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第61話:闘技場のメインイベンターへ駆け上がろう


――金級闘士。


 暗黒街では、大頭目、副頭目に続く上級幹部と同等、キーと同じ立場だ。


 そんな金級闘士の一日。


「ババンババンバンバン~♪ ハ~ビバノノン♪」


 俺はフロアから外の景色を一望できる風呂につかりながら外の景色を眺めている。


 いやぁ、極楽の一言だなぁ、、、。


 顔見せの時は2級幹部だのなんだの言われたが、一時的にしても特権を付与されているのは事実なので、行動を制限されることは無い。


 試合さえちゃんと出れば、飲む打つ買うに興じるもよし、真面目にトレーニングに勤しむもよしという感じだ。


 はぁ、まあスラム暮らしはあれはあれで悪くないし、むしろ楽しかったが、実は毎日風呂に入れなかった、入れても汚い公衆浴場でイマイチだったのが嫌だった。それは銅級でも値段がタダになる以外は一緒、銀級になってやっと人並みに個室の風呂に毎日入れるようになったのだ。


 はぁ、風呂気持ちいい、まあこの世界で男が風呂好きって少数派みたいだけどね。


「本当に風呂好きですよね、何回も入って疲れませんか?」


 着替えとタオルを用意してくれるのはメーバルの兄貴のユモナだ。


「疲れるどころか至福の一時だよ、スラム時代は毎日入れなくて、快適だったけどそこが唯一の地獄だった」


 と着替えるとユモナが用意してくれた朝食を見る。


「おぉ」


 消化に良い物を中心として揃えてくれている。そうか今日は試合だからか、しかし流石高級娼婦、こういう気配りが凄い。


 そりゃそうだ、顔だけ良ければなんてのは男も女もない。


 ちなみに今は娼婦としての仕事は辞めてもらっている。まだ正式に身請けしたわけではなく、あくまでも「ユモナを専属娼婦にしている」という事だから、娼館に休業補償の名目で「身請けの積み立て金」を払っている。


 とはいえ慈善活動ではないと伝えたとおり何を頼んでいるのかというと、、、。


「アネさん!」


 なんて声で現れたのは、メーバルの舎弟頭だ。


「アネさんは辞めなよ、言いつけはしてきた?」


「はい!」


「よし、なら早速資料にまとめるから来て」


「はい!」


 と言って、2人で別室に姿を消す。


 これは舎弟頭が舎弟達から集められてきた情報の報告、ユモナがその整理をするのだ。


 俺は金級闘士としての権威と特権を駆使することをメーバルとその舎弟達に頼み、暗黒街の把握を指示している。何でもいい、ちょっとして動きを全て報告するようにとの指示をしてある。


 そして金級闘士の権威を乱用しないように睨みを利かすのはメーバルで、面倒見の良さから全員の姉さん的な立ち位置のユモナ。


 ちなみにメーバルの舎弟頭なんかは、見てのとおり憧れの目でユモナを見ているから半分デート気分、うんうん、ユモナは勝気美女って感じだからなぁ、お兄さん分かるよ。


 何だかんだでいいチームになってきている。


 それにしても、こんな形で思わぬところでの収穫があるのか。


「…………」


 とそんなことを考えている横で微妙な顔をしながら立っているメーバル。


「どうした?」


「……姉貴の本性知らないからだよ、あれ女じゃねぇし」


 という言葉と同時にバーンと扉が開いてユモナが立っていた。


「何?」


「い、いえなんでも、ないよ(びくびく)」


「あっそう」


 再びバタン扉が閉じた。


 (´・ω・`) ←メーバル


 メーバルの態度に俺は思わず笑ってしまう。


「兄貴、、、」


「いや、いいじゃないか、まあ舎弟頭の事も勘弁してやれ、綺麗なお姉さんに憧れる気持ちはわかるよ」


「でもさ、あんな浮ついてて兄貴の求める情報の価値に釣り合っているか?」


「ちゃんと釣り合っているよ、安心しな」


「……ならいいけどって、そういえばさ、兄貴はさ、女は抱かないのか?」


「へ?」


 突然そんなことを聞き始めた。


「兄貴はギャンブルは好きでグルメ家で風呂好きってのは、もう知れ渡っているし楽しんでいるのにさ、娼館調べてこいとか言わないよなって」


「女の勘を舐めてはいけないぞメーバル」


「え、え?」


 そう、あれは、クラスS時代、クエストについてクォイラから報告を受けている時だった。



――「以上が報告となりますね」


――「問題ないよ」


――「女遊びしていますよね?」


――「くぁwせdrftgyふじこlp!!」



「天気の話題振るみたいな感じでいきなりだぞ!! お仕置きと称してアイツラ俺を好き勝手に(ノД`)シクシク あの不意打ちはずるいだろ!! そうは思わないか!!」


「え、いや、いきなり言われても、誰の話? というか、そ、そうか、大変だな兄貴も、ってちょっと待った! あいつらって女複数人いるのかよ! 流石!! 全員美人なんだろ!?」


