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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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ふたつのダンジョン(6)

昨日だいぶ魔物を倒したせいか、横穴では敵に遭遇しなかった。

隣のダンジョンへ。


「お、やっぱ明るいなこっちは」


レリオが機嫌が良さそうに遠い梢を見上げた。

やはり、光る苔と偽物とはいえ太陽ではまったく違う光量だ。


「周囲を警戒しつつ、上の階への道だと思われる洞窟へ。その後は昨日と同じく俺が敵をある程度引き受けて、お前たちには援護を任せたい」

「ああ」


トールや、他の全員も頷いた。

まずは、この階からの脱出。

敵は数体出てきた。まずは昨日も見かけたネズミのようなリスのようなげっ歯類系。そのほかに、毛の長い小型の鹿のようなもの、大型の鳥などが、見えた。

だが、戦闘になることはめったにない。やはりグランヴィーオが魔力絶縁を解いているため、魔力の圧と魔力吸いの感覚に恐れをなしているようだ。

敵の方から避けられ、あっさりと上の階への洞窟へと到達。

中はやや暗いが、どうしたわけか視界は利く。


「……なんで見えるんだろ」


ニルデが不思議そうにあたりを見回す。


「……ああ、あれじゃね?」


グリウが少し先の足元を指さす。

壁際に張り付くように光る、ちいさな明かりだった。

近づくと、かなりの光量で光る握りこぶし大のものらしい。


「……石?か?」

「そのようだな」

「苔じゃなくて石なんだ……」


なかなかに光っていて、どういった仕組みなのか興味はある。

試しに触ろうとするが、熱くて火傷しそうだ。この手合いは持ち帰ることは出来ないだろう。


諦めて洞窟を行く。同じ光る石が数個あって、それでおぼろげに道は分かる。一本道を、曲がりながら少しずつ、斜めに上がっていく。

10分経たないうちに、また光が見えた。


「……行くぞ」


敵の気配はなさそうだ。

それでも構えながら洞窟を出る――


「おわ……!」


そこは鬱蒼と茂る森だった。

前の階とは違い、木々はやや細い幹に、枝ぶりは手を伸ばせば届く。それらが、隙間がないくらいに生えていた。


「……これもすごいな」


トールが驚いた顔をしていた。グリウと、兄妹もだ。

グランヴィーオとリリアは彼らを見て首をかしげる。


「どこにでもある森ね」

「多少は密な森林だが……広さが問題か」

「まあ、地下にあるのは驚くべきなんでしょうけど」

「……外とは常識は違うんだなってのは分かったぜ」


訳知り顔でグリウが弓を持ち直した。


「探索すんだろ!?行こうぜ!」


レリオはテンションを落とすことなく、わくわくしている。

まあ、ともかく動くべきだ。

いま出てきた洞窟は崖のようなところにあって、その絶壁はぐるりとフロアを一周していた。歩いて20分程度か。絶壁にはもうひとつ穴があり、それが上への階への道だろう。

たまに敵の気配がする。だが、襲ってくる気がないようだ。


「くまなく歩きたいところだが……ある程度様子を見て、もし大したものがなければ上へ行く」

「りょーかい」

「分かった!」

「ええ」


――やはりというか、大したものはなかった。ずっと森が続いてた。

途中水たまりのような池のような、中途半端な水の溜まり場があって、魚が泳いでいた。小川にもなっていたが、どうやら飲めるほどきれいではないらしい。


「魚!」

「魚だ!」

「泳いでる!」

「すげえ!」


荒れ地の面々は興奮していたが。

それを見るリリアの目が微笑ましいものになっていた。

上の階へは、やはり洞窟だった。先ほどよりも短く細い、やや勾配がある道だった。

途中、跳んで跳ねる蛇と、ムカデを数体見かけたが、こちらが近づこうとすると逃げて戻っていった。


「張り合いがねえなあ」


トールが剣を軽く振りながら、不満そうだ。


「……魔力絶縁、いつものとおりにするか」


敵が逃げるのはグランヴィーオの魔力のせいだ。領地では他の魔術師のためにいつもかけているが、今回はしないつもりだったが。


「……そうすると敵が来るんだよな?」


レリオが心なしかソワソワしているのを、妹のニルデが見咎めた。


「兄さん、どうしてそう危険なことばっかりしたがるわけ」

「体力わざわざ削ることもないだろ、トール」


グリウが呆れて言うと、トールは目を逸らした。


そうこうしているうちに、上の階へとやってきた。

今度も、森のようだった。

下の階とあまり変わらないが、真ん中に丘があった。

なんのへんてつもない丘である。

周りの木々の高さと同じくらいなので、さほど大きいものではないが、フロアを一望できた。


出てきた横穴と、その近くにある次の階への穴のところだけ急勾配の崖のようになっていて、そのほかの部分には視界を遮るものがない。


「……?森がずっと続いているわ」


リリアにつられて、全員が目を凝らすが、どこまでも森が広がっていて切れ目すらない。地平線すら見えそうだ。

ありえないはずだが。


丘を降り、回り込んでみるとどうやら幻覚らしい。何かに軽く当たった感触、それ以上足が進まないが、目には向こう側にも森林が続いているようにしか見えない。


(この魔法も再現できれば……)


思うが、なかなか擬似構築出来ない。知らない魔法が多すぎる。見様見真似にしても、失敗してすぐに魔術は消え失せる。


(これは、魔法なのか?)


