第56話:悪趣味な興行戦
「右ストレートでぶっとばす、まっすぐいってぶっ飛ばす」
と俺の挑発に殴りかかる相手。俺は後ろに回り込み、手拳で一発殴打し、そのまま相手は失神した。
時間にして30秒程度。
【勝者! ネホバキッド!! これで無傷の3連勝!! これは銀級も近いか!!】
「なあ、今の相手はデビューから三連勝中の売り出し中の奴だったよな?」
「これは久しぶりに大物が来たんじゃないか?」
「銀級昇格戦も近いなこれは」
「もしやるんだったらネホバに賭けるか」
とまだまだ前座だが、観客も最初に比べて少しづつ増えてきている。
●
「そ、それにしても、兄貴、すげえな、全部ワンパンって、確か今の相手は流れ者だが母国では徒手格闘でかなりならしているって聞いたが」
「言っただろ? 強さだけは自信があるんだよ」
「……なぁ兄貴」
「なんだ? 神妙な顔をして」
「俺は兄貴についていく」
「……まだ早いんじゃないか?」
「いや、早くない、むしろ遅いぐらいだ」
「遅い?」
「想像以上に注目を集めてきてるってことだよ、要は兄貴を自分のところに引き込みたい有力者がちらほらいるってことさ」
「そうなのか?」
「例えば有力マフィアが自分のお抱えにしたいとかな。後は直属のボディーガードになったりとか、地下闘技場の闘士の出世コース。だから兄貴がそっちに傾く前に今兄貴に認められないとな」
「…………」
一緒に過ごしてきた分かったが、メーバルは目端が利くというか気が利くというか、その動きは見て取れる。
「だから兄貴、今度は俺の番、コンビとしてして欲しいことはなんだ?」
と問いかけてくるメーバルに俺は一瞬間を置くと。
「今後俺が地下闘技場の闘士としてやっていくにあたり「俺にとって有益な情報の収集」をお前に頼みたい」
「…………」
「いいか? 有益な情報の定義はあえてしない、お前が考える俺にとって有益な情報を収集しろ、できないのならコンビは解消だ」
とブラック企業あるあるな指示、出す側にとって如何様にも解釈出来る指示、ともすれば最低の部類だが、どう反応するかな。
「……兄貴」
「なんだ?」
「朗報が一つある、兄貴の次戦は銀級昇格戦だ」
「……へぇ」
「言っただろ? 舎弟はこれでも多い方でね、暗黒街で働いている奴も多い、繰り返すとおり兄貴のことは既に噂になっている。つまりマフィアの幹部達が久しぶりに金になる闘士が現れたって騒いでいて、昇格を今日の勝利で決めるってことだ、内容は文句なし」
「そりゃあ目出たい」
「ただ気を付けてくれ、銀級闘士の昇格試合の相手は同じ銀級闘士だが向こうからすれば「降格試合」でもあるってことだ、負ければ降格する」
「なんといっても銀級を境に待遇は格段に良くなるからな。桁が違う報酬に複数の部屋を兼ね備えた居住区、各「遊び場」への出入り許可、この報酬があれば女だって抱き放題だ」
「だからどんな嫌がらせ手段をしてくるのかは分からない。毒を盛るなんて普通にやってくる、だがマフィアは試合中以外の不正行為には関知しない、その自衛も含めての銀級だってことだよ」
「なるほどね」
「後もう一つ、これは有益かどうかは分からないけど」
「言ってみな」
「昇格戦の日程は現在協議中だが、少なくとも明日の兄貴の試合はない、その代わり、興行戦がある、チケットは滅茶苦茶高額なのに即完売した」
「なにがあるってんだ?」
メーバル、興業試合の内容を説明する。
なるほど、面白いという言い方はあれだが、、。
それにしてもメーバル、一緒に過ごす上で意外、いや意外ではないか、最初からあったけど、圧倒的コミュ力が強みなのだな。
コミュ力。
これもまた才能であるという他ない。
仕事ができるという意味において、皆が創造するのは実務能力だろう、だが実際はこのコミュ力もまた「仕事ができる」という能力であることだ。
極端な話、実務なんて全くできなくても、これだけで廻っていく、しかもコミュ力は仕事の分野を問わず万能の力だ。
実際メーバルは数日であっという間に友人を作り情報網を獲得、今回の対戦相手の身の上話から寝技が弱点もしっかりと把握してきた。
そうだ、俺もこのコミュ力に負けて相棒となっている。
何より根っこのところは良い奴だから必然的に恨みを買う事も余り無いのだ。
そんな事を考えていると、すっとメーバルはチケットを1枚俺に差し出した。
「……お前それ何処で?」
「伝手、席は最後列だけどな、ただ兄貴、これは今日中に決めてくれ、無理を言って「割り込み」をしてもらったんだ、だから今日中に決めてもらわないとこのチケットは別の人間に渡す手筈になっている」
「いくらだ?」
「コヴィスト金貨3枚、ま、高額すぎるから無理だとは思ったんだけど」
どさっと俺は皮袋に入った金貨100枚を置く。
「…………」
絶句するメーバル。
「チケット代として金貨3枚、そしてお前への報酬として同じ金貨3枚、それと必要経費を持っていくがいい、それと残りの金は今後の活動にあてろ」
「……多すぎだぜ、分かってんのかよ兄貴、俺はチンピラだぜ? 持ち逃げしたところで「兄貴が馬鹿」だと言われるがオチだ」
「それならそれで構わんよ、そのとおり「俺が馬鹿」って話だ、俺は投資を惜しまない主義なんでね」
「……兄貴は、ホームレスじゃないのか? こんなの何処で?」