「…………全員美人だけど、別に俺の女ってわけじゃない」


「そ、そうか、って兄貴! 楽しみは女だけじゃないからな! 知っているか!? さっきの話じゃないけど兄貴風呂好きだろ? 温泉に力を入れている宿があって、試合が終わったらそこでのんびりしようぜ!」


「よっしゃ、ならさっさと行って終わらせるか!」


「ああ!」



――闘技場



 金級闘士では、闘技場では控室すらも違う。銅級闘士は控室は一緒、銀級で狭いけど一応個室、そして、、。


「無駄に広いなぁ」


 アップするスペースまでちゃんと整っている。確かに金級ともなると「取り巻き」も多数いるようになるから、その分のスペースも考慮されているそうな。


 俺はメーバル1人しか連れていないから結果的に持て余すことになる。


「兄貴、ちょっといいか? その、今の状況、さっき姉貴からの報告を受けたんだが、やはりというか」


 少し深刻そうな表情で話しかけるメーバルであったが、、。


「皆まで言うな、分かってるよ」


「だったら、正直、今の状況はまずい、いやまずくなりつつあるというか、この試合の結果も」


「いいんだよ、その件についていずれ少し話したいことがあるからな、「その情報」が確定したのだったら「試合の後から本番だ」精力的に頼むぞ」


 不安そうなメーバルを後にして闘技場に向かった。



――闘技場



 大歓声に包まれた俺は手を上げて応えている。


 金級闘士は全員がメインイベンターだ。


 相手も同じ金級闘士、彼らは全員化け物的な強さを誇る正真正銘の兵だ。


 だったのだが、、、。


【し、し、信じられません! 全てワンパンで勝ってきた男! 金級闘士ネホバ・キッド!! 昇格初戦!! これもまた、ワンパンで倒しました!!】


 いつもの俺の勝利に歓声もそうだが、一部にどよめきが入っている。



「アイツ、いったい」

「相手も金級だろ」

「人間離れして、いや」

「ああ、本当に人間なのか?」



 という声も聞こえてくる。


 劇的な初勝利、いや予定された初勝利で、、。


 次の試合はというと。





【ネホバ・キッド! 次戦は興行戦! 魔物vs闘士、これは前回と違い正真正銘の試合となります! まず相手は、既に登場してのとおり】


【昆虫型のクラスCの魔物!!】


 金級闘士はメインイベンターであり稼ぎ頭だ。


 だからこんな感じで興行戦も行い見世物の主役としての役割もこなすのだ。


 しかしここで、あの時と同タイプの魔物か。


 別個体の魔物は既に前回と違って大人しくしている。


「…………」


 その無機質な目は既に登場している俺を見つめる、だが、、、。


 明らかに気圧されている。


「それにしても、お前も不幸だな、人を食らい「魔物の最上位」であるクラスCといえど、天敵種もまた間違いなく俺達人間か」


 とその目を見つめ返しながらテクテクと歩いて距離を詰める。


 このままだと殺されることも分かったのだろう。


「!」


 逃げるのを辞めて凄まじいスピードで襲い掛かってくる。


 ちなみにこの魔物はその狙いやすい位置にある頭を潰すことが一番効率的だ。


 だから俺はハサミを交わして懐にもぐりこみ、そのまま手刀で脳味噌を一突きする。


「!!」


 と魔物は襲い掛かってきた勢いそのままに滑り込むように倒れると軽く痙攣した後動かなくなった。


 せめて苦しませず、って理不尽に捕まえられて、見世物にされて殺される、情けもくそも無いか、いつもの自己満足だ。


 俺は片手を上げて、勝利宣言をする。


【圧倒!! かの色男や粋人を赤子扱いした同じクラスC魔物を赤子扱い!!】


 と実況は盛り上げるが、、、。


 観客は別の意味での期待の視線を俺に向ける。


 次戦が同じ金級ではなく、既に興行戦でクラスC魔物相手の見世物。



 つまり俺は既に賭けが成立しなくなっている。



 それは金級昇格した時、メーバルの懸念が現実味を帯びていることになる。



「なあ、あの噂、本当かもしれねえよな」



 観客の一人が呟く。



「ネホバがワーニッツに喧嘩を売ったって」



――大頭目室



 強者にとって喧嘩を売られるなんて日常茶飯事だ。


 例えばボクシングの世界チャンピオンなんてロードワーク中に喧嘩を売られる事も多く、煩わしい事この上無いそうだ。



 だが、ワーニッツは喧嘩を売られることは無い。



