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11. 解放の歌声

 大勢の足音が近づいてきた。それは、王がスウェンの封呪(ふうじゅ)を解こうとしている時だった。


「陛下、時間が無くなりました。片方の通路は塞いでありま――――」


 スウェンが説明している最中に、何者かが踏み込んできた。またもや獣族だった。


 ドゴーンという衝撃音とともに、数人が壁に叩きつけられた。突風のような力で吹き飛ばされたのだ。王が手の平を彼らに向けてかざしている。どうやら解放された王の力のようだった。


「ティアさん、雷の力で皆の移動を速めてください! ついでに私たちの歩みを妨害する者がいれば、陛下のように吹き飛ばして構いません!」


 王は向かってくる敵を次々と薙ぎ払い、吹き飛ばし、時には雷を落としていく。階段を上るごとに追手の数は増えていった。敵は皆、獣のような耳と尻尾を持つ獣族だった。倒しても倒してもきりがないほどに向かってくる。彼らは非常にタフだった。私もまた、彼らが近づけないように水で包み、風で遠くに飛ばした。


 そんな折、敵の姿が徐々に途絶え始めたことに気づいた。正確には、大量に下りて来ることがなくなったのだ。


「敵があまり見えませんね。諦めたとも思えませんが……」


「いや、足音が聞こえる。それなりに人数がいるようだ。近づいてきている」


 王が警戒しながら歩みを緩める。私には足音は聞こえないが、王の耳は優れているのだろうか。前方に獣族が現れた。王が構える――――――


 ドサッ


 私たちの少し前方で、その人は背中から血を流して倒れた。


 銀色の刃の先には、真っ赤な血が滴り落ちていた。その人は鋭く尖った鉄を一振りすると、王の前に駆け寄り、胸に手を当ててゆっくりと片膝をついた。


「陛下、先王陛下。このウィルター、不肖(ふしょう)(すえ)、到着が大変遅れましたことを心より謝罪申し上げます。この先は我々が道をお開き致します。どうぞつつがなくお通りください」


 ウィルターと名乗るその人の後ろには、王たちに膝をつき頭を下げる何人かの人々がいた。おそらくウィルターの仲間だろう。後方から獣族が襲いかかってくるが、ウィルターの仲間たちの援護により、彼らの攻撃がこちらに届くことはなかった。


「陛下、時間はありませんが、ここで我々の封呪を解いていただけませんか? 早めに戦力を確保すべきかと」


 スウェンの言葉に応じて、王は自らの指に傷をつけ、その血の付いた指でスウェンの封呪に何か模様のようなものを描き始めた。私には何をしているのか分からなかった。少しの間を置いて、スウェンの腕の輪が外れた。そして王は、同じ方法でウィルターの腕の輪も外した。


「これでようやく、本領を発揮できます」




「役に立たない獣人どもだ。たかだか無力な龍族風情を捕らえることもできないとは。やはり能無し、力ばかりの獣風情だな」


 その声の主は、王やスウェンとは異なり、小柄でしわの刻まれた顔に細く吊り上がった目を持つ人物だった。どこからともなく現れたその人物の横には獣族がいた。私たちを睨みつけるその視線からは、獣族に対する軽蔑の意も感じられた。どこから来たのかもわからないが、良くない人物であることは明白だった。




人間(ヒューム)、転移装置を使ってこの場所に来たのか…… だが、今更お前たちが来たところで、我々の力はすでに解放されている!」


 ドガンという衝撃音とともに、人間と呼ばれた人物と獣族がいた後方の壁に大きな亀裂が走った。衝撃を受ける直前、獣族はその人物を抱え上げて飛び退いていたため、二人とも無傷だった。


