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第104話:傲慢の予兆



――ギルド・ジョーギリアン



「はいよ、公共クエストの達成証明書にサインしたよ、持っていきな」


「はい、ありがとうございます」


 とルアに手渡す。


 ルアは現在、ヒュレンに所属しつつ、ここを拠点にクラン外活動をしている。


 持ち前の能力で、このおっさん転がしのプロはすっかり冒険課のアイドル的存在になっている。


 前に少し触れたが公共クエストはクラン外活動の功績にはならない。


 なら何故公共クエストをしているのかというと、その先を見据えての事だろうが……。



 この頃のルアの言動には色々と引っかかる部分が出てきている。



「ギリアンさん、テックはどんな感じですか?」


「? テック? どうと言われても、お前の方が詳しいだろう」


「いえ、テックの移籍の話とか」


「本人は当分はここにいるみたいだぞ、魔法剣士とはいえまだ未熟だからちゃんとサポートしないとだし、本人も言っていたが当分こなすのは公共クエストなのは変わりないからな」


「ギリアンさん」


 とルアが繰り返し話しかけてくる。


「なんだ?」


「テックから契約内容を聞いたんですけど、私の時と一緒の内容、冒険者有利に契約していますよね?」


「そりゃそうだよ、お前の時と一緒だ」


「そうですね、テックはこれから本格的に魔法剣士としての道を歩むことになる。ギリアンさんも知ってのとおり冒険者において「両道」ってほとんどいない、つまりテックの価値は爆上がり状態になる」


「そうだよ、だからこれからアイツはいずれここから羽ばたいて、ここよりももっといいギルドで、もっといい契約で、もっといいクランで、もっといいクエストを」


「ギリアンさんのそういうところって素敵だと思います、私も凄く助けられました。テックも同じでしょうね」


「……何が言いたい?」


「テックを手放したくないという話です」


「ああ、そういう意味か」


 なんか、凄いもったいぶって言うからなんだと思ったけど。


「お前のクランに入れるとなるとヒュレンと契約する事になるんだったな、だからと言って俺に遠慮する事なんてないし、元より冒険者時代はクランを組んでいた仲だ、それがテックの為になるんだったら喜んで送り出すぞ」


「私が言いたいのは、魔法剣士としてギルド:ジョー・ギリアンに所属できないかなって意味です」


「?? 何言ってんの?」


「テックは、奨学金を借りているんですよ」


「それは知っている、だからこそ」


「契約金を用意したいんです」


 と俺の言葉を遮る形でルアが発言する。


 契約金。


 プロ野球でおなじみ、ルーキーが契約する時に年棒とは別に貰えるお金。


 冒険者でも有名な冒険者がフリーになると、有力クランがこぞって獲得に乗り出し、それこそルアが所属しているヒュレンが、フリーエージェントと上級回復魔法使いと契約するのに、高額な契約金と年棒を用意してクランメンバーに迎え入れたりしている。


 つまり、ここでルアが言いたいのは。


「つまり、テックが背負っている借金を契約金で賄い、それをもってここに契約をしてここに所属させるということか?」


「そうです」


「……その話、テックを俺のところに所属させる必要はないと思うが、理由を言ってみろ」


「はい、先ほど言ったとおり私がいずれ立ち上げるクランにテックを入れたいんです」


「ここに契約で所属させるとヒュレンと契約できなくなるぞ」


「私の立ち上げるクランに入るという契約をすれば、その時点でヒュレンに所属させることができるので大丈夫かと」


「…………」


 ルアは、クラン長に向いていると思う、だから俺はあの時、自分のクランを立ち上げろとアドバイスをした。


 戦闘職がクラン長なら回復魔法が使える魔法剣士はかなり相性が良い。


 だが、今回の話の肝は、そこじゃない。


(こいつ……まさかとは思うが)


「その契約金はどうやって用意するんだ?」


「これからは、私自身の話にもなるんですけど、少し前に大家さんの為にこなした野菜の採取クエストでクラスCの魔物の出現して遭遇したんですよね?」


「で?」


「実は討伐依頼がヒュレンに下りていて、現在ゼカナ都市にあるカテゴリー5の複数のクランによる協議が行われています。ただカテゴリー5だと全員二の足を踏んでいる状態、このままだとカテゴリー4以上に手柄を奪われることになり、そうなればゼカナ都市のクラスC冒険者ピグも動くことになるでしょう」


