第24話:社交界でのクォイラと、、、
――ルザアット公国
社交界。
国内外の上流階級の人間達が集う優雅な世界。
当然社交界にも格がある。ルザアット公国の宮殿で公爵主催の社交が最高位とされ、ここに招かれることは最高の栄誉とされる。
今開催されているのは、伯爵家主催の社交界、そこで1人、壁の花に徹している一人の貴族令嬢がいた。
彼女の名前は、クォイラ・アルスフェルド。
(クソ親父め)
内心毒ずく、かのアルスフェルド家の当主である自分の父親は今頃、愛人のところにしけこんでいるのだろう。
私を参加させたのも自分の仲が悪い伯爵家の当てつけのつもりなのだろうか。いや、そうだろう。
なんといっても、、。
周りを見ると同じ参加している淑女たちはとある男に視線を注いでいる。
その中心にいる人物は。
「はあ、今日も素敵よね、色気に充てられてしまう」
「遊ばれてもいいから付き合いたいわ」
と淑女はうっとりとした視線を向け。
「女だけを誑し込む手腕だけはクラスSだな」
「最高位冒険者? 所詮は、公爵閣下の飼い犬だ」
と紳士は厳しい視線を送る。
それは彼が現れた時の合図のようなもの。
「セシル・ノバルティス様、公国の誇りよね」
セシル・ノバルティス。
ルザアット公国が誇るクラスS冒険者。
公国のノバルティス財閥の御曹司として生を受けた彼は文武共にエリート教育を受けて育った。
その教育に応えられる高い能力を兼ね備えた彼は両方でめきめきと頭角と現す。
その能力に比例して傲慢さも大きくなり、エリートの子息女が通う学校に進学するも当時の振る舞いは傍若無人そのものであった。
だが財閥の力と学力、運動共に首席を取る能力と、自身が持つ権力と暴力を上手に使い周りを黙らせ、更に恵まれた容姿から女子生徒には大人気で憧れの的、数多の取り巻きを作っている。
セシルはルザアット大学を卒業後、財閥の要人としての人生ではなく冒険者に活路を見出し、財閥が出資している公国有数の有力ギルドに冒険者として契約。
当時のクラスB昇格までの最短記録を達成する。
クラスB昇格後も元々持っている上流へのコネを駆使して、数々の高難易度クエストをクリア。
そしてクラスS昇格。同時に男爵の爵位を授与され、財閥の中で悲願と言われた正貴族の最初の仲間入りを果たす。
所謂王道を行く最高位冒険者だ。
冒険者としての唯一の欠点と言える欠点は、非常に女好きであることぐらい。
主要幹部達を全員美女で固め、数々の女と浮名を流し、関係した女は三桁に上る。
とはいえ数々のスキャンダルを起こしているぐらいであるが傷になるどころか、むしろそれが女性人気に拍車をかける形になり、数々の貴族達の有閑マダムたちの指示も得ている。
更に公国の頂点に君臨する公爵のお気に入り。
まさに、地位と名誉と金と女、全てを手に入れた男、それがセシルである。
「…………」
その彼は主催者である伯爵と話し込んでいる。
そんなセシルを横目で見ながら酒をたしなむクォイラ。
(ほう、流石酒に拘る伯爵殿、酒の趣味だけは流石、素晴らしい)
嫌なことが多い社交界の中で酒好きのクォイラにとっての唯一の楽しみ。
グラスでワインをまわし香りと味を楽しんでいる時だった。
「クォイラ嬢」
(ちっ)
やはり話しかけて来たか、こちとら壁の華に徹していたというのに。
「お久しぶりです」
とセシルは爽やかに話しかけてくる。
「はい、お久しぶりですね、セシル」
親し気に話しかけられて、その時に向けられる周りの淑女共の視線がまた腹立つが。
「セシル、子爵へ昇爵したそうですね、おめでとうございます、これで私と同格ですね」
「いいえ、子爵と言えど、我々のような冒険者貴族は爵位だけの2等貴族、長らく王国に貢献してきた子爵家とは比べるべくもありません」
