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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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東の村の魔術師(1)


「うううヤダヤダヤダなんなのこいつら怖いわ魔力絶縁でも鳥肌止まんない」


数十分で回復したオハイニという女は、やはり魔術師だった。


その数十分の間に、まるで犯罪者のように物置に押し込められ、屈強な男たちに剣や弓といったような武器を持って取り囲まれていた。

トールはその間剣を取られていたが、諦めたように無言だった。


オハイニは回復したと同時に面会に来た……というより、来させられた。

どうやら魔術師でないと対処できないとロドリゴが念を押したからだ。


物置から出されて、村長の家だ。

相変わらず男たちに取り囲まれているが、一体何の儀式だろうか。

冗談ではなく青い顔で、オハイニはチラチラとグランヴィーオとその膝の上に乗ったバ・ラクエを見るが、直視できないようだった。


「魔力絶縁……ああ」


制御術の一種だ。魔力を感知させないための。

すっかり忘れていた。


「これでいいか」


自分と、バ・ラクエにかけると、ようやくオハイニの恐慌状態は収まったようだ。


「……何なのさ、あんたら」


不審、というより、興味を髪と同じ色の瞳に乗せて話しかけてきた。


「まさか、『魔力吸い』?」

「知っているのか」

「え!?嘘だろ!?なんで生きてんの!?」


がばっと今度は興奮したように立ち上がり、グランヴィーオの周りをウロウロし始めるオハイニ。

それこそ珍獣にでもなったような気分だ。


「普通なら10歳になる前にくたばっちまう……!あれから研究が進んでも、兄さんの年齢なら間に合わないはずだ」

「そこは教えられない」

「オーケー秘術な、しかも新構築……!ひゃー面白いもの見れたわ」

「すまん、何の話だ」


口を挟んで来たのは、トールだった。

ロドリゴは密かに頭を抱えている。

オハイニはふふん、と何故か得意げに、


「そこの兄さんの体質が、普通なら短命のはずがこの年齢まで生きてたっていう奇跡だよ」

「はあ……はあ?」

「魔術師の中でも奇病と言われるやつだ。説明は難しいから今度な」

「お前、『知識の峰』にいたのか」


魔力吸いを知っているなら、本山にいた可能性がある。


『知識の峰』――名前のとおり、高くそびえる山の上に組織の中枢がある。そこには魔術師の中でも選ばれたエリートのみが集められ、日々研究に明け暮れている――らしい。


オハイニは少しはにかむように笑った。


「昔の話さ」

「えっ」

「えっ」

「え」

「嘘だろ……」

「本当だったのか……」


周囲から、ざわざわとさざめく声。

オハイニはキイイ!と声を上げた。


「今まで信じてなかったのかい!」

「あーあー、分かった。魔術師の話はこれで終いにしてくれ」


東の村長が頭に手を当てて呻いた。


「で、西の。お前は何の用だ」

「ああ。話せば長くなる……」


今までのことをかいつまんで話すロドリゴ。

だが、話が進むにつれて、東の人々の反応は呆れたものに変わっていった。

鉱山の所有権の話になると、全員が首を振った。


「与太話も大概にしろよ。爺さん、耄碌したか」

「信じてもらえるとは思っておらなんだが、ひどいことだ」


苦笑するロドリゴに、トールは不機嫌そうに唇を噛み締めている。

だが、オハイニはじっとグランヴィーオを眺めていた。


「鉱山に行ったんだろ。そこでなにかが起こった。違うかい、兄さん」

「ああ。……お前は中に入った事があんのか」

「いんや」

「そうか。おそらく今の坑道の下に、魔鉱石が埋まっている。魔力吸いの俺が、不調になるほどの」

「いっ!?」


ぎょっと、オハイニは目を見開く。

姿勢を崩しかけて、椅子から落ちそうにもなっている。


「っおい、冗談じゃ……」

「冗談じゃねえよ。おかげで死にかけたってのに死霊に出くわして相当ヤバかった」

「魔力吸いだから?……魔鉱石の魔力で?そこまでの量は、報告されてないぞ……」


考え込んだオハイニは、やがて笑い出した。


「はっはははは!すごいぞ!信じられない!」

「おい、おい、魔術師の話をするなと言っただろうが」


東の村長は胡散臭そうにオハイニを睨む。


「いいや!これが用事だろう爺さん!」

「それがのう……あまり教えてもらえなくてな」

「そうだな!兄さん口下手っぽいもんな!よぉし!このオハイニ姉さんが手とり足取りナニ取り教えてやんよ!」


上機嫌で、オハイニは説明を始めた。


「いいかい、魔鉱石ってのは、魔力を蓄えた鉱石だ」


オハイニはローブの襟を正し、裾を揃えた。


「よく分からない石ころで、魔力があるっていうこと以外はわかってないのさ。物質的なところでいうと、水晶かなにかの一種だとか、そう聞いたな」

「水晶!」

「すごいじゃないか」

「いや、すごいのはどちらかと言うと、魔鉱石という石ころだ」


オハイニは指を口元に当てて、うっそりと笑う。


「ともかく魔術師にとっては夢のアイテムさ。何にでも使える……呪具にも媒介にも薬の調合にも、魔法の補助や増幅……拳ほどの大きさの魔鉱石を手に入れれば、1年は無敵の魔術師になれると言われてる。実際、『知識の峰』でも、大成した魔術師が、魔鉱石を使っていたのを見たさ」


そして、とオハイニは怪しく笑う。


「魔鉱石は出回る数が極端に少ない。数年に一度市場に出るかどうかだ……法外の値段がつく」

「お、おお……まさか、」

「そう、お宝の山が、あの鉱山に眠ってるってことさ!」


立ち上がり、拳を振り上げるオハイニに、村人たちは大いに盛り上がった。

ひとしきり得意げに拳を上げていたオハイニだったが、ふとグランヴィーオを見下ろす。


「……でも、採掘するって言ったって、死霊が出たって言ってなかったかい」

「あそこで今まで出たか?」

「いや……鉱山周辺はさほどいないって聞いてたぞ」

「ああ、それはこいつのせいだな」


膝の上のバ・ラクエの髪を撫でると、オハイニはぞっとしたように身を震わせた。


「その子……なんなのさ」

「バ・ラクエ」

「バ・……………」


名前を言った途端、またもやオハイニは倒れた。


「なんなんだ!」

「いいかげんにしろよ!」


騒ぎ、またオハイニの救助でてんやわんやの村人たちは、ロドリゴがはっとした顔をし、東の村長を手招き、耳打ちという一連の行動を見ていなかった。


東の村長は、何を吹き込まれたのか、ざあっと顔色を変え、オハイニと同じように倒れかけ、こらえ……床の上に、正座した。


「魔術師様!」


手慰みにバ・ラクエの髪を撫でるグランヴィーオにひれ伏し、声の限り、叫んだ。


「何卒!何卒!我らの村も配下に治めください!」

「そ、村長ー!?」

「気を確かに!西の!一体何しやがった!」

「ほっほっほ……」


そういうロドリゴの顔色も白くなっており、混乱はオハイニが起きてくるまで続いた。


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