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第102話:意固地で融通が利かなくて不器用で・後篇


――ギルド・屋上・テック



 ギリアンさんとルアとの話し合いが終わった後、俺は頭を冷やしたくなり屋上に向かって空を眺めている。


「はぁ」


 思わず漏れるため息……というより、なんだろう、こう、ため息というより、息が漏れてしまったというか……。


「…………」


 空を眺めてもその景色が頭に入ってこないというか、そんな気持ちの整理がつかないままずっと眺めていた時だった。


「あ、あの~」


 という声で振り向くとルアが立っていた。


「? どうしたの?」


「いや、ごめんね、無神経なこと言っていたかなぁって思って、あのね、戦闘職としても頼りになると思ったのも本当なんだよ?」


「あ、ああ、うん、分かったけど、どうして今?」


「いやぁ、降りてこないから怒ってるかなぁって、ほらギリアンさんも!」


 とルアに促された先を見ると階段の踊り場で隠れるように立っていたギリアンがいた。


「いやさ、強い思いがあるとか言っておきながらさ、えー、頭ごなしに否定してしまったって思ってさ、ご、ごめんね、ほ、ほんとうに使いたくないなら使わなくていいんだよ?」


 というギリアンを鼻で笑うルア。


「全く、何が「黙ってろルア」ですよ、頼りにならないなぁ~」


「はん! 無神経女に言われたくない!」


「へー、無神経女ですか、その無神経女の胸とか脚とか見て鼻の下伸ばしてる人が言っても説得力皆無ですが」


「本性バレた女に今更そんな視線向けるか」


「本性? 別にギリアンさんに本性なんてさらけ出してないですけど? やだ、自意識過剰、ブルブル」


「だかましいわ、ぶりっ子女、俺といる時と外面が随分違うじゃないか、あーん?」


「…………」


「…………」


「「シュシュシュシュ!!!」」


 とお互いに拳の打ち合いをしている。


「ぷっ、あはは!」


 その光景を見て思わず笑ってしまって、手を止めた2人が怪訝そうな顔で見る。


「い、いえ、怒るどころか、2人には感謝しかないです。ギリアンさんとルアのはっきりとした物言いが、色々と刺さったというか、それこそ魔法に対してどう向き合うかって考えていて……」


