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第10話:クラスD冒険者の日常・中篇


 今回の道程は、二つ先にある公国の主要都市までだ。


 俺達は殿という事で一番最後に出る。


 ふむ、自分の班以外は、左右の遠く班が見える程度しか視認性がきかない状態だ。


 ちなみに移動手段は馬、前にも述べたがこの異世界で最も普遍的で発達した移動手段だ。俺が全財産すったあの競馬の他に移動手段としての馬もまた品種改良されている。


 だから乗馬技術は冒険者には必須だ。


 そんな俺達の班は班長が最後尾で副班長が最前列で動いているが。



(いい天気だなぁ)



 長閑だ、それに尽きる。


 色々言ったけど、原則何も起きないのが護衛勤務だ。


 何故ならならず者だって魔物だって理性がある。


 例えばならず者が金品を強奪したいと考えた時に、冒険者達に戦いを挑むのかという話だ。


 冒険者達なんて金目の物なんてロクに持っていないし、例えば護衛対象が大富豪で金もの物を持っていると分かっていたとしても仮に強奪出来たところで腕や足が切断なんかされたら致命傷だ。


 割に合わないことはしない、これは魔物も同様。


 襲う側が安全に傷を負わずに成果を成し遂げるのがならず者や魔物の「正解」だ。


 だからこうやって数を多く集めて戦闘力を上げて周りを威嚇する。外周警戒はそのまま威嚇の役割も含み「不正解」へと持っていくのだ。




――次の都市




 と何事もなく到着、最初に護衛対象と有力幹部を中に入れて、後は散開状態から集結した各班を都市に収容して、これで行程の半分が終わった。


 幹部達は宿屋の個室が与えられるが俺達末端は、そこら辺の馬小屋を借りて寝る。


 馬小屋とはいえ、こういった日をまたいでのクエストは寝床と飯も出るのがありがたい。


 そんな俺達殿班、それで振り合うのも多生の縁、という訳じゃないが、雑談をしたりする、生まれだったり、家族だったり、色々話した。


 班長は子供が生まれたばっかりで可愛くてしょうがないとか。

 副班長は、全然モテず女に振られてばかり。

 別のE級冒険者はソロだと街周辺しかクエストにいけないから、クランに入ろうか迷っているとか。

 俺も自由気ままなD級冒険者でギルド経営もしているが閑古鳥が鳴いているとかも話だ。

 そんな中で、、、。


「アイツは冒険者に向いていない」


 と副班長は、ここにいない追放されたE級冒険者について話す。彼は気まずいのか別の部屋で寝ている。


「ピグさんはそれが分かっているから追放したんだ、それなのに今回のクエストに参加なんかしやがって」


「どう向いていない?」


 俺は問いかけに班長が答える。


「アンタもクラスDなら分かる筈だろ? クラスDが一人前と言われるのは冒険者で食えるからだけじゃない、冒険者に「必要な心構え」が得られるからだ」


「…………」


 必要な心構えか。


「だから今回のクエストには、「何事もない」ことを祈るしかないのさ」


 班長のいい含む意味を、俺は理解する。





 翌日、目的地に向けて進行している。


【こちら最前列の第一斑、外壁が遠くではあるが視認確認、まもなく、目的に到着する】


 通信魔法を使って全体への動向を常に報告されている。


【こちら第二班、異常なし】

【こちら第三班、異常なし】


 それぞれの班長が報告する。


 もうすぐか、何事もなく終わるかなと思った時だった。


「ヒヒーン!!」


 と馬が突然悲鳴を上げてつんのめる形で班全員の馬が転倒、若しくは歩けなくなり進行が停止する。


「敵襲!! 周囲を警戒!!」


 流石班長、一切動じることなく体勢を立て直し周囲を確認する。


 俺も横目で見ると馬の脚に矢が刺さっている。


(弓矢、、、)


