第58話:注目を受ける事、だから喧嘩を売ったこと
「まっすぐいってぶっ飛ばす、右ストレートでぶっとばす」
銀級に昇格初戦いつものとおりの宣言、そしていつものとおりのワンパンで仕留めた。
【ネホバ・キッド! 銀級昇格初戦初勝利!! しかもまたもやワンパン!! これは新たな英雄の誕生か!!】
まばらだった観客は7割ぐらい埋るようになり歓声に変わっている。まあ格闘技好きは、受けるよな、こういうの。
ただ、、、。
「なあキー、こんな形で勝ち続けると賭けは成立しなくなるんじゃないか、実際どうだった?」
試合後、俺はキーに話しかける。
「今回についてはまだ未知数との評価で十分に賭け試合として成立した。だがこのままの勝ち方を続けるのなら、確かに賭けが成立しなくなるのは時間の問題だな」
「言っておくが八百長には応じないぜ」
「無論だ」
「……意外だな、八百長は流行らないってか」
「んなわけないだろう、興行だぜ? ただ八百長をやらせる相手にお前を選ぶ馬鹿はいないってことだ」
「…………」
「さっきの試合を見てのとおり、銀級昇格初戦にも関わらず、お前のファンが大分増えている。お前はそういう意味において別の稼ぎ方ができるかもしれないと大幹部の方々は見ている、側近の取り立ても現実的になるさ」
「ふぅん」
「だがそれも実績次第だ。初戦は良かったが、結局「うだつのあがらない万年銀級」になったら八百長もやってもらう、そういう奴らもごまんといる」
「夢の無い話だねぇ、わかったよ、ご期待には応えるさ」
●
暗黒街。
何度か触れているがコヴィスト王国は魔石の産業で財を成している。
その中でコヴィスト王国のもう一つの財を生む場所が暗黒街である。
コヴィスト王国のワドルフの独占管理されており、暴力装置でもある。故にこの暗黒街の司法立法行政は全てワドルフが握っている。
暗黒街、なんて言葉はおっかないが、金を持つ身分にとっては快適なリゾート地でもある。
銀級闘士生活、私生活は快適の一言だ。
充分な広さを持つ個室を与えられ、報酬は十分、飯も美味いし俺の大好きな風呂屋もある。
まあ所謂「上客が入るエリア」には入ることはできないものの、それで十分だ。
なるほど、一方的に搾取するだけではなく、一定の成功者に恩恵を与えていれば成功をしていない人間については「努力不足」と断ずることができる。
だからなのか、銀級は優れた実力者たちだが同時に自分の地位は何としても守る保守的、いや保身的な闘士ばかりで、当然に俺のことは気に食わない。
だから色々な嫌がらせを受けた、止めるメーバルを聞かずその嫌がらせを全て受けきった、いや、あえて全て受けた。
特に猛毒をあえて自分で飲んで平気な素振りは、闘士たち全員に色々な憶測を生み出し、怖れを生む。
――「毒は効かない、家庭の事情でね」
だけどドヤ顔で放った言葉だけ滑った(ノД`)シクシク。
ちなみに銀級闘士の順位は、興行主であるマフィアが独断で決める。
その通知が今日届いた。
「兄貴、たった3戦で、、、しかもたった30日で」
震える手で通知を見るメーバル。
そこにはそう記されていた。
――銀級1位
●
「実際、例外、というか、最下位の闘士が一度で一位まで昇格ってのは初だぜ」
通知を持ってきてくれたキーがそう言い放つ。
「ただ、同時に試されているってことだ。繰り返すとおり次の試合での負け方によっては「万年銀級」になりかねないってことは忘れるなよ?」
「俺の例外的なこの順位は、ひょっとしてワーニッツの意思が絡んでいるのか?」
「っ! なんで知ってやがる!?」
「ただの勘」
「勘って!」
「金級闘士と言えば全員が一回の興行でのメインイベンター、つまり稼げる人間じゃなければならない。無理矢理ともいえるこの一位の序列は、強い推薦があったと考えることができる」
「となると候補は3人、1人はこの闘技場の興行総責任者、たしか副頭目だったよな? そしてその上役の暗黒街トップの大頭目、そして最後、この闘技場のトップ白銀闘士殿が候補に挙がる」
