第16話:冒険者の日常の結末と浪花節? ~仲間には悪いことをしたかな~
「ささむいぃぃ~、寒気が止まらん、食欲も全然わかないぃぃ~」
さて、あの護衛クエストで大金入った俺は、なんかこう殉職者を出した経緯もあって、何となく貯める気にもならず、なれば好きなことに使おうと、好きな芝居を見に行ったり、スポーツ観戦したり、豪華な飯を食いに行ったりした。
んで、あっという間に金は底をついて、まあ何とかなるだろうと高をくくっていたら、運期まで下がったのか結局泣かず飛ばずで、ついに異世界ベルムス巻も尽きてしまった。
救貧院の炊き出しも2日後、やばい、それまで持つかな。
「あ、お星さま」
なんかキラキラしたのが飛んでいる、ああ、なんか栄養失調かな、これ。
【やあ、ガクツチ、元気がなさそうだね】
「え?」
突然声が聞こえたので、頭をもたげると、テーブルの上に、なんか兎に似た小動物がここにいた。
「……なに?」
【ボクがなんだって? そんなことはどうでもいいじゃないか、まず君が君であること、それが大事だ、クラスS冒険者・ガクツチ・ミナト】
「なんで小動物が喋ってんだよ、しかも日本語やんけ」
【君は細かい男だなぁ】
「細かくはないだろうよ! 誰もがまず疑問に思うぞ!」
【その疑問は君がどうして言葉を喋っているのかと同じことだ、そんなことを気にするのは細かいだろう、違うかい?】
「そうかなぁ!?」
【もちろん、驚くのは無理もないさ、ただそれは僕も同様だよ。クラスS冒険者という世界屈指の才能を持ちながらあえてクラスD冒険者として浮き草暮らしをしている、そんな君にね】
「浮き草暮らしなんてしてねーよ! 失礼だな!」
ってよく見れば、この兎ような小動物、一見して可愛いように見えるが、よく見ると赤い目が瞬きもせず、口元も動いていないにやたら屁理屈こねて口達者。
ああ、いたなぁ、個人的には魔法少女という作品に対しての転換期になった作品だと思う、それにしてもなんで今出てくんだよ。普通にこえーよ。
「魔法少女は間に合ってるんで、世界観変わっちゃうんで、帰ってもらっていいですか?」
【はっはっは、魔法少女? 男だろう君は】
やばい、これ多分、昨日、進退窮まって、冒険中(飯あさり)に食べたキノコだなこれ。
なんか、身体の調子がおかしいと思ったら。
ちなみに俺の戦闘能力は、戦闘に必要な能力もチートになるという意味で、身体の回復能力もそれに含まれる。
ちなみにこの世界では状態異常魔法は存在しない。
仮に状態異常魔法にクラスS冒険者クラスの才能があれば「世界的に「状態異常魔法という名のウイルス」を流行らせたりとかできる。
そうすれば世界がどうなるのか、もうそれは俺達は身をもって知っている。
【いいかいガクツチミナト、僕が今日ここに来たのはね、君のクラスS冒険者としての能力を買っての事なんだ、世界的な才能には世界的に貢献が求められると考えている、君の世界の言葉でノブレスオブリージュ、だったかな?】
うるさいなぁ、なんか体調悪いけど死ぬ感じではないから、休めば元通りになるんだけど、その間ずっとコイツに付き合わなければならないのか。
【つまり何が言いたいのかというとだね】
【ボクと契約してクラスS冒険者に戻ってよ!】
「雑! なんでクラスS冒険者に戻るのにお前との契約がいるんだよ! ネタ元と比べて滅茶苦茶だよね、そもそも俺は」
【ガクツチ】
と声が聞こえてきたので、ベッド横を見るとクォイラが立っていた。
「えーーーー、今度はクォイラかよ、あのさ~、折角幻覚見るんだったらさ、こう、あれさ、そのー、美人で清楚で可憐で巨乳な女の子が出てこないの? そういう女の子に看病イベントでムフフじゃないのか? クォイラは美人だけど清楚(笑)がつくし、可憐とは程遠い巨乳とも程遠い、どうして、こう、その手の美少女なりハーレムなりを執拗に外そうとするかね、わけがわからないよ」
無表情のクォイラの幻覚は、そのまま手を伸ばしてくる。
「ほほう、看病なりはしてくれるんかな、あ、そうだ、この頃、腰が凝っていてさ、電撃魔法でマッサージをしてくれないか?」
