第101話:意固地で融通が利かなくて不器用で・中篇
魔法。
一流にとって才能と努力はセットであるが、この世界において魔法だけは少し違う。
魔法は、使えない人間は絶対に使えるようにならないといったものだ。んで魔法を使える才能は生まれや育ち環境がどう作用するのか未だに分かっていない。
それは冒険者社会でも同様、クラスSである俺とセシル、クラスAのルーテ、んで仲間のファルといったように、世界に名を馳せる冒険者であっても初級魔法すら使えない。
「どうして、それを」
「ルアが偶然見ていたんだ、お前が学校時代、路地裏で怪我した小動物を回復魔法で治療しているところをね」
「え!?」
テックは驚いてルアを見る。
「うん、でもテックは私と一緒の戦闘職専攻だったし、ひょっとしたら両立を目指しているのかなと思ったんだけど、魔法の事は絶対に言わないし、結局トライアウトの時も言わなかったし、何か事情があるのかなぁって私も言わなかったんだけど」
ルアの言葉で、肩を落とすテック。
「……そっか、どうして俺をクランに誘ってくれたのかなって疑問に思っていたんだけど、そっちが目的だったんだ」
「そりゃそうだよ」
「っ、、、」
「? どうしたの? 回復魔法使いがどれだけ貴重か」
「もういい、黙れルア」
「な!」
「まったく、すまんテック、ルアの同席を許可したのは俺だ、コイツは向上心は素晴らしいが、その分他が駄目なんだよ」
「な、なんですか、それ」
という抗議を無視して俺はテックに話しかける。
「テック、まず俺から言いたいことがあるんだが」
俺の言葉できゅっと縮こまるテックだが。
「回復魔法を使わないで剣だけでやりたいですって言うんだったら別にそれはそれで賛成だし、サポートするぞ」
「「ええ!?」」
と2人がびっくりして、早速ルアが抗議する。
「いやいやいやもったいない!! 回復魔法の才能があるって私からすれば滅茶苦茶羨ましいし、それだけで学校の特別枠に」
「だからそういう事を言うからテックは周りに言わなかったんだよ。魔法使い有利だってのはテック自身だって分かっていた事なんだ、その想いの強さが分からないか?」
「っ……」
「テック、俺がどうしてこんな不調法をした理由は指導する上で大事だからなんだよ、だから教えてほしい、何ならルアに席を外すように言ってもいいぞ」
「……なんですかさっきから」
とルアは怒っているが、テックは首を振る。
「いいえ大丈夫です、別に悪いことをした訳じゃないですし、それに、ずっと悩んでいたことでもあるので」
と言って、ポツポツと話し始めてくれた。
「俺の両親はフェノー教の輔祭で、地元都市の教会を仕切っていて、住み込みだったから、教会が俺の実家なんです」
そう、ファルから貰った資料、それは彼の出自がフェノー教の一家であることだ。
●
テックは教会で生まれ育ち、幼い頃に回復魔法の才能が発現した。
それを何よりも喜んだのは両親だった。両親2人とも回復魔法が使えない為、これも神の思し召しとばかりに盛大に祝ってくれた。
フェノー教は回復魔法の寡占化を主要施策として遂行しているが、その一つに回復魔法が使えるだけで成人した時、聖下より直接輔祭の職階を拝命される幹部待遇として活動できる。
魔力は強ければ強いほど良いし、修行も早ければ早いほど良い。回復魔法使いとしての才能が発現してすぐに、回復魔法使いの信者のみ許される修道院に通い修業をするようになった。
修業を始めた時は、両親も喜んでくれるし、回復魔法使いが希少という事もあり誇らしい思いで、熱心に修行していたそうだ。
だけど。
――「だっせー! 回復魔法なんて女じゃん!!」
小さい頃によくある悪意、学校で男じゃないとか男女とか散々いじめられたそうだ。
魔法は女に発現しやすいとは先に述べたが、その中で回復魔法は9割が女だ。
段々、そういうのを意識する年頃になり、周りは女ばかりで馴染めなくなってきて、男からは馬鹿にされて、段々修行も嫌になりサボりがちになった。
そして年を重ねていく上で思春期になり親の言いなりになる事にも嫌気がさしてきて、ついに修行を辞めてしまった。
そんなテックに親からは頭ごなしに怒られて余計に反発したテックだったが。
その時に出会ったのが剣だった。
出会いはたまたま修道院近くの剣術道場で剣を習う機会があった時だった。
師範から「筋がいい」と褒められて、剣術も楽しく自分に向いていると感じ、夢中になって稽古に励んだ。
筋が良いとの師範の見立てとおりメキメキと腕が上がり、都市大会で優勝する程の腕になった。
結果、都市の剣術界では名の知れた剣士としては周りの男からは馬鹿にされるどころか一目置かれるまでになり、自信になったそうだ。