「二の足? カテゴリー5とはいえクランメンバーは選抜されている事には変わりないだろうし、色々な人材がいるだろう、連携すればいいじゃないか」


「うーーーん、正直カテゴリー5ってクランとは名ばかりなんです。功名心のみに駆られていて統率が難しいんですよね。皆名をあげたい、怪我したくない、損したくない、ほぼ個人プレーです」


「それも非効率のように聞こえるが……」


「人数も多いですからね、クランとしてのチーム力を発揮しなければカテゴリーを上げないといけなくて」


「つまり、クラスCを討伐したいってことか?」


「はい、クラスC討伐を成功させれば実績も桁外れ、コアは宝石に例えられ、素材もはぎとる副収入も大きい」


「…………マジで言ってんだな」


「はい」


「そうか、悪いが論外だ。ルアとテックの2人でどうにかなる相手じゃない」


「ホヴァンさんとシダを加えた場合はどうです? そしてギリアンさんも」


「お前、それはどういう意味で言っている?」


「そんな怖い顔しないでください。分かっています、むしろ絶対にやってはいけない事です。ここのギルドは私にとっても大事な場所なんですよ。だから私は「ギリアンさんとして」お願いしたいんです」


「ギリアンとして具体的にやって欲しいことを言ってみろ」


「死者を出さない事」


「…………」


「私が聞きたいのは「ギリアンさんが死者を出さないとして活動する状態」でクラスC討伐なるか、という意味です」


「…………」


 考える。


 つまり俺抜きで、あのトカゲ型を倒せるかどうか……。


(というかルア、少し感じていた事だが、やっぱりコイツは……)


 まあ、それは後だ、ルアが想定する俺の役割でクラスCが倒せるかどうかだが……。


「……作戦が全て上手くいけばという条件だが討伐は可能、それでも相当厳しい戦いになる」


「なら価値はあるかと」


(価値か、いけしゃあしゃあと)


「カグツチさん?」


「なんでもない、報酬分配をどう考える?」


「え?」


「テックの奨学金を報酬で賄う場合、クラスCの報酬と副報酬の総額はでかいが、それでも均等割りだと足らない。よって「不平等な報酬分配が前提」となる。そしてそれは絶対に禍根を生む、その禍根は何時爆発するか分からない不発弾のようなものだ」


「はい、クォイラ嬢から聞きました、カグツチさんが潔癖なほどに拘っていた項目なんですよね?」


「そうだ、なら話は早い。俺は絶対に譲らない、お前はさっきここが大事な場所だと言ったな? 俺にとってもそうなんだよ、ホヴァンもルードもテックもシダの面々も、俺にとっては大事な「縁」なんだよ」


「承知しています、だからこそカグツチさんが失踪から今の生活まで、アマテラスの3人の助力は一切得ていないんですよね」


「あたりまえだ、最初はな、ほぼ無一文で失踪したからホームレスでもやろうと思っていたんだよ。まあ、大家さんの厚意でこうやって快適な生活を送れているがな」


「なら一つ質問を良いですか?」


「なんだ?」


「ざっとした計算ですけど、平等な報酬分配でもおおよそ奨学金の三分の一になります。私が受け取る報酬全額を契約金としてテックに渡す事は、「カグツチ」さんのいう不平等な報酬分配にあたるかどうか」


「…………」


 その問いは、、、。


「その質問については答えられない」


「え?」


「俺にとってアイツら3人は仲間、ここでいう仲間ってのはビジネスパートナーではないという意味、つまり利害関係が存在しない、だから考えたことも無いってのが答えだ」


「…………わかりました」


 さて、となれば、、、、。


「話を戻す。クラスCの討伐クエストへの挑戦は、テックの成長とルアの野心、命を懸けた狩りは大きな経験値と自信になる、そういう意味においてギルドマスターとして特に反対する理由は無いが……」


