第64話:◆◆◆
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――カグツチが「ワーニッツが押した緊急発信ボタン」により隠れ家に到着したのは数刻後の事だった。
――その時にカグツチの前に広がっていた光景。
――メーバルは首の骨から頸椎を折られて即死。
――ユモナは裸にされて強姦されて全身を切り刻まれていて
――その2人を彩るように金貨を50枚ほど散りばめられていた。
――2人が死んだにもかかわらず、辺りは静かだった。
――風の音、人の話す声、全てがいつものスラム街だった。
――誰も気に留めない。
――そう、もめ事で人が殺されるなんて、ここじゃそんなに騒ぎ立てる事じゃない。
――「…………」
――カグツチは無表情で2人を見下ろしていた。
――玉座
「ファル、メーバルとユリティモナの2人は?」
クォイラの問いかけにファルは首を振る。
「……駄目だった」
その横でジウノアが問いかける。
「カグツチは?」
「先ほどから呼び掛けているが一切応答しない、一方的に切られていて、向こうからは繋ぐ気は一切ないみたいだ。目撃者によれば2人を抱えてどこかに消えたそうだ」
「「…………」」
目を閉じて考えるアマテラスの3人であったが、ジウノアが発言する。
「クォイラ、この場合はアンタが指揮官だね、どうする?」
2人がクォイラに注目する、クォイラは少し考えて。
「大筋に変更なし、ただし大幅に前倒しの必要があります、アル王子」
「な、なんだ?」
「聞いていましたね? カグツチが目をかけていたメーバル、ユリティモナの2名がワーニッツに殺されました」
「あ、ああ」
どこか呆けた様子を見せるアル王子にクォイラの表情が少し厳しくなる。
「王子、私がして欲しいことが分かりますか?」
「む、無論だ、ワーニッツの行動でカグツチが危ないという事だから、まずカグツチの身柄の確保を」
「無理です」
「え?」
「というより、カグツチが本気で身を隠された場合は、ファルの深淵はもちろん、手掛かりすらなくなるので」
「な、なら、殺人を理由にワーニッツを処断材料に、我が王族でバックアップを」
ドン! と机を叩きアル王子に対して露骨に苛立つ様子を見せるクォイラ。
「え、え、その」
戸惑うアルにリシア王女が発言する。
「兄さま、これは国家の緊急事態です。期限は殲滅戦まで、それまでに早急に計画を完了させよ、クォイラ嬢はそう、おっしゃっているのです」
「期限? ど、どういうことなのだ? 国家の緊急事態?」
「兄さま、アマテラスによるキコ王国のドラゴン討伐は存じていますよね?」
「も、もちろんだ」
「ドラゴン討伐においてアマテラスの討伐資料は世界ギルドに未加盟国である我々は読むことはできませんが、キコ王国は近隣諸国の一つ、討伐方法についてはスパイより情報が入ってきて、ある程度の内容は把握していますよね?」
冒険者で知らぬ者はいないカグツチ・ミナトによるドラゴン討伐。
その討伐資料は機密事項に指定されているがリシア王女の言うとおり内容自体は単純明快。
キコ王国に来訪したドラゴンについて、アマテラスの他の3人は周囲に被害が及ばないように動き。
カグツチはドラゴンをタイマンで倒し確保した。
単純だからこそ余りも荒唐無稽過ぎて、信じない人物も多い。
「だがリシア、討伐の内容は否定的な見解が多数を占めていると」
「ですから兄さま、そうではありません。我々の目の前には誰がいますか?」
そう、誰がいるのか。
「っ!」
アマテラスの3人に視線を送る、その当事者はまさに、今目の前にいることにようやく思い至る。
「兄さま、その当事者の表情を見るに噂は事実であるという事を認めなければならないでしょう、つまりどういうことか分かりますか?」
リシアの言葉を受けてやっとアルは頭が周り始まる、そうクォイラもリシアも単純な事が言いたかったのだ。
人類文明の後退をもたらせた程の人類の天敵種ドラゴン。
そのドラゴンを討伐したカグツチミナトがキレる。
つまり理性を失うという事は、、。
「!!」
顔色が変わるアル王子を見てため息をつくクォイラ。
「やっと理解したようですね、カグツチが「キレる」ということは、要はドラゴンがコヴィスト王国内でキレるという事と同義。計画の4段飛ばしをする必要があるという事ですよ」




