第107話:叱責とその後を
――作戦会議後・翌日
(いた……)
俺は木の上から今回のターゲットの魔物を見つける。
魔物は発見時、獲物を求めているのだろうか、ゆっくりと徘徊しており、そのまま気配を消して追尾を開始する。
今やっているのは作戦の第一段階、斥候だ。
斥候。
簡単に言うと敵情視察。
当たり前ではあるが魔物にも個性がある、それを見極める重要な役割だ。
生態報告書も討伐報告書も大事だがとどのつまり過去の事例、イレギュラーは普通に起こりうる。
というよりも当たり前なのだ、同じ人の行動ですら分からないし読めない、状況によっては家族ですらも当てはまる。
でも何故か人間以外の種族にはそれを当てはめようとしてしまう。
だからこそ魔物の異常行動に対して最も警戒をしなければならないのだ。
斥候の役割は、それだけではなく、その魔物の個性を見極めて適切な武器や使いどころを決めたりとか、考える事とやることは山のようにある。
その結果ゴーかノーゴーかを決める。その判断について疑義は認めないと繰り返し言い含めてある。
ちなみに現在、他のメンバーたちはこの魔物の討伐報告書や生態報告書を丸暗記するまで読み込むように指示してある。
――「お前が死ね」
――「このクエストの最良は全員生還、そして次点はお前が死んでの他のメンバーが全員生還とする、死者を出さざるを得ないなら、俺の作戦でお前には死を与える、精々死に物狂いで生き延びろ」
あの時、冷たくきつく突き放したし、実際にそうするつもりだったのだが……。
「お前は本当に図太いよな」
と斥候にルアがついてきたのだ。
なお、討伐報告書と生態報告書は冒険者学校時代にすでに丸暗記をしており必要なかったとのこと、聞けば学術でも首席だったそうだ、流石才媛。
ルアは今回の動向の申し出に理由について「目の当たりにした時に身がすくんで動けないことがないように」とのことだった。
「いやいや、カグツチさん(2人だけなのでそう呼ぶ)が言ったんじゃないですか、お前が死ね、それを次点にすると。死ぬは嫌ですからね、カグツチさんは冒険者として嘘はつかないから、本気なのも分かりました」
「そこまで分かっているのならはっきり言うぞ「女だからって甘えてんじゃねえ」よ、冒険者が「女」を使うなら謙虚に成長のために使え、今回の事は俺はお前に対して怒りを覚えている」
「はい、反省しています」
「…………」
この野郎、、、、。
「っっっ!!! ガっ!!」
ルアは突然、首を抑えどさりと地面に倒れ込むと、その場で悶え始める。
地面にのたうち回りながら涙と鼻水が溢れてぐしゃぐしゃになったまま、数十秒程、首を抑えながらギリギリと歯ぎしりをしていたが。
「はぁ!! はぁ、はぁ!」
と身体を弛緩させる。
「ほう、耐えたか、やはり才能あるよ、パニックになろうものなら蹴とばして失神させるつもりだったが」
「カ、カグツチ、さん……な、なんで……どうして……」
「どうしてだぁ!? 俺は仲間を大事にしない冒険者は嫌いだからだ! 不満か!?」
「っ!」
努力と才能はセットとは散々述べた。
だが大半がテックのように努力の方向性が間違っていたり、融通が利かなかったり、そもそも能力が足りないという理由でなかなか芽が出ない、だから努力を辞めてしまう。
だがルアのように才能がある人間は、努力をした分だけ結果が出るから、更なる努力を続ける、だから努力と才能はセットなのだ。
だから傲慢になる。
更に悪いことにルアは女で器量よしで立ち回りも上手いから、男が甘くなる。
いや、甘くなるのは別にいいんだ、例えばシダの面々は流石人生経験豊富の爺様達、ルアの傲慢を理解し器量よしに騙されていると分かった上で楽しんでいる、それも男の浪漫だ。
だが、ルアの傲慢さが生んだ今回の事態は看過できない、何故なら……。
「お前は一度クランを追い出されているという話をしていたな」
「……ぇ?」
「お前は副リーダーの奴のことを嫌な奴だと言っていた。まあ事実そうなんだろうが、その時に他のクランメンバーは反対しなかったのか?」
「そ、それは、してない、ですけど! それは!」
「その件についてお前は「副リーダーが嫌な奴だから」という理由で自己解決をしたはずだ」
「っ」
「俺は分かるぜ、お前にも見限られる理由が十分にあったことに。自分の名声の為に女を利用して仲間を危険な目に合わせ、それを何とも思わない人間性」
「そ、そんな言い方……」
「ないってか? 俺はお前の指揮でホヴァンが犠牲になった時、お前を許す事ができそうにない。だがお前はホヴァンの死を「冒険者としての犠牲」って今度は自己解決してすぐに忘れるだろう。その人間性を見抜かれてクランから見限られたのさ」