 何故なら暗黒街で売った瞬間に文字通り首をはねられるからだ。


 クラスA冒険者。


 人を超えし者。


 冒険者の強さの指標として表されるこれは決して誇張ではない。


 それこそクラスBの魔物は「魔族」と称され人知を超えた存在ではあるが、ワーニッツは自分と同格のクラスAの魔物のソロ討伐実績を持つ異次元の戦闘能力を持つ。


 そんなワーニッツであったが、ネホバがカグツチだと気づいていたからこそ、あの時、喧嘩を売られた時、生かしていておいた。


 何故なら、それは、、、、。


「カグツチ・ミナトの動向について新情報が入りました!」


 そう興奮気味にワドルフに話す報告する副頭目の1人。


 彼が言うには、王族がカグツチを城の玉座、つまり聖域に匿っており、そこで現在「宰相への処断」に向けて準備をしているとの事。


 最初の派手なアマテラスの入国は、それをカモラージュするためだと、、、。


 目撃情報も取れているとか。


「ワーニッツ、お前はどうなんだ?」


「情報は無いよ。ただ安心してよ、襲ってきたら返り討ちにするさ」


 との言葉で、話題は次に移っていく、クラスSを対峙するわけだからいざとなれば国外逃亡の準備やアマテラスを逆にこちらに取り込めないかという話が続いていく。


(馬鹿ばっかりだなぁ)


 ほらさ、分からないかな、意図的にその情報を向こう側が流しているとかさ。



 あのネホバ・キッドがカグツチ・ミナトってとかさ。



 だが、ワーニッツはそれを言わない。


 何故なら勿体ないからだ。


 あんな極上の獲物は、極上の舞台で、、、。





「はぁ」


 会議終了後、なまめかしく息を吐くワーニッツはふらふらと暗黒街を歩く。


 あーー。


 人殺したいな、、、。


 とふらふらと歩いていくと。


「おい」


 と声をかけられて振り向くと、1人の男が立っていた。


 誰だっけ。


「ワーニッツ・コルドラン、俺のことを覚えているな、てめぇの


 という言葉の次は、首から上が無くなることで紡げない。


 はぁ、よかった、誰かは知らないけど、少しだけ猛りは抑えることが出来た。


 その光景を見て、視線を逸らし続ける周りの暗黒街の住民。


 住民、いや金級闘士たちですらも強さが分かるからこそ接触すら避け、常にワーニッツと動向を伺っている。闘技場ではどうしても同じ場所に集合しなければならないが、常にあらゆる行動を遮らないように道を開け絶対に目を合わせないようにする。


 これがワーニッツの日常であり王国だ。


「おい、キー」


 傍らにいたキーに呼びかける。


「はい」


「ネホバの意向は?」


「受けるとのことです」


「わかった、それと」


「なんでしょう?」


「アレ、かたしといてね」


「……はい」



 白銀闘士。



 暗黒街の地下闘技場の最高位闘士。


 現在ワーニッツ・コルドラン1名のみ。


 その白銀闘士は副頭目と同等であり、暴力の頂点。


 その最高位闘士、ワーニッツは、試合についてはある形式でしか受けない。



 それは殲滅戦。



 つまり殺し合いだ。



 殲滅戦は、相手を殺すことによりのみ決着がつけられる。


 ルールも存在しない、武器を使おうが自由。


 そして相手のランクは問わない。


 それこそ銅級でも挑戦することができる。何故なら白銀闘士に勝てば多額の報酬だけではない、勝ては副頭目の地位も手に入る、まさに一発逆転。


 だが実際はそんなことは起きず、先ほど述べたとおり、強い人間はその強さが分かる。だから金級はもちろん銀級だって勝負を挑まない。


 だからこそ事実上の「興行戦」としての位置となっており、その希望が散るさまを嘲笑する場となっており、それでも殺し合いが生で見れるという事でワーニッツの試合が開催されるだけでチケットは高騰する。



 そしてついにその時は来た。



「ふざけんな! こっちは徹夜で並んだんだぞ!!」

「うるせえこっちは二日徹夜してんだ!!」

「10倍出すぞ!!」



 噂が噂を呼ぶ地下闘技場のチケット発売所。



 多数の人が詰めかけている。



 それは、昨日発表された。








――ワーニッツ・コルドランVSネホバ・キッド






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