という言葉を余所に、ガシッとアイアンクローのように掴まれる。
「? いや、だから、腰を」
「アベベベベベベベ!!!!!!」←電撃魔法を流されたガクツチ
「シュー」←カグツチ
「清楚可憐はどうでもいいですが、巨乳は余計なお世話です。というか何しているんですか、、、あぁ、これですか、このキノコ、即死級の毒を持っていながら食べても幻覚程度で終わるとは流石クラスS冒険者ですね」
「ぶは! 死ぬかと思ったわ! キノコ中毒者に何してくれてんの!?」
「依頼をしにきました」
「えー、今? 見てのとおりちょっと体調が」
「クラスCの依頼なんですが」
「ガタッ!!」
マジか、コイツマジか、というか前にもあったなこのパターン、いよいよベルムス巻すら豪華飯になってきた俺に。
後家賃、本当にロクに払えていないからな。マジに追い出される。
「よ、用件を聞こう、ってその前に」
よろよろと立ち上がると。
「って、お前いい加減うるさいよ! いい加減言われてなくても分かってんの! わかった!? キュウべえ! 返事!」
と何もないテーブルに向かって叫ぶ。
「面白い男ですね、本当に」
●
「コボルトの異常行動の討伐と解析か」←やっと幻覚症状が治まってたガクツチ
「はい、ガクツチも聞いてのとおり、件のクエストで冒険者に殉職者が出ました。担当クランの迅速な報告のおかげで、即座に当面当該地区は通行止めとなりました。あれ以上の犠牲者は出ていません」
「ピグと言ったか、流石優秀だな、つまりあのコボルト」
「あれは「人の味が好みの魔物」として認定されました」
元いた世界でも「人が獣に捕食される」ということは発生する。ただこれは事故に近い、何が事故なのかというと「人の天敵」ではないということだ。
つまり「その種を好んで食べる」のではなく「食べられるものが人だから食べた」という意味、事故とはそういう意味、つまり。
「あのコボルトの集団は、狩りとしての人を襲ったと?」
「その可能性が高いですね、報告からするとタイミングも見計らっていたと推測できます」
「なるほど、護衛クエストの完遂間際を狙って襲えば、殿付近の班は見捨てる判断をする可能性が高いと判断したか。狩りと考えれば全て筋が通るわけだな、お前がここにいるとはつまり」
「はい、今回この事態をカミムスビを頭にしてコボルトの殲滅及び学術調査を公爵閣下より依頼されました」
つまり人とコボルトの小規模戦争ってことだ。
「ってまて、学術調査って」
俺の言葉を無視する形で更にクォイラは続ける。
「今回、コボルトの集団の脅威度判定クラスB、クエスト参加資格者は冒険者クラスC以上及びこちらの方で選定した冒険者のみ、これはクランではなく冒険者のみの指定ですね」
「このクエストに関して、2班に分かれます。先述べた冒険者たちは外周担当、警戒勤務ですね。そして学術調査についてカミムスビが担当。この形式となったのは討伐よりも学術調査も重要視しているからです」
「さっきの話だが学術調査って俺とクォイラだけじゃないよな? この流れからいうと」
「ご明察、「彼女」に指名が入っています。まあ政治的意味抜きにしても人選は妥当だと思います」
「う…………」
「もちろん怒ってましたね、この薄情者」
「だ、だってさ、その、正直どの面下げてとは思う訳ですよ、アマテラス解散は、俺の独断だったし、その後の生活も貧乏暮らしだったし」
「でも楽しいのでしょう?」
「まあ、な、全員が揃ったクラスC時代が一番楽しかったなと」
「……私もですよ」
「え?」
「彼女には既に快諾を貰っています。んでクエスト参加に対して絶対にガクツチを連れてこいという条件が付加されました。という訳で行きますよ、準備をお願いします」
「あのー、俺の意思はないの?」
「ありません」
(断言したぞ)
「というよりも、まずは彼女に土下座でもしたらどうですか?」
「…………」
(ふん! 男には色々あるんだよ!! 男の矜持が分からんかね!! 本当に女ってのは男の浪漫を理解しない!! 全くこれだからもう!!)←言えない
ま、久しぶりに会えるのは、楽しみではあるけれどさ。