「……ち、ちがう」
「それに許せないことがもう一つある。テックの事について俺を勝手に巻き込み利用しようとした事だ。正直がっかりしたぜ、ギルド・ジョーギリアンが大事? よくもそんな事が言えたものだ」
「……うそじゃない」
「ふざけるな! 今まで散々いたんだよ!! お前みたいにクラスSを浅はかに利用しようとする輩にな!!」
「っ!!」
「とはいえ安心しろよ、許さないと言ったが別に直接危害を加える訳じゃないし、その価値もない。単純に縁を切るだけだ」
「…………グスッ」
「ぷはは! 今度は泣き落としか? 俺に泣き落としは逆効果だ、とはいえまあ……」
俺は少し考える。
「やれやれ、俺も「女には」甘いな、今回全員生還を果たしたら縁を切らないでおいてやるから死に物狂い頑張るんだな」
「…………」
「それと更に褒めてもやるし慰めてもやる、今さっきお前へ飛ばした殺気は、実はヒュレンの幹部達にも飛ばしたことがあってね。結果は惨憺たるものだったよ、パニックになって立場と我を忘れて俺に襲い掛かったルーテ側近のクラスC戦闘職、失禁して立てなくなったGMの秘書、そいつらと比べれば、やはりクラスBの才能は間違いないようだ、喜ばしいだろ?」
「……それって、褒めて慰めているつもりなんですか」
「? そうだぞ、俺の祖国の優秀な指導者の言葉に「一流は叱責、二流は褒め、三流は無視」とある、お前のことをどうでもいいと思っているのなら、そもそもこんな斥候なんてするわけないだろうが」
「……そんな」
と力なく抗議するルア。
うーーーーん、反省したかなぁ、コイツの場合中途半端に成功体験しかないからなぁ。
師匠って難しい、、、、。
その会話を終えた時、魔物は、森の中の地面に横たわると目を閉じて、そのまま眠ったところだった。
●
次の日、俺達はまだ斥候を続けている。
今は魔物は巣穴の外の樹の近くで目を閉じて寝ている。
その近くを丁度クラスDの魔物が通りかかった時。
バキン!
という音がして獲物であろうクラスDの魔物の身体が半分になった。
当然に即死、そのまま横に倒れてピクリとも動かない。
それを見届けた魔物は齧った半分を吐き出すと、そのままゆっくりと夢中で食べ始めた。
こんな感じでクラスCが寝ているから油断できるなんてことは無い。今みたいに寝たふりだってするし、気配を消しておびき寄せたりもする手段としたりする。
「狩りは、意外と慎重というか、もっと傍若無人に振舞うイメージがありました」
とはルア。
「クラスCは人間社会から見て魔物の最強というだけで、魔族からすればペットや食料として扱われたりもする、むしろ弱者の立ち位置だよ」
「……弱者」
そんな会話をして、後を追い続け。
「今日もまた巣に帰ったか」
と日が落ちた時に穴倉にもぐりこみ、出入口を伺える位置でそのまま身を地面につけて休み目を閉じる。
そう、この魔物は自分のねぐら以外で寝ることは無いのだ。
「寝る時間メモしたか?」
「はい」
「さて、俺達も食事だ」
ルアが持ってきたリュックから簡易食料を取り出して食べる。
「相変わらず不味いですね」
「だがこれで、必要な栄養分が取れるし、腹も減らない、しかも」
俺はパッケージ等をそのままポイ捨てする。
「自然素材だからゴミも持ち帰らなくていい、値段も安い、革命的な発明だよなぁ」
んで次に取り出したるは簡易寝袋、虫よけが出来るから、木の上で固定して寝られる。コンパクトサイズで値段が安いがすぐに破けて使い物にならなくなるけど。
ちなみにこれもポイ捨て可能、サラットさん曰くとにかく携帯性を重視したそうだ。
ふとクォイラの生活魔法が恋しいなと思う、しかし俺も大概未練がましいな。
「……今、何を考えているんです?」
とルアは顔色をうかがうように話しかけてきた。
「なんだ、いつもの図々しい感じは何処へ行ったんだ?」
「も、もう! これでも本当に反省しているんですよ!」
「はいはい、不肖の弟子の質問だ、別に大したことじゃない、クラスS時代を少しな、正直ロクな思い出が無かったが」
「私、不肖の弟子って扱いなんですか……まあいいですけど、あの、聞いていいですか?」
「ん? なにを?」
「あの時、私の面接をした時、冒険者のクラスに意味なんてないって言いましたよね」
「言ったな」
「でも、クラスSとしてのカグツチさんは地位も名誉も財産もあって、世界中の高級住宅街に豪邸を持っていて、世界的なセレブのパーティーとかにも呼ばれていて、高級馬車も何十台とか持ってたんですよね」
「あぁ、そういえば持ってたなぁ、結局全部売ってしまったが。まあ肩書と金は便利な道具だとは思ったよ、劇場やスポーツ観戦場ならVIP席、セレブパーティーではファンのスポーツ選手やら芸術家から直接サインを貰えたのは良かったなぁ」
