第103話:追悼・つば九郎
――ギルド・ジョーギリアン
今日は臨時休業。
「…………」
俺は無言で佇んでいた。
●
娯楽。
強国の一つの指標として「一般庶民が娯楽に金を使う事が出来る」というものがある。
何故なら娯楽はあくまで「金銭的時間的余裕がある庶民が楽しむ」という前提条件が成り立つからだ。
これは日本も当てはまる、例えばプロ野球の場合、全体規模はアメリカに負けるがファン1人当たりの投資額は実は日本の方が高い。
ここ異世界の強国であるルザアット公国にも当然にスポーツ娯楽があり、巨額の金額が動き、セレブのスポーツ選手がいる。
ゼカナ都市では、かねてから公国で一番人気のあるスポ-ツのチームを作ろうという計画が立ちあがっており、ついにゼカナ都市議会がその計画を決議、本格化することになった。
都市議会の決議を受けてチーム作成にあたり所謂「株式会社」を発足させて動き出す。
だがチーム創設は困難を極めた。
チームを作るにも選手さえいればいいという訳じゃない、むしろ選手は極一部で、練習場所、試合場、器具、裏方スタッフ、スポンサー集め等、やることは山ほどある。
都市議会の肝入りとしてスタートしたものの、遅々として一向に進まず成果も上がらず、一時期はとん挫するかと思われたが「ある出来事」により劇的に良い方に変わりスムーズに進行するようになった。
その「ある出来事」は後述するとして、今回チームの株式会社は、マスコットについて公募を打ち出した。
マスコット。
チームやスポンサーや地域等の象徴的存在で認知度の向上や差別化を図り、主に広報活動に従事、一般的には動物を模したものが多い。
このマスコット公募の応募資格はゼカナ都市民であることのみで、公募採用をすることにより、地元民が選んだという一体感を得るのが狙いだ。
――ゼカナ都市・大公園・審査会場
ゼカナ都市の中心街、表通りの中心部に位置する大公園。
憩いの場としてはもちろんの事、各種イベントが開かれている場所でもある。
此度のマスコット審査会場は大公園。
同大公園にマスコット審査会場が設置されて、観客も集まっており、徐々に開演時刻が迫っていた。
――審査員控室
「マスコットは広報だけではなく、巨額の利益を上げられる、か」
審査員控室で資料を見ながら呟くのは、ギルド・ジョーギリアンの貸主であり、ゼカナ都市表通りに八百屋を構えるホリア、その言葉に反応するのは。
「ギリアンさんの祖国の話だったか? だがマスコットで巨額の利益をあげると言っていたが、主役は選手だろう? どちらかというと利益よりも経費として扱われるものだと思うが」
ゼカナ商会の商会長であるテドンだ。
今回、ゼカナ商会からはこの2人が審査員として選出されている。
「それがギリアンさんによれば、グッズ売上金はそれこそオールスター選手よりも売り上げ、トークショーも引っ張りだこ。銀貨10枚のマスコットのみのディナーショーが即日完売、協力関係にある宿屋にはマスコット一色のホテルの高級部屋があって、ずっと予約で埋っていて、更にマスコット一色で染められた不動産が売りに出されたり、凄い額のお金が動くそうですよ」
「ほう、チームマスコットで染め上げた客室か。なるほど、それは私としても協力できる話かもしれないか、だが不動産は本当の話なのかい? 現にこのスポーツの他のチームもマスコットのグッズは沢山あるが、そんな話は聞いたこともない、不動産の値段は?」
「だいたいこちらで換算すると公国大金貨10枚だそうです」
「10! それは、ギリアンさんが言っていたのか!?」
「はい、なんといってもキャラクター性が唯一無二で、マスコットを職種として捉えるのなら間違いなく天才であると」
「そんなマスコットがいるのか、だがグッズのアイデアなんて頭打ちになると思うが」
「30日ごとの定期新作、そして様々な季節やイベントに応じて発売してファンがずっと買い続けるそうです。売上額はここ10年でたった一度だけタイトルを独占した選手に抜かれただけで、翌年は1位を奪還、それは継続されているそうです」
「…………」
テドンは絶句する。
なお2人が話しているのは、今回審査会に参加するギリアン考案のマスコットの話だ。