「謙虚ですね、大事なことだとは思います」
笑顔のクォイラにすっと、セシルは自然に距離を詰めてくるが。
「セシル、貴方が主役でしょう? ここでこんなことをしている時間はないのでは?」
「何をおっしゃいますか、貴方は元アマテラスのメンバー、交流すること私にとっても」
「元は不要」
「っ」
「アマテラスは解散していません、活動停止中です。貴方にしては珍しく失言ですねセシル、いくら美男子でも女性に対して失言している男はモテませんよ」
「……失礼」
「知ってのとおり、現に今はかつての仲間と「サークル活動」に勤しんでいるだけですよ、クラスBとは名ばかりです」
サークル活動、カミムスビの活動をあえてそう表現するクォイラ、彼女は自身の冒険者活動を上流ではそう表現している。
セシルとカグツチ。
世界で複数人のクラスSを生み出した唯一の国がルザアット公国ではあり、この2人は当然に色々と比べられてきた。冒険者としてのカラーが真逆だから余計にだ。
そして世論は、公国最高位の冒険者はセシルであるという結論が多数であり、世界ギルドもそのように位置付けている。
(だけど、それに満足していないようなんですよね、全く面倒くさい)
だからか、こうやってよく絡まれる、いや、正確には我々を口説こうとしたり引き抜こうとしたり、カグツチの情報を抜こうとしたりする。
(自分になびかない女は理解できないか、煩わしい)
「クォイラ嬢、失言はお詫びします。ですが貴方を含めたアマテラスのメンバーは超がつくほどの優秀。そんな冒険者達を埋もれさせるのは勿体ないです、クォイラ嬢、私には夢があるんです、それは」
「興味ありません」
「っ」
軽く、だけど明確な拒絶にセシルの表情が固まる。
「なるほど、その綺麗なお顔と高い自己肯定感にそれに伴う実力に多数の女遍歴、確かにどれも魅力的ですが、「貴方に」興味ありません」
「……そうですね、貴方はカグツチの恋人でしたね」
「そんな関係ではありませんよ、現にカグツチが今どうしているかなんて、分かりませんし」
「それでも連絡は取り合っていると」
「はい」
あっさり答える。
「…………」
「まさか、そんなにあっさりお認めになるとは」
「そもそも公然の秘密状態でしょう? まあ、彼と交わしているのは世間話程度ですが」
「もちろん信じません、クォイラ嬢、私は」
「申し訳ありませんが、貴方がどんな気持ちでどんな行動をしようとも、私だけではなくアマテラスの仲間の心は動かないと思います、貴方のそれは貴方の仲間の女たちにどうぞ、それでももし、私達を動かしたいと思うのなら」
「カグツチを介してください。同じクラスSでしょう? 探すことは造作もないと思いますが」
「…………」
口とつぐむが。
「ああ、そうだ、セシル、そんなにもカグツチの動向が気になるのなら一つだけ教えることができます」
思わぬ提案にクォイラの言葉に興味を持った視線を見る。クォイラは「つい先日の話なんですが」と前置きを話すとこういった。
「貧乏暮らしで進退窮まって毒キノコ食べて幻覚と話をしていましたよ」
「っ! ……そうですか、お大事にと伝えてください」
「はい、承りました」
と憮然とした様子で踵を返して戻っていく。
(まさか本当とは思っていないだろうなぁ)
とセシルの後姿を見てそう思う。
カグツチとセシル。
この2人は、こう、何処か私達アマテラスのメンバーには分からないというか、謎の関係だったなと思う。
お互いに何かと対比された世界最高位のクラスSの冒険者の2人。
複数のクラスSを抱える唯一の国であったルザアット公国。
そしてそれは、カグツチの失踪という形で終焉を迎える。




