10. 奪還
足元から風が舞い上がり、やがてつむじ風となって徐々に激しさを増していった。その突風を手のひらに収束させ、同時に水と雷を巻き込んで形を形成していく。硬い杭をイメージし、それを高速で回転させるようにした。急いで勢いを増していく。
(――――それはいわばドリルだ。高速で回転するそれは風だけでなく水と雷までもが収束された一種のミサイル兵器のようだった。ティアさんの能力値は推定でも、城の上位騎士を優に上回っているだろう。これが放たれればその威力は、絶大!!)
「陛下! 部屋を破壊します、扉から離れてください!!」
放出――――――
轟音とともに、爆発が起きた。雷鳴のような音が響き渡り、激しい振動が周囲に伝わる。扉は粉々に吹き飛び、辺り一面にがれきが散乱している。電光が走り、激しい火花が飛び散る中、崩れた壁や床の破片がガラガラと音を立てて落ちていった。扉は消え去り辺り一面がれきの山が散乱している。部屋の中では煙が巻き上がり、中の様子はすぐには確認できない。
「陛下! いらっしゃいますか!? ご無事でしたら返事をしてください!!」
「――――何の騒ぎだ! お前たちは私を殺したいのか!?」
どうやら王は無事なようだった。ルーシアと同じで黒く長い髪に、黒い瞳を持つ背の高い人物だった。部屋が思った以上に壊れてしまったことで心配したが、作戦は成功した。煙が薄れていくと、部屋の半分以上が大破している様子が見えた。王が無事で本当に良かったとホッと一安心する。
「陛下、状況を打開する最良の機会が巡って参りました。説明は、移動しながらさせていただきます。まずはここを離れましょう」
「最良の時だな?」
「好機であり転機ですよ」
「ティアさん、作戦其の三です」
「わかった!」
王が封装を着るのを確認してから、ピィルゥを呼び出す。ピィルゥは、金色のささくれ立った髪と緑色の目が特徴的な雷の精だ。少し小柄で、雷を操り、誰よりも速く駆け抜けることができる。
作戦その3、‟すみやかに移動する” の開始だ。
来た時よりもはるかに速い速度で外に出た。途中、忘れずにボヤを起こし、騒がしさを増していった。王はとても痛々しい様子で、走るのが辛そうに見えた。
「王、痛いの?」
「痛みなど感じている場合ではない、今は先を急がなければならないからな。それに、痛みよりは体力が落ちている。そちらの方が問題だな。私が足を引っ張るわけにはいかないのだが」
「王、ちょっと来て」
私は周囲を見渡し、人の気配がないことを確認した。木陰に身を潜め、王の手を取って歌い始めた。私の歌は傷や疲れを癒す力がある。王に元気を取り戻してもらいたかった。
「ティアさん、そこまでにしてください。浄化作用が広がっています、周囲に気づかれる恐れがあります」
途中でスウェンに歌を止められた。ここだけ周りに花が咲いている、確かに目立つかもしれない。
――――王が回復し、私たちは順調に歩みを進め、最初にいた本宮殿に戻ってきた。この建物の地下に先王が閉じ込められているらしい。建物の入り口に差し掛かったところで、スウェンが一人の人物に話しかけた。注目を浴びると封装の効果がなくなってしまうと言っていたのに、いったい誰だろうか。
「作戦は成功しました。今こちらにおられます。そちらの準備は?」
「万事整えてあります。配置も完了しています。このまま進んでください」
スウェンに促されて、本宮殿の中に入っていった。先ほどの人が誰なのか少し気になった。
「スウェン、さっきの人はだれ?」
「協力者ですよ。陛下、準備は万事整っています」
「ウィルターも動いているか。最良の時…… か」
本宮殿の中は思ったほど人がいなかった。離宮の時のようにボヤで盛大に騒ぎを起こすつもりだったのだけれど。結局、静かに目的の場所まで到着した。
少し先の扉の前には、王を助けた時と同じように、二人の見張りが立っていた。前と同じように、炎と風の熱風で見張りを追い払った。
「あとはこの結界か」
「ティアさん、先ほどより少し威力を抑えて結界を破壊してください」
「力、結構弱くした方がいいよね? 部屋壊しちゃったら、中にいる先王が危ないから」
「力を抑えすぎても結界は破壊できません。先ほどの3分の2程度の力加減でお願いします。」
「3分の2? それってどれくらい?」
「半分よりも少し多めにしてください。先王陛下、スウェン・ハヴァッグです! 今から部屋の結界を破壊します。部屋が大破する恐れがあるので、できるだけ扉から見て右端にお寄りください!」
スウェンの指示に従い、子供たちと一体となって力を集中させる。風が巻き起こり、つむじ風が足元に弧を描き出す。前回よりも力を抑えながら、水と雷も同時に巻き込んでいく。手の平の上に力を収束させ――――――
「避けろっ!?」
ドカンという轟音が鳴り響いた。
何が起こったのだろう? 私はまだ結界を壊していないし、力の塊も作り終えていない。気づくと、王に抱きしめられる形で扉から離れた場所に横たわっていた。
「敵だ! 獣族か…… 厄介だな」
「龍王の居処が破壊された。お前がやったのか?」
私がさっきまで立っていた場所には、床にぽっかりと穴が開いていた。獅子のような耳に赤茶けた鬣のような髪を持つ小柄な人が、私たちを射抜くように睨みながらそこに立っていた。
「あの独房は陛下の居処ではありませんよ。陛下は本来、上におられるべきお方です」
「そこにもいたか、スウェン・ハヴァッグ。公国を裏切るのか?」