今回のマスコットの公募について、枯れ木も山の賑わいというと言葉が悪いかもしれないが、マスコットの応募数も大事だ。
だから裏話として今回ゼカナ都市の様々な分野の有力者達に応募ノルマが課せられており、ゼカナ商会は3体。
でもなかなか引き受ける人がおらずアイデアも出ず、それでも2体まで何とかなったのだが、最後の1体がどうしても決まらなかった。
その雑談をホリアが家賃徴収時にギリアンにしたところ、3体目を申し出たのだ。
まさかギリアンからとは思わなかったが「アイデアは既にあるから経費だけ負担して欲しい」といったものだった。
「まあ、ありがたかったんですけど…………」
なんだろう、なんといったらいいのか。
「何かあったのか?」
「その時のギリアンさんの様子は、どう表現したらいいのかわからない感じで……」
「……言われてみればこの頃クエストにも参加しないでずっと企画を練っていたみたいだが、そもそも、そんなにスポーツが好きだったのか?」
「好きみたいですよ、今はお金に余裕がないから魔石映像で我慢しているとか言っていました。祖国にいた時には、贔屓チームのファンクラブにも入っていたみたいです」
「そうか、まあ、元から好きな事を楽しむことには全力な人だからなぁ」
と何とも言えない空気になった時。
係員がトップスポンサーの来訪を告げる。
その瞬間、審査員として呼ばれていた人たちは一斉に立ち上がり表に出て出迎える。
全員が出迎えの準備を終えたおよそ5分後に、そのトップスポンサーが乗る馬車が到着した。
豪華な衣装を施した高級馬車、馬も洗練された毛並みの美しい馬。
その馬車に刻まれているのは。
――アルスフェルド子爵家の紋章
「お疲れ様です」
と使用人がドアを開ける形で降りてきたのはクォイラ・アルスフェルド、彼女がチームのトップスポンサー就任、これこそが、頓挫しかけたチーム作りを劇的に向上させた出来事だ。
金。
以前にも書いたが、金があれば出来ない事はほぼ無くなる、だから金を出すスポンサーはそれだけで強いし偉い。
冒頭でチーム作りに必要な事を色々と述べたが、その全てに金がかかる。
今回のマスコットの公募だって、ステージを作ったりスタッフを雇ったりと金がかかっている。
そしてスポンサー集めというのは言い方を選ばなければ「金を無心して回る」といったものだ。
そしてスポンサー側からすれば大事な金を投資するわけだから、地元貢献という「善意」だけでは当然に難しく金は集まらない。
ここで名乗りを上げたのがクォイラだった。
冒険者と貴族と二つの顔を持つ彼女は、子爵家令嬢として地元密着としての方針を打ち出しており拠点をゼカナ都市に構え、市井にも顔を出し社交を開き、地元の有力者達と交流をしている。
彼女はチーム結成の決議を受け、事業計画を読み投資に値すると判断、トップスポンサーとなった。
ルザアット公国にとって貴族は支配者であり、国家と国民への奉仕者であり、公国民にとって絶対的な存在。
彼女自身の資産も、資産運用の収入及びアマテラスの冒険者としての収入で、ゼカナ都市での他の有力者達と比べても桁が三つぐらい違う大金持ち。
その彼女がトップスポンサーを名乗り出てくれたことは、ゼカナ都市の有力者、ゼカナ都市出身の有力者達がこぞって名乗りを上げる結果となった。
何故なら、スポンサーとなれば今みたいに彼女と名前を並べることが出来て、それだけで宣伝とステータスになるからだ。
現に目標額の倍集まったのだから、影響力が凄まじさは見てとれる。
クォイラは出迎えてくれた全員と挨拶を交わした後、発言する。
「本日はよろしくお願いします、それでは段取りの最終確認をしましょう」
●
審査の段取りはこうだ。
一次審査・自己紹介→二次審査・ファンとの交流→三次審査・熱意のピールタイム→それぞれの審査での総合評価で審査員による投票による決定
:審査委員の構成。
・審査委員長、ゼカナ都市長。
・副審査委員長、ゼカナ副都市長。
・特別顧問、クォイラ。
・審査委員、ゼカナ都市から選抜された有力者(テドン、ホリア等)
補足
1:決議権は審査委員のみ、審査委員長と副委員長で審査権を持たず承認するのみ。
2:クォイラは影響力が大きすぎるため、顔は出すが口は出さず審査権は持たない。
