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その願いを〜雨の庭の建国記〜  作者: 鹿音二号
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幕開けの刻(3)

「それはそうと、カーヤに魔力操作は覚えてもらわねば」


パスを繋ぐ際に必要だ。


「なーるほどね」


ガインたちが村にやってきて数日、魔術師たちの定期報告会が開催された。

1週間に一度、こうやって集まり仕事の進捗や情報の共有を行う。


オハイニはカーヤの詳しいことを聞きたがった。

今彼女を中心に魔術師の組織化を急いでいる。それと魔鉱石の採掘でかなり忙しいようだ。


「……しかし魔力吸いを、まさか生きてる間にふたりも拝むなんて」


はあー、と驚き呆れたようにオハイニは領主の家の応接間の天井を仰ぐ。

リオールやメイ、それに最近村に入ってきた二人の魔術師も参加しているが、おそらく魔力吸いを知らないだろう。ヒソヒソとイルゲをつついては何かを聞かせてもらっている。


「……で、パスってなんか繋いだあと制限があるんだっけ」

「実質、ない。どちらかが解除をするか、死亡しなければ半永久的に繋がるよう構築する」

「……離れられる距離とか決まってるんじゃ?」

「いや、ない」


物理的距離は関係がない。


「……うーん、なにか引っかかるんだけど」


オハイニは不満そうに口をとがらせる。


「パス……パスね……魔力の排出については聞くなって言われたんだっけ?」

「言われた。めっちゃ嫌な予感がする」


イルゲが真顔で首を振るので、オハイニもややたじろいだようだ。


「そ、そう。危険じゃないんだよな?」


なにひとつ安全を脅かすものではない。


「……アタシはてっきり、一生離れられないから責任持って結婚するんだ、とでも言うのかと……」

「え!?け、結婚!?」

「いやー8歳の子にそれはねえ」

「そのようなことは必要ない」


周りから異様な視線が飛んでくる。……結婚など、必要はないが。


「必要ない」

「あら?怒った?めずらしい」

「怒るだろそりゃ……うちのオハイニがすみません」

「なによぉ」

「お兄さん怒らせるって天才かよ姉さん」

「領主さま、お姉さんがごめんなさい」

「……」


リオールやメイにまで言われてしまったオハイニが、とうとう黙った。


「……と、ところで、じゃあカーヤとガインはどうする?受け入れるんだよね?」


イルゲの言葉に、全員が頷いた。


「小さな子を放り出すのもなあ」

「今後期待できるだろ、魔術師なら」


最近来たふたりも、歓迎するらしい。


「誰が面倒見る?ちょっとアタシは手いっぱいでさ」


オハイニがひらひらと手を振った。

多忙なのはグランヴィーオもで、パスを繋ぐ相手――しかも同じ体質の希少な同士ともなると、少し気にかけてはいるのだが。


「じゃあ、俺だろ。別にいいよ、俺あの子好きだし」


イルゲがあっさりと手を挙げた。


「ただ、あんまり生活が良いとはいえないんだ。あ、習慣とかそんなのがね?」


どうやらイルゲは家を建てられ、オハイニの家を追い出されたらしいとは聞いた。


「だから、どうだろ、住まいは今のまんま西のヴィーオの家に住まわせるとか」


兄妹は、妹のこともあるため、グランヴィーオが一時的に預かっていた。


「ああ、いいんじゃない?村の女の子も出入りしてるんだろ?」

「……ああ、人手はあるな」


グランヴィーオが生活のなんたるかを知らなかったため、見かねた村の女衆が交代で見に来るのだ。いまはロドリゴやトールもいるのだが、まとめて世話になっている。


「東西で距離はあるけど……どうせ俺は鉱山に2日1回は行くし、その時にガインたちもくればいいよ」

「なるほどな」


ちょうど鉱山が東西の真ん中に位置するため、距離も半分というわけだ。今は馬という手段もあるため、さほど苦にならない。


「それでいいだろう」

「よし。で、カーヤちゃんの様子は?」

「落ち着いている。もともと微弱な魔力量と吸入量だったからか深刻ではない。……長い間伏せっていたせいか体力には難があるが」


医者の診断では、栄養失調以外に他に目立った病気はないようだ。今は休養が一番だとか。


「そっか。じゃあちょっとずつだけど、基本は教えていこう」


オハイニはほっとしたようだった。


「どうなるかと思ったけど……良かったよ、本当に」



ガインとカーヤ以外にも、荒れ地に活路を求めてやってくる無宿人、流浪の民は増えている。


20年以上続いた戦争状態で、大陸中に財産も住む場所もなくした人々が大量にいた。

それらが荒れ地の噂をききつけ、やってくるのだ。

ロドリゴはそれを十分承知していた。


「食料の確保が急務でしょう」


ガインたちが来た翌日も、流れの十数人が鉱山にたどり着いた。今までで一番の集団である。

リーダーらしい男は、しどろもどろに、


「南にある村から、こちらに行けばいいと……」

「……ええ、まずはお疲れさまでした」


ロドリゴはうまく表情を隠し、彼らを受け入れる準備を指示する。


「どうやら、厄介ごとは全部こちらに押し付ける気ですね」


村の上役にいるタツィオはこっそりとグランヴィーオに囁いて、ロドリゴの指示に従って動き始める。

切れる村長は、南の村が知らぬ存ぜぬを貫くことは織り込み済みだろう、どう思うかはともかくだが。


徐々に人が増えていく村に、今も家を建てる人足が動き回り、行商隊が間暇なく訪れ、1ヶ月前とはうって変わって賑やかだった。


最初の村を囲う柵は取り払われ、門とそこに自警団の詰め所を置いただけになり、今は枯れた大地を人の住む領域が広がっていくのに任せている。


乾いた風は相変わらずだが、響く声と騒がしい物音は、新しい時の知らせだった。


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