぜ」
という提案だったが。
「凄くいい案だと思います。ですけど私はルザアット公国で冒険者がしたいんです」
とのことだった。
「……なにか理由があるの?」
「ありますけど、内緒です」
「…………」
頑な、だけどいきなり海外と言われてもという感じか、なれば現状は。
「わかった、契約しよう」
「え……」
と驚いている。
「え? って、その為に来たんじゃないの?」
「本当に契約してくれるなんて思いませんでした」
「まあ、評判のとおり、有力ギルドとは程遠いギルドだからねぇ、確かに契約したところでセシルがどうこうできないし、してもしょうがないからなぁ」
ルアは吹き出す。
「えっと、ごめんなさい、でも私が契約したって分かったら、ギリアンさんも」
「繰り返すとおり俺は別に、ただ君自身が色々と言われるだろうね」
「私も気にしません」
「グッド、ちょっと待ってて、契約書用意するから」
冒険者とギルドは、契約関係にあるのは繰り返したとおり。
クラスFならいくつかのクエストはこなしていることになるから、即座にクエストには出かけられる、一人前とは認められないから、ソロは無理だけど、そこは俺が同行すれば問題ないか。
うんうんと色々と考えて、ここは凄いシンプルに。
「ほらできたよ」
と契約書をルアに提示する。
・同ギルドと冒険者の報酬分配は経費を差し引いた額から五分とする
・契約更新は任意のプレイヤーオプションとする。
以上。
プレイヤーオプションとは、契約更新及び破棄が冒険者側にある事。
つまりいつでも任意に契約を解除できるという意味だ。つまり「腰掛け」の契約で冒険者有利の内容となっている。
「……私に気を使ってくれているんですか?」
「そんなことはしていないよ「公国最高峰の冒険者学校首席殿」、本来これよりもっといい契約で冒険者になれただろうし、実際に君の同期の特別枠で採用された冒険者たちはこれよりもいい契約で結んでいる筈だ」
「…………」
ルアは少し考えて。
「わかりました、よろしくお願いします!」
と元気よくサインした。
(しかしアマテラスに不採用にした俺が、まさかルアをこんな形で採用することになるとはなぁ)
人の縁は時に本当に因果な状況を作り出すなと、心の中でうんうんと頷く。
こうして、ルア・リームは我がギルドと契約する冒険者となった。