ざっくりとした流れはこんな感じだ。
採点用紙やら資料やらの内容を確認し、クォイラ含めた審査員たちの準備完了。
時刻が来たところで司会進行役のお姉さんが舞台に登壇した。
『皆さんこんにちは~! 今日はチームのマスコットになりたいと、とても魅力的な子達がたくさん集まってきています! それでは早速始めましょう! まずはこの子です!』
とステージ上で司会進行役の挨拶で始まった審査会。
マスコット候補が登場すると同時に審査員たちは資料を広げる。
ちなみに先入観を失くすためと公平性を保つため、各マスコットは何処の誰がアイデアを出した等は伏せられており、マスコット自体も簡単なキャラ設定のみ。
そうして始まった一次審査の自己紹介。
登壇したマスコットのパフォーマンスを見て配られた採点用紙に書き込んでいき、1体ごとに係員が回収する。
小柄で可愛くをアピールするマスコット。
逞しく強さをアピールするマスコット。
優しく穏やかなアピールをするマスコット。
そしてモチーフとした動物や、キャラの物語を各自工夫しつつ自己紹介をしており、場内を沸かせている。
『はい、ありがとうございました~』
とのお姉さんの言葉の元、手を振りながら退場するマスコット。
「いよいよ次か」
というのはテドン。
ギリアン考案のマスコットは、テドンもホリアも概要は聞いているものの名前と簡単なプロフィールしか知らない。
何処となく緊張しているテドンの横に座るホリアも固唾をのんで見守る。
『それでは、続いて登場するのは「異世界から来た渡り鳥」である【つば九郎】です!』
その言葉の元、拍手を浴びて登場したのは。
腹が出て顔が大きい白黒の鳥(?)が出てきた。
「って、あれ? ギリアンさん鳥って言ってたよな?」←テドン
「え、ええ、渡り鳥ってちゃんと書いてありますね」←ホリア
「あの体型で飛べるのか? もっと、ほら、他の鳥のマスコットはすらっとして、小柄だったり、可愛かったり、精悍だったり、身軽な感じがするのに」←テドン
<自己紹介>
『彼は異世界から来た渡り鳥、ここを気に入って、渡らない渡り鳥になったそうです。名前もその異世界語で【つば九郎】というそうです、これはどう発音すればいいですか?』
スケッチブックを取り出してペンで書く。
――はじめまして、つばくろう、といいます
『おお~、フリップで会話するんですね』
「なあ、さっき確かトークショーとかするとか言っていなかったか?」←テドン
「言ってましたね」←ホリア
「喋らないでフリップだけで、それってトークショーなのか?」←テドン
「さあ……どうなんでしょう」←ホリア
『ほほう「つばくろう」と発音するんですね~、つば九郎がいた異世界とは、どんな場所なんですか?』
――にほん、というくに。つばくろうは、にほんの「やきゅう」という、きゅうぎの、ぷろちーむ、やくるとすわろーず、というちーむの、ますこっとをしてました
『やきゅう、ですか、ほほう、異世界でもスポーツチームのマスコットをしていたんですね、そのチームのマスコットはやらなくていいんですか?』
――こくみんてきつばくろうになるため、ふりーえーじぇんとせんげんをしました
『フ、フリーエージェント、マスコットなのに、それと、スケッチブックの他に手に持っているのは』
――けいばしんぶん、あとるーびーすき
『け、けいば? ギャ、ギャンブル好きなんですね、ってるーびー?』
――たんさんむぎしゅ
『お、お酒も好きなんですね~、あ、あの、えっと、あ! そのお腹に書いてあるえっと、またつば九郎さんの祖国の文字とは違う文字っぽいですけど、これはなんですか?』
――たとぅー
『えーー!!』
としどろもどろになる司会のお姉さんだったが、ゴホンと咳ばらいをすると。
『さ、さいごに、ファンの皆様へのアピールをお願いします!』
――こんかいのれーすは、こーなーとちゅうでスタートする、とくしゅなもの、きょりもみじかい
――よって、そとわくが、あっとうてきふり、よってここは2‐3の、うまたんでしょうぶします
『あの~、マスコットとしてのアピールを~』
と終始こんな感じで終わりを告げた。
「「体型も中身もおっさんじゃないか」」
外見は、可愛い、、、、、、。
