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05. 開ける洞穴は大迷宮

 その林は王家の所有する敷地にあたり、小高い山の中腹に位置していた。僕とティアは、国境近くの村を立ち去った後、ただひたすらに王都を目指した。途中で通過する村々や町にティアは立ち寄りたがったが、前回の二の舞になるからと何とか引き止め、ついに王都にたどり着いたのである。


 この場所に来たのには理由があった。


 林を抜けると急な斜面が続いている、断崖絶壁とまではいかないが、登るのに相当な労力が必要そうだ。少し歩くと川が見えてくる。僕たちはどんどん山の深部に入っていった。そして、ついにたどり着いたのは、茂みに隠れる大きくも小さくもない洞穴だった。


「ここに入るよ」


 入り口は小さく、大人であれば身をかがめて入る必要があるだろう。中は湿り気があり、外からの光で入り口付近は薄暗く感じられるほどには光は差し込むが、深部に進むほど暗くなり、最終的には何も見えなくなるだろう。


 指先から仄かな光を出した。魔力を使うのは久しぶりだ。安定するだろうか…… 少し不安を覚える。


「中は暗いから気を付けて、このまま進むよ」


「ルーシアも親友の子がいるの? 子どもたち、見たことないって言ってたのに」


 僕の放つ光を見て、興味深そうにティアが問いかける。


「子どもたち? 精霊のことか? この力は魔力だよ。まぁ、魔力も精霊の力を媒体としているわけだけど」


「魔力? 親友の子にお願いしているんじゃないの?」


「違うよ。ティアは精霊を使役してその力を直接使えるみたいだけど、普通の人は魔力を媒体として精霊の力を使うんだ」


「使役って何?」


「使役というのは、精霊と契約を結んで、その力を自由に使うことを指すんだ。普通の人は自分の魔力を使って精霊の力を借りるけど、ティアの場合は精霊と直接契約しているから、精霊の力をそのまま使えるんだよ」


「みんなも魔力で子供たちの力を使えるんでしょ? 何が違うの?」


「普通の人が精霊の力を借りるときは、自分の魔力を通して間接的に力を使うんだ。だから、自分の魔力の限界がある。でも、ティアの場合は精霊と直接契約しているから、精霊の力をもっとダイレクトに引き出せるんだ」


 ティアは足元の小石を避けるように歩きながら、目を伏せて考え込んだ。洞窟の中はひんやりと静かで、二人の足音だけが響いていた。


「でも、ティアはどうやってそんな契約を結んだんだ?」


「最初は友達だったの。仲良くなったら親友になろうって言われた。それで親友になったんだ」


「さっきも言っていたが、友達と親友は何が違うんだ?」


「友達は仲のいい子たちで、親友はいつも一緒にいて私と繋がっている子たちのこと。呼べばすぐに来てくれるのが親友なんだよ。でも、使役とはちょっと違うかな。私は力を自由に使えるわけじゃなくて、いつもみんなにお願いしているから」


 ティアは足元を見つめながら、小さく息をついた。久しぶりに魔力を使ったが、思ったより安定していることに安堵した。ただ、出口までの道のりを考えると、自分の体力が持つかが気がかりだった。長年幽閉されていたため、体力が衰えていることを痛感していた。


 話しながらしばらく歩いていくと、随分と狭かった入口から、中に進むにつれて天井は高くなり、だいぶ開放感がある。やがて突き当たりに差し掛かると、そこは岸壁で覆われていた。とある岸壁の前で、僕は指に傷をつけ、一筋の血を滴らせた。


「ルーシア!何してるの!!?」


「大丈夫、見てて」


 それは幾何学模様の描かれた岸壁だ。魔道具により作られたそれは、いわば扉の起動装置としての役目を担っている。僕はその岸壁に血の滴る指を付け、オーラを送り始めた。


 ゴゴゴゴゴという轟音と共に、目の前の岩壁が動き、ゆっくりと道が開かれた。


「王家の隠し通路だ。王族の限られたものしかこの場所は知らない。ついてきて、中は入り組んでいるけど王宮の中に繋がっているから」





 そこはまさに大迷宮と呼ぶにふさわしい場所だった。中は非常に入り組んでおり、いくつもの分かれ道が行く手を惑わせる。さらに、間違った経路を進めば数々の危険なトラップが待ち受けており、遭難者の命を奪いかねない構造になっていた。


 気を引き締めなければ。緊張しながら記憶にある正しい順路を辿っていった。


 初め懸念していた通り、僕には王宮までの道のりを自力で歩く体力が備わっていなかった。ここに来るまで、ずっとリョウの背中に乗せてもらい、ティアに守られてきたのだと痛感する。


 ティアに「おんぶするよ」と言われたときには、さすがに顔から火が出るほど恥ずかしかった。出会った当初は体力がなくてまともに動けなかったから仕方なかったが、今は食事もしっかり摂り体力もだいぶ回復している。(果実ばかりだったけど)どんなに遠くても、女の子に、それも自分と大して年の変わらない子に再びおんぶされるわけにはいかなかった。


 道を知っているのは自分だけだと、自らに活を入れる。


 隠し通路とはいえ、追手の妨害工作としての巨大迷路だ。道は覚えているが、少しでも気を抜けば、僕らはこの迷路から出られなくなるかもしれない。


 さらに王宮までの道のりも、子供の足でなくとも相当な距離があった。僕は非常に気を張っていた。気力と共に体力も限界に近づいていた。足取りが重くなるが、それでもひたすら歩き続けた。自分のプライドをかけた意地もあったのかもしれない。





「ここだ!!」


 長い道のりの末、ようやく出口に差し掛かったことが分かると、重かった足取りがほんの少し軽くなった気がした。そこに現れたのは階段だった。その階段を登りきると、来る時と同じように、指から血を滴らせて幾何学模様が描かれた壁に手を当て、オーラを送る。


 ゴゴゴゴゴと音をたて ゆっくりと壁が横に動いていく。

 外に出ると、そこは狭く薄暗い空間だった。


「ここは、限られたごく一部の王族のみ立ち入ることのできる書庫なんだ。ということになっているんだけど、実際書庫はこの先にあるんだ。ここは隠し通路を隠すための隠し部屋みたいなものかな」


「じゃあ、ここはもう王のいる場所なの?」


「陛下が今どこにいるかは分からないけど、一番安全で確実に会える場所は陛下の私室だと思う。さすがに王の私室にまで人間が居座っているとは思えないから」


「わかった、そこにいこう!」


「ティア、ここからは慎重に行動するんだ。王宮の中が今どうなっているのか僕にも全く分からない。とにかく目立たないよう、人目を避けて動こう。危なくなったらすぐに逃げるんだ! 良いな!」


「だいじょうぶ!私とっても早いんだよ!ピィルゥに頼めば稲妻みたいにとっても早く走れるんだから!」


 得意げに言うティアに不安はあるが、ティアが以前僕を救い出したように、今回もやってのけるかもしれないと期待しつつ、前に進むしかないと自分を(ふる)い立たせる。


「「行こう!」」


 同時にそう木霊(こだま)した。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

もし少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と感じていただけたなら、ぜひブックマークと広告下の【☆☆☆☆☆】をクリックしていただけると嬉しいです。


皆さんの応援が次のストーリーを書く大きな励みになります。

何卒よろしくお願い致します。



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