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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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過日の美しき(5)


トールからの知らせを受けて、村からゼルたち自警団が駆けつけてきていた。それと途中で行き合い、村へと帰還する。


帰るなりグランヴィーオは村人に囲まれた。

心配した、良かった、と口々に言われて――どうすれば正解なのか途方に暮れる。人にこんなに好意的に囲まれることは、あまりなかった。


倒れたリリアは目を覚まさない。

医者の診断では疲労と精神的ショックが重なったためだろうということで、起き出してくるのを待つしかないらしい。

リリアを家に連れて帰ると、トールが不機嫌そうにどこかへ行ってしまった。


「こういうときこそ、離れるべきではなかろうに……」


と、何故か残念そうにロドリゴが言っていたが……


逆に、ラクエが離れなくなった。不機嫌そうなのはトールに似た表情だが、とにかくどこへ行くにもついてくる。それに合わせてかササラもいつも以上に、いつの間にか近くに現れる。


リリアには、ウーノという少年がずっと付き添っている。

賊に紛れ込んでいたが、どう見てもただの少年だった。魔術師でもないし、危険ではないだろうと付き添うことを許可したが、本当に彼女を慕っているらしく片時も離れない。


「……何も口にしないと聞いたが」


リリアを寝かせた部屋から一歩も出ず、もう丸一日水すら飲まないウーノに、世話に来てくれている村の娘に泣きつかれた。


「……皆さんも同じでしょう」


皆さん、とは。

一瞬考えたが、別に捕らえている傭兵団のことだと思い出す。彼らは彼らで肝が据わっているプロの集団だったらしい。逃げられないと分かったら、無抵抗で大人しくしている。


「いや、水くらいは飲ませている」


彼らの処理は領主であるグランヴィーオが、と言われたが、正直なんとも思わずどうでもいいため、まずはリリアの回復を待つことに決めた。


備え付けてある水差しから水を汲んでウーノに渡すと、ためらいがちに飲んでくれるのでほっとする。


「彼女に拾われたと聞いたが」


気になる話だ。

どうも、傭兵団と行動を共にするようになったリリアが、どこからか連れてきたらしいが。


「……はい」


ウーノは素直に頷く。


「半年ほど前……かな、リリア姉さんに、死にかけていたところを助けてもらいました」

「親はいないんだな」

「はい」


コップを手で転がすように抱えて、


「1年前……いえ、もっとでしょうか、住んでいた村を盗賊に襲われて全滅してしまって……それで、ずっとひとりでいたんですが」

「そうか」


そう珍しい話でもない。やっと戦乱の時代から抜け出せたとはいえ、まだまだ秩序とは程遠い。


「……お姉さんは、どうなりますか」


じっと、青い目がグランヴィーオを見上げている。歳の割には達観した、膿んだような目に――なぜか見覚えがあった。思い出せないが。


「殺しはしない」


殺せるはずもない。

記憶の中にある愛しい面影を持つ、彼女の妹を殺すだなんて。


あからさまにほっとしたウーノ。


「よかった……お姉さんまで死んでしまったら、僕は……どうしようかと」


肩を震わせ、顔を歪めるウーノに、グランヴィーオも頷いた。


「そうだな」


半日後、リリアが目を覚ました。

夜中だった。蝋燭の明かりに照らされた横顔は、ひどく疲れ切っていた。


「殺して」


感情をなくしたような平坦な声。両手で顔を覆った。


「私は、何をしていたの……無意味なことにずっと執着して……」

「無意味じゃないだろ」


リリアに返そうと持っていたものを、ベッドの上の彼女の膝の上に置く。

刀身が折れた剣の柄――リリアが自分を斬ったものだが、元はジュリアが持っていたものだ。


手を外し、それを見たリリアの目が大きく見開かれた。

ジュリアと同じ色の目だ。


「とうとうジュリアの死霊が、俺を殺しに来てくれたのかと思った」


はっと、リリアがこちらを振り返る。

それに、自然と笑ってしまった。


「すぐにジュリアが話していた妹だと気づいたが、お前でもよかった、なおさらな」

「あなた……」


リリアは呆然としているようだった。


「お前がいうように、俺が、ジュリアを貶めた。名誉を穢した。あの時引き止めることができたなら、もっと話を聞いてやれば、そもそも家を出るのを思い止まらせれば、俺と出会わなければ、」


彼女に最も似合わない不名誉な死などなかったはずだ。


「後悔している」


リリアは、本当にジュリアにそっくりだった。

だから、彼女自身に懺悔しているような気になって、これではいけないと気を引き締める。

救われてはいけない。


「……たぶん、お前はジュリアが伯爵家に帰った理由を知らないだろう」


きっと、自分以外に誰も知らない話だ。


「話しておこうと思う。ジュリアは、――」




村の面々の前で膝をつき、頭を垂れて、祈るように両手を組んでいるリリアに、領主を除く全員が苦い顔をする。


トールが額に手を当ててため息をついた。


「……そんな気はしてたが」


オハイニの諦めたような表情。


「おんなじよねーどこぞのレイスと」

「もっと悪いわ」


トールが毒づく。


「しばらく信用はできねえぞ」

「……もちろんですわ」


散々に喚き散らした相手に、リリアもそう強く出られない。実は伏せた顔がものすごく赤い。


「ぼ、僕も、お姉さんが信用されるようにお手伝いします!」


こちらはもともとなにもしていない人畜無害の少年。

このリリアとウーノが、村に居着くことになった。


傭兵団は、グランヴィーオが興味を示さなかったため、二度と荒れ地に来ないこと、魔術師を狙わないことを条件に放逐になった。


甘すぎる!と魔術師のオハイニは不満だったが、そもそもこの十数人をどうこうするだけでも骨が折れる。どこぞの国では賞金首でもあるらしいが……


「判官と首切り役人を登用すべきかのう……」


と、リリアの懇願のそばで真剣にロドリゴが検討していたため、リリアとウーノ、それと何故かトールが青ざめた。


「爺様が完全に怒っている」

「え?」

「……それなりに誰でも声をかける爺様が、この女には目もくれねえ……」

「……」

「まあ……いきなり処刑はないだろ。せいぜい点数稼いどけ」

「……」


傭兵団は早々に退去させた。


「これが運の尽きかと思ったがなあ」


頭領はなんとも釈然としない顔をしていた。


「助かったのになんて顔よ」


リリアが最後に会いたいというので許すと、なんとも気安いやり取りである。


「1年くらい一緒にいたらな。美人だったし」

「……妙に親切だったわよね、あなたたち」


だが、未練もないらしい。


「魔術師は懲り懲りだ。もう手は出さない、いや出せねえ」


頭領はグランヴィーオを横目で見て、それからバツが悪そうに顔を背けた。

雇っていた魔術師ももはや行くあてがないのを分かっていて、そのまま仲間に引き入れるようだ。


「もう二度と会わねえことを祈る」

「死ぬなら私の知らないところでお願いいたしますわ」



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