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第49話:クラスSが求める覚悟を決めるって意味


――コヴィスト王国



 ログ連合地帯、政情不安定な国が多く、新興国家が成立しては倒産する区域。


 その中で最古の歴史を持つ王国。


 同王国中心部には宮殿があり、そこには「玉座」と呼ばれる聖域があった。


 王座とは、王族の許可を得なければ入ることを許せないいわば聖域を指す。


 先日、その玉座にルデエルの帰国の報があり、王族の1人であるアル王子は、まだかまだかと腕を組み歩き回っていた。


「落ち着いて下さい兄様」


 となだめるのはアルの妹、リシナ王女だ。


 とはいえリシナはアルの様子を見て無理からぬことだと理解する。


 現在、コヴィスト王国は窮地に晒されている、宰相ヴァルフの専横を許し、富を独占され、暴力装置も手に入れている。


 この状況は前国王の悪政が元凶だ。


 王位継承戦で勝利後、当時幼かった3人を残して処刑及び追放、その全ての富を上流階級にのみ集中して庶民に還元する流れを絶ってしまった。


 王族として残された幼かった3人はなす術がなかった、そしてその悪政はヴァルフに付け入る隙を与え、王族たちは事実上の名誉職に追いやられてしまった。


 逆に前国王の悪政とヴァルフの専横で3人は前国王の崩御の後も王族から追放されなかった理由になったのは皮肉意外何者でもないが。



 その王も居なくなった現在、1人の専横は国力の洒落にならない程の国力の低下を招いており、治安も悪くなり、国力の低下で他国からの侵略を招くリスクも跳ね上がった状態である国家の緊急事態、コヴィスト王国は既にその状態を危惧する事態となっている。