か、可愛い、、、、うーーーーーん、なんだろう、この可愛いの感情を何処へ持っていけばいいか分からないこの感じ。
と割と強烈なインパクトを残して、最初の一次審査は終わった。
――二次審査・観客とのふれあいタイム
「…………」←グッズを欲しがる子供に高く掲げているカグツチ
ドコォ! ←飛び蹴りかましてきた子供に膝蹴りを食らわすカグツチ
――つぎの、れーすは ←おっさんたちに競馬予想しているカグツチ
バタバタ ←チアリーダーに他チームのシャツを無理矢理着せようとしているカグツチ
ドカドカ ←スポンサーのキャラをボコボコにしているカグツチ
「あ、スタッフに連れて行かれた」←テドン
「そりゃあ、スポンサーのキャラを殴っては駄目でしょうね」←ホリア
色々凄いなと思いながらフリータイムを見守っていた2人であった。
最終審査:アピールタイム・どう盛り上げていきたいか
『それでは最後、次はチームの応援するためにどう盛り上げていきたいかのアピールタイムです!』
という司会の言葉をもと、始まった最終審査、マスコット候補達は、曲芸したりダンスを披露したり各自アピールを続け場を盛り上げる。
『ありがとうございました! それでは次はつば九郎です!』
との言葉で手を振りながら出来てくるつば九郎。
『おや? それは傘ですか?』
司会のお姉さんは手に持っている傘に注目する。
――ちーむのとくてんがはいるたびに、うたをうたい、かさをふります、かさはだれでももっているから、ぜひもってきてね
『歌ですか? 曲名はあるんですか?』
――【東京音頭】
『おおー、この文字は例の異世界語ですね~。どう発音すればいいですか?』
――「とうきょうおんど」とよんでね
『どんな歌なんですか?』
――それは、いせかいで、えた、なかまたちに、うたってもらいます
そんなフリップの後に登場したのは。
ルアとホヴァンとテック、ルードまでいた。
ルアはマイクを握ると3人を後ろに横一列に並べて前に出て手を振る。
『皆さんこんにちは~! ルアとゆかいな仲間達でーす! それでは、得点した時の東京音頭歌いまーす!!』
と音楽録音した魔石を取り出して曲を再生すると。
『はぁ~♪ おどりおーどるなーら♬』
ルアが歌い、そのリズムに乗せて傘を後ろの男達は上下させている振っている。
――つぎは、ちーむの、てーまそんぐをうたい、もりあげます
と再び別の曲を再生して。
『神宮の風を、翼にまとい~♪ 駆け抜けていけ~♪』
今度はルア達全員で歌う。
――さいごに、せんじゅこじんに、おうえんかをつくり、りずむにのって、おうえんします
というフリップの合図にする形で後ろの男3人がフライパンとお玉を持ち上げる、それを見てルアが。
『強靭な向かい風は~♪ 背中でうーけとめーて♬ 追い風にすればいいさ~♪』
とルアが歌う後ろでフライパンとお玉を一定のリズムで叩きながら、盛り上げる。
チームの盛り上げ方は具体的であり、かつファン参加型の一体感を重視したやり方となっている。
そんな空気が伝わるのか、審査員含めていい意味で黙ってみている。
でも、、、。
「「…………」」
テドンとホリアは、最初からずっと続く何とも言えない感情に支配されていた。
良い悪いという問題ではなく、最初からこのパフォーマンスには一貫して、何か別の意思というか、意図を感じている。
『はい、ありがとうございました! 凄い盛り上がりましたね! それでは最後に一言お願いします!』
との言葉に、予め用意していたであろうページをめくる。
――いつか、いつのひか、このあしあとのさきに、つばくろうがいなくなったら、そらをとんだとおもってください
『…………そ、そうですね、異世界に帰るかもですね!』
司会もその意図を感じていたのか、少しコメントに困った様子で何とか締める。
そんな最終審査も滞りなく進み、最後はマスコット候補者たち全員が舞台に最後に一堂に会し、手を振って退場して審査会は終わりを告げたのであった。
――審査会終了後・審査員控室
「「…………」」
2人は、審査会が終了した後、控室でずっと黙っていた。
ギリアンの意図、この一連の動きについて、適切な言葉が当てはまる事は分かるのに何故か思い浮かばないもどかしさに唸っている時だった。