「サインって」
「ミーハーだと思うかい? ほんの数秒でも俺の為に書いてくれたというのが嬉しいの。それだけは失踪した時もちゃんと別に確保して、今はギルドの居住スペースに飾られるだけ飾ってある」
「ああ、確かに沢山ありましたね、最初は何だと思いましたが、それと……あと……」
「あと?」
「……男の人って女を侍らせるのステータスにしていますよね? 私には一つも理解できないんですけど、現に世界的冒険者の男の人って、女にだらしない人多いですよね」
「前にも言ったが、そういうステータスに憧れがあったのは否定しないよ」
「……だから、その、実際どうだったんですか、たくさん愛人いたんですか?」
「はい? そんなのいないというか、アマテラスの3人で俺には十分すぎるよ。あれだけの女達と接していたからな、そっち方面のスキャンダルは無縁だったよ」
「……そっすか」
「んで現在はコヴィスト王国の女王が代理人となって、その理想に近づくために色々とやっている最中だ」
「ああ、女王って11歳の女の子で、迫られてタジタジになった挙句、ファルちゃんとジウノアさんに助けを求めたという」
Σ(・□・;) ←カグツチ
「この間遊んだ時に聞いたんです。私は大爆笑しました」
「なんでこう、女って(ノД`)シクシク」
しかし、昨日今日でこの軽口、やっぱり女って図太いよな、まあ少しは反省していると思いたいけど。
「そもそも俺はクラスSの中でも異例だから参考にはならないよ。セレブレティとしての話が聞きたいならセシル、そして庶民から成り上がりの話を聞きたいのなら、それこそルーテに聞けばいい」
「…………」
「? どうした?」
「そのヒュレンから出禁食らったってクォイラ嬢達が言ってまして、そういえば昨日ヒュレンに対して殺気飛ばしたとかって言ってましたけど、まさか」
「ああ、大した話ではないよ、あのアホのGMさんがクォイラ達を侮辱してね、昨日お前にやったように殺気飛ばして首を落としてやっただけだ。ま、側近たちの惨憺たる状況を見たにも関わらず上司たるルーテもピントのズレたことをのたまっていたがな、そんな風だから世界的冒険者は政治屋なんて言われるんだよ」
「……本当に、仲間を大事にするんですね」
「当たり前だ」
「…………」
「それでもルーテは、庶民の成り上がりを人生かけてやってる、上流に気に入られるために身も心も捧げてゴマをすっている、そこについては感心してる次第だ」
ゴマスリ。
いいイメージを持っている人はいないだろう、故に悪口としか使われないこの言葉。
だが、出世、それもただの出世じゃない、例えば大企業の役員だったり、軍人だったら将官だったり、そして世界的冒険者を目指すためには人生をかけてゴマスリをする必要がある、それこそ奴隷のように、だからこそ。
「奴隷は有能じゃなければできない。だからルーテは間違いなく有能だ、お前なら見て学べることも多いと思う」
「褒めているように聞こえませんよ」
「褒めているつもりなんだがな」
「じゃあカグツチさんも、奴隷だったんですか?」
「全然、ゴマスリなんてしたことないし必要ない……ってルア」
「なんです?」
「ヒュレンが俺を嫌う理由ってそこだったりするの?」
「……そうとしか考えられないんですけど」
「ほーん、無駄なリソースだと思うが、まあイケメンだったら違ったのだろうな」
「だから違いませんよ、ルーテさんはセシルを嫌っていますし、痛い目も散々合ってますからね」
「俺は別に痛い目なんて合わせてないけど、まあ好き嫌いはどうしてもあるからな」
「…………」
「ま、俺の理想とする冒険者ではないってことだよ」
「……カグツチさん」
「なんだ」
「もしカグツチさんの言う理想の冒険者になったら、ジョー・ギリアンとしての生活は終わりを告げるってことですか?」
「え?」
びっくり、そういえば……考えたことが無かったなぁ。
どうなんだろう、、、。
「んー、最初はすぐにでも終わらせるつもりだったんだよ。でも今のジョー・ギリアンとしての冒険者生活も理想の一つかも、ホヴァンもルードは親友だし、シダの面々も大好きだし、大家さんも気が良くて恩がある、ルアは不肖の弟子、テックは可愛い後輩、楽しく冒険者をやっているし……まあ、当分は辞めないさ」
「……そうですか」
とこれ以上聞くことは無く会話は自然と終わりを告げる。
そっか、俺がクラスSに戻るというのは、今の生活を辞めるってこと……になるのか?
と、その後も雑談を挟みながら斥候を続け、二日後に結論を出した。
――討伐決行