「? ただ者じゃないから近づいたってのはお前の言だろ?」
「…………」
「さて、まずは悪趣味な興行とやらを楽しもうとしよう、その前に」
「よろしくな、メーバル」
と手を差し出す。
「あ、ああ! なんでも言ってくれ! なんでもやる!」
と固く握り返してくれた。
●
古代においても戦いとは興行であり、公認のギャンブルとして主催者は利益を得ていた。
古代において興行として殺し合いの戦いは認められていたものの、数はさほど多くなかった、それはそうだ1人の闘士を育てるのだって時間と金がかかるし、単純に割に合わないからだ。
だから命の取り合いの戦い合意が必要なのは当たり前だったりする。
んで、俺が言った悪趣味とはその合意の意味に由来する。
今日の闘技場は異様な熱気に包まれていた。
ざっと見渡しただけでも普段の客層とまるで違う上流階級の顔ぶれが見て取れる。
【さあ今宵は紳士淑女の皆様方に特別な催しを提供いたします】
いつもと代わり慇懃に解説をする男。
【まずこの試合に臨む勇敢なる闘士3名を紹介しましょう】
と指示した先に、顔面蒼状態の男3人がいた。
ん? あの男は、、、。
【まずこちらの二人は、先日勇敢にも我々が経営しているカジノでイカサマをした不届き者であり、そして残る1名は遊廓で遊女を連れ出そうとした色男です】
そんな紹介にくすくすと笑い声が木霊する。
やはりそうだ、メーバルと捕まえた男だ、とっくに殺されたのかと思ったが成程、こういう風に使う訳か。
【無論このまま処断してもいいのですが、それではあまりに無慈悲、そこで我々は救済の機会を設けました!】
【それが、今回の対戦相手に勝つこと! 無論彼らには、希望するあらゆる武器を持たされています。彼らは今回の対戦相手に勝てば無罪放免はもちろん、多額の報酬と色男には遊女との駆け落ちも認めましょう!!】
との言葉に拍手が巻き起こる一方で、当の男達3人は、慣れない武器を持たされて明らかに震えている、、、。
【さて、それでは対戦相手に登場していただきます、さて相手が相手なだけに、私は場外へと退避させていただきます】
と場外への退避が終わったところで合図が上がり、普段とは違う大扉が開き、それは登場した。
「きゃあ!」
「うわ!」
「すご、、」
「きもちわるい」
と悲鳴に近い声が木霊する。
そんな相手は。
5メートルはある8本足の巨大な昆虫型の魔物だった。
その魔物は、、。
凄まじいスピードで観客に襲い掛かり「ドン!!!」と透明の壁にぶつかり攻撃を続けている。
「「「きゃあああ!!!」」」
【皆様落ち着いて下さい! この透明の壁には結界が張られておりお客様の安全は保障されています!!】
と次の瞬間だった、昆虫型の魔物はそのまま今度は攻撃をするわけでなく、一点を見ると後ずさりという形で背中を壁に付ける。
その視線の先にいたのは。
【皆様! ご覧ください! 地下闘技場の頂点、ただ1人の白銀闘士! 現役のクラスA冒険者! そしてここの副頭目!! ワーニッツ・コルドランです!! 今回の魔物もワーニッツが捕獲しました!!】
その解説の言葉に一瞬にして静まり注目を集まるも、ワーニッツは壁に寄りかかり睨みをきかせていた。
「…………」
明らかに気おされている魔物。
このままだと殺されると思ったのだろう、ワーニッツが意図的に殺気を外している先に立つ3人の男を見つめる。
【さあ皆さん戦闘開始です! 男達3人の勝利を願ってください!】
との言葉で試合が開始される。
(それにしても、えげつない魔物を選びやがる)
あの昆虫型魔物の捕食方法は、二本の巨大な腕で獲物を確保して、口に巨大な針に溶解液を流し込み、それをすするというもの。
(しかもあの魔物は多分、、、、、)
「やってやるあぁあ!!」
と俺が捕まえた男が一番槍と雄たけびを上げた瞬間。
一瞬にして距離を詰められ、両手をハサミで取られる。
「…………」
男を見る無機質な目。
「や、やめ」
という間もなく、ぶすりと刺されると。
「ギョスブレイブヤフ!!!」
そんな声にならない声で、液体を注入される、けいれんして震えて、目がグルンと上を向き、その目から口から耳から肛門から、ありとあらゆる穴が~溶解液が吹き出して零れ落ちる。
溶解液は強力だから、内臓は簡単に溶かされてすぐに液体状になるから、ほぼ即死なのが幸いしたか。
そのまま口でズズッとすすっている魔物。
昆虫は実は一つの事しかできない、だからここが最大のチャンス。
こんな感じでクラスCは強さは桁外れといえど、明確な弱点を持つのだが。
「うわああああ!!!」
と今度は色男は剣で切りつけるが、、、。
それでは駄目だ、急所を刺さないと。
剣は傷をつけるも軽傷にしかならず、攻撃を受けた魔物は獲物をずるりと落とすと再び無機質な目が斬りつけた相手に向く。
その色男は視界に中身が溶かされた男が目に入り。
「い、い、、」
「いやだぁああああ!!!」
と背を向けて逃げ出そうとした刹那、再び魔物に距離を詰められて、、、。
その時の闘技場は奇妙で、静まり返っていた。
熱を帯びた無言の視線が注ぐ。
時々軽く悲鳴が上がるだけで、性的興奮に似たようなギラついた眼は、終始、この悪趣味な劇場の背景として彩っていた。
そんな中、俺は、、、、。




