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序 龍の岩

 しん、と静まり返った空間が広がる。洞窟であるその場所に、陽の光など届かない。生き物の気配も一切なく、ただそこに時間が横たわる。

 しかし、突然人の気配が生まれた。その人物は、暗闇の中を迷うことなく進んで行く。コツコツコツという靴音が響き、やがてふと立ち止まった。


「……ようやく見付けたぞ、『創生の龍』よ。否、その心臓か」


 低い声が反響し、その者は抑え切れない興奮を言葉の端々に覗かせる。


「なんという……。やはり、伝説は伝説で終わるものではなく、真実であったのだな」


 感極まった様子で、その者は目の前にそびえる壁へと手を伸ばした。

 実は、その壁は壁ではない。人間の何倍もの大きさのあるそれは、巨大な岩である。そして岩は、龍の心臓だとその者は言う。

 答えは誰も教えないが、その者は嬉しそうに口元を緩めると、そっと岩を撫でた。


「待っていろ。私が『鍵』を見付け出し、必ずや創生の龍を蘇らせてみせよう。……禁忌など知るものか。この世界を災いの底へ落としてやる」


 その者の声は、憎しみに満ちていた。一体何がその者をそこまで至らしめたのか、知る者はここにいない。

 岩への誓いを終え、その者は踵を返した。カツンカツンと足音が響き、やがて消える。その者は、現れた時と同じく忽然と姿を消した。

 再び静寂に包まれた洞窟において、ため息が聞こえた。


「……全く、困ったものよの」


 嘆息と共に吐き出されたのは、幼い子どものような声。しかしその言葉は、決して幼子のそれではない。

 子どもが頭を振ると、銀色の髪が揺れた。青空のような水色の双眸が洞窟の暗闇を見据え、岩の上で胡座をかく。


「……龍は、太古に死んだ。その魂を呼び戻し、目醒めさせるなど言語道断。……決して目醒めさせてはならぬ、この世界のために」


 水色の瞳を細め、子どもは肩を竦めた。そして不意に立ち上がり、背を向ける。


「龍とて、己の目醒めを求めているわけではない。……最悪の事態は、何があっても避けなければならぬ」


 捜しに行こうか、選ばれし者を。

 子どもは独り言ち、風のように姿を消す。

 再び洞窟は暗闇と静寂に包まれ、眠りに落ちた。

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