第14話:冒険者の日常の結末と浪花節? ~アマテラスのメンバーであるということ~
クラスC冒険者。
大半がクラスD、Eで冒険者生活を終える中、壁を超えし者と称される者たち。
彼の名前はピグ、クラスCの冒険者でクラン「ネンゼ」のクラン長。
ガクツチたちが住む都市のトップ冒険者であり顔役だ。
前回の護送クエストの時、クラン内より1名逃走者を出してしまったものの、的確な指示とクエスト完遂、ギルドへの即時の報告と対処により処分は一番軽い厳重注意処分で終わった。
「…………」
ピグは、その前回の護送クエストのことを考えていた。
考えているのはジョー・ギリアンの事。
副班長と班長に聞いたが、戦闘中は副班長を守りつつ、自身の他副班長も無傷。
状況判断も適切でかなり腕が立ち、60体のコボルト相手にヒットアンドアウェイを繰り返しながら、都市に向かって進軍することを選択。
コボルトは知恵が回る、都市に近づけばリスクが高まることを理解しており、ある距離以上に近づいた時、撤退したという。
もし彼の適切の判断と戦闘力が無ければ、全滅していたかもしれないと言った。
それとこうも言っていた。
――「ただ何か隠しているというか、そういう印象を受けた、何がとは言えないが、手加減をしていたような」
この言葉を受けて色々と調べたところ、ジョー・ギリアンは山奥の村出身で、冒険者になるためにこの都市に出てきた。
得意は戦闘、魔法は使えない。地元中堅どころのギルドに冒険者登録、都市周辺のクラスFとEクエストをコツコツと積み重ねてクラスDに昇格。
昇格スピードは普通よりも少し早い程度。
クラスD冒険者としても活動は変わらず、いや、一つ変わったのは昇格と同時に所属していたギルド離れ、フリーランスとなり自分のギルドを開設したことだ。
住居兼事務所だが、所属しているクランは一つもなく、ギルドとしては閑古鳥が鳴いているそうだ。
1人での生活がギリギリの貧乏生活をしている、よくいる下層のクラスD。
(だが、ひょっとしたら掘り出し物かもしれない)
とピグは考える。
クラスC冒険者で都市のトップの顔役といえば聞こえはいいが、公国全体から見れば「ゴロゴロいる」といったレベルだ。
だからクラスCで終わるつもりはない、もっと上を目指す、その為には、実績を積み上げる必要がある、優秀な人材はいくらいてもいい。
そんなピグの部屋に副団長が訪れる。
「団長、ギルドマスターからクエストの斡旋が来ている」
「どんなクエストだ?」
「それがな、俺達を含めた近隣都市の全てのクラスCや上位のクラスDに声がかかっている大規模の依頼だ」
「って、まさか!」
「そうだ、例のコボルトの異常行動の討伐と学術調査だ」
「討伐と、、、学術調査って、今回のクエスト、頭ってまさか」
「そのまさかだ、今回のクエスト」
「カミムスビが動き出す」
――ルザアット公国・教会
冒険者の登録用件は、健康な男女のみであり、一切の身分は問わない。
これは「冒険者の責任に対して身分は関係ない」という意味、貴族だって例えばクエスト中に逃走をすれば重罪は免れない。
とはいえ、実際は貴族の冒険者そのものが異端、それがより「政治的意味が無意味としての純粋な冒険者」としてのものならば、公国では1人しかいない。
そして指定された時刻になり、彼女が教会の壇上にあがる。
その服には、クランの紋章が刻まれている。
「さて、皆様、まずはクエストの受注感謝いたします。今回のクエストの陣頭指揮を執らせていただきます、クラスBクラン、カミムスビ、その長であるクォイラと申します」
そう発言するのはクォイラ・アルスフェルド。
公国上流の異端、子爵家令嬢で公国上流の先述した「政治的を含まない」正真正銘の純粋な冒険者。
それを知っているからこそ「上流のお嬢様の道楽」なんてありがちな言葉で彼女を馬鹿にしたりする冒険者は1人もいない、、、、。
「ちょっと待ってもらおうか、クォイラ嬢よ」
ある冒険者が前に出てくる。
その冒険者を見た他の冒険者からどよめきが起こる。
彼は複数都市の中で名を馳せているクラスC冒険者、戦闘能力では同クラスで最強と言われており、クラスBに匹敵すると言わている。
その実力を評価されてクラスBクランに所属したばかりだ。
「なんでしょう?」
「納得いかねえな」
「何がですか?」
「アンタが頭ってことだよ」
「? どう納得いきませんか?」
「いや、カミムスビはクラスBだろ? 俺はクラスCだが、クランはクラスB所属、同格ってわけだ」
「…………」
非常に分かりやすく喧嘩を売っているクラスC冒険者。
何故、ここでこの喧嘩を売るのか。