「陛下は急いで地上へ! 人間がいたのでは分が悪い!!」


 ウィルターが叫んだ。どこからともなく獣族と人間らしき者たちが次々と現れ、ウィルターの仲間が応戦し始めた。


「行かせると思うか? お前たちは所詮、檻の中の獣に過ぎない!」


 そういうと人間はお互い目配せをして、床に膝をつき両手を胸の前で組み合わせ、何かぶつぶつと唱え始めた。


「くっ!!?」


「ぐぅぅぅぅぅぅ!!!!」


「うあぁぁっ!」


 突然、王や先王、スウェン、ウィルター、そして周りにいた仲間たちまでもが苦しみ始めた。首の輪から黒い靄が立ち込め、彼らの体を覆っていった。


「はははははっ、さあ唸れ、お前たちはサーカスの獣だっ!」


 王たちはさらに苦しそうにもがき続けていた。人間の唱える声はますます激しさを増している。このままではいけない――――――




 歌、それは大地を清らかにし、優しく、楽しく、心躍らせるもの。それが歌だ。


 私は歌が好き。歌を歌えば、みんなが嬉しくなるから。


 私は心の赴くままに歌い始めた。




「なんだ、これは? なにが起こった? なぜ貴様らは立っていられる? 皆、祈りが足りない、もっと祈れ!」




 私は歌い続けた。みんなの心が優しくなれるように。


 みんなの首から首錠を砕いた。もう苦しまなくても済むように。




「もうそれは効かん!!!」


 王が人間に雷を落とし、次々と人間たちが倒れていく。ウィルターの剣閃が獣人たちを圧倒し、スウェンの風の刃が散開する敵の動きを封じた。

 敵が一通りいなくなったところで、ウィルターが周りの仲間たちの首錠も解いていった。


「ティアさんは引き続き歌い続けてください。陛下、残りの者たちの封呪の解除(かいじゅ)を行いましょう。ウィルター殿と私は、各自対象者の元に向かうべきかと。先王陛下、僭越ながらティアさんの援護をお願いできますか? 現状、先王陛下以上の適任者はいません。」


「ふむ、今は一刻も早く味方を増やす時だ。私も子供一人守る余力くらいはある」


「陛下の魔力を封じられるほどの余力ですか? 先王陛下のお力添えあってこそ、この計画は成功に直結するのですよ」




 私と先王は外に出た。歌うなら広い場所がいい。リョウの背に乗り、上空へと舞い上がる。大きな声で、遠くまで歌が届くように――――――


 突如、地上から一陣の風が吹き抜け、それに続いて爆発音が響いた。先王が上空に向かって手をかざしていた。少し離れた上空から地上へ落ちていく獣族の姿が見える。どうやら地上から跳躍したらしい。すごいジャンプ力だ。その獣族は落下しながらも、鋭く尖った鉄の杭を次々と投擲してきた。先王は風の力でそれらすべてを横薙ぎに払い落とした。


「気にせず歌いなさい、敵の相手は私が引き受ける」


 頼もしい言葉に安心感を抱く。


「ティア、下を見ろ」


 リョウの言葉に促されて下を見ると、大地から木々が次々と天に向かって伸び、私の大好きな桃が実をつけていった。


「ルゥイだ! リョウあそこまで下降して」


 リョウの低空飛行、そしてルゥイの桃をもぎ取り、かぶりつく。


 力がみなぎる。


 ルゥイが、子どもたちが、私と共にいる。


 私は歌う、歌い続ける――――――




「上の者はまとまりをもって各所に集結しています。陛下、こちらは王族と各要人の所在地です」


 ウィルター殿が陛下に、計画書に基づく各重要人物の所在地を記した紙を手渡した。


「準備万全ということか」


「はい、今ティア殿の歌で人間の(のろい)は通用しません。この機を逃さず、一気に形勢を立て直しましよう」


 各自が自分の施した封呪を解くために動き出す。封呪は王を筆頭に、力の強い者がそれに準ずる強さを持つ者の力を封じている。一人の強者が一定数の者たちの力を封じ、その強者もまた別の強者に力を封じられているのだ。


 だが私やウィルター殿をはじめとする一部の最上位に属する者たちは、陛下自身によって封呪を施されていた。力が強すぎて他の物では封呪を施すことができないからだ。


 陛下や私たちが封呪を施した者たちを開放すれば、芋ずる式に強者たちから力が解放されるというわけだ。







「おや、囲まれてしまいましたね」


「スウェン・ハヴァッグ、おとなしく投降しろ! この人数差ではいくら貴様でも力の差は歴然だ!」


 獣族の中に人間もちらほらと混じっているようだ。しかし、今はさしたる脅威でもないだろう。その証拠に無駄な祈りがなんの効果も示していない。ティアさんの浄化の効果が城中に行き渡っている証拠だ。あぁ、なんとうるさい呟きだろうか。


「おのれ、なぜ苦しまない!! お前たち、さっさと捕らえろ! 逆らうようなら殺してしまっても構わん!!」


 敵の一斉攻撃が始まった。獣族は素早く、強大なパワーを持っている。裸一貫でやり合えば、避けるだけで精一杯だ。避けるだけならの話ならだが――――――


 地から突き抜けるいくつもの鋭利なトゲ、それは大地から作り出したもの。硬質なそれは何ものも貫く。四肢を貫かれた敵どもは動けなくなり、同時に地面から飛び出したツタが彼らを絡め取った。


「肉体労働は勤務対象外なのですが、殺す? 誰が誰を? それから、そのうるさい独り言、そろそろやめてください。耳障りだ」


 人間たちを大地で取り囲み、徐々に力を加えていく。奴らはこんな状況になっても悪態を吐きながら祈りをささげている。圧迫を強めると、次第に泡を吹き始めた。なんとも醜い。奴らの頭をすっぽりと大地で覆った。これでもう見なくて済む。


 ふと、空を見上げた。金銀の美しいオーラが城と大地を美しく覆っていた。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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