第52話:快適なスラム生活と
――スラム街
スラム街。
定義は貧困層が居住する区域、若しくは貧困層の対策として居住地を与える為に建てられた建物の一群の意味。
コヴィスト王国のスラム街は後者、低層階のプルーイットアイゴーのイメージだと考えてもらって差し支えない。
ここは4階建ての荒廃した小さなアパート前の路上。
「ようネホバ、なかなかいい仕事していたじゃないか」
と人相の悪い男が俺に話しかける。
「てやんでぇ、喧嘩だけが唯一の俺の自慢だからな」
「喧嘩が強いのは良いことだぜ、ここじゃ何でもいいから長所があれば生きていける、ほらよ、先の仕事の報酬だ、確認しな」
と金を渡される。
「ひーふーみーよー、いつむーななやーって今何時でい!?」
「なんだそりゃ?」
「落語だよ、落語、俺の祖国の娯楽の一つ、色々な「噺」に洒落たオチがついて笑わせたり感動して泣かされたりするのさ」
「ここじゃ洒落たオチもつかねえよ、泣かされてばかりだ」
「なあキー、俺の腕見ただろ? だから儲かる話があれば教えてくれ、なんでもやるぜ」
「言っておくが、喧嘩絡みで俺にそれを頼むってのは、命の保証はないぜ」
「のぞむところだ」
「わかった、考えておく、また頼むぜ」
と言いながら挨拶してキーと俺は別れた。
●
「~♪」
さてさて、数日ぶりの収入、馴染みの飯屋にでもいくか~。
と思って通りを歩く。
さて、俺、カグツチ・ミナトははネホバ・キッドという偽名を使ってコヴィスト王国に入国し早一ヶ月が経過した。
スラム街というと犯罪の温床と言われており治安については最悪のイメージが強い。
それは一概には否定できないけど、どの世界でも秩序というものが存在するしルールというのも存在する。
簡単に言えば物見遊山で来た観光客なんてスラム外の住民からすればカモ意外何者でもない。
だけど住民同士の場合は損にならない範囲でお互いに相互補助の関係だったりする。
とはいうものの。
「…………」
俺は歩みを止める。
何故なら若い男が俺の進路を立ちふさがり睨みつけていたからだ。
「なんだよ? ああ、あれかい? 金を受け取るところを見ていたか?」
「…………」
若い男は答えない。
ふんふん、これはカツアゲかな、とまあもちろん、こんな感じでチンピラがカツアゲしたりとか言った具合に、日本でも発生する犯罪被害は当然にあるけど。
まあ、コヴィスト王国の憲兵はこんなスラム街になんて見回りに来ないし、勝手にやってろとばかりだけど、俺にとても好都合だったりする。
あれ、この男をよく見てみると、、。
「見たところガキかお前、それにしてもカツアゲとは万国共通センスがない」
「…………」
「おい、喧嘩を売る相手は」
と思ったら男はガバっと頭を下げた。
「??」
「アンタ強いんだろ!? だから俺と組まないか!?」
「は?」
――飯処
スラム街だって衣食住はあるし、その食を提供する店だって存在する。
ここの飯処はちゃんと味がして格安で提供してくれるおんぼろ店、まあ至る所にゴキブリが徘徊しているが気にしてはいけないし、気にする奴もいないが。
「兄貴! 俺はこんなところでおわりたくねーんですよ!!」
と目の前で飯をガツガツ食いながらそんな事を言う男。
彼の名前はメーバル、まあ本名かどうかは分からないし、どうでもいい。
コイツはここら辺を根城にするチンピラ達のトップらしい、喧嘩だけが唯一の自慢の負け知らずで、いつか成り上がるつもりらしい。
という話を既に3回はしている。
「兄貴!」
「だから兄貴って呼ぶなよ、ったく、それ食ったら帰れよ」
「帰らない! 俺1人じゃどうにもならないってのは分かってんだよ! だから組もうと言ってんだよ!」
「…………」
あの後、普通に「組まない」と回答したら、舎弟でお願いしますとか訳の分からんことを言われて、結局押し切られて飯を驕る羽目になった。
(ある意味カツアゲの方がよっぽどましだったかもしれない)
「兄貴」
「だから、兄貴じゃないってば」
「じゃあ、何て呼べば?」
「俺の名前はネホバ・キッドだ、どっちでも好きな方で呼べ」
「ならネホバの兄貴、どこから来たんですか!?」
「何処だっていいだろ、流れ者だ」
「ネホバって本名?」
「偽名、ってなんで俺と組もうとか思ったんだよ」
「兄貴はさ、キーさんに紹介された仕事いくつかこなしているよな? さっきの報酬をもらった仕事、俺の手下の1人が一緒にやっていてな。そいつが兄貴のことはただ者じゃないと言っていたんだ」
「ふーん」
メーバルの言うとおり、先ほど話していたキーという仲介屋から仕事を斡旋してもらい食いつないでいる。
斡旋された仕事、それは簡単に言うと、、。
カジノでのイカサマ客の確保とマフィアへの引き渡しだ。
クズがクズの処分を更に下のクズに依頼する。
ここでいう更に下のクズってのは俺や目の前にいるメーバルだ。
それで得られる金は、こんな感じで飯代で消える。
ついでに言うと、あのキーって男はマフィアの構成員だ。
「あのイカサマ客は、暗黒街のカジノでイカサマするだけあって腕に覚えのある感じだったし身のこなしも凄かった。そん時にさ、確保する時に全力でボコるように見えて滅茶苦茶手加減していたという話じゃないか」
「そういう「ハッタリ」だよ、実際はビビッててヘトヘトだったさ」
「嘘だな、そのイカサマを逃げた後の索敵能力も凄まじかったって聞いた、だから興味を持った、直接会ってみたいってね」
「幻滅したろ?」
「いや、俺の見立ては正しかったと再確認したところだ、俺には分かるんだよ、兄貴は凄腕だってな、それこそ暴力で身を立てられるレベルだ」
「あのなぁ、仮に俺が暴力に長けていても、暴力で身を立てるって最底辺層だぜ? 誰でもできるから誰からも馬鹿にされて見下される、それが暴力ってやつだ」
創作物語で、強さは正義ではあるが、それは創作物語だけの話。
実際は今述べたとおり、現実では馬鹿にされて見下される。
日本で言えばヤクザの構成員になれたとしても「チンピラヤクザ」の立位置だと解釈すればいい。
「でも兄貴は、さっきキーさんに言ったとおり、それで身を立てるつもりなんだろ?」
「まあ、、な」
「それにわかるぜ、ここで暴力に自信があるやつが何を目指すのか、それは名を上げてワーニッツに取り入るつもりだろ?」
「…………」
「隠したって分かるぜ! 現役のクラスA冒険者であるワーニッツ・コルドラン! 戦闘力は同クラスでもトップ5に入る! そしてこの暗黒街の王! 金も女も全部が思いのまま! まさに暴力でも極めれば貴族レベルになるってことだよ! だから側近にでもなれば!」
「…………」
「ネホバの兄貴?」
「お前分かってんのか? 確かにワーニッツはクラスAだが世界ギルドから指名手配されているんだよ」
「もちろん知ってるよ、だから仕事があるのさ、ここは「そういうところ」だろ、ネホバの兄貴」
「はぁ~」
世界ギルドの指名手配。
素行不良者はなにもマフィア等に限った話ではない、当たり前の話だが、どの分野でも素行不良者は存在する。
そして神様は、才能を与える人物に対して「素行」は選定項目に無いのは周知の事実。
ワーニッツ・コルドランはその典型例だ。




