13. ティアの憂鬱
クワッと大口を開けて大きなあくびをする。
「気を引き締めてください」
護衛のノインが呆れ顔でいつもの文句。
私は仰向けでリョウの背中に乗りながら、空の上をぷかぷか浮いている。暖かい日差しが心地良く、眠気を誘う。
「大丈夫だよ、見て。城の周りがとっても綺麗でしょ、今は歌わなくても大丈夫だよ」
「確かに城の敷地内は正常に浄化されていますが、それでも現在結界の構築が完成していない以上、いつどこから新たな呪が送られるとも限りません。それに、敵が真っ先に狙うのはティア様なのですよ。ティア様はこの城、いえこの国の要です。絶対に敵に落とされるわけにはいかないのですよ」
「私ね、みんなの首の輪を取って大地をきれいにしたら、外の人たちはルゥイとの約束を守れるって聞いてたの。だから手伝ってあげたいと思った。でも、首の輪を外すのに順序があるなんて、思ってたのと違ったの」
「人間が何の抵抗もせずに首錠を外させてくれるのならば、順序など考える必要もありません。しかし、現実はそうではありませんから。根本的な問題を解決しなければ、国も世界全体も解放されることはないでしょう」
「根本的って呪の事?」
「それもありますが、人間が世界中で影響力を持っている今の状況自体が問題です。奴らは巨悪の根元ですから」
「巨悪って何?」
「巨大な悪という意味です。人間の反乱がなければ、この地に瘴気が広まることもなく、国民が苦しむこともありませんでした」
ノインが遠くを見つめていた。その瞳は青く冷たく燃えているようだった。私には何を考えているのか分からない。悪というものも、みんなの苦しみも。ただ、村で呪に苦しめられている人を思い出した。あれは人間がしたことだ。
「そろそろ歌を再開しませんか? 浄化の効果が薄まるといけません」
―――
一日で最も楽しい時間。それは、おいしい食事をする時だ!
「いい匂い!これは何!?」
斜め後ろにいるリオに尋ねる。ここ最近おなじみの光景だ。少し離れた後方にはノインもいる。
人が作った食事というのは果実とも野菜とも違う。ムニムニするもの、コリコリするもの、モサモサするもの、歯ごたえがあったり暖かかったり、甘かったりしょっぱかったりする。果実や野菜も使っているみたいだけど、どれも初めて食べるものだ。とても美味しくて私は夢中になった!
「これも肉!! 私、動物を食べてるんだ!」
「チーズ? 面白い! 見て見て~こんなに伸びる!」
「これ、朝出てくるパンでしょ? 中に甘いものが入ってるよ?」
私の口は止まらない。横で護衛のリオに椅子から立ち上がらないよう注意される。食事は楽しくするものだと思うのだけれど、マナーというものがあるらしい。椅子に座って食器の音を立てず、静かに食事をするのが礼儀なのだそうだ。ここへ来て何度も注意された。
私には常に護衛が側にいる、私を近くで守る人たちだ。王がそう命じたそうだ。特にいつも近くにいるのはノインとリオだ。ノインは背が高く、短い髪を後ろに撫で上げたいつも静かな人。リオはノインより小柄で細身だけど凛とした姿勢で、いつも私の食事のマナーを注意する人だ。
護衛の人たちは常に私の側にいるのに一緒に食事をしてくれない。規則だと言っていた。こんなにおいしい食事が目の前にあるのに、一緒に食べれないなんてなんだか可哀そうだ。
「ティア様も早く最低限の食事のマナーを覚えていただかなければ。龍王陛下が、事の状況が落ち着き時間が取れる時には、一度ティア様と食事を共にされたいとおっしゃっていたそうですよ。ただまだ先の話とはいえ、現状陛下との会食は少し難しいと思われます」
「どうして難しいの? 一緒に食べたいって言ってるのは王でしょ? 私は別にかまわないよ」
リオにため息をつかれた。
「マナーの基礎中の基礎も備わっていないこの状態で陛下と会食など、不敬極まりないでしょう。たとえ陛下が許されたとしても、周りの目があります。誰でも簡単に陛下と食事の席を共にできるわけではないのですよ」
「どういう意味? ノインもリオもいつも私の食事を見ているよ。不敬って何?」
「ティア様は言葉も覚えないといけませんね。それは礼儀に反する行為という意味ですよ」
「礼儀に反するってどういうこと?」
「それは、相手に対してとても失礼な行為だということです。理解できますか?」
「失礼?」
「礼儀がないということです!」
「あぁ、礼儀がないのね。初めからそう言ってくれればいいのに」
リオはなぜかとても疲れた顔をしている。いつも私の側にいるのに私のマナで癒されてないのかな?
「とにかく龍王陛下と食事を共にされるということは、少なからず周りからの注目を集めます。その際、その場にいるのは私や大佐だけではありません。陛下に対して礼儀を欠く行動を取ることは、周りの者が許しませんよ」
「許さないの? マナーを守らないだけで? みんな怒りっぽいんだね。じゃあ私、王と食事しない。怒られたくないし」
私の横と、今度は後ろからも盛大なため息が聞こえてきた。
―――
私は寝不足だった。ここにきて、寝たと思ったらすぐにたたき起こされる日々が続いている。これで3日目だ。私が起きるとされるがままに着替えさせられ、そのまま城の外に連れていかれる。そこから歌を歌わなければならない。
「なに~、まだ夜だよ、暗いよ、眠いよ」
「目を覚まして下さい。浄化の効果が切れる前に歌っていただかなければなりません。今夜中には結界の構築が完了するとのことですので、あともう少しご尽力ください」
リオが垂れている私をささえつつ、両腕を揉んでくれる。なんだか気持ちがいい。
「あ、もうすぐ結界が完成するんだ、良かったね。あとはゼーレに行くんだっけ? ゼーレでもこんなに眠れないの? 私、眠くてこんなの続けられないかも」
「その件に関しましては、後ほど上の方から詳しい説明があると思いますよ。さぁ、今は歌に集中してください」
「歌ね、わかったよ。みんな出てきて~、一緒に歌おう。楽しくないと歌えないよ」
私は気分を盛り上げるために子供たちを呼び出した。
思った世界とは違う世界。楽しいことはどこにあるの?
歌おう、歌えば想いは喜びに変わるから。
歌おう、歌って心が楽しく弾むように。
歌おう、歌ってルゥイに届くように。
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