第51話:クラスS冒険者へ依頼する覚悟と、、
――宰相・執務室
アマテラス3人が、玉座で親交を深めている時、宰相は自らの執務室にいた。
宰相。
王族を除いた国民のナンバー1。
彼は執務室にて側近達と会議を開いていた。
「アマテラスへの依頼は成功したのではないのか?」
宰相が諜報部隊の隊長に問いかけるが、戸惑った顔をしている。
「その筈だと思いましたが、あのアマテラスの3人が今日訪れることを本当に王族たちは知らない様子でした。色々と調査をしてみましたがあれは演技ではないようです」
「他の者は?」
ここで王国研究所の所長が発言する。
「ティンパファルラ殿は「遊学」と言っていましたが、本当にそんな感じで。講義を頼んで会食を終えた後は図書館にずっとこもっていましたね、特に何かを探るというか、そんな様子は一切ありませんでした」
続いてフェノー教主教が発言する。
「お布施はかなりかかりましたが、予定していた方々への回復魔法の施しは全てやってもらいました。体調不良も無く、経過はすこぶる良好で全員が称賛していました、流石一流の魔防使いですね」
ここで宰相も発言する。
「私の方もアル王子は、突然の来訪に戸惑うばかりだったな。これはどういうことなんだ? 王族たちは私を失脚させ、王権復権を目論んでいるのではないのか?」
問いかけた時だった。
「そりゃあクラスSだからねぇ~、そこら辺の冒険者と一緒にしちゃだめだよ」
と少し小馬鹿にするような口調に空気が凍り付く。
「……珍しいな」
という宰相の言葉の先に立っていたのは長身痩躯の1人の男だった。
「俺も幹部だからね~、参加はするさ」
「……そこら辺の冒険者と一緒にするなとは、どういう意味だ?」
「クラスSはね、ただそれだけで、ログ地帯にある国なんて簡単に潰せるんだ。もちろん政治的にだけじゃない、物理的にも潰せる。もちろんコヴィスト王国も例外じゃない」
「……なんだと」
「存在自体が反則な奴ら、それがクラスSだよ」
「……お前のその言い方だと、既に我々が負けるように聞こえるが」
「実際にそのように言ったはずだよ、だから俺はここに来たのさ」
「となると今回ばかりはお前も同様という事だな? クラスA冒険者、ワーニッツよ」
「あ?」
挑発的な剣呑な雰囲気になる。
「別にお前を侮っているわけではない、相手は今お前が言った存在自体が反則とやらのクラスSだぞ、しかもドラゴン討伐についての噂、お前なら私よりも詳しく知っているのではないか?」
「まあ確かにアンタは分かっていないね」
挑発を返すワーニッツ。
「そもそも論として、カグツチのドラゴン討伐は色々と不自然な点が多いのさ」
「…………」
「まあいいさぁ、俺は口喧嘩と弱いもの苛めが大嫌いなんだよ、暗黒街での「俺の王国」はアンタのおかげ、俺は強い者苛めが大好き、それゆえの利害の一致さ、カグツチは面白そうだ、だから狩りに興じるさ~」
と一方的に告げて立ち去り、気配が消える。
すっと緊張感が解ける。
「……あんなタカが外れた獣、信用に値しますか?」
「するわけないだろう、ただ強い者苛めが好き、というのは本当だ、だからカグツチにちょっかいを出すつもりだろうな」
「その為だけに生きる、反吐が出るような奴ですが、、、、」
ここで違う幹部が発言する。
「クラスS、、、、次元を超えし者、宰相、アイツの言葉に賛同するわけではありませんが、私にはよく分かりかねます」
「取るに足らないことだよ。伝説とは往々にして事実とは異なるものだ、カグツチの場合は特にそうだ、つまり」
その報告を受けて宰相は満足げに微笑む。
「傀儡先を私から冒険者に移しただけということだ、むしろ好都合、冒険者風情を利用した事を逆に吊るし上げて利用すればよい」
という宰相の言葉に失笑する面々。
「いずれにしても、どちらに転んでもいいようにしておく、こんな国に未練などないからな」
――2週間後・玉座
玉座を活動拠点として、活動を開始したアマテラス3人。
ティンパファルラは、知恵の樹で国の情報収集。
その情報を元に、ジウノアは大主教という立場を活かし、クォイラは子爵家の国賓としての活動を経てヒューミントで知恵の樹では得られない情報を得る。
そして滞在して2週間後、、、。
「…………」
アル王子はクォイラから手渡された資料を見て絶句している。
「アル王子」
「は、はい!」
「何か質疑があればどうぞ」
「え、ええ、、、質疑って」
今日突然手渡された資料、それはヴァルフについてだが、、、。
王国の法律に触れる数々の犯罪が書かれている。
魔石の横領なんかは公然の秘密状態であり、こちらが手を出せない状態であったが、それも全て、証拠付きで記されているのだ。
これで、、、、。
宰相を始めとした有力諸侯の腐敗は明るみに出て、一掃することができる。
え? 本当に?
自分は何もしてない、いや、何もしていないということをしていた?
