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14. 見えた地上の端々で

 私は今、王都近くのザナッグという町に来ている。城の結界が再構築された後、呪いを送る転移装置を破壊するためにゼーレへの準備を進めている間に、人間(ヒューム)に支配されている町や村を解放するよう指示された。まずは王都を含む主要都市の解放に取り組んでいる。王都を取り戻した後、その隣のネデルを解放して結界を張り直したのが8日前のことだ。


 私は町を見下ろした。浄化が終わり、大地がキラキラと輝いている。しかし、その地上では、人間と結託する獣族の戦士が龍族の騎士と争い合っている。大地が赤く染まっていた。




(こんなにキレイなのに……)




 身体を突き抜ける鉄の切っ先。赤く染まる大地。倒れているのは獣族の戦士だった。

 あれは初めて王都を浄化した日の出来事。


『どうしてこの人を狩ったの? 還っちゃうよ?』


 冷たい目をして戦士を見下ろす騎士に不意に尋ねた。


『狩る? 敵を始末しただけだ。あなたこそ、こんなところに来ては危ないですよ』


 騎士は鋭い剣を振り、冷たい目をしたまま不思議そうにそう答えた。

 私はすぐに倒れた戦士の元に駆け寄り、急いで癒しの歌を歌い始めた。


『何をなさっているのですか!? おやめください』


 リオが止めに来たが、私は歌をやめなかった。だって還っちゃうから。


『おやめください!!』


 リオに引き離された。なぜリオは私を止めるのだろう?


『もう死んでいます、手遅れです。戦場で敵に情けを掛けると、こちらの指揮に影響が出ます。まして、その力を敵のために使うなどあってはなりません』


『死ぬって何? 早く歌わないと、この人還っちゃうよ。狩りは生きるために、動物が他の動物を捕食する行為だよ。人は人を食べないよ。だから狩っちゃいけないよ。だから助けるんだよ。どうして止めるの?』


『還る? そういう表現をされるのですね。死ぬというのは還ることです。その男はすでに還っています。ティア様が歌う意味はありません。そしてここは、人間とそれに与する獣族、そして我々龍族が戦う戦場です。この場にいる者は皆、命を捨てる覚悟で戦っています』


『覚悟……?』


 私は悲しくなった、自ら命を捨ててもいいと思う人がいることが信じられなかった。


『覚悟がないなら、さっさと投降すればいい。しかし、この男はそうしなかったのです。これは彼自身が選んだ結果なのですよ』


『自分で選んでるの? 還ってもいいって? みんなそう思っているの?』


『すべての者がそうかは分かりません。しかし、ここにいる者は皆その覚悟があるとみなされます。それが戦場であり、戦争です』


『だから狩るの? ここにいるだけで?』


『狩らねばこちらが狩られます。何度も言いますが、これは戦争です。彼らは自らの命を犠牲にしてでも国を侵略しようとしています。だから私たちは、自らの命を賭してでもこの国を守るのですよ。どんな犠牲を払おうともこの国を取り戻してみせます』


『大地が汚れちゃうよ』


 リオは黙っていた。ただ、大地が赤黒く染まっていた。




「リョウ、一緒にきて!」


 リョウと一体となり、勢いをつけて下降しながら町中を飛ぶ。下には獣族の戦士が見え、龍族の騎士と戦っていた。私は彼らのやや上空へ行き、霧を発生させて戦士たちの身体をすっぽりと覆った。やがて霧からは水滴があふれ出し、彼らの身体を厚い水の膜で包み動きを封じた。その間に騎士たちが、身動きの取れない戦士たちを捕らえていく。


「前線に出るのはおやめくださいと言ったはずでしょう!?」


「リオの言う通りだ、我々護衛が付きっ切りでティア様の身辺をお守りしている理由をよく考えてください! ティア様に万が一のことがあれば、やっと取り戻した我が国の希望が潰えてしまうのですよ!」


 ノインとリオにものすごい剣幕で怒鳴られた。最近、このやり取りを何度繰り返しただろうか。言っていることは分かっている。国の人たちの首の輪を取るためには、占領された各地を開放しなければならない。そのためには、(のろい)を発動させないことが絶対に必要だということも。

 

 だから、私は王都や町に来たら、まず最初に町全体を浄化した。呪が発動しても、効果を発揮しないようにするためだ。こうして、今日までに主要都市とされる二つの大きな町を解放した。でも……


「私、狩られてもいいと思う人の気持ちがわからない! 狩られた人達はみんな痛そうだった。狩りは身体の糧になるためのもので、人は人を食べないよ。だから私は龍族の人たちを守りながら戦うんだよ。誰かが誰かを狩らないように、狩られないようにするために。そうすれば、この町も解放されるでしょう?」


