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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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神霊バ・ラクエ(3)

ひときわ大きい天幕に案内され、そこで族長とその娘のファナと話すことに。


護衛らしい男も隅に座っているが……驚いたことに、肌の色が黒い。

黒い肌はエイデストル大陸の民族にはいない。彼の雰囲気はウヴァーン出身のザリハと似ている。


「改めて、神祖バ・ラクエ様のお戻りをお慶び申し上げる」


3人が頭を下げた。

ラクエはきょとんと彼女たちを見ているだけだったが。


「目覚めさせた俺に何か思うことはないのか」


グランヴィーオには、少しだけ負い目がある。

必要だったとはいえ、変質した土着神を、その一番の被害者である『マルグリット』を使い、己の使い魔にした。

知らなかったこともあるが、決して褒められたものではなかった。


「バ・ラクエ様の悲劇は、守った人間に裏切られ、怨讐の悪神となったことであり、それらはなお数百年、バ・ラクエ様の存在が消えるまで続くはずであった」


族長、それに居並ぶデル・オーの面々は、思った以上に冷静だった。


「だが、今は、存在こそ違うものになられたが、穏やかに過ごされていると思われる。浄化なされたといっても差し支えはないだろう……それは、貴殿の為したことではないのか」

「……使い魔とは魔術師に従属する存在だ」

「魔術師と言っても所詮人間だろう。100年ぽっちで消えるそれに従ったところで、悠久の時を生きる神霊には瞬きする間のことだ」


あっけらかんと族長は言った。


「それに、そこに大事に抱えられているバ・ラクエ様が、不幸にはまったく見えんのだが」

「ラクエがふこう?」

「バ・ラクエ様は今は幸せか?」

「うん、ヴィーオがね、大事なものって言ってくれたの」


ふわりと笑うラクエは、嬉しそうだ。

――大事なもの、とは、確かに、言ったが。


「そうかそうか」


にっこりと、族長は満面の笑みを浮かべた。隣に座っていたファナがぎょっとしてその横顔を凝視する――すぐに済ました顔に戻ったが。


「どんな理由であれ、悪神は浄化と同様の状態になり、さらには大事にされている。これがあくどい魔術師に搾取されるようなら我らも黙ってはいないが」

「……」

「神霊が再起され、平和に過ごされる。現状はむしろ奇跡だろう」

「……」

「領主殿、グランヴィーオ殿……であったか。我ら精霊に連なるものとして、お礼を申し上げたい。……グランヴィーオ殿?」

「あれ?どうしたの」

「ヴィーオサマ?」


聞こえてはいるが、反応できない。


「……固まってやがる」


肩の先にツンツンと突かれる感触があるが、それでも何故か動けない。関節と筋肉を全部固められた気がする。

正面の族長が、ふと何か思いついたような顔をする。


「バ・ラクエ様。グランヴィーオ殿は好きか?」

「うん、好き!」


ぱっと明るく弾けるような声が耳を通り、息が苦しくなる。ぎゅうっと、心臓が収縮するような、そんな痛み。けれど、身体が妙に温かくなる。


「って、息止まってる!」

「おーい!戻ってこいヴィーオ!」

「は、母上……!」

「いや、領主殿が久々に褒めたときのファナに似ている反応だなと」

「あああやめてください母上!」


しばらくして復帰したグランヴィーオが、今度こそ貝のように口を閉じた以外は和やかに話は進む。


北の村のズィーラに会った話をすると、デル・オーの族長フェンネラは拍子抜けしたようだった。


「もうお会いになったのなら、我らから何も言うことはないだろう。あの方は我々などよりずっとお詳しい」

「生き字引とは聞いたんだけど、本当に詳しい方だったみたいだねえ」


オハイニは思案げだ。


「アタシもずいぶん調べたんだけど、あれほどはっきりとした系譜と関連の伝承は『知識の峰』にもなかった」

「オーディレ……荒れ地が忘れ去られた土地だったからだろう。ズィーラ爺の知識はずっと北の村に伝わったものに加え、ほうぼうから子孫の行方を聞き、伝承を見聞きしておられたようだ」


