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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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ふたつのダンジョン(2)

地図は一通り目を通したが、次の6階がまずは難所だった。魔法の仕掛けで、石礫が降ってくる。

解除の方法もメモされているが、果して機能はどうなっているか。

変わらずトンネルのような短い通路を行き、6階へと到達。

……風景は地図とそう変わらないようだが、魔法の仕掛けはなくなっていた。


ただし、敵は大群になっている。

リリアが後ろで小さな悲鳴を上げる。どうやら、彼女には刺激が強かったらしい。

ネズミの一軍と、コウモリが視界を埋めるほど。

それらを縫いながら大きな蛇が、襲いかかってきた。

どうも、グランヴィーオの魔力に恐慌に陥ったらしい。

人間と変わらない大きさの頭をもたげ、紅いあぎとと舌をひらめかせる。

とんでもない速さで正面に立つグランヴィーオに噛みつく――

結界で阻む。

がん、と頭がぶつかった蛇はぐるりと鎌首を回し、また口を開けて、


「魔法!?」


誰かが叫ぶ。

ひゅっと光の玉がグランヴィーオを狙い、飛んでくる。それを、作り出した結界は受け止めて、霧散させた。

それと同時に、グランヴィーオは魔力を凝縮して、蛇に叩きつける!

胴の大半を勢いよく魔力に潰され、あっさりと倒れた蛇、その向こうのネズミとコウモリの大群は、すでに設置していた結界に閉じ込められていた。それに漏れて、まだ走り回るネズミたちは――ざっと、グリウとトール、兄妹がそれぞれ前に出てきた。彼らが残りを叩いてくれて、あとは、結界の中の大群が徐々に弱っていくのを確かめる。

リリアが剣を持ちながらも一歩も出れず、悔しそうだった。以前持っていた姉のものではなく、どこかで誂えたらしい普通の細身の剣だった。


「……これ、さっきの」


大量の魔物を囲った結界を見てだろう、少し青ざめた顔でポツリと言った。


「ああ、そのうち息絶えるだろう」

「え!?」

「どういう仕組みなんだ?」


グリウが弓を下ろしながら聞いてくる。その向こうでレリオが顔をしかめていた。


「あの絶界は物質をすべて通さないため、酸素がなくなる」

「さんそっていうのは?」

「空気中のだが」

「……組み合わせると、空気の中に『さんそ』っていうものがあって、それがなくなると魔物が死ぬんだな?」

「……魔物だけではない、生きているものはだいたい死ぬ」


なんとなく、オハイニが自分が話すたびに話を膨らませていた理由がわかった気がした。


「……やっぱオハイニはいいやつだったんだな」


似たようなことを考えていたか、トールがぼんやりとそう言うのが小さく耳に入ってきた。


「つまり」


グリウが結界を指す。


「あそこでは生き物に必要なものがなくなって、魔物は死んじまうと」

「……そうだ」

「なぁるほど」

「よく聞こうって気になるな、グリウ兄」


剣をしまい、レリオが恐る恐るグリウに話しかける。


「ああ、だって別に魔術師がわけわかんねえ言葉を話してるわけじゃねーしなー。聞けばだいたい分かるって」

「よく分かんねえのはわかった」


トールが投げやりに言った。その隣では妹のほうのニルデが苦笑していた。


「残りはほうっておいてもいいだろう。次へ行くぞ」


グランヴィーオがフロアを突き進むと、全員ついてくる。


7階はほとんど上と様子が変わらなかった。

8階は、いくつも横穴が空いて入り組んでいたが、地図とあまり変わらずすぐに次の階への道は分かった。ただ、敵が、比較的強かった。

次のフロアへ続く横穴を抜けてすぐに、出会い頭に魔法を撃たれた。


「うわっ」

「きゃ、」


全員、グランヴィーオの後ろにいたため、結界がひとつで間に合った。

ざっと目を走らせて確認。

魔法を使うコボルト5体、素早く動き回る鋼爪のウサギ3体、その他十数体のコウモリや羽ばたく蛇。

仲間は驚いた声を上げたが、すぐに態勢を整え、構えている。だが、魔術師相手に戦わせるつもりはない。


「全員動くな」


仲間へは結界を持続させ、グランヴィーオは前に出た。

途端に、次の魔力弾が飛んでくる。それを小さな結界で受け止め消させた。オハイニが盾がわりに使っていたのを参考にした。本来の結界の使い方は――グランヴィーオは、敵の魔術師をそれぞれ結界で囲う。

