第39話:前途洋々(?)の冒険者たち・前篇
麗らかな日々を過ごすここはギルド、ジョー・ギリアン。
――ガクツチ・ミナト活動開始か!?
――敵対関係が噂されているクロルソン公爵は「彼は公国の誇り、私は彼のファンなんだよ」と公言
――ガクツチ・ミナト失踪に公国が関与している5の根拠!
「ほーーん、まだやってんだな」
冒険者新聞は、下火になったとはいえ俺の活動を取り上げている。
しかし面白いのは「5の根拠」のなんだが、要は俺の活動を対比しての関与しているということを根拠にしているようだが、全部「説得力のある憶測」で書いてある点。
陰謀論は強い、だけど当事者からすると首をかしげる内容なんだよなぁ。
「いずれにしても俺が目指した冒険者になるために」
カランカラン。
「ジョー・ギリアンさん郵便でーす、サインお願いしまーす」
と郵便の配達員だった。
「はーい」
とパタパタと封書を受けるとさらさらとサインをする。
そして封書の差出人を見た時、、、、。
「、、、、、、ぁ」
と小さく声が漏れる。
やばい、これ、、、、忘れてた。
そう、冒険者として活動うんぬんよりも先に果たす事。
それは、国民の義務。
俺が手に持っているもの、それは。
納税通知書だった。
●
「我々が治めた血税は正しく使われなければならない!! 無駄な公共事業! 公僕の横領! こんなことを許していいのか! 政治家は何をしているんだ!! 元高額納税者として断固抗議する!!」
とお約束を一応しておく。
さて国家は何で運営されているのか。
答えは税金である。
これは全ての国に共通している。ルザアット公国も当然例外ではない。そして税金はただ納めている訳ではなく、公共の福祉を受けることができるのだ。
税制もまた国によって様々だがルザアット公国では日本と一緒で累進課税制度を採用しており金持ちほど多く納税する。
んで、お約束をした時の元高額納税者としてというのは、クラスS時代の時を指す。
クラスS時代は、日本円にして10億円ぐらい納めていたと思う、多分。
多分というのは税理士に一任していたからだ。いつごろからか、収入も把握しなくなった、クラスSとなると正直、金って「便利な道具」に変化するからだ。
まあでも、推しの俳優の上流階級しか入れないVIP席に入れたり、競馬でも馬主席に入れたり、好きな娯楽は凄く豪華に遊べたから、それは良かったなぁ。
んで金は人間関係を壊すのは、異世界でも一緒。多額の金を仲間に横領されていていたり、利益配分で独り占めされて揉めて絶縁とか腐るほど聞く。
だからアマテラスの仲間には、税理士さんに頼んで必要経費以外は全部山分けしていて、お互いの財布にはノータッチだった。
「どうしよう、、、」
だからという訳ではないが忘れていた、思いっきり忘れていた。
冒険者も職業であることは述べたとおり、当然収入に対して税金が課せられて納税する。
ギルドを経由して冒険を受注するのは、こういう一国民の経済活動の把握も含まれているのだ。
俺の様な底辺クラスDといえど、ギルドとしての収入は無いからそこに課税はされないが、日々の生活費は冒険で稼いでいるから収入も把握されており、そこで課税される。
「それにしても他の異世界転生者って、社会的に成功して金儲けしても納税シーンなんて見たことないし、税金で苦労している様子がまるでないよな、脱税しているんだろうか」
もちろん公国でも脱税は犯罪である。
んで税金未納にはペナルティもある。冒険者なら資格の停止等があるが、、、。
「うーーーん、もう恥も外聞も捨てて大家さんのところでバイトで雇ってもらおうかな、土下座で足りるかな」
と悩んでいる時。
「邪魔するよ~」
とまさに大家さんが入ってきた。
「やや! 大家さん! あれあれ、家賃はまだ」
「いや、そうじゃなくて、うーん」
と腰に手を当てて考え込んでいる。