「ならず者か、、、、いや、あれは」


 その異変は、やってきた。


 背格好は犬に似たそれでいて細く引き締まった筋肉、これは。



「コボルトの群れだ!!!!」



 班長が大声を上げる。


 コボルト、魔族の一種、種族としての強さはタイマンならE級ではあるが、知恵が回る。


 数にして、、、、。


「え?」


 コボルトはゴブリンと同様群れをつくる、でもそれは精々5か6匹程度だが、、、。


「目測で50はいるぞ!!?? 班長!!! 早速応援を!!」


 ソロのE級冒険者が悲鳴に近い声を上げる。


「…………」


 班長は、表情を変えないまま通信魔法で伝達して指示を受ける。


 少しの間のやたら長く感じる沈黙が流れる、


 通信魔法を終えた班長はこう言った。


「襲撃を受けた我々は持ち場でピグからの「状況終了」の合図までコボルトを迎え撃て、隣接する2班はマニュアル通りの再編成、人員を割き再展開せよ」


 その指示にE級冒険者3人が飛び上がって抗議する。



「ふざけるなぁ!」

「見捨てる気か!!」

「それって死ねってことかよ!」


 怒鳴り散らす2人だったが。


「そのとおりだ」


 あっさりと返す班長。


「何を驚いている? 言ったはずだ、我々殿部隊は2番目に重要だと、俺達は死ぬことも仕事の一つに含まれる」


「っ! っ!」


 眼を白黒させる冒険者たちを尻目に副班長が発言する。


「議論をしている暇はない、それと気を付けろ、あのコボルト達」


 既に、俺達はコボルト20体に囲まれて、、、いや。


(その目は、これは、こいつら、まさか)


 同じ結論に至ったのだろう、班長が周囲に向かって叫ぶ。



「気をつけろ! コイツラは俺達を食料として見ている! 「異常行動」を起こした魔物だ!」



「しょ、しょくりょう!?」


「そうだ、気合を入れろ、最初に馬を狙った事と言い、奴らは戦略と戦術を駆使してくる!」


 班長は、そのまま臨戦態勢を取ろうとするが。


「「っっ!!! う、う、うわああああああああああ!!!!!!!!」」


 と悲鳴を上げると恐怖に耐えきれず2人の冒険者が、不自然にあいた囲みが空いた場所から逃げ出す。


「馬鹿野郎!! 逃げるなぁ!! 固まって戦え!!!」


 班長はその場で叫ぶが、聞こえていない。その不自然に空いた場所、そこから逃げて、結果、囲みから7体ほどのコボルトが追いかける。


「我がクランともあろう冒険者が! なんて馬鹿な真似を!!」


 班長は苦い顔をする、1人はクランネンゼの所属、そしてもう1人は、、、。


「あいつめ、だから素直に追い出されておけばよかったんだ」


 そう追放された冒険者だ、班長はすぐに首を振る。


「これで無傷でコボルトの数が減った、そう解釈するぞ。おい、まともに戦おうと思うな、生き残りが最優先、徹底したヒットアンドウェイ、時間を稼ぐ、おいギリアン」


「なんだ?」


「緊急事態だ、一つ教える、副班長は戦闘は期待できない、だが回復魔法使いだ、初級だがな」


「マジか! なるほど! だから副班長な訳か! 俺は彼を徹底して守ればいいのか?」


「そうだ、攻撃は俺が中心で他がサポートだ!」


「よし!」


 作戦は決定、後は状況終了まで持ちこたえるだけだ。


「迎え撃つぞ!! 全員覚悟を決めろ!!!」



――目的の都市



「護衛対象、到着確認!」


 都市に入る一報を受けピグは、団員からの報告にまず一安心する。


「分かった、副団長に伝えろ、そのまま対象者に随行し任務完了まで頼むと」


「はっ」


「他の班は、すぐに捜索陣形を構築! うって出るぞ!」


 この発言に、他の班長から疑義が出る。


「ピグ団長、助けに行くのか? あのコボルトはおそらく異常行動を起こしている、あの数に対処するのは殿の1班ならおそらく全滅している、今救出の為に出るのは」


「分かっている!」


「ピグ、、」


「駄目かもしれないが、ひょっとしたら生き残っているかもしれない。それに、後始末は我々クランの責任だ」


 とそのまま踵を返そうとした時だった。


「団長! 殿班が!!」




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