いくつか、あまりにも訳が分からないものがあるのを見つけた。

魔力構築にしては、今までグランヴィーオが学んで実践してきたものとは似ても似つかない。これは、まるで――


「ヴィーオ?」


呼ばれて、はっと我に返った。

トールが、こちらをじっと見ている。


「どうした?考え込んで」

「ああ……」


状況を忘れてすっかり没頭してしまっていた。


「……魔法のことについて考えていた、ダンジョンの」

「そうか。険しい顔をしていたから、どんな悩みかと思った」


トールが肩をすくめた。

たしかに、悩みではあるが……


「そういや、ダンジョンって、魔法でできてるんすよね」


と、グリウ。


「やっぱり、気になるモンすか、魔術師って」

「ああ、謎が尽きない。未知の魔法・魔術ばかりだ、ほとんどの魔術師は気にするはずだ」

「それでダンジョンに潜りたがったのか、お前」


トールは納得したようだった。

リリアはきょとんとこちらを見た。


「え?」

「張り切ってたっすからねーヴィーオサマ」

「え?」


グリウもトールと同じように頷いたが、それをリリアはまた目をまたたかせる。


「え?いつ?」

「そうだった……?」


レリオとニルデは、なにをそんなに不思議がることがあるのか、トールとグランヴィーオを何度も見比べている。


「……魔法を少し使う。実験のようなものだ、時間をくれ」

「ああ、分かった」


全員、頷く。あっさりと時間を使う許しをもらってしまった。

安全のために少し離れさせたが、何をするのか興味があるのか、じっと視線はこちらから離れない。

彼らはそのままにしておいて、グランヴィーオは魔力構築を始める。


今から使おうとする『魔法』は、見たことがないものだった。

原理も、いったい何の効果かもわからない。ゆえに、構築される魔力をなぞり、自分の中で模倣するだけしかできない。なぞり間違っている可能性もあるが、どう間違っているかも分からない状況。

そうして、普通の数倍は時間をかけ、擬似構築した魔力を、外に放つ。


ぼわりと、目の前が青白く光った。

揺らめく光は腰の高さほど。温度も感じさせない、ただ光るだけで何か他の効果があるようでもない。

触ってみても、熱いだとか、空気の滞留だとかそういうものはなかった。

そして――


(これは、きついな)


魔力が、ぐんぐんと減っていくのがわかる。

過剰なほどの供給。これは、バ・ラクエを召喚したときに似ている。


「……ッ」


これ以上は無理だと、魔法を霧散させた。

おそらく、失敗だ。

だが、


(発動した……?)


予想では、発動すらせず、疑似構築は消えるものだと思っていた。それが、ほぼ失敗ではあったが魔法というものにはなっていた――

考えていると、目の奥が軋んだ。

一気に魔力を使った疲れが出た。


「……すまんが、少し休ませてくれ」

「え?……ああ、分かった。休憩だな」


トールが不思議そうに、けれど了承してくれた。


「大丈夫?つらそうだけれど」


水嚢を渡してくるリリアに、礼を言って水を飲む。


「何したんだ?」


グリウが首をかしげながら聞いてくるそれに、言葉を選びながら説明する。

レリオはまったく興味がないらしく、ニルデに付き添われどこかに敵を探しに行った。

トールとリリアはそれぞれぼんやりと待機している。

少しもったいないことをさせているな、と思いながら、しばらく回復するまで休ませてもらい、ある程度動けるようになった。ちょうど、レリオたちも戻ってきた。


「なんかでっかい鳥がいた」

「鳥?」

「赤くて目がチカチカするやつだった。めっちゃ速く突っついてくるからちょっと危なかったな」

「だから考えなしにひとりで行くなって言ったの!私がいなかったらどうなってたか!」


ニルデに怒られ、レリオは妹に頭を下げている。


「ヴィーオサマから離れたら敵は出てくるんだなー」

「あんまり単独行動は許せねえがな」

「言ってても兄貴だって行きたがってた、」

「うるせえ」


そんなやりとりをしつつ、周囲をぐるりと回ると、1時間近くかかった。


「かなり広いな」

「どこが壁か分からないから、結構面倒だったな」


一部の崖以外、すべて幻覚らしい。

それから丘を中心に見て回ったが、おそらく何もない。

いっそなにもなさに、グランヴィーオですら魔力絶縁を施して、魔物をおびき寄せようかと思ったほどだった。


「次行くか」


トールの言葉に、全員が力いっぱい頷いた。


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