第69話:忘れちゃ駄目だ
――スラム街
現在暗黒街には多数の王国兵士が詰めており、浄化作戦がおこなわれている。
とはいえ、浄化対象のほとんどはカグツチ・ミナトが滅ぼしてしまい、その後始末が主な仕事になっているそうだ。
そんなスラム街は、暗黒街の恩恵を受けている街、みんな不安がっているがどうなるか分からない。
カグツチがスラム街に潜入していた時に仲良くしていたおっちゃんは階段の踊り場から暗黒街を眺めながら一杯飲んでいた時だった。
「やあ、おっちゃん、久しぶりだね」
いつの間にか隣にカグツチが立っていた。
「……久しぶりだな、挨拶ぐらい来いよ、偉くなってすっかり忘れたと思っていたぜ」
「ごめんね、色々と忙しくてさ」
「ネホバって呼べばいいか?」
「いいよ、それで」
「……大変だったな」
「いやさ、俺さ、間違えちゃったよ、ごめんね、忠告してくれたのに」
「中年の説教だからと思って聞き流しているからだ」
「返す言葉も無いよ、というかおっちゃん大丈夫、生活とか」
「みんな不安がっているが、こんな世界だからな、まあ何とでもって話だよ、なんとかなるさ、ってわけで、」
と安酒を置く。
「再会を祝してってやつだ、飲め」
「おっちゃん、知ってのとおり俺は飲めないんだけど」
「飲め、口をつけるだけでも構わないから」
「…………」
カグツチは、少しだけ口に含む。
「ネホバ、言いたいこと、やりたいことがあってきたんだろ? これで酒の力のせいにできるぞ」
「……ありがとね、おっちゃん、あのさ、俺がここに来たのは自己満足をしに来たんだよ」
「自己満足?」
カグツチは懐からどさっと皮袋に入った金を置く。
「なんだそりゃ」
「あげる」
「……はい?」
「闘士として稼いでさ、色々使った残り」
「なんで俺に?」
「おっちゃん、いや、ニクガンさん、母国への渡航費と抱えた借金返済費用と奥さんに対しての慰謝料と子供の養育費として使ってね」
「な!? お前何で!! ってそうか、お前なら、、、お前の仲間なら俺の事調べるなんて朝飯前か、だがネホバ、自己満足ってのはそういう意味ってのは理解したが、その金を俺に渡すってのは、どうにも繋がらないが、それこそあの2人の為に」
「正確には、使えなくなったんだよね」
「使えなくなったって」
「駄目なんだ、一度トライしてみたけど、この金使って食べ物買って食べたらさ、吐いちゃった」
「吐いたって、お前ちゃんと寝てるのか?」
「んーー、よくわからん、んでさ、どうしようって思ってさ、その時に思い出したんだよ、おっちゃんのこと、だからお金をおっちゃんにあげる、そうするとさ、何故か浄化されたような気がするんだ」
「…………」
「ね? 自己満足でしょ? まあ別に好きにしていいよ、貰うのに納得できないなら、酒代ってことで」
俺が立ち去ろうとした時。
「ネホバ!」
「なに?」
と呼ばれて振り向きざまに。
おっちゃんに軽くパンチされた。
「……おっちゃん?」
「お前は冒険者には向いているが、クラスSにはまるで向いていないんだな」
「…………」
俺はそれには答えず、笑顔で手を振っておっちゃんと別れた。
●
おっちゃんと別れて、スラム街をぶらぶらと歩く。周りは俺に気が付かない、今の姿はカグツチではなくネホバとして歩いているが、驚くぐらい穏やかな空気が流れていて、周りは誰も気が付かない。
そう、意外と気づかれないものだ。クラスS時代で秘匿行動をしている時って、こんな風に素顔を晒しても大丈夫だったことが多々あった。
まあ冒険者新聞に追い掛け回されて、所在がバレている状態だと名をあげたい冒険者に見つかることも多かったけど。
「おい、ネホバ」
っと、気づかれたか、面倒だからこのまま、、、。
あれ、今の声。
と思って振り向いた先。
一瞬認識が遅れて。
「キー?」
そう、キーが立っていた、驚いた。
「あれ? 殺してなかったっけ? ん~、そういえば記憶にないな、確かに」
「っ!!!」
明らかに殺意を込めた視線を向ける。
「ムロボ、知ってるな?」
「…………」
俺が答えずにいると。
キーはそのまま刀を抜いた。
「??」
「理解できねえか? ムロボはな、副頭目ってだけじゃねえ、俺の父親代わりだった人だ!」
ここからキーは俺に話す。
キーはスラム街の孤児で、どうしようもないクズで、刑務所に入れば御の字、いずれはマフィアにパシリにされて殺されるの関の山という人生だったようだ。
その中で当時は下級幹部だったムロボに見いだされ長い間苦楽を共にして、血こそ繋がっていないが確かな絆があった。
――俺達はカグツチ・ミナトによって皆殺しにされる、お前はスラムにいろ、ひょっとしたら生き残るかもしれない
ムロボは、既にネホバがカグツチだと気づいており、ワーニッツがユリティモナとメーバルを殺したことで、もう取り返しがつかない事態になっていると覚悟を決めていた。
周りは全員気が付いていないが、カグツチからすればワーニッツですら雑魚だという事を理解して、周りに進言していたのだが、周りはドラゴン討伐をデマだと思っており、何よりワーニッツより強いというのを現実問題として感じることができなかった。
そして次に再会した時、ムロボは百舌鳥の早贄状態だった。
生き残りに話を聞くと、生きながらに腹を貫かれ、ぎりぎりまで生かされた挙句殺されたことを知った。
「…………」
俺はその話をぼんやりと聞いて。
「話を聞く限りだと、えーっと、そいつはお前を生かしたいから、スラムへ逃がしたんじゃないのか?」
俺の反応に顔をこわばらせるキー。
「お、おまえ、ムロボのことは?」
「あー、悪いが、殺した奴の事とか数とかなんてイチイチ気にするかよ」
「……そうかい、化け物」
そのままキーは刀を振りかざし俺を殺しにかかってくる。
それを見ていた俺は。
ガキン! と何もせず受け止める。
「あああああぁぁ!!!」
当然一撃じゃ終わらないことを理解して何とも切りつける、だから。
ガシッと刀を握ると。
バキン! とそのまま握りつぶす。
そのまま喉輪で片手で持ちあげる。
「グッド! よし、決めたぞ! 殺すかどうか迷っていたが、お前は生かす!! 生きて暗黒街の為に尽くせ!!」
「く、くず、やろう、、、」
「あははは!! よく分かっているじゃないか!! クラスSは正義の味方じゃないんだよ!! 全てにおいて詰めと認識が甘い!! それが副頭目の死因だ!!」
そのまま腕を振り払いキーは壁に叩きつけられる。
「ぐあっ! う、ぅ、、、」
「じゃあな、キー、お前はクズだがマシなクズだったな」
「…………」
答えられず蹲っているキーを尻目に俺はスラム街を後にした。
そう、クラスSは正義の味方ではない、俺にとってのワーニッツが、アイツにとっての俺だ。
ああ、そうだ、それを忘れちゃ駄目だ、絶対に!




