第38話:嗚呼、三馬鹿トリオは今日も往く2・後篇
――閑話休題
「さて、エルちゃんにはルーティーンがあってな、ライブが成功した後は、必ず立ち寄る飲み屋がある、そこで酒を一杯だけ飲んで帰るんだ。失敗するとそのまま家に帰る、だからまずは、ここで張り込むのがちょうどいいのさ」
というホヴァンの音頭の元ここにきている。
当然今述べた彼女の行動に憲兵の資料にはないそうだ。
「蛇の道は蛇ってな、俺達憲兵にとってこういう協力者ってマジに必要なんだよ」
とはルードの弁。
「キタ!!」
というホヴァンの言葉の下、物陰に隠れる俺達。
張り込んですぐエルちゃんが現れた、意外や意外、変装は簡易で周りもまるで気づく様子はない。
慣れた様子で酒を一杯注文すると、つまみを食べながら幸せそうな顔をしている。
「ったく、ストーカーとかマジで許せねえな、ルード、ストーカーが現れたら制圧は俺に任せてくれるか?」
「あ、ああ」
「よし!」
と気合を入れなおして物陰から見守る。
「「…………」」
今の俺たちの姿の方が余程、、、と考えたところでやめた。
「ギリアン、少しいいか?」
とここでルードが話しかけてきた。
●
「ふむ、自宅にも異常なし、今日は空振りだな」
とはホヴァンの弁だったが、、、、。
「…………」
ルードは少しの間黙っていると。
「ホヴァン、ちょっとこれ見てくれるか?」
と手渡したのは例の一枚の写真だった。
その写真を見てホヴァンは、、。
「あれ? これ俺じゃん、なにこれ?」
とキョトンとしていた。
「…………ギリアン」
「なんだ?」
「やって欲しいことがある、ただ、悪いがマジで「遊び」の範囲を出ない。いいか?」
「……いいぜ、その代わり飯奢れよ、「遊びの借り」はそれでいい」
「ありがとな」
――翌日の夜
吟遊詩人であるエルは苛立っていた。
(なんなの、なんで何の反応もしてくれないの!!)
彼女の苛立ちの相手は彼氏だった。
吟遊詩人と彼氏の出会いは、所謂地元の有力者達に吟遊詩人として呼ばれた場であった。容姿に恵まれた彼女にとってチャンスの場とは二つの意味を持つ。
一つは更なる活躍の場を得る為。
二つは玉の輿を狙うため。
有力者との繋がりはそのままアイドルの活躍の場が増える。
二つ目は地元の有力者のボンボンは「美人吟遊詩人」を恋人に持つステータスを得られる。
そんな中、彼女はその二つを手に入れた。自分のファンを名乗る有力者のボンボンと付き合いはじめ、活躍の場も増え順風満帆なアイドル活動を送ってはいたが。
急に態度が冷たくなった。
冗談じゃないと、これからなのにと思った彼女はストーカー疑惑をでっち上げた。
憲兵にタレこんで事を大きくしてやると、世間体を大事にするあの男ならと思ったが、一向に動かない。
このまま終わってなるものかと、ふと気配を感じると。
目の前にフードを目深にかぶった男が立っていた。
「……え?」
こちらを向いての仁王立ちに恐怖を覚える。
「ひっ!」
彼女はそのまま凍り付く、男の手に握られているもの。
それはナイフだった。
「おい」
「え?」
「よくも俺の友達を嵌めてくれたな?」
「え?」
「お前がストーカー事件をでっち上げたせいで、俺の友達の人生が滅茶苦茶だ、よくも嵌めやがったな!」
「だって、あれは、ちがうの!」
と言った瞬間に、男は距離を詰めると足払いをかけて彼女を転ばせる。
床に叩きつけられて痛みが意識を覚醒させ。
「あぐぅ! い、いや!」
「なら、ストーカー被害は嘘だというのか?」
「そ、そうよ! う、うそなの!! だから許して!!」
と彼女の絶叫を聞いたところで、、、。
「なるほど、やはりか」
ナイフをしまうと俺は目配せして、ルードが現れた。
ルードの顔を見た瞬間にエルちゃんの顔色がさっと変わる。
「エルことエラオルさん、憲兵のルードと申します、用件は分かりますね?」
「…………」
「虚偽申告について、御同行願いますか?」
●
「ほーーん、ストーカー被害をアピールして、男の気を惹きたかったってわけか、そんなんで気が惹けるのかね?」
「さあな、彼女の中では物語は出来上がっていたんだろうよ、だから熱心のファンであるホヴァンの写真を撮ったそうだ」
「だから後ろ姿だったのか、ピンボケ具合も変だなとは思っていたが、というより元より疑ってたのか?」
「まあな、残念ながらこのパターンの虚偽申告は本当に多くてな、他にも強姦された~なんて言っておいて、結局はただの売春の料金でもめたとかな」
「ロクでもない、結局、エルちゃんはどうなるんだ?」
「虚偽申告は犯罪、現在拘束中だが、ぶっちゃけ小便刑だからな、すぐに出てくるよ」
「そんなものか~」
「んでアイドルは続けるそうだぞ」
(;゜Д゜)エエーー!! ←ガクツチ
「凄いよな、何か「憲兵はストーカー被害で怯えていたのに他人事だった、しかも私を嵌めてきた」とか俺たちの対応が悪いとか喧伝するみたいだぞ」
「図太いな! 憲兵はそんな風に扱われていいのか!?」
「いいさ、世間には悪役が必要だからな、元よりロクでもない奴らの恨みを向くように仕向けるのが憲兵だからな」
「はー」
と感心したところで。
「「…………」」
当然、ホヴァンに思い至る。
マッチポンプが判明した後、流石に「ちょっと飲みに行ってくる」といって姿を消したが、、。
「まあ、立ち直りが早い奴だし、あんまり心配はしていないけど」
「まあな、いうても吟遊詩人だから、次に」
と思った時にカランカランと音がしてホヴァンが入ってきた。
「よ、よう、お疲れ」
と声をかける。
「…………」
な、なんだよ、その無言の無表情辞めろよ。
「まあさ、アイドルなんて他にもいるし、なあギリアン?」
「ああ、別のグループになるが、ほれほれ、このすらっとした吟遊詩人、可愛いと思うけど、どう?」
「違うな全然違うぜ、いや、違ったんだぜ、ルード、ギリアン」
「「は?」」
「俺は真実に目覚めたんだよ」
「「しんじつ?」」
「吟遊詩人は容姿で人を差別するルッキズムの権化、これは廃止すべき思想であり、ジェンダー差別は」
「そっちに染まってんじゃねーよ!!」
おしまい