「ですから、何度も言っていますが、戦場は命のやり取りがされる場所です! すでにティア様の存在は敵に広く知られています。現に今もこうして――――」


 リオから放たれた炎の槍が後方から来ていた敵の脇腹を貫く。


「敵はティア様を狙って撃ちに来るのですよ!!」


「リオ、この場所からは早く離れた方がいい。市街地は死角も多いから、狙われる場所も想定しづらい」


 ノインに促されて人気のない高い建物の屋上にやってきた。浄化の効果が薄まるまで、ここで身を潜めていろと言われた。


「人間も獣族も狩らない?」


「無抵抗な者に対して、それ以上攻撃を続ける意味はありません。この町の敵はほぼ我々が制圧しました。あとは時間の問題ですよ」


「人間も獣族もあなたたちに従うの? だからもう狩らないの?」


「我々は殺しがしたいわけではありません。国を取り戻したいのです。これは狩りではありません。本来あるべき形に戻すのです」


 ちゃんとした答えをくれない。もやもやする気持ちを抑えようとして、私は空へ向かおうとした。人が狩られないかどうか、ちゃんと確認したかったんだ。


 リオにギュッと手を握られ、その力強さに動きを止められた。


「浄化の効果はまだ十分に続いています。ティア様、ここでは何よりもご自身の安全を優先してください」




 ―――




「敵の制圧、捕縛すべて完了しました。現在は残りの騎士達で町の住民の首錠(しゅじょう)の取り外しを行っております」


 一人の騎士がやってきて、恭しくノインに報告をしていた。町が解放されたんだ!

 私はリオの手を振り払い、リョウを呼び出して空高く上昇した。


「よろしかったのですか?」


 リオに問いかける騎士の声が聞こえた。私の事だと思うけど、そんなことは気にしない。

 上空から町を見下ろすと、人々が喜びの歓声を上げていた。抱き締め合っている人や泣いている人など、その姿はさまざまだ。


 そして、さらに見えたのは――――


 捕まった人間や獣族の戦士に向かって大声で怒鳴り散らし、石を投げつける人々だった。彼らの怒りがとても強いのが見てとれた。長い棒を持って捕らえられた人たちに向かっていく人もいる。みんなの怒りがとても恐ろしく感じた。


 騎士たちに連れていかれる捕らわれた人間と戦士たち。

 とある騎士が一人の人間の前に立ち塞がった。そして太い鉄の切っ先を、振り下ろしたんだ!


 大地が赤く染まる。血しぶきが鉄を振り下ろした男自身をも包んでいる。


 私は咄嗟に地に降り立った。男は仁王立ちのまま、冷たい目で倒れた人間を見下ろしている。


(どうしてみんなこの目をするの?)


 私は倒れている人間に駆け寄り、急いでその人の手を取った。早く歌わなければ還ってしまう!

 癒しの歌を歌い始めると、赤く染まった身体から傷が徐々に癒えていった。


「「何をしている!!?」」


 すぐ横と少し離れた後方から同時に聞こえた声。それでも構わず歌い続けた。

 なぜだか、うまく歌えない……


「これは、お前がやったのか!? 捕虜への勝手な暴行は軍機違反だぞ!! 」


 後方からやってきた騎士がすぐ横にいた騎士の胸倉をつかみ責め立てているようだった。しかし、人間を切りつけた騎士は動じることなく、むしろ嘲るように相手の騎士に対峙している。


「ハッ、団長だって本当はこうしたいのでしょ? 許せるはずがないですよね! ねぇ、こいつらみんな殺っちまいましょうよ。ここで敵が何人死んだって、戦死で片づけられる。あんたも! 歌なんか歌ってんじゃねぇよ!! そいつらは死んで当然の奴らだ、むしろもっと苦しめて、苦しめて苦しめて苦しめてから殺しても殺したりねぇ!!!」 


 そう言うと、その騎士は人間を切り裂いたその太い大剣を振り上げてこちらに向かってこようとする。


「お前っ! いい加減にしろっ!!」


 ゴッという鈍い音が響いた。


 「ウッ!!?」


 団長と呼ばれた騎士の拳が、こちらに向かってこようとした騎士の頬を強く打った。騎士は地に倒れることはなかったが、ひどくよろめいた。


「ガレス騎士長、こいつを基地に連れていけ。ついでにしばらく縛り付けておけ。これ以上勝手な真似をしないようにな。一度頭を冷やさせる」


 騎士はガレスと呼ばれた騎士に連れて行かれた。私は耳の端で彼らの会話を聞きながら歌いつづけた。傷が治っていき、息をしているのが分かる。良かった、還ってない。


「おやめください!!!」


 リオが駆けつけて歌うことをやめるように強く言われた。それでも私は歌をやめなかった。ちゃんと治してあげたかったから。


「やめてください!」


 口を、そっと塞がれた。


「この者には別で治療を受けさせます。だからどうかその力で、皆が見ている前で敵のために歌わないでください。その力で、人間を治さないでください!」


 静かな叫びだった。


「どうして?」


「誰も喜びません」


「誰も?」


「誰もです」


 初めて言われた。喜ばない歌があるって。


 歌を歌えば幸せになる、心が躍って嬉しくなるってルゥイは言ってたよ?



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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何卒よろしくお願い致します。



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