第44話:もう駄目だ、死ぬしかない、、、
――クォイラ邸
「まったくお前はーー!!」
「まあいいじゃないか、あのルードとは仲良くしておいた方がいいさ、切れ者だし、憲兵にしては柔軟、更に幹部学校卒のエリート、パイプは保持した方がいいし、それに何より、色々と勘づいている様子だね」
「まあな、色々と便宜は図ってもらっているし、立場抜きにしてもいい奴で信用できるし何より友人だ。それに俺を頼る時は困っている時だからな、俺も助けてもらったことが何度もあるし」
「浪花節だねぇ」
「男は義理と人情に生きる生き物なんだよ」
「はいはい、さて情報の整理をしたいからね、ちょっと待ってて」
とコードを自分の体に繋ぎ、ゴーグルを付ける。
久々に見るこの姿、知恵の樹に潜る時の見慣れた姿だ。
「何故か見飽きないですよね」
とはクォイラの言葉、それには俺も同感。
しかし、さっき手渡された捜査資料は3人分という事でかなりの量があった、それを簡単に一度見ただけで覚えるのだそうだから、頭が良いというのも立派な才能だよなぁ。
こうしてみると、異世界物によくある無敵の戦闘能力って、数ある分野の一つに過ぎないよなと思う。
このファルの「泳いでいる姿」は、音楽を聴いているようにも眠っているようにも見える半覚醒状態だそうだが。
「なんか、滅茶苦茶疲れそうな状態に見えるけどなぁ」
「私もって、毎回この話しますね」
なんかファル自身は「脳にも筋肉あって持久力が大事」とか言っていたな。
さて待っているその間ざっくりおさらいをしておこう。俺も事件記録は読んだし。まあ一言一句覚えているわけではないが。
チンピラ3人組は、ルザアット公国出身で10代前半から素行不良の兆候が見られ十代半ばから非行が進み、その時に共通の友人を介して知り合う。
暴行、傷害、恐喝、窃盗、強盗、売春斡旋、もちろん何度も憲兵の世話になっている。
今は地元のマフィア達に飼われて、ますます粋がっているらしい、まさに典型的なチンピラだ。
んで今回の殺人事件についての最終生存確認はまさに俺だ。
殺人事件。
非日常の代名詞であるから、推理ドラマやら刑事ドラマでは確実に題材にあがる。難解なトリックを華麗な推理で解き明かす名探偵たちを何人も生み出してきた。
推理物、そういえば俺は子供のころモーリス・ルブランの怪盗ルパンシリーズを夢中になって読んでいた、ピカレスクロマンの最高傑作であると思う。
後はデビット・スーシェ演じるエルキュール・ポアロも大好きで毎週テレビ放送を楽しみにしていたなぁ。
っと、いきなり話がずれてしまったが、実際の殺人事件の捜査で推理なんてやらない。死亡推定時刻なんて言葉は使わない。
何故なら分単位で特定するためには、現代日本ならそれこそ、動画等の証拠がない限り特定できない。
とやり方を語り始めるとキリがないが、今回の場合は最終生存確認がいつになるのか問題になる。
先に述べたとおり、今回の最終生存確認は、それが俺がボコられた時の目撃者がいたから、その時間が起点となる。
つまりあえて死亡推定時刻という言葉を使うのであるのなら。
昨日の夜俺がボコられた時から死体が発見されるまでの間。
であり、推理物じゃ使えないのがお分かりだろう。
だから捜査において大事なのは被害者及び加害者の人間性だ。
一口に人間性と言っても多岐に渡る。
これもまた色々あって一言では語れないが一番わかりやすい例を挙げるのなら。
男の下半身は、行動が露骨に出る。
これは嘘ではない、男の指名手配犯が捕まる定番の理由がある、それは。
――風俗を利用した時のタレコミ
なのだから。
そしてこれは「女には適用されない」のだから面白くはあるが。
「ん……」
そんなことを考えていると小さく声を上げるとファルは「陸に上がり」ゴーグルを外す。
「ファル、どうだ?」
「まず、あのチンピラ3人組の情報はわんさか出てきたね、恨みも多方から買っている」
「何かマフィアがどうのと言っていたが」
「まあケツ持ちはいるけど、そのマフィアからも実際はお荷物状態だそうだ。頭も悪く使えない割に名前を勝手に使うと、死んだと聞いたらむしろ喜んでいたよ」
「家族関係は?」
「親も無関心というか、ズレたことで憲兵に抗議してたよ」
「……本当に「何処にでもいるただのチンピラ」なんだな、それと後はアイツらは絡んでいた若い奴については?」
「…………」
「ファル?」
「正直言えば、足どりが掴めない」
「…………」
知恵の樹は、ネットと表現したがSNSのような役割も果たす。ファルは俺が与えた条件で検索をしたと解釈して良い。