そして剣術を学ぶ上で、テックは冒険者に憧れるようになった。
最前線で危険を恐れず魔物や人と戦う戦闘職に。
一流の冒険者を目指すために国内最高峰ノバルティス冒険者学校合格を目指し、戦闘職で受験して合格した時は世界が開ける思いだったようで、戦闘職を極める為に回復魔法は封印すると心に誓ったそうだ。
だが入学して自分が井の中の蛙だったことを思い知らされて、打ちのめされた。
なら回復魔法を使えばと頭をよぎったそうなのだが、、、。
「剣は努力して強くなったとハッキリ言えます。けど俺は魔法が使えるようになるために努力なんてしてないんです、そこがどうしても納得いかなくて、それに……」
「それに?」
「俺の回復魔法才能は、初級レベル、なんです、だから、意味ないかなって」
「…………」
人には色々ある、その領域を迂闊に肯定も否定もしてはならないというのが俺の主義だが、、、。
「なあテック、単純に疑問なんだが、お前と一緒にクエストと色々とこなす上で戦闘職にこだわりがあるというより戦い方にこだわりがあるように見えるのは何故だ? 目標としているスタンスがあるのか?」
「はい、実はルアと同じなんです」
「え?」
「世界最強の戦闘職、我が国のクラスS、カグツチ・ミナト」
「…………彼の何処に?」
「ギリアンさんなら知っていますよね、ドラゴン討伐の内容。討伐報告書には特級の閲覧制限がかかっていますけど、その戦い方については公然の秘密となっている事」
全ての魔物の討伐報告書は例外なく作成される。
そしてアマテラスのドラゴン討伐については特級の閲覧制限がかけられており、無条件閲覧は世界ギルドの最高幹部、同クラスSのみに限定されている。
だが機密に指定したとはいえ、キコ王国内では目撃者もいるドラゴン討伐。
結局討伐報告書は公然の秘密扱いとなり、その内容は。
――カグツチ・ミナトはドラゴンをソロ討伐をした
「……お前は、カグツチのソロ討伐には疑義は感じないのかい?」
「むしろ1対1で倒したからこそ閲覧制限をかけたのでしょう。何故ならカグツチ・ミナトがいるだけで、ドラゴンは人類の脅威ではなくなるのですから」
「…………」
「そんなカグツチ・ミナトもまた魔法は使えない近接戦闘職、本来冒険者社会では捨て駒の位置じゃないですか」
「……そうだな」
「カグツチの仲間は公国で五指に入る回復魔法使いのジウノア大主教猊下、子爵家令嬢の正貴族であり一流の生活魔法使いのクォイラ嬢、最年少で賢人会に所属している知恵者であるティンパファルラ殿、どれも戦闘職よりも圧倒的需要がある人たち」
「…………」
「その全てをわき役にして、冒険者の新たな常識を作り出した存在であり、世界最強こそが近接戦闘職の究極の理想形、それがカグツチ・ミナトだと思うんです」
「世界最強の称号なんてのはクソみたいなものだぞ、テック」
「っ!」
「ワーニッツ・コルドラン、名前ぐらいは知っているか?」
「は、はい、クラスAの戦闘職で、その、カグツチ・ミナトの可愛がっていた娼婦と舎弟を殺して、逆鱗に触れて、凄惨な報復を受けたと」
「……そうさ、守れなかったんだよ、戦闘能力からすれば雑魚に等しいワーニッツ相手にだぜ? 世界最強のクラスSが聞いて呆れるじゃないか?」
「そ、それは」
「テック、そういう意味において、近接戦闘職の強さを追い求めた先にある「なれはて」がワーニッツだ。それが終着地点なんだよ」
「その」
「だがカグツチが「なれはて」にはならなかった。何故か分かるか? それはお前が言った仲間がいたという「たまたま」に過ぎない。その仲間に巡り合えずカグツチがなれはてになったらどうなる? 人類の脅威となるドラゴンが一頭増えるだけだ」
「…………そ、そんな、こと、いわれても、わかりません!」
「っ!!」
とテックの声ではハッと我に返ると頭を下げる。
「す、すまん! 今のは感情的になった!」
しまった、ついとズズっと場を誤魔化すようにお茶を飲むと。
「ゴホン! 繰り返すとおり回復魔法を使わずに冒険者をやりたいのなら応援するぞ! 言っただろ? クエストサポートは万全だとな、ただ、一つだけ、その応援の為にテックの冒険者スタンスを決めておかなければならなくてな」
「は、はい」
「ルアが怪我をして回復魔法を使う必要がある時、それを使わないと決めているのなら、ソロでやることだ」
「っ!」
「以上だ、もう一度魔法について向かい合って考えてみな。繰り返すがソロだって十分にやっていけるし楽しいぞ! 現に俺はクラスDのソロだが、自由に楽しくやっている。それに公共クエストだってちゃんと「うまみ」があるからな、それもいずれ紹介してやろうぞ! はっはっは!」
と強引に誤魔化して一旦話が終わった。