「喪に服しているんじゃないですか?」
「「!!」」
と2人の前にクォイラに合点が行く2人。
「それだ! それですね!」
「そうか! まさにそれが正しいと思います!」
確かにそのとおりだと思った、そう、喪に服しているのだ。
ただ2人は混乱する。
喪に服しているってなんだ。
ここはマスコットの選定会場で、マスコットは皆を楽しませることが仕事で、んで、ギリアン扮する【つば九郎】は、手法の差こそあれど、その仕事をまっとうしようとしているように見える。
色々と考えるも結局2人は、それが分からない。
こうして終わったマスコット公募。
結果、選ばれたのは、、、。
――ギルド・ジョーギリアン
「お疲れ様でした」
とギルドで俺に声をかけるのはクォイラだ。
「なんだ、きてくれたのか、ありがとな」
審査会終了後、協力してくれた面々に礼は後日改めてと、すぐに帰ってきて1人でコーヒーを飲みながら物思いにふけっていたのだ。
クォイラにもコーヒーを淹れてあげて、少し飲むと一息ついて、クォイラは言葉を紡ぐ。
「残念でしたね、採用されなくて」
そう、結局、強く爽やかなマスコットが正式採用されたのだ。
参加者にだけは予めその結果が通知されていて、採用されたマスコットの考案者と関係者は、後日チームと色々と活動についての交渉を続けていく予定だ。
落選したと聞いた時の、俺の気持ち……。
「残念か、うーん、どうかな、どうなんだろう」
「え?」
「なぁ、クォイラ、マスコットを1人で30年担当していた人が亡くなったら、そのマスコットも死んだと考えるか?」
「……マスコットはあくまで企業戦略の一つなので否だと思います。ですがカグツチはそう考えていないのですよね?」
「うんそうだ、そのとおりだ、無論公式には中の人なんてものはいない。だけどね、その唯一無二のマスコットは担当した人が作り上げたものだったんだ。だから俺はね、つば九郎の担当スタッフは「魂」であったと思う。だからクォイラよ、俺の先ほどの質問はこうなんだ」
――別の人間の魂が入った自分は、それは自分と言えるのか
「……それだと確かに別人ですね」
「ああ、そうなんだよ、やっぱり唯一無二だった、自分でやって本当によく分かったよ」
「なら、辞退しますか?」
「え?」
「まだ公には発表にはなっていませんが、まず応援スタイルについて。選手個人の応援歌をリズムに乗って歌ったり、傘を振ったりと一体感を重視した応援スタイルが他のチームに無い画期的なアイデアと認められ導入されることが決まりました」
「ははっ、それは光栄の至りだ」
「そしてつば九郎自身も特別賞を受賞したんです」
「特別賞?」
「妙に刺さった人がいたみたいで、採用されたキャラが爽やかな優等生キャラじゃないですか。異世界からきた不良キャラが受けて、性格は正反対なのになぜか気が合う親友という設定でどうかと」
「ぷはは、不良キャラか、そうだよな、やっぱり「偽物」になるか……」
「え?」
そう不良じゃない、それこそ蹴ったり殴ったり、妹苛めたり、仕事サボって寝てたり、辛辣だったり、競馬したり、新庄監督への迷惑ファンの炎上した行動を大谷にやったり、ジャニーズ(当時)NEWSの不祥事いじって炎上したり、ファンの子供泣かしたり(これは流石にブーイングが来たが)、自分のメディアの不祥事いじったり、好き勝手したイメージがどうしても強い。まあ一度本気で怒られたらしく、本人も「二度と思い出したくない」と言っていたけど。
だが頭部死球の危険球を与えた相手投手に対しての彼はファンに対してこういった。
――
やくるとすわろーずふぁんのみなさん、かーぷの、いまむらくん、わざとあてたわけではありません。
わかってます、あたまだぞ~!って。あすいこうも、いまむらくんでてくるでしょう。ひんのない、きたないやじはやめましょう。
――
そう、彼は本当に人を傷つけることはしなかった。
根幹に流れる「みんなえみふる」が彼のモットーだから、長年愛され続ける。
ファンもそれが分かっているから、今では危険球に対して瞬間的な感情の爆発はあっても、すぐに収まり軽い野次程度、その遺志は受け継がれている。
「いやさ、大家さんから最初マスコット公募の話を聞いた時、最初はそれこそ異世界転生できないかなって、俺がさせてあげられないかなって考えたんだよ。いやぁ馬鹿な事を考えたものだ、異世界転生させるってのは傲慢もいいところだよな」
「…………」
「聞いてくれてありがとな、実はな、今年、渡り鳥である彼は、俺の祖国に帰る」
「気持ちの整理はついているのですか?」
「ううん全然、でもね、、、、」
「魂は変わったかもしれないが、遺志は受け継がれる、俺はそう信じてるよ、ずっとね」
結局、特別賞は辞退したものの、シーズンに「すけっと、いせかいどり」として出ることになった。
――「つば九郎は唯一無二、向こうのシーズン日程はこっちで調べるから同時に出ないようにするからね!」
という謎のこだわりだけは絶対に譲らず、契約書に盛り込んだそうな。
んでそのチームは、そんなに強いわけではないけど、ファン一体型の応援スタイルが大いに受けて、一番熱狂的なチームファンとして言われるようになったのは別の話。
――「一番熱狂的なファンって、まじか、祖国では一番大人しい部類のファン層なのに」
とカグツチが言ったのはまた別の話。
::おしまい
その時は突然でした。
Xにつば九郎担当者死去のニュース映像のスクショ画像が流れてきたのです。
ただそのニュースがCBCというTBS系列の名古屋ローカルであったことから、Xでよく流れてくるフェイクニュース画像だと、私は全く信じていませんでした。
体調不良により休養に入るとは公式で発表があったので知っていましたが、大酒飲みの大食漢なのはみんな知っていたので「控えてね」ぐらいで、そこまで深刻に捉えていませんでした。
実は、休養発表があった時点で、既に余命幾ばくもなかったそうです。
そのつば九郎の魂である担当者の命日が本日、2月16日、今日で1周忌を迎えました。
――「来シーズン、いよいよ彼が復活します!」
昨年のヤクルトのファン感謝祭での最後、池山新監督の挨拶での突然の言葉に「彼? 誰?」という反応の中、神宮球場のオーロラビジョンに映し出されたつば九郎バルーン。
その時の球場内の雰囲気は戸惑い、復活の報を受けたファン反応も。
――「え? え? 本気?」
――「あのキャラを別の人がやるなんて無理じゃないか」
――「ギリギリ攻めようとしたら飛び越えて絶対に炎上する」
――「隠し子でいいじゃん。つば九郎に隠し子なら「らしい」じゃないか」
応燕の変わらないが、その気持ちを何処に持って言っていいか分からないという感じで、私自身もまだ気持ちの整理がついていませんが、何故か祈るような気持ちになりました。
今日、Xでは1周忌に際し、ファン達は愛あるメッセージで故人を偲んでおります。
――「魂は変わったかもしれないが、遺志は受け継がれる、俺はそう信じてるよ、ずっとね」
もう、カグツチのこの言葉はまんま私ですね。
とまあ「プロ野球? 大谷ぐらいしか知らない、つば九郎? なんかニュースで見たような」という人にとっては、最初から最後までよく分からない話だったと思いますが(笑)。
補足としてルアが作中で歌っていたのは、ヤクルトの川端慎吾のチャンステーマ、プロ野球の応援のノリってどんな感じかなと思った方は以下のアドレスを参照くださいませ。
興味ない人にとって、プロ野球の応援のノリはまさに「異世界」と感じるようです(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=kbMJfMfFLfI&list=RDkbMJfMfFLfI&start_radio=1
後は、追悼動画で思わず涙目なったつば九郎の親友であり「6さま」ことスワローズレジェンド、宮本慎也氏の動画がこちらです。
6さまかんとく&つば九郎は、私も見たかった(´;ω;`)ウッ…。
https://www.youtube.com/watch?v=MKpbk86iZeU
個人的には、2896をチーム初の永久欠番に、そして野球殿堂入りは駄目かなぁ。
後、ヤクルトの球団バスのナンバー下四桁が「2896」なのが泣けた。
ちなみに神宮キャンプも浦添キャンプも楽しかった~、サインに応じてくれた選手の方々には感謝しかない(´;ω;`)ブワッ。