「まず興行総責任者についてだが正直、そこまでして俺を昇格させる理由が思いつかない、同じ理由で大頭目もな。だがその大頭目の子飼いであり大のお気に入りであり色々と曰くがある白銀闘士様なら可能性が一番高い、まあ理由を付けるとすればそんなぐらいだ」
白銀闘士。
戦いと言えど、先に述べたとおり興行である以上「エンタメ」も求められる。金級解いてど盛り上がらない試合もある。
だが白銀闘士だけは例外である。
何故なら白銀闘士はその試合全てが殲滅戦、殺し合いしかしないからだ。
だから白銀闘士がメインイベンターというだけで多額の金が動き、チケットも高騰する。
その白銀闘士なんてのは現在1人しかいない。
それがワーニッツ。
ワーニッツは、冒険者としての実績から特例で銀級からスタートして以来無敗。昇格した当時は格上の銀級上位や金銀闘士に一方的に喧嘩を吹っかけたり、殲滅戦の条件に応じた金級以下の闘士たちを一方的に惨殺してきた。
「ネホバ、理屈は分かったが同じ理由でワーニッツがお前を推薦する理由がないように思えるが」
「だから喧嘩を売ったんだよ」
「っ! ま、まじか! お前!!」
「ま、功を奏したという訳だな」
「お前本当に分かってんのか! ワーニッツがどういう奴なのか!」
「無論だ、世界ギルドから指名手配がかかっているクラスA冒険者だろ?」
淡々とした俺の口調に苛ついた様子でキーの語気が荒くなる。
「だから冒険者のクラスAがどんな存在だか分かってんのかってきいてんだよ!! アイツは化け物だぞ! アイツはクラスBの魔物ですら一方的にいたぶることができる! 俺は見たんだ! 人では到底勝てないような異次元の化け物だった! だから暴力っていう裏社会で最も下等な手段でトップに上り詰めたんだ! それに何よりアイツは完全に人殺しの快楽が忘れられなくなっている狂人だぞ!」
「いや、アイツは人殺しの快楽に溺れてはいるが、狂人ではないよ」
「な、なに?」
「その暴力についてだが、アイツの殺人記録は特殊でね」
「は?」
「惨殺はするが虐殺はしないんだよ。そしてそのクラスBの魔物すら圧倒的する強さからかアイツには妙なシンパがいる、だがそんな冒険者生活もいよいよ進退窮まって、大頭目つまり宰相ワドルフとの利害が一致、つまり、、、」
「アイツにとって殺人は「娯楽としての趣味」なんだよ」
「……お、お前は! いったい何なんだ!?」
「色々とな、キー、繰り返すとおりアンタのことは「信頼」しているよ、だから金級闘士に昇格した際には引き続きお前に仲介を頼むぜ」
絶句するキーだったが、もうあきらめた様子で「そうか、頑張れよ」とだけ言い残して部屋を後にした。
「なあ、兄貴、キーのことを信用し過ぎじゃないか?」
立ち去った後の扉を見て、メーバルがこぼす。
「キーは、まぁ表立ってクズな行為はしないが、表立ってってだけで裏じゃあ相当あくどいこともしてる、所詮マフィアだぜ、ロクでもない奴さ、まあチンピラの俺が言うなって話だが」
「もちろん分かっているよ、性根は腐っている、だが利用価値がある」
「それはお互いだと思うけど」
「だからだよ」
「え?」
「利用価値というのはあくまで「自身の器量の中で利益をもたらす事が出来る」ということだ」
「あ、ああ、それで?」
「ピンとこないか? 金の話で例えよう、お前さ、道端で身に余る大金が落ちてたらどうする?」
「どうするって、そんな金はおっかなくて使わねえよ、どうせマフィアの金だ、ネコババしたら何をされるか分からん。放置するか、それこそスラムの統括のキーに報告する、うまくいけばその中から「小遣い」が貰える」
「……その金が最初は「はした金」程度に見えたら? それこそマフィアの落とし物だとは思えない額程度だったら?」
「…………」
言いたいことの意味が少し理解しつつも。
「な、なあ、兄貴の目的は何なんだ?」
「もう少ししたら話すよ、お前はコンビだからな、さて金級昇格戦、頑張らないとな~」
そんなこんなで俺は次の金級昇格戦。
「勝者! ネホバ・キッド!!」
作業のようにワンパンで決めた。