現実感のない資料に呆然とするしかないアル王子は3人を見る。
クラスSの冒険者としての活動スタイルは、それこそ千差万別である。アマテラスのように少数精鋭から多数でクランを組むスタイル等特色が出る。
クラスSは次元を超えし者と称される。
その次元を超えし者と称されるクラスSの信頼と信用を得る側近冒険者達。
その冒険者たちはクラスはSではないというだけで、その全てがクランを立ち上げればそれだけで「勢力」としてカウントされる程の超凄腕たちだ。
そう、だからこの展開は当たり前というだけで。
だから終わっているのではないか。
後はこの証拠を、、。
「兄さま」
「!!」
とリシア王女が話しかけて我に返るアル。
「兄さま、この資料についての質疑が無いのなら、この資料の持ち出しについての許可を伺ってみてはいかがでしょうか?」
「お、おお! そうだクォイラ嬢」
「その前にいいですか? リシア王女」
遮るような質問にアル王子が戸惑う。
「……私に、ですか?」
「はい」
「なんでしょう?」
「この資料についての貴方の考えを聞かせてください」
「…………」
「…………」
しばし見つめ合った後。
「すぐにでも公開するべきだと思います」
と笑顔で発言する。
「……ほう?」
「これて全ての懸念事項が解決します、晴れて宰相は失脚し腐敗した諸侯を追い出す事が出来て、王権復権が叶えられるかと思います」
「…………そうですか、リシア王女」
「なんです?」
「0点ですね、その回答は」
「まあ、私のに何か至らない点でも?」
「大変失礼ですがカードは持っていても切る能力が無くては意味がないのですよ、あの狸親父がどう出てくるかは見当がついていますが、それに対抗できる手段がない、それが今の窮状ではないのですか? このままではもみ消されるのがオチですよ」
もみ消し。
世界中にある「犯罪等不祥事のもみ消し」について述べてみる。
とはいえ「もみ消し」なんて言葉は言ってしまえばチープだ。
何故なら世界では金や立場や地位で量刑が左右されたりする国がザラだし、むしろ「金をたくさん払えば罪に問われない」なんて国の方が普通だったりする。
つまりもみ消し自体が「悪」と見られる事が無いのだ。
こういう事は日本で住んでいるとピンとこないと思う。
もみ消しとは事例が違うが、量刑が左右されないという意味で分かりやすい例えを出すと「財界の大物である自動車メーカーCEO」が国外逃亡せざるを得なかったといえば分かりやすいだろうか。莫大な資産も高い地位も役に立たないのだ。
更に悪いことにコヴィスト王国は、暴力装置が「寡占状態」にあるのだ。
日本も例に漏れず暴力装置は国家が「独占」するのが近代国家以降普通の運営方法だ。ルザアット公国も同様のやり方をしている。
しかし寡占の名のとおり、コヴィスト王国は複数の暴力装置が存在を許してしまっている。
要はヴァルフと王族で別の暴力装置を所持しているという点、そしてヴァルフの方が強い暴力装置を持っている点。
「結果、ヴァルフを罪に問えないという事です。しかも我々が関与していることで揚げ足を取られかねない、繰り返すとおり我々の指示に従ってください、理解しましたか?」
「なるほど、流石聡明です、なればクォイラ嬢、今後、私たちはどうすれば」
「どうというより、普通に過ごしてください」
「クォイラ嬢、質問をよろしいですか?」
「なんでしょう?」
「ルデエル姉さまが依頼を受けて以降、現在に至るまでの指示は全てカグツチ・ミナトの指示によるものなのですか?」
「指示は受けていますが、原則は現場での私達の対応は委ねられていますね」
「んー」
「何か?」
「ひょっとしてカグツチ・ミナトが今どこで何をしているかご存じない?」
「……おっしゃるとおりです」
「え!?」
とアル王子は驚く。
「本当ですよ。カグツチは情報統制は仲間にこそ必要だと常に強く言っていますから、何かあれば向こうから連絡が来る手筈になっています」
「…………」
絶句するアル王子だったが。
「そ、それならクォイラ嬢たちは、これから何を」
「バカンスです」
「…………はい?」
クォイラの言葉を受けてファルも頷く。
「アル王子、知っているかい? カグツチの故郷の諺にこんな言葉がある「果報は寝て待て」と、てなわけでボクは引き続き趣味に没頭するんでシクヨロ♪」
とゴーグルを付けて泳ぎ始める。
そのファルを見て隣にいるジウノアも手を上げる。
「王子、ここの肉料理は絶品って聞いた、シェフに言ってフルコースお願いね」
ジウノアに続いてクォイラも発言する。
「ここは麦酒が素晴らしいものがあると聞きました、リストを作ってきたので用意をお願いします」
「…………」
コヴィスト王国は数十年続いた前国王と宰相の悪政に苦しめられていた。
その結果、裕福なものは一部だけで、一歩裕福層の居住区を出れば荒廃した景色が広がっている状況にまで国力が後退している。
その圧政を覆そうという「クエスト」にアマテラスは冒険者としてのスタンスを崩さない。
ここでアルはぞっとする。
もし、今目の前にいる3人、いや、アマテラスが敵だったらどうだったのだろうかと。
圧政に苦しむ我々に、アマテラスが敵だったらどうだったのだろうかと。
カグツチ・ミナトは、今回の依頼を受けた時、最後にこう付け加えていたという。
――クラスS冒険者は、正義の味方ではない