 ここで言葉を切って。



「ルアが怪我を負った時に、回復魔法を使うか使わないか、それが冒険者スタンスってことか、確かに、そういう風には考えたことも無かったなぁ」



 というと、俺はギリアンさんに話しかける。


「ギリアンさん、あの、お願いというか、わがままがあって」


「言ってみ」


「俺、いったん実家に帰って、まず両親と話してきたいです、そして、その……」


「おう、冒険者を続けるか辞めるのか、続けるのならどう続けるのか、ちゃんと考えな」


「は、はい!」


「親御さんたちによろしくね」




――7日後・ゼカナ都市・郊外




「うんしょ、うんしょ」


 と俺が運んでいるのは、家具屋で買った中古家具だ、お金がないから必要最低限、食器と食器棚、小さな衣服のタンスと本棚だけ。


 んで何処に運んでいるのかというと、ゼカナ都市での俺の新しい新居だ。


 まず、この新居についてだけど、ギリアンさんのギルドとしているクラン、シダの不動産屋さんであるキキイドさんにお世話になった。


――「郊外で不便な所にあるが色々な分野で頑張る若者を応援したいというオーナーさんが運営しているアパート一棟があってね、丁度空きがでて格安で貸してくれるんだ」


 とのことで、言葉に甘えることにした。色々な分野で頑張る若い人たちもいるそうで、どんな人がいるのか今から楽しみだったりする。


「ほらよ~、これで荷物は最後だよ、いやぁ男は簡単でいいねぇ」


「あ、ギリアンさん、ありがとうございます、助かります」


「といっても馬車を借りて荷物運んだぐらいだけどな」


 と今回の引っ越しについてはギリアンさんも手伝ってくれて、それと、何気にMVPなのが。


「はぁ、はぁ」


 と息が切れているルアだ。


 ルアも手伝ってくれたのだが、「ここのところクエストをこなしていないので運動不足」だと言って、引っ越しの荷物を積んだ馬車をまさかの人力で引っ張ってきたのだ。


「…………」


(・∀・)ニヤニヤ ←ギリアン


「な、なんですか?」


「高嶺の花がゴリラ女だった、新たな魅力発見♬」


「そ、そんなこと!」


「いいんだよぉ~、オジサンも気持ちわかるよぉ~、君は活力のある女の子が好きなんだねぇ~、でもね、アイツ、ぶりっ子だからね、性格悪いから気を付けるように」


 トントンと肩を叩かれるとルアが立っていた。


「ちなみにこのギルドマスターは、真剣な場で私の胸と足をじろじろ見てセクハラした挙句、風呂覗きまでかました男です、気持ち悪いよね~、だからモテないんだよね」


「…………」


「…………」


「「シュシュシュシュシュ!!!」」


 と割と本気で拳を出し合っている、同じ戦闘職だから分かる、レベル凄い高い。


「相変わらず仲いいなぁ、ってそろそろかな、2人とも、手伝ってくれたお礼に出前を頼んだから食べてよ」





「正直、戻ってくるとは思わなかったよ」


 と食事を終えてルアは聞いてくる。


「そう?」



「だってさ、回復魔法、使う事に決めたんでしょ?」



「……うん」


 そう、あの後実家に戻って、両親と徹底的に話し合った。


 思えば今まで自分の事ばっかりでしっかりと両親に意思を伝えた事すらなかった。


 そして話し合いながら悩んで悩んで悩みぬいて。



 やっぱり冒険者をやりたいという気持ちは揺るがなかった。



 そしてギリアンさんが言った「ルアが怪我した時に回復魔法を使うのかどうか」という状況についても、これも本当に悩んで悩んで結論を出した。



「やっぱりさ、何回考えても、ルアが怪我してたら、回復魔法、使うよ」



 そんな俺をルアはジト目で見る。


「同期だから即答して欲しかったなぁ」


「あはは、ごめん。でさ、実家で帰省ついでに久しぶりに魔法使ってみたら滅茶苦茶勘が鈍っていた。だからまずはもう一度基本からだよ」


 そう、才能と努力はセットだ、魔法は才能が特殊というだけで、後は剣と一緒だ。


「それにしても魔法剣士か~、響きの厨二病感がええのう」


 とはギリアンさん。


 そう俺の冒険者のスタンスは魔法剣士に決めた。


 剣の修行ももちろん続ける、ゼカナ都市にも俺が学んでいた流派の剣術道場があった。


 事情を話したところ俺の師範と剣術仲間だったらしく、御手合わせをしてもらったところ「師範代として門下生に稽古をつけてくれるのなら、月謝はいらない」とのことだったので、そのまま剣術道場の指導員としてお世話になることになった。


 そして魔法の修行については、これもゼカナ都市の修道院でお世話になる事の決めた、久しぶり過ぎたけど、院長は快く受け入れてくれた。


「まあでも当分は今と変わらないけどね。だから今までどおり、ひたすら公共クエストをこなして借金を返す、それに格安とはいえ家賃もかかるから当分貧乏暮らしが続きそうだけど」


「でもすっきりとした顔をしているじゃないか」


「はい、色々と自分の中で意固地になっていた部分が、少しだけ洗い流されたというか、そんな感じです」


 ここでルアが問いかけてきた。


「公共クエストをひたすらこなすって、冒険者としてはまだ剣士だけでやるの?」


「うん、実戦で使えるようにするまでには、修行は魔法の方を重点に置くつもり、まだ簡単な疲労回復程度しかできないから、ちゃんと院長から許可が出れば、その時は魔法剣士として冒険者登録をし直す予定だよ」


「羽ばたくが良い、若者よ」←カグツチ


「ギリアンさん親父臭い」←ルア


「うるさいよ。あとテック、魔法は使わなくてもいいとは言ったが、やはり自分の希少な才能を使うのがいい道だと思う。後、初級魔法でも冒険者として登録すれば色々なギルドやらクランに引っ張りだこになると思うから気を付けな」


「……引っ張りだこ、何か想像もつかないです」


「その部分について真剣に考えた方がいいぞ、利用しようとする輩も出てくると思う。だからちゃんと報告してくれ、万難とまではいかないが、変な奴が来たら俺が水ぶっかけて追い返してやる、俺がそういうの得意なの知ってるだろ?」


 と俺とギリアンさんは2人で笑いあう。



 あの時、偶然に任せて飛び乗った輸送馬車で違う都市に行っていたら、どうなっていたんだろう。



 そう思うと不思議な怖さがあるのがちょっと面白い。



 ノバルティス冒険者学校を卒業した時、今の自分の姿は想像していなかった。


 でも、今は実家を離れ、ゼカナ都市で公共クエストをやって、道場で剣の修行をして、修道院で魔法の修行をする、うん、なんかいい感じじゃないか。


 ノバルティス冒険者学校を卒業した時のことを思えば、段違いに充実している。



 こうして、テック・アルトーの冒険者人生は、新たなステージで始まったのであった。




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