 本来であれば、王国のとおり、対処をするのは王族の勤めであるが、現在王族は、アル、ルデエル、リシナの3人のみで対応できない。


「俺達が最後の王族だ、なんだって利用してやる」


 冒険者に対しての活路を求めるのも本来では恥であるが、衰退しきっているとはいえ、それでも3人からすれば愛する国、救いたいという思う気持ちに偽りはない。


「報告します!」


 と玉座の外で近衛兵が声を張り上げる。


 これは合図、アルは玉座から出て近衛兵の前に立つ。


 近衛兵は、そのまま傍に控えた。


「ただいま戻りました、アル兄様、リシア」


 とルデエルが首を垂れる。


「ルデエル!!」


 王座に現れたルデエルを両手を広げてアルは歓迎する。





「どうだった! 首尾は!? カグツチミナトへの依頼は出来たのか!?」


 玉座の中に入ったルデエルに対してアルは問いかける。


「…………」


 ルデエルは、深刻な表情で、その表情を見たアルもまた表情が曇る。


「やはり、無理だったか」


「いいえ、兄様、ガクツチ・ミナトに依頼をすることに成功しました」


「そ、そうなのか!! これは凄い!! 世界に名だたるクラスSが我々の味方になるのか!!」


 と興奮する兄を余所にルデエルはその深刻な表情を崩さない。


「ど、どうしたんだ? 依頼は成功したのだろう?」


「兄様」


「な、なんだ?」


「我々は覚悟を決める必要があるかと思います」


「え? 覚悟?」


「はい、クラスSに依頼するという事です」


「な、なに?」


「カグツチ・ミナトは、我々に覚悟を決めろと言いました」


「む、無論覚悟は」


「いいえ兄様、おそらく想像されている覚悟は違うと思います」


「え?」


「依頼の交渉はすでに終えております。その際に、アマテラスが出した「条件」と「報酬の内容」にその覚悟の意味が込められていました」


「…………」


「結果、それを全て飲む形となりました、それが依頼を受ける条件でもあったのです」


 淡々と述べるルデエルだったが、今のルデエルの言い方は、それは、、。



 交渉事においては完全敗北を意味する。



「……ルデエル、お前」


 その意味を分かっているのだろう、ルデエルはむしろ吹っ切れた表情をしている。


 その表情を見てまたアルはまだ戸惑っていたが。


「兄さま、まもなく、その意味を理解するかと」


 と言い終えた時だった。



「報告します!!」



 と近衛兵の声が玉座の外で木霊する。


 アルは、王座から出て衛兵に応対する。


「なんだ?」


「ルザアット公国外務省より通達! アルスフェルド子爵家のクォイラ嬢が使用人を連れて現在我が国に向かっているとのことです!」


「アルスフェルド子爵家のクォイラ嬢、、、」


 今まさに話していたアマテラスのメンバーだ。


 しかしアルスフェルド子爵家の名前で来るのか、爵位こそ下位貴族に属するが、王国の玄関口として絶大な影響力を持つ名家だ。


 クォイラ嬢はその当主の娘、なれば万が一の粗相も許されないし、国賓待遇をしなければならないが。


「王子、我が王国各諸侯より問い合わせが殺到しており、その対応を」


「報告します!!」


 とまた別の衛兵が入ってきた。


「こ、今度は何だ?」


「賢人会本部より我が国の支部に向けての通達! ティンパファルラ殿が我が国に向かっているとのことです!」


「ティンパファルラ殿って」


 賢人会、世界最高の頭脳集団であり、世界の各分野の最先端を扱う世界中の学者からの憧れの的だ。


 所属するだけで名誉であり、コヴィスト王国は決して学術水準は低くないが、その賢人会所属の学者は誕生していない。


 しかもティンパファルラは、当時最年少で入会を認められ、普通なら潜ればそのまま戻ってこれず廃人になる知恵の樹の深淵と呼ばれる場所に潜り「生還」することが出来る数少ない人物の一人だ。


「我が王国の学者たちから問い合わせも殺到しており」


「報告します!!」


 今度は別の衛兵が入ってくる。


「な、なんなんだ!」


「フェノー教総本山より通達! ジウノア大主教が我が国に向かっているとのことです!」


「ジウノア大主教、、、、」


 フェノー教。


 世界二大宗教の一つ。


 世界中に教会を持ち、総本山はそれだけで一つの国として機能する程の力を持っており、回復魔法使いについては寡占化状態を実現し、勢力を拡大してきた。


 フェノー教の勢力拡大した最大の要因は「実力主義」を徹底した事。


 回復魔法が使える時点で「輔祭」の地位を得ることができ、才能があれば政治力無しで幹部になれる事。


 世界的な組織でこれを導入し発展したのはまさに革命的で、野心ある回復魔法使いが多数入信することになったのだ。


 ジウノア大主教は、自分のやりたいことができるからという理由で入信し、冒険者として名を上げることで立場を上げ、その飾らない性格から下からの人望は厚い。


 そして先日の枢機卿失脚でルザアット公国フェノー教の最高幹部にまでなった。


「王子、我が王国のフェノー教主教より面会の申し出と問い合わせが周辺各国から多数きておりますが」


「…………」


 アル王子は呆然としている。


 アマテラスのメンバー、その3人がここに集結している。


 しかし、しかしだ。



 アルは、その報を聞いていない。



「ルデエル、なぜ、3人が来ることを、帰国する際に知らせないと、、、、」


 と問いかけて思い出す。



 ガクツチミナトの「覚悟」の内容を。



「ま、まさか、ルデエルよ」




「今回のアマテラスの動きについてお前は何か知っているのか?」




「…………」


「ルデエル! ガクツチ・ミナトは何処にいる!?」


「存じません」


「っ!!!」


 バッサリと答えるルデエルの言葉に、、。


「いやぁ、困りましたな」


「「…………」」


 それに呼応するかのように、能天気な口調と共に現れた1人の男。


 ヴァルフ宰相だ。


「アマテラスの3人が一度に入国、これは非常に珍しいことですなぁ、しかも王族の方々はそれを知らなかったとみえる」


「…………」


 白々しい口ぶりのヴァルフにアル王子は睨みつけるだけだ。


「いやはや、まあクラスS冒険者ともなれば、常識の範囲外で生きているのでしょうなぁ、わかりました、段取りは私がしましょう」


「まずクォイラ嬢はアルスフェルド子爵家と我が国の王族の交流は発展の礎となりましょう。次にティンパファルラ殿は我が国の学者や学生が色めき立っております故、王立研究所へ是非臨時講演を依頼しましょう。ジウノア大主教は、下々の者にとても人気があり、その優れた回復魔法を受けたいという有力者もたくさんおります故、会談でも手配しましょうか」


「ヴァルフ宰相! 貴方の手を煩わせるまでも!」


 とアルの前に出るのはルデエルだった。


「理解しました、確かに貴方に任せれば問題ないでしょう、本当に一任してもよろしいのですか?」


 ルデエルの言葉が意外だったのだろう、ヴァルフは大きな腹を揺らす。


「……おお、おぉ! やっと私のことを理解をしていただけましたか、承りました! このヴァルフ、全責任を持ってもてなしをしましょう!」


 と言いながら満足気に王座前を後にした。


「ルデエル! 何故!」


「兄さま、今回の件についてカグツチ・ミナトはこう言いました」



――今回の件について王族は何もしない事



「ぐっ、、、、だが、それは、、、」


「更にカグツチ・ミナトはこう言い放っています」


 遮るような言葉に絶句するアル。


 それは、、、。






――何も聞くな





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