これは周知の事実であるが、クォイラはアマテラスで非戦闘員だからだ。
そしてクォイラ自身はクラスBの冒険者。
つまりこのクラスC冒険者が言いたいのは。
――クォイラにとって勝つことはできるが容易ではない
という理屈。
更に理解する、彼は正確にはクォイラに喧嘩を買って欲しいわけではない。
(ここでいう事を聞かせたければ、子爵家の威光を使えってことだろうな)
ピグは理解してこう思う。
つまりクラスCの自分ではあるが、かの伝説のアマテラスのメンバー相手にもひるまなかった、そんなハッタリや売込みの兼ねているんだろうが。
(馬鹿すぎる)
「はい、それでは決闘でケリを付けましょう」
というクォイラの台詞に場が凍る。
決闘。
冒険者同士の「合法の戦い」を意味する。
戦う内容は何でもあり、死でも事故として処理される。
立会人はギルドの指定したランダムな立会人だが、この場にはその「ランダムな立会人」が大勢いる。
どうしてそんな決まりが設けられたかというと「話し合いで決着がつけられない場合」が往々にして発生するからだ。
例えばクラン同士で譲れない事項が発生した場合、双方の合意があれば、決闘でケリをつけて納得させるといった方法だ。
つまり冒険者同士の戦争と解釈すればよい。
「け、決闘だと?」
「変ですか? 私が子爵家の威光を使ってはカミムスビの名前に傷がつきますし、今後の冒険者活動にも支障が出ます。かといって説得に時間を割くのも無駄、なら決闘をしかけて勝利するのが一番早いじゃないですか」
まさか、決闘を申し込まれるとは思わなかったのかクラスC冒険者はたじろくも。
「上等じゃねえか、なら報酬を決めようぜ、俺が勝ったら」
「意味が分かりません」
「い、いみ? だから決闘の報酬だよ!! 俺が勝ったらクラスAの報酬を頂く!!」
「繰り返すとおり、意味が分かりません、決闘の報酬? しかもお金ですか?」
「これはギルドの規定で定められている! そっちはどうなんだ!!」
「いえ、そうではなく、敗北して次があるという発想が分からないと言っているんです」
「え?」
「私は最初から敗北は死である前提で話を進めていますよ?」
「し、死って」
「? 言っておきますが今回のクエストの失敗は、ここにいる皆さんがコボルトの食料となる場合ですが?」
「な、な」
「それと、まだちょっとよく分からないんですが」
「な、なにがだよ!!!」
「もう始まっていますよ? 決闘」
ピシと空気が固まる。
脂汗をかいているクラスC冒険者。
腕が立つ程に相手の強さを理解する。
すっと、そのままクォイラは壇上から舞い降りると、歩いて近づいてくると。
無構えで間合いに入る。
「な、な、なめてんのか」
「はい、舐めてます、お先にどうぞ」
ひゅーひゅーとクラスC冒険者の息を吐く声がやたら大きく響く。
「うおああああ!!!!」
と絶叫を上げて剣を振り上げて。
クォイラはパシっと素手でそれを受け止めた。
現実感がない光景、一見してお嬢様の細腕が、筋骨隆々の男の剣を素手で受け止める。
「グ、ググググ!!」
動かない。
「グギギギギギ!!!」
動かない。
「ギギギ、グア!!」
パッと手を離してその反動でタタラを踏む形で距離を取る。
すっと歩き出して、距離を詰めるクォイラ。
目に宿る青い炎。
殺される、そう感じたクラスC冒険者は。
「す、す、すみませんでした、調子乗ってました、殺すのは勘弁してください」
と命乞いをする。
その命乞いは当然。
「はい、分かりました、許しますよ」
と笑顔で受け入れた。
「中々に良い判断です。コボルト相手に通用しませんが、私相手に命乞いは有効、何故なら貴方は公国の一臣民、無駄に散らすは愚かですから」
と踵を返して登壇して。
「さて、他に「不満」がある方はどうぞ、ああ、そうそう、もちろん勝てないと判断すれば命乞いは今のように有効ですよ。私はアルスフェルド子爵家の者、臣民は大事にせよが貴族です」
クォイラは辺りを見渡す。
既にクォイラに逆らう冒険者はいない。
戦闘能力だけを取れば最強クラスCがあっさりと敗北。
彼は命は助かったが、彼のクラスCとしての経歴には大きな傷を負い、下手をすると所属するクランを解雇されるかもしれない。
結果的に彼の意図とは逆に、アマテラスの凄みを知らされる羽目となった。
「…………」
ピグは、冷や汗をかいている。
非戦闘員は、あくまでガクツチと対比しての話だ。
目の前にいるのは、ただのクラスB冒険者ではない。
世界に名を轟かせた伝説のクラスS冒険者ガクツチ・ミナト。
彼が結成したクラン、アマテラス。
そのメンバーなのだから。