村には一代につき必ずその知識を受け継ぐ人間がいるらしい。


「あ、デル・オーでも神霊の行方は知らないのかい?」


オハイニの言葉には、首を横に振られた。


「我らの神祖ネムエン様も600年以上前に姿を消された。それ以来、帰還をお待ちしているのだが……」

「デル・オーが世間から姿を隠している理由はなに?」


どうやらあまり人前に姿を現さないのは一族の方針らしいが……

そんなもの、と族長フェンネラは、


「魔術師どもが煩わしい」

「……さようで」

「ああ、お主等は違うだろうと思ってはいるが」


慌ててとりなすフェンネラに、いちおうは頷いておく。グランヴィーオたちも魔術師とはいえ、その意味は分かる立場にいるわけである。


「……そっちの男はどうやらこの大陸のもんじゃなさそうだが……聞いていいか?」


トールがとうとう好奇心を抑えられなかったらしい。なんでもなさそうにフェンネラは答えた。


「見た通り、フォンゼン大陸出身で、名前はムハマド。彼も精霊の血を引くものだ」

「よろしく」

流暢に挨拶をし、笑顔を見せる男は、グランヴィーオたちと同じくらいの年齢か。


「彼はこのデル・オーに婿入りした」

「婿入り……!?」

「ああ、精霊の血を絶やすわけにいかないのでな、他の氏族とは定期的にこのように縁を結ぶ……伝統的なものだ」

「絶やすわけにいかない?」


トールの問いに、族長は軽く頷く。


「精霊術のことは知っているか」

「ああ、というか、ファナに教えてもらったよ」


オハイニがそう言うと、ファナは何となく居心地が悪そうにする。


「この精霊術というのは、魔術師ならわかるだろうがお主らの扱う魔法とやらと異なる」


先ほどファナが見せたような光を族長も灯し、


「これは精霊の扱った術だ。魔術師はこの世界からヒントを得て魔力を扱うようだが、我々は精霊の概念から魔力を編む」

「魔力を編む?」

「魔力を知覚し扱い、術を発動させることだ」

「ああ、構築のことか」

「魔術師はそう言うのだな。ともかく、我らデル・オーの術は精霊の術。その術を扱える条件に、どうやら血の濃さが関わっているのだということが分かっている」


「……血縁者じゃないと精霊術は使えない?」

「そうだ。一定の親等……親兄弟に人間の配偶が多ければ、子孫が魔力を失うことが分かっているのだ」

「……へえ」

「待て。では、魔術師は……」

「え?……ああ!人間で魔法が使えるって」


グランヴィーオが思い当たって驚くと、遅れてオハイニも気付いたらしい。


「ん?ああ、違う。おそらく魔術師が精霊の血を引くかと言いたいのだろうが、それは関係がないだろう」


フェンネラはこともなげに返した。


「精霊と交わった人間は少ない。それらも北の村や、別のそういった一族がそれぞれ系譜を管理している。漏れは多少あるだろうが……つまるところ、子孫にいるのは精霊術が使えない魔術師ばかりだった。ズィーラ爺のいうところでは、むしろ人間に魔術師が生まれる比率と比べても、子孫の魔術師は少ないくらいだそうだ」

「おお、それはそれで新たな事実だわ」


オハイニがキラキラと目を輝かせる一方で、トールとグリウはどうでもよさそうな顔をしている。


「だから、我々の力は精霊に由来するもので、厳密に言えば人間の魔力と違うものなのだろう」

「……一つ聞きたい」


グランヴィーオは気になっていた。


「お前たちの中に、魔力吸いはいるか」


はっと、オハイニたちがこちらを向いた。


「魔力吸い?」


族長が聞き返す。


「ああ、人間の魔術師には、魔力を周囲すべてのものから無節操に体に取り込んでしまう特殊な体質がいる。そういったものはデル・オーにいないのか」

「聞いたことがないな。……ムハマド」

「ええ、俺の一族にもそのようなものはおらず、聞いたことがない」

「……そうか」

「ってなると、魔力吸いは人間だけの体質ってことだね……」


オハイニも、最近仲間に加わった幼い魔力吸いのカーヤのこともあって、気にしているようだった。

フェンネラは指先で顎を撫でた。


「思うに、それは人間の……言ってはなんだが異常なのでは?」

「ああ、そういう認識だ」

「そうではなく……人間だからこそ、というか」


フェンネラがとんとんと指先で自分の膝を叩く。


「魔力はある程度自然界に備わっているのはお主らもわかっていると思うが、人間はおそらく先天的に魔力を持たない。だが、このように、魔術師は生まれている。不思議ではないか?」

「そう言う魔術師もいるよ、確かに。動物とかでも魔力がない種類がいるし……けどそいつらに『魔術師』はいないしね」

「本来持たない力を持つのだから、なにか不具合があるのではなかろうか。それがその魔力吸いというやつでは」

「たしかにね」


オハイニは考えるように目を伏せた。


……その目が、何を思ったかちらりとこちらを見た。


「……?」

「いや、色々わかったけど、核心じゃないねって」

「ああ」


なにか対処方法でも聞ければよかったのだが――グランヴィーオは別にしても、カーヤのことは問題だった。


「すまんな、何もわからなくて」

「いや、これだけでも十分だ」

「その、領主殿は……」


ファナがおそるおそるなにか言おうとして、結局口をつぐんだ。彼女も魔力絶縁を解いたグランヴィーオに相対したから、気付いたのだろう。


「秘密なんかじゃねえぞ」

「え、え!?あ、ああいや」

「ファナ?」

「いや、領主がその魔力吸いなんだけど、別に秘密にしてるわけじゃないってこと」

「そうなのか」

「異常体質ではあるんだけどね――」


ぼんやりと、オハイニは何事かを考えているようだった。


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