だからこそ、該当無しも決して珍しくはないが、、、。
「ガクツチ、何が引っ掛かっているの?」
「なんとなく」
「お? いつもの勘だね~、経験と演繹、だったかい?」
「ああ、そうだよ、いつものやつだよ」
「なら面白そうだ、これからどうするの?」
「現場に行ってくる」
「……現場? もう憲兵が捜査を尽くしていて現場保存もそろそろ解除される噺みたいだけど、それにこの資料以上の情報は難しいと思うよ」
「いや、ひょっとしたら手掛かりがあるかもね」
「ほほう、まあ深くは突っ込むまい」
「感じるままに、じゃあ行ってくる」
「待ちたまえよガクツチ」
「なんだ」
「君が2週間前に購入したエロ本の「巨乳パラダイス」についてだが」
「ギョ!! なんで知ってる!? ってそんな事も分かるのか!?」
「いや、これ、持ってきた」
「勝手にもってくんじゃねーよ! 無いなぁ! おかしいなぁ! と思ってたらアギギギギ!!」←クォイラにアイアンクローをかまされているガクツチ
「性懲りもなく巨乳、胸で女を判断ですか? クズが」
「ちがう! 冤罪だ! そもそも見てみろ! 俺が買ったのは「巨乳ハーレム、よりどりみどり」という」
ゴキッ
「」←ガクツチ
「ま、実際ガクツチから聞く風貌を鑑みるに、その若い奴は変装しているっぽいけどね」←ファル
変装。
変装って言葉から難易度が高いと想像しがちだが、実際の変装は少し服装を変えるだけでも十分に効果的だ。
つまりあの後、姿を変えたという事になる。
「…………」
「…………」
グッタリ←カグツチ
「というより、どうしようガクツチ、失神したけど」
と話した時にジウノアがやってきた。
「おつかれ~って、あらら」
と一目見て察したジウノアはエロ本を拾い上げる。
「原因はこれか、相変わらず好きだね~、本当に馬鹿だね男ってのは」
とジウノアはひょいとガクツチを拾い上げると。
「フン!!」
「ぐはぁ!!」
と思いっきり活を入れられて覚醒した。
「おはよう」
「ぐっ、ぐふ、って、お前、回復魔法使いなんだから、回復魔法を」
「こんな「嘘胸」に引っかかっている男に使うには勿体ない」
「お前ら少しは労われよ(ノД`)シクシク って嘘胸? なにそれ?」
「豊胸してるでしょってこと、明らかに入ってんじゃん」
「………………ぇ?」
「そんな事よりジウノア、例の件は?」←クォイラ
「大丈夫だよ、件の枢機卿猊下の失脚によってアタシがこのアタリのトップになっているからね」
「……クロルソン公爵ですか?」
「そう、我がフェノー教が一大不祥事を起こしたにも関わらず、まさかの後任人事は総本山に信用の名のもとに不干渉、故に後任人事は難航、結果、アタシの立場が向上と」
「相変わらずのやり方ですね、忌々しい」
「あ、あの、さっきの豊胸の話なんですけど」←ガクツチ
「あの御仁、相変わらず目をかけているのかつけられているのか分からないやり方するよねぇ~」
「まあ、利用しされるのはお互い様だよ、折角なので有効活用させていただく、クォイラ」
「その調整は私がしておきます。これでも子爵家ですから、公爵家の威光の「日よけ程度」にはなりますよ」
「助かるよ、お願いね」
「あ、あの、だから、さっきの、胸の」←ガクツチ
「ガクツチ」
「あ、はい、あの、さっきの話を」
「今回貴方が受けた依頼については、私とジウノアは別件で動くので手伝えませんよ」
「え? あ、ああ、そ、それは構わないんだけど、ほら、胸の」
「ファル、ガクツチをよろしく頼みます」
「はいよ~、政治絡みはそちらにお任せするさ~」
と2人は立ち去った。
「さて、ボクはしっぽりと」
「あ、あのさ! この、胸が嘘って! どういうことなの!?」
「はぁ? ったくもう」
とファルは俺のエロ本に胸にペンを入れ、、、ちょっと、それ、俺の大事な。
「このラインで入っているの、信じる信じないは君次第、えーっと、なんだっけ、君の言葉で、そう! シュレディンガーの猫箱だ、いや、この場合だと猫胸かな?」
と再びファルはゴーグルを付ける。
「さて、ボクは趣味を楽しむとしよう、情報があれば逐一提供するよ」
と泳ぎ始めた。
「…………」←エロ本を見ているガクツチ
え、え、なにそれ、というか俺の大事なエロ本に、ペン入れて、しかもこれ消せない、、。
いや、そんなことより、入っているって、じゃあ、今まで俺は、、、。
いや、違う! 俺は騙されていなんて、、、。
で、でも、同じ女がこうも断言するってことは、つまり。
もう駄目だ、死ぬしかない。