「裏切る? 私はもともと龍王陛下の元、このバレイスに属する者です。公国とは笑わせますね、本来、人間は我々龍種に従属すべき存在にすぎません。裏切りはあなた方の専売特許でしょう?」
「どこに付こうが結局、最後に生き残れる場所に行く!それが、一番だろ!!!」
「獣族」と呼ばれたその人物がスウェンに飛びかかり、身体を回転させながら蹴りを入れる。スウェンは何とかそれを避けるが、獣族は続けて回転しながら攻撃を繰り出した。その動きは非常に速く、スウェンは避けるので手一杯のようだ。
「前方十時、姿を消してる!!」
突然、獣族が声を張り上げた。すると、王は私を抱えたまま横倒しの状態で3回転した
ズシュッという重低音が響き渡った。
私たちの居た場所に、先の尖った鉄の杭が突き刺さっていた。正確に言えば二股に分かれた平たい鉄の杭だ。
「見えた!」
その杭は長い鎖につながっていた。その鎖の先には鉄の棒が連結され、それを握る人も先ほどの獣族と同様、獣のような耳と尻尾を持っている。おそらくこの人も獣族の一員だろう。仲間が来てしまったのだ。
「びっくりした、どうして私たちが分かったの? この服着ているのに」
「封装を羽織っていても、はじめから存在を認識していればこの防具は意味をなさない。獣族の多くは五感が優れている者が多いから、おそらく匂いで察知されたのだろう」
新たに来た獣族がロープで投げた杭を手繰り寄せ、すぐさまそれを投げつけてくる、咄嗟のことに対応できず、王に突き飛ばされると、杭は王の脇腹をかすめた。それでも攻撃は容赦なく続く。王は何とか避けるものの、服は裂けて傷から血が滲んでいるのが見えた。
すると次の瞬間、ドカンとものすごい音が響いた。音のする方を見ると、スウェンが壁に力なく寄りかかっていた。獣族は容赦なく横蹴りをくらわせ、スウェンはそのまま壁に激突した。その衝撃でさらに壁に寄りかかるように倒れ込んだ。
「ティアさん!精霊によって応戦させることはできますか!?」
スウェンが苦しそうに、それでも必死な様子で私に問いかけた。
「応戦!?」
「対応して戦うことだ!」
王に怒鳴られた! 獣族の攻撃は続き、力なく倒れるスウェンにも容赦ない。王も攻撃を受けて衣服が血に染まっている。さらに後ろからも敵がやって来た! 急がないと!!
「ミウ!あの人たちを水で包んで!!」
敵3人の周りに霧が立ち上がり、次第に渦を描きながら水の粒が溢れ出す。やがて大きな水の塊が形成され、二人の獣族と後から来た者たちを包みこんでいった。彼らは必死に抵抗するが、もがけばもがくほど水の塊は大きくなっていった。
「何とか、持ちこたえましたね」
「中でもがいているな」
「溺れてる、息ができないんだ。顔だけ出してあげる」
顔を出した途端、獣族達は大声で騒ぎ立てながら暴れ始めた。
「こんなことをしても、我々の仲間がすぐにやってくる! 龍王、お前や先王が解放されようと、城の者たちが盾になっている限り、お前たちだけで何ができる!? 今まで通りおとなしく独房で余生を過ごすのが身のためだぞ!!」
「うるさいですねぇ。ティアさん、彼らの口にも水をつめこんでください。特大のものを」
「それじゃあ溺れちゃうよ……」
「どちらにしろ、急いだほうが良さそうだ。この者、私が離宮から脱したことを知っていた。他の輩にも既に気づかれている可能性が高い」
「そうですね。ティアさん、結界の破壊をお願いします」
「わかった! ミウ結界を壊すよ!」
風、水、雷の力を収束させる。さっきよりも力を抑えて抑えて~、
集中――――――
ドガンと爆音が響き渡った。
部屋は煙が立ち込めているが、無事結界は破ることができた。部屋の中は、一部、壁が欠けていたり、天井が崩れたりしているが、先程ほどではない。問題ない。
「先王陛下、ご無事ですね」
「あぁ…… 問題ない。何があった?」
「説明は後程、まずは――――――」
〝ピイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!″
「「「「!!!?」」」」
突如けたたましい音が鳴り響いた。何事かと音のした方を振り返ると、獣族が小さな棒のようなものを口に咥えていた
「呼び笛か、仲間を呼ばれるな」
スウェンは獣族から笛を奪うと、私たちに向き直った。
「陛下と先王陛下は急いで封呪の解呪をお願いします。ティアさん、こちらに来てください。この通路いっぱいに水の壁を作り、その中に雷の力で電気を通してください。水の壁はできるだけ厚く、電圧もできるだけ高くしてください」
「電気? なにそれ?」
「雷の力そのものと考えてください。弱い力なら少しピリピリする程度ですが、雷が落雷した時のような強い力を水に込めてください。その力で、こちら側から来る者の侵入を防ぐのですよ」
「水に雷を入れればいいんだね?」
私はミウに頼んで、通路の片側に厚い水の膜を張ってもらった。そしてピィルゥを呼び出し、その中に雷を送り込んだ。触っただけでビリビリと電撃が走り、とても痛そうだ。
先王が囚われていた部屋に戻ると、王と先王は向かい合い、互いの手首に輪をつけ合ってじっとしていた。その輪からは、二人の血の雫が伝っている。突然、輪から光がほとばしり、乾いた音を立てて『カラン』と二つの輪が床に転がった。
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