第70話:少しだけ
俺はスラム街を歩いていた。
いつものとおりの見慣れた光景。
どこか埃っぽく変な匂いがして、それでいて無気力な部分もあるかと思えば、熱がある部分もある。
治安は、住んでいると意外と悪くない、なんなら夜1人で歩いたっていい。狙われるのは何も知らない奴だけだ。
「兄貴!」
と突然懐かしい声をかけられて。
「……え?」
と振り向いたら、、、。
メーバルが立っていた。
「え? え?」
「なんだよ、兄貴、どうしたんだよ、というか何処行ってたんだよ」
「何処って」
「風呂屋に行くって約束したろ、待ち合わせ場所にも来ないし。探してたんだぞ」
「…………」
「兄貴?」
「よかった、生きていたんだ」
「は?」
というメーバルの頭が、突然ドゴォと叩かれた。
「いてーな!! 何すんだよ馬鹿姉貴!!」
そこには腕を組んで怒っているユリティモナがいた。
「わかんないの? ネホバさんは疲れているんだから、ちゃんとねぎらってやんなよ、舎弟だろ」
「……ふん、兄貴の前だと、ぶりっこしやがる、手遅れなのに、ライバルのアマテラスの3人に勝てるとか本気で」
ドゴォ!
「」←メーバル
と俺はそんな2人を。
思いっきり抱きしめていた。
「よかった! 本当に良かった!!」
「あ、兄貴?」
「ネホバさん? どうしたの?」
「ずっと俺と一緒にいろよ! おっと、そうだった! 正体を明かしていなかったっけ! 俺はカグツチ・ミナト! 知っているか? こう見えてもクラスSで世界最高位冒険者なんて言われていて、人類の天敵種ドラゴンをタイマンで倒したんだ! それに比べればワーニッツはクラスA如き、ただの殺人狂の雑魚なんだぜ!!」
俺の一方的な物言いに2人は抱きしめ返してくれる。
「変な兄貴、別にそんなの関係なく俺はついていくよ」
「私で良ければ」
ああ、よかった、本当に。
「今度こそ、俺がお前達を守ってやるからな!!」
ぎゅーっとその存在を感じるように抱きしめて、、、。
何故かそこで場面転換して、、、。
目の前が天井で、、、。
目の周りが涙で濡れていて。
アマテラスの3人とリシリティア女王がいて、俺を見ていた。
「あれ? ここは、玉座か? どうしてここにいるんだっけ? そうだ、メーバルとユモナに指示を、暗黒街の再建に」
「カグツチ、、、、」
とクォイラが抱きしめてくれた。
ふわっといい香りに包まれる。
何々、なんで優しく抱きしめてくれるのだ。なんか優しいな。普段はないがしろにするくせに。
「メーバルとユモナを弔ったのは貴方でしょう?」
「…………え? そう、そうか、、、」
ああそうだ、そうだった。
そうか、夢だったのか、、、、。
ああぁ。
クラスSなんて、辞めてやる
――大浴場
俺はあの後、風呂に入れと進められて、言われるがままに入り、ぼーっと天井を見てブクブクと水面に顔をつけている。
玉座にある王族しか入れない温泉だそうで、今回の依頼達成のインセンティブとかで滞在中は好きに入っていいそうだ。
「はぁ」
と顔面から顔を上げて。
後ろに気配を感じてその方向に視線を向けると。
そこにはタオルを巻いていたリシリティア女王が立っていた。
「っ!」
俺は湯船から立ちあがると距離を詰めて正対する。
「……おい、あの凡庸のルデエル王女様から聞いていないか? カグツチミナトは風呂好きであり、それを邪魔をされると不機嫌になる、つまりだ、今俺は非常に不機嫌だ、だから」
とここで言葉を切って不躾にジロジロと身体に視線を送る。
「それにしても貧弱な体だ、何も感じない。いや、少女趣味には逆にたまらないのか? おい、俺に少女趣味は無い。だがここにこれ以上いるのなら、今の暴力的な気持ちに身を任せてブチ犯すぞ」
「怖いことを言うなカグツチ、裸の付き合いをしにきたんだ」
「俺の祖国では男と女は裸の付き合いをしない、おい、同じことを何度も」
「だから「そういう意味で付き合いをしたいと言った」つもりだクラスS、女に恥をかかせるのか? そういう言い方は無いのではないか?」
「…………」
「だから私の夫にならないかと言っているのだよ、だから王族しか入れない風呂の自由を認めたのだ」
「…………」
そういうことか、、。
「……報酬自体は大したことは要求しない、アマテラスに都合のいい施策をいくつか通すこと、要は今後俺の冒険者活動に対して最大限の便宜を計れと言っているだけだ、詳細はクォイラに確認しろ、コヴィスト王国は王族と国民の物だよ」
「そちらこそ何度同じことを言わせるつもりだ? ふむ、夫が重たくて嫌か? なら恋人でも構わないが」
「お前の言っていることが分からん、完結明瞭に言え」
「お前に惚れた」
「……は?」
「は? ではないぞ、まあ今の状態で不謹慎であることは認めるがな、だが兵は神速を貴ぶ、それは恋も同じだ」
「…………」
「これでも相当に恥ずかしい思いを我慢しているというに、まったく女にここまでさせるとはな、クォイラ嬢から聞いたとおりのヘタレだ」
「…………」
俺は天を仰ぐ。
正直、もう色々と限界なんだが、、、。
「女王、アンタに恨まれることはあれど、惚れられる理由が皆目分からないが、っと」
抱き着いてきて思わず受け止めてしまった。
「……おい」
「ははっ! 可愛いなカグツチ、ますます気に入った、我が国は女は自分でいい男を見つける。俗な言い方をすれば、1人の雌として優れた雄に惹かれるのは生物界の常識と言える」
「俺の好みのタイプを知らないのか? 黒髪ロングの巨乳処女だよ」
「馬鹿じゃないか?」
「ぐっ、うるさいな、分かってて言っているんだよ」
「まあいい、カグツチ、夫になれと言ったが私は寛大だ、アマテラスの3人の絆は理解している」
「は? なんで急にあの3人が?」
「だから妾はあの3人だけなら認めようというのだ。言っておくがそれ以上は許さんぞ、女の矜持を傷つけた男のなれの果てがどうなるか、教えてやろうか」
「…………」
本当にこう、色々と限界なんだが、、。
結局、あの3人に惚れているので無理、という割と最低な返しをして終わった。