一頭、生成される結界から逃げて、こちらに向かってきた。

が、途中で引き返そうとする。みょうに人間に似たしぐさで、慌てたようだった。


「……」


結界で閉じ込めておく。

コウモリと羽ヘビがわっと飛び去っていった。


「……」


ウサギは……


「おい、ウサギはやらせろ」


低い声が、背後から聞こえてきた。


「トール、おま、」


グリウが唖然としていたが、トールはやる気満々である。


「他にはできるだけ気を使うな、怪我をする前に下がれ」


言って、結界を解き、合図に腕を振るとトールは駆け出した。

その後ろ姿を見て、


「……待てを解かれた犬みたい」


リリアがボソリと言った。

レリオが吹き出した。


グリウがその間に矢を放った。残っていたヘビを撃ち落とし、コウモリを散らす。

相変わらずの勘の良さだ、結界を張り直す数瞬の間の成果。魔術師しか見えないはずなのに、だ。

向こうでは、言うだけあって、トールはウサギ相手に奮戦している。その間に――グランヴィーオは魔力弾を、いくつも構築する。

それは、結界の中でなお逃げようとするコボルトを、次々と弾き飛ばした……腹や上半身を壊すくらいに、強く。

自動追尾。昔構築したものだが、久々に使った。

2体は絶命。1体はうめきながら地面に転がるのを、グランヴィーオは上から魔力で首筋を掻き切った。どろりと赤い体液が瞬く間に乾いた地面に流れるのを横目で見た。

残り、逃げるタイミングを逸したコウモリが2体。自動追尾の魔力弾ですぐに追い落とした。

トールは、と振り返ると。


「……っしゃ!」


最後の一羽を仕留めて、拳を握っている。

コウモリも数体倒していたようだ。だが、


「怪我はするなと言ったはずだが」

「あ?怪我のうちに入らねえよ」


あちこちに切り傷をこさえている。大怪我ではないようだが、問題がある。


「コウモリは毒持ちが多い」

「……え?」

「見せろ。念の為解毒と治癒をする」

「……」


すごすごとグランヴィーオに寄ってくるトール。

体調は悪くなさそうだが、遅効性だとわからない。

軽く魔法で傷を治し、毒を解析。軽度だったが解毒の魔法もかける。

よほどがあれば魔法薬も一通りオハイニに作ってもらった――金銭に余裕ができて念願かなったらしい――が、今は温存だろう。


「次へ行くぞ」

「今度は俺も……!」


何やら触発されたらしいレリオ。隣で冷めた目で兄を見ているニルデ。

リリアは顔が暗いようだ。


「……疲れたか」


声を掛けると、リリア首を振る。


「大丈夫よ」

「しかし、予想以上に使えないな、お前」


トールが横合いから口を挟むと、リリアはふっと遠い目をした。


「……ええもう、それはそれは大事に育てられたもの……」

「トール兄さん!」

「いたっ」


ニルデが怒ってトールを叩く。


「でも、いちおうその、剣は使う練習してたんだろ……?」


グリウはもごもごと、何か奥歯に挟んだような言い方をする。

リリアは遠い目のまま、


「いいえ、『雲切れ』の連中には、お前には無理だと言われて……その、頼み込んだら突きだけを、教えてもらって……」

「ああ、なるほどな」


どおりで、グランヴィーオが防御しなかったとはいえ、うまくいったものである。


「いい突きだった」

「あぅ」


リリアが潰れたカエルのような声を出した。


「と、ともかく、全然、戦力は当てに出来ないと」

「トール兄さぁぁぁん?」

「じ、事実だろ!」


ニルデの形相がすごい。レリオが妹から一歩引いていた。


「まあいい、指示を聞けば滅多なことにはならない」

「……はい」


リリアは肩をすぼめた。

なんとなく、昔見た姿のようで、小さく笑みを噛み殺す。


「次は……9階か」


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