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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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神霊バ・ラクエ(2)

500年前、この大陸は自然災害に悩んでいた。

とある地方では長雨が続き、ある国では逆に干ばつが襲った。嵐が吹き荒れ、人が住めなくなるようになるところも。


オーディレも例外ではなかった。

土地を守る神霊といえど、度重なる自然の脅威には負けるものらしい。1,2度なら膨大な力による術で被害を抑えられたが、3度目、豪雨が辺り一帯を水浸しにし、流れていた川を氾濫をさせた。


その被害は、尋常ではなかったらしい。


「それを、バ・ラクエ様のせいであると――当時の領主は非難したらしい」


それは、自分の領地を偶然襲った不幸に耐えられない領主の弱さだったかもしれない。

だが、それが発端で、領民すべてが行き場のない怒りをバ・ラクエにぶつけ始めたのだ。


「魔術師なら、神霊の特質は知っておるだろう?」

「ああ」


目をつむり、オハイニは、額に手を当てる。


「周囲の生きものの感情が、存在に影響するという」


同じく霊体の死霊が人間を襲う理由の一つではないかと言われている。


ともかく、バ・ラクエに祈っていた民が手のひらを返し、神霊を呪うようになったのだ。

徐々に歪んで、バ・ラクエは、文字通り悪しき神となっていく――


決定的な出来事は、領地を復興できぬまま数年経ったある時だった。


「領主が突然、バ・ラクエ様に生贄を捧げると言い出した」

「生贄……」


つい最近、聞いた言葉だ。


「その生贄とは――領主の娘だった」

「……何故だ?」


理解できないと、そのままの声と表情でトール。


「生贄、というのも分からねえし、自分の娘?そりゃあ」

「おかしくなった?」


グリウが頭をかきながら悪態をつく。

ズィーラは是とも非とも言わなかった。


「……記録にあるのは、その娘が私生児であったことと、その後頻繁に生贄を送ったということ」

「口減らしか!」


オハイニは吐き捨てるようにいう。


「領地をまともに支えられなくなって、弱った人間から排除していく口実にしたんだ、生贄ってのは」


「……私生児って、たしか愛人の子とかそういうんだろ。邪魔になってたところを、自分の娘を一番最初に泣く泣く生贄にーっていうことにすれは、……次の生贄を用意するのも領民も何も言えなくなる……」


グリウが青い顔でつぶやき、それをトールが恐ろしげな顔で見ていた。


「その私生児が、マルグリット」


グランヴィーオは、囁いた。

はっと、全員の視線が自分に集まるのを感じる。グランヴィーオはズィーラを見ていたが。

ズィーラは頷いた。


「その通りじゃ。マルグリット――黒髪金眼の少女。母の名はアリエノール、その父はベルガ、母はオヘラ」


とうとうと語る。


「父の父はリンドン。その母はアメリ。その父はロベヌス」


暗誦しているかのように、ズィーラは淀みなく言い切った。


「デル・オーとは違った精霊の血を引く一族の、最後お子であった」

「……つまり、荒れ地で一番強い霊であったのは……」


精霊の血を引く子だったから。


その生贄が、バ・ラクエを悪神へと変化させた決定打だった。

荒れ狂う霊物は怨恨を持ち、その地を荒廃させ、人の住めぬ荒れ地にした。


死霊はその邪念に引き寄せられ、数を増やしていく。


「我らは精霊に仕える一族ゆえ、その血縁はすべて記録しているのじゃ。マルグリットは最後の子であったゆえ、よく口の端に上るのでの」


ファナも記憶にあったのだろう。

バ・ラクエの召喚については詳しくは言っていないが、どこか了解しているような空気を出していた。


「このように、我らは精霊に関わる子孫を探しては伝えている。またそのような者が現れたら、儂のところへ来てほしい」

「……ああ、了解した」


話は終わったと、ズィーラは膝の上の本を閉じた。


全員、部屋の外に出ようとふらりと足を動かす。

グランヴィーオが最後に退出しようとしたとき、かすかなズィーラのひとりごとが耳に届く――


「……はて、藍色の……――」




家の居間らしい部屋に、ファナたちは待っていた。椅子に座り、手慰みのパズルのような木のアイテムを持っている。


「ヴィーオ!」


グランヴィーオを見るなり、走って抱きつくラクエを受け止める。


「ふむ、問題はないようだな」

「もんだいない!」

「話は終わったようだな。では……」


ファナは双子の頭をなでながら、立ち上がった。


「北の村長に挨拶してから、我が一族のもとへ案内するか」


北の村長は、落ち着き払った壮年の男だ。名をクンネルという。

西にグランヴィーオが現れた時、彼はまだラクエのことを知らなかった。そのうち使い魔に黒髪金眼の少女を連れていることを知ると、接触を図るべきだと、西と交流をしてきた。


ズィーラから詳しく聞くと言いながら、グランヴィーオたちの表情を見て、彼らの予想がおおむね当たっていたと知ったのだろう。今後ともよろしく頼む、と握手を求められたときの言葉が力強かった。


――どうやら、使い魔にしたことを怒るつもりはないようである。


「で、デル・オーってどこにいんだ?」


村長の前を辞したあと、トールがファナに聞くと、彼女は澄ました顔をする。


「すぐに会える」


本当にすぐだった。

北の村を出て1時間も北上すると、荒れ地の境界線の手前でキャンプをする一団がいた。


「族長!戻りました!」


キャンプに入るなり、大声を出すファナに、全員が、耳を押さえ……


「やれやれ、上手くいったのか」


幾つも天幕が立つ奥の方から、一人の女が数人従えてやってきた。

背の高い、厚みのある体だった。剣を提げているので戦士だろうか。顔立ちは美しく、不思議な薄い緑の髪――ファナと同じ色の髪を一つに束ねてくくっている。切れ長の目は濃い緑色。


「話の途中で出ていくものだから心配していたが」

「はい。神霊様と、東西の領主をお呼びしました、母上」


ファナが笑顔でその女に近づき、手でこちらを指し示した。

が、族長の方はぎょっとしたようだった。


「この、馬鹿者!直接お連れするとは何事か!」

「痛!?」


パンッ!と頭を叩かれ、目を白黒させるファナに、族長は呆れたと首を振る。


「こちらからご挨拶に伺うべきだぞ、連れ回すとは無礼な……」

「あのーそこまで、ねえ?」


オハイニが取り繕おうとしたが、いいや、と族長は頑なだった。


「神霊様にご足労頂き、申し訳ない。今歓迎の宴を……」

「いいですって!ねえ、ヴィーオ」

「ああ、まずは話がしたい」


オハイニと、さらにグリウに後ろから突かれ、ファナが涙目でじっとこちらを見るのだから居心地が悪い。


「……うむ、領主殿は寛容だな」


渋々族長は諦めたようだ。


「では、お話を聞こう。そこの娘から多少は聞いているのだろう、私の知るものすべてをお教えするつもりだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局ファナは罰なしか これ絶対まだ何をやらかすやつ...
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