「なんというかさ、依頼? でいいのかな、それをしにきたんだけど」
「……依頼ですか?」
個人で冒険者を雇う事が出来るのは何回か述べたとおり。
依頼書をギルドマスターに提出して、このギルドマスターが統括ギルドに依頼書を提出、報酬条件ランク等適正かどうか審査されたのちに許可される仕組みだ。
前に果物屋の倅のクリコの花のクエストの面倒を見たことがあるが、まさにあのパターンが代表例だ。
好きな子にクリコの花をプレゼントしたい→冒険者に採取を依頼する→ギルドにクエスト登録(条件報酬等)を実施する→報酬を預ける→冒険者がクエストを受注し達成→報酬が支払われる
といった具合だ。
「もちろん大家さんの頼みとあらば! というか普通にタダでお受けしますよ!」
「タダは駄目だよ、タダってのはお互いに不利益しか生まないからね」
「ですね、失礼しました」
「というかさ、正直依頼と言っていいのかなんだけど、よく分からないんだよね」
「はいはい、相談は無料となっておりますよ~」
●
「商会のお偉いさんが冒険者になりたい?」
「そうなんだよね~」
ゼカナ商会。
大家さんが所属する商会。
要は商人版の冒険者ギルドみたいなもので地元の付き合いは大事だそうだ。俺だって例外じゃない、かつて所属していた地元のギルド・ドードでは現在でもお世話になっている。
んで、今回冒険者になりたいのは、その商会長を含めた幹部達4人。
若い時、地元に生まれて地元で終える人生に疑問を抱き、自由な冒険者を志していたそうだが紆余曲折あり、全員が家業を継いだ。
商売は全員がそれなりに成功し経済的に十分に余裕もあり、結婚して子宝にも恵まれて人生充実していたそうだが、家業を子供に譲り、老境の達し若い時の夢が再燃したらしい。
んで、商会の会合で冒険者になりたいという話が出たらしいのだが。
「ドードに相談もしたんだけど、正直余裕がないって言われてさ」
「でしょうね、ドードは多忙ですし」
「まあ、言ってしまえば爺様達の道楽だからねぇ、そこでアンタのことを思いついたんだよ、同じ道楽者同士、気が合うんじゃないかって思ってね」
「大家さん、俺一応道楽で冒険者やってません(ノД`)シクシク」
「そりゃ失礼、まあ実際あの爺様達には商売上でもずいぶん助けられてね、小さいころから可愛がってもらっていたし、何とかできないかなとは思っていてさ」
「分かりました、いいですよ」
「……え? 本当かい? でも」
「冒険者って専業でもいいんですけど、兼業でもいいんですよ。そして求められるのは戦闘能力だけではありません、大家さんも知っていますよね。冒険者ってのは戦闘能力よりも、生活魔法使いが一番需要があるんです、後はデバフバフ魔法使いと回復魔法使い、むしろ私みたいな戦闘職は需要は一番下ですし、戦いでは捨て駒担当ですからね」
「……わかった、ありがとうね、ま、礼という訳じゃないけど、今後も少しぐらいなら家賃滞納しても即座に追い出したりしないから安心しな」
「そこは本当にありがとうございます(ウルウル)」
「滞納していいってわけじゃないからね?」
「もちろんであります!(キリッ)」
「はいはい、なら早速爺様達に話を通してくるよ」
●
とそんなこんなで、集まった爺様達4人。
ちなみに紹介されるまでもなく全員顔は大家さんを通じて知っている、話すのは初めてだけど。
まず商会長さん、宿屋の元店主。
飯屋の元店主と雑貨屋の元店主、服屋の元店主の3人、全員が表通りに店を構える人たち、ゼカナ都市にとっては表通りを拠点にするのはステータスだ。
「ギリアンさん、すまんね、俺達の道楽に付き合ってもらって」
とは商会長さんだ。
「いいえ、どうせ暇ですし、所属冒険者もいないので、お気になさらずに~」
と咳ばらいをする。
「そんな訳で皆さん、改めてまして自己紹介します、私はジョー・ギリアン、ここのギルドマスターでクラスD冒険者です」
「皆さんは、今日からここのギルドに所属する冒険者となります。まずはクラスGになるために、ペーパー試験を実施しますよ」
冒険者のペーパー試験。
簡単に言えば冒険者の規則とそれに付随する各国の法律だ。一ヶ月ぐらい勉強すれば誰でも受かるレベルだ。
そしてこの試験に合格して冒険者ライセンスを得るというのは「それを理解し遵守する」という事になるから、違反すればペナルティを受ける。
要は運転免許証と一緒だ、交通法令を遵守する事を誓約して交付を受ける、違反や事故を起こせばペナルティを受ける、だから公的資格として認められるのだ。
んで試験終了、この場合試験官と採点官は俺が兼ねることになる。
そして。
「はい、採点終わりました、皆さん全員合格です、書類は用意していますか?」
という俺の指示のもと、全員が所定の書類を全員提出する。
これに俺が作った書類を加えて、統括ギルドに提出して受理されて晴れてクラスFになれる。
んでライセンス交付は統括ギルドから送られてくるから後日になるものの、、。
「さて、予定どおり、早速クラスFの入門クエストをやりましょう」
ギルドマスターの裁量により、ペーパーに合格すればGランククエストに参加させることができるのだ。
「さて、その為には契約書にサインをしてもらいますよ」
と契約書を配る。
冒険者はギルドに所属する、これはクラスSといえど例外は認められない。
んでクラスFは無報酬だ、これもまた例外は認められないが、、、。
「さて、ギリアンさん、クエストをするにあたり、我々のクランにアンタを一時的に雇いたいんだが」
「え?」
「言ったとおりだ、我々は力不足、アンタの力が必要だ」
「…………」
ギルドマスターは当然育成も仕事に入る、クラスFは複数人でもクエストをこなすにはクラスD以上の同行者が必要になる。
だからクラスD以上じゃないとギルドの開設が出来ないのだ。
んで同行すれば、統括ギルドの方から少しばかり報酬も出るが、、、。
もちろんそれを知っていて言っているのだろう。
「あえて聞きますが、理由はなんです?」
「利益を出さない冒険者の育成の目的は投資だ。そして私たちは投資しても意味がない、違うかい?」
「…………」
「気にしなさんな、我々だって商売で生きてきた、利益を出さないものに「意味なんてものはない」のさ」
「そうだ、当たり前だよ」
「若いの、アンタよりかは修羅場はくぐっているつもりだよ」
「…………」
なるほど、道楽者とはいえ、ゼカナ商会で表通りで看板背負って戦ってきたわけだからな、やり手の人たちって訳か。
「商会長さん、それでも育成はギルドマスターの仕事である以上金は受け取らない、、、」
すっと、言葉を遮るように商会長さんから手渡された契約書。
凄いな予め用意してあったのか、しかし仕事早いな、流石、とはいえ結論は、、。
Σ( ̄□ ̄|||) ←ガクツチ
「って! この値段!」
「税金の納税通知が来て焦っているんだろう?」
「ぎょ!? なんでそれを?」
「ホリア(大家さんの事)が心配していたよ、何も考えていないと思うから焦っているんじゃないかって」
「…………」
「それに貴方は戦闘職と聞いている、見てのとおり我がクランではそこが一番欠けているのはそこだ。そして戦闘職としてのアンタの能力はドードから「クラスDの中では腕が立つ」と聞いている。無論臨時で構わんよ、もちろん働きに応じて追加報酬も検討しよう、働いた者に対しては対価を、当然だ」
「…………」
「…………」
ふっ。
「へっへっへ、旦那さま方、このギリアンはおっしゃるとおり、少しばかり戦闘能力には自信があります、クラスDの中でも上位と自負しておりますよ! 心誠意努めさせていただきますぜ(ヘコヘコ)」
「切り替えの早さは、商売じゃあ必要な美徳だよギリアンさん」