「が?」


「二つ条件がある、これはマジな話だ、心して聞け」


「はい」


「一つ目、このクエストには命のリスクが伴う、まずクエストについて、あと一息で倒せるところまでいっても容赦なく撤退させる」


「はい、心得てます」



「その件で命令無視があった場合、冒険者としてのお前との縁は終わりだ、ここも出禁とする」



「っ!」


「冒険者として一番してはいけないことは命を落とす事だ。今回お前は俺に求める役割として「死者を出さない事」といったが、俺が考えている作戦だと、俺よりもお前の判断ミスでホヴァンが犠牲になるからな」


「…………」


「だからそこを補足する「死者を出さない」という役割についてだが」


「はい」



「お前が死ね」



「……ぇ?」



「このクエストの最良は全員生還、そして次点はお前が死んでの他のメンバーが全員生還とする。死者を出さざるを得ないなら、俺の作戦でお前に死を与える、そうなりたくなければ精々死に物狂いで生き延びろ、指示は以上だ」



「…………」


「グパハーの件でお前は勘違いをしたようだから言っておく、あれは元々「その予定」だっただけだ。そもそも論としてアレはクォイラがカミムスビとして処理する予定を俺が横やりを入れた形となったんだよ、魔族が徘徊している情報を掴みながら犠牲者を出したら、クォイラの責任問題になるからな」


「…………」


「まあ、死を与えるって今の俺の言葉がよくある「試している」と解釈して「いざとなったら颯爽と助けてくれる」なんて思っておけばいいさ、そっちの方が餌にしやすい。まあ安心しろ、あのクラスCは凄まじい咬合力を持っているから獲物を噛みつき即死させて吐きだし、じっくり食べる習性がある。痛みを感じる間もなくあの世だ、冒険者の死としては慈悲深い」


 俺はここで言葉を切ってルアを見つめる。


 ルアは小さく震えていた。


「なんだ、辞めるか?」


「っ! い、いいえ!」


「二つ目、今回のクエストはさっきも言ったとおり命のリスクが伴う為、全員の士気の高さが重要だ、1人でも反対したりすれば諦めろ」


「……はい」


「俺は絶対に譲らない、いいな?」


「はい!」



――数日後・ギルド:ジョーギリアン



 ホヴァンは立ちあがるとルアの手を取り跪く。


「ルアちゃん、やっと借りを返せる時が来たね」


「え?」


「風呂覗きの件、ルアちゃんは許すどころか仲間として選んでくれた。でも罰というか、そういったものが結局なかったってことについて、身勝手だけど引っかかっていたんだよ」


「ホヴァンさん……」


「俺は君についていく、君のために俺は戦うよ」


「ありがとうございます、頼りにしてます!」


 と笑顔のルアに商会長さん達が立ちあがる。


「ホヴァンさんの言うとおり、これで本当にルアちゃんと対等になれるわけか、将来の妾の為だ、老骨に鞭うつか、なあ?」


「「「息子の嫁の為だからな!」」」


「テックは、無理しなくても」


 テックは震える手を押される。


「何言ってんだよ、武者震いだよ。交戦経験はないけど、自慢にはならないけどクラスC相手に臆さずに逃がした実績があるんだ、回復魔法は疲れを取るぐらいしかできないけど任せて」


「ありがとう! テック!」


「礼には及ばないよ、俺自身の冒険者としての実績にもなるからね」


「よし、みんなで勝鬨を上げようぞ!」←商会長さん


 と全員が集まり。


「「「「「えいえいおー!!!」」」」」



「あのー、盛り上がっているところ申し訳ありませんが、ちょっとよろしいでしょうか?」←カグツチ



「なんだね?」←商会長さん


「いや、なんだねというか、クラスCの魔物は命のリスクが伴うというか、その相当に危険で」


「? そのとおりだ、ギリアンさんなら分かるだろう? このクエストの肝は討伐よりも撤退だ、その判断は任せるよ、作戦立案について一任しても?」


「あ、はい、元々そのつもりなんですけど、あのーホヴァン」


「なんだ?」


「お前なら分かるだろう? あのトカゲ型の」


「わかってるよ、あの顎に噛まれたらもう助からない、でもスピードは無いからな、それに何度か交戦経験があるんだよ」


「……ああ、そう」


「「「「「キラキラ」」」」」


 とみんなルアを見ている。


 そうか、ルアの追っかけだもんな